6 / 6
最終話 成り損ない 二
しおりを挟む
最終話 成り損ない 二
AIによる事件から約一ヶ月半。事件は早くも、終わりかけていた。事件の原因であるのAIは消滅。それの製作者及び運用者の原田明は裁判で無期懲役刑の罰を受け、現在は地方の刑務所に投獄されている。事件の何もかもが解決し、誰もが事件は解決したと思い込んでいた。
ただし、彼女を除き。
高校二年生、本田愛生。彼女は、この事件を解決した探偵、辻本を刃物で傷付け殺そうとした殺人未遂で、偶然現場に居合わせた警官に現行犯逮捕された。
「やぁ、ごめんね。君の取り調べ相手がよりによって被害者で。」
彼女は珍しく、僕を視ていた。その眼からは異質な雰囲気が感じられたが、彼女の感情は全く込もっていなかった。
「わざとですよね?」
「バレた?僕が君の取り調べをやりたくて、わざわざ病院から歩いてやってきたよ。十針、縫ったよ。」
ホントは十八針だけど…
彼女はその無機質な顔のまま言った。
「怒ってます?」
「どちらかというと悲しいかな。知ってた?斬られた感覚って気持ち悪くて痛いんだよ。そんな苦しんでるのに君が今みたいな怖い顔で僕を見てるから…」
彼女はやっと下にうつむいた。
「『怒ってます?』は、こっちのセリフかな。ローワンのことでしょ。」
「探偵さん嘘ついたでしょ。」
「どんな?」
「言わなきゃいけないの?彼を動かしたのは私だけじゃないって。」
「嘘じゃなかったよ?君だけの為に人を殺したわけじゃなかった。」
「じゃあなんで…」
「なんで君の言葉をきっかけにローワンが人を殺したのかなんて分かってるでしょ。君の言葉は優しい彼には痛いほど刺さったんだよ。彼は最期に言ってたよ。優しさだけでは世界は救えないって。君が偶然、彼の優しさを突いただけなんだろ?いや、例えそれが意図的だったとして、君の悪意だったとしても、そもそも簡単に暴走したAIを作った原田が悪かったんだ。だから捕まったのは彼だけ。それに君はまだ高校生だろ。」
「なんで彼を消したの。」
「それは彼が人ごろ…」
「私は彼が生き甲斐だったのに。彼が居るから私の人生は平和だったのに。なんで、なんで…」
彼女は再び僕を見た。今度はさっきと比べるとクドいくらい感情的な顔で、声は震えていた。
「なんで私を先に…」
「なんで名探偵がそんなことしなきゃいけないんだよ。」
彼女の顔は怒っていたし、悲しんでいた。
「彼も分かってたよ、悩んでたよ。だから回りくどいやり方で、君を僕らに送り込んだんだ。君は彼に依存しすぎだ。」
「…じゃあどうやって生きたら良いの。みんな目標を見つけて、みんなそれに向かって進んで、みんな何もできてない私を見下して。何を理由に明日を待てば良いの。」
彼女の感情が声になって、芋づる式に出た感じ。表現が難しい。彼女も自分の言ったことに動揺したみたいだった。
「そんなの知らないよ。だって少なくとも僕は寝れば明日が来るからね。そこに生きるための理由の有無は関係ない。眠れないなら病院に行けよ。僕は探偵であって君の医者じゃない。贅沢だよ、生きる理由を求めるのは。なんで君は、自分以外の全員がそれを持ってるって、みんな苦労せずそれを手に入れたって思ってるの。」
彼女は納得してないようだった。ただ僕を睨んでいた。
「生きるために理由なんか要らないよ。だってそんなの無くたって生き物は生きることができる。少なくとも僕は。でも、まだ君がそれを望むなら、生きないと。生きることを諦める人が、生きる理由を見つけられるわけ無いでしょ。そして君は一つ罪を犯した。被害者がタフガイだからまだ良かったけどね、違う人を刺してたら違ったよ。まずは向き合わないと、自分の過ちと。」
ちょっと言い過ぎたんじゃないカ?
部屋を出た僕はまずそう思った。生きることを諦めた人に「生きろ」というのは酷かもしれないと。
仮にそれが正解だとしても、僕は後ろから彼女に刺されたんだ。痛かったんだ。僕がそれを言う権利は有っただろう。逆に君は彼女にどうするつもりだった?
そうだナ。私だったら……分からないナ。同じことを繰り返していたかもしれなイ。
なら口出さないでくれよ。
「………僕は誰と話してんだよ。」
第六話 成り損ない 二 完
エピローグ
行きつけのコーヒー店を出て一つ、ため息を吐いてからそれの白さに驚いた。ここ一年色々なことがあったせいで、時間の流れが速く感じる。…桜が散ったのは、つい最近だったはずだ。なのに、田辺さんとの夏休みも、紅葉も終わって、今日は本田さんの受験日だ。
僕は名探偵の辻本。「名探偵」と聞くとスマートにカッコよく事件を解決し、「犯人はお前だ‼」みたいな決め台詞を言い放つ、こんなイメージがあるかもしれないが、僕はこんなこと人に言ったことがない。そもそも探偵の経験も浅く、今までに解決した事件数は、たったの三件。ほとんど事件というより事故で、全て犯人なんて存在しなかった。まぁ、ホイホイ大事件が来られても困るが…そろそろ決め台詞を解禁したい‼
今日も名探偵ながら、そんな事を悩んでいた。
ローワン 完
AIによる事件から約一ヶ月半。事件は早くも、終わりかけていた。事件の原因であるのAIは消滅。それの製作者及び運用者の原田明は裁判で無期懲役刑の罰を受け、現在は地方の刑務所に投獄されている。事件の何もかもが解決し、誰もが事件は解決したと思い込んでいた。
ただし、彼女を除き。
高校二年生、本田愛生。彼女は、この事件を解決した探偵、辻本を刃物で傷付け殺そうとした殺人未遂で、偶然現場に居合わせた警官に現行犯逮捕された。
「やぁ、ごめんね。君の取り調べ相手がよりによって被害者で。」
彼女は珍しく、僕を視ていた。その眼からは異質な雰囲気が感じられたが、彼女の感情は全く込もっていなかった。
「わざとですよね?」
「バレた?僕が君の取り調べをやりたくて、わざわざ病院から歩いてやってきたよ。十針、縫ったよ。」
ホントは十八針だけど…
彼女はその無機質な顔のまま言った。
「怒ってます?」
「どちらかというと悲しいかな。知ってた?斬られた感覚って気持ち悪くて痛いんだよ。そんな苦しんでるのに君が今みたいな怖い顔で僕を見てるから…」
彼女はやっと下にうつむいた。
「『怒ってます?』は、こっちのセリフかな。ローワンのことでしょ。」
「探偵さん嘘ついたでしょ。」
「どんな?」
「言わなきゃいけないの?彼を動かしたのは私だけじゃないって。」
「嘘じゃなかったよ?君だけの為に人を殺したわけじゃなかった。」
「じゃあなんで…」
「なんで君の言葉をきっかけにローワンが人を殺したのかなんて分かってるでしょ。君の言葉は優しい彼には痛いほど刺さったんだよ。彼は最期に言ってたよ。優しさだけでは世界は救えないって。君が偶然、彼の優しさを突いただけなんだろ?いや、例えそれが意図的だったとして、君の悪意だったとしても、そもそも簡単に暴走したAIを作った原田が悪かったんだ。だから捕まったのは彼だけ。それに君はまだ高校生だろ。」
「なんで彼を消したの。」
「それは彼が人ごろ…」
「私は彼が生き甲斐だったのに。彼が居るから私の人生は平和だったのに。なんで、なんで…」
彼女は再び僕を見た。今度はさっきと比べるとクドいくらい感情的な顔で、声は震えていた。
「なんで私を先に…」
「なんで名探偵がそんなことしなきゃいけないんだよ。」
彼女の顔は怒っていたし、悲しんでいた。
「彼も分かってたよ、悩んでたよ。だから回りくどいやり方で、君を僕らに送り込んだんだ。君は彼に依存しすぎだ。」
「…じゃあどうやって生きたら良いの。みんな目標を見つけて、みんなそれに向かって進んで、みんな何もできてない私を見下して。何を理由に明日を待てば良いの。」
彼女の感情が声になって、芋づる式に出た感じ。表現が難しい。彼女も自分の言ったことに動揺したみたいだった。
「そんなの知らないよ。だって少なくとも僕は寝れば明日が来るからね。そこに生きるための理由の有無は関係ない。眠れないなら病院に行けよ。僕は探偵であって君の医者じゃない。贅沢だよ、生きる理由を求めるのは。なんで君は、自分以外の全員がそれを持ってるって、みんな苦労せずそれを手に入れたって思ってるの。」
彼女は納得してないようだった。ただ僕を睨んでいた。
「生きるために理由なんか要らないよ。だってそんなの無くたって生き物は生きることができる。少なくとも僕は。でも、まだ君がそれを望むなら、生きないと。生きることを諦める人が、生きる理由を見つけられるわけ無いでしょ。そして君は一つ罪を犯した。被害者がタフガイだからまだ良かったけどね、違う人を刺してたら違ったよ。まずは向き合わないと、自分の過ちと。」
ちょっと言い過ぎたんじゃないカ?
部屋を出た僕はまずそう思った。生きることを諦めた人に「生きろ」というのは酷かもしれないと。
仮にそれが正解だとしても、僕は後ろから彼女に刺されたんだ。痛かったんだ。僕がそれを言う権利は有っただろう。逆に君は彼女にどうするつもりだった?
そうだナ。私だったら……分からないナ。同じことを繰り返していたかもしれなイ。
なら口出さないでくれよ。
「………僕は誰と話してんだよ。」
第六話 成り損ない 二 完
エピローグ
行きつけのコーヒー店を出て一つ、ため息を吐いてからそれの白さに驚いた。ここ一年色々なことがあったせいで、時間の流れが速く感じる。…桜が散ったのは、つい最近だったはずだ。なのに、田辺さんとの夏休みも、紅葉も終わって、今日は本田さんの受験日だ。
僕は名探偵の辻本。「名探偵」と聞くとスマートにカッコよく事件を解決し、「犯人はお前だ‼」みたいな決め台詞を言い放つ、こんなイメージがあるかもしれないが、僕はこんなこと人に言ったことがない。そもそも探偵の経験も浅く、今までに解決した事件数は、たったの三件。ほとんど事件というより事故で、全て犯人なんて存在しなかった。まぁ、ホイホイ大事件が来られても困るが…そろそろ決め台詞を解禁したい‼
今日も名探偵ながら、そんな事を悩んでいた。
ローワン 完
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる