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第二部 蘭から薔薇へ 第二章
稲垣太蔵の闇
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「山縣君…君のスキャンダルだが。」
早川が口を開く。
「スキャンダル。あれはただのデマです。確かに稲垣さんは私の後援会長ですし、親しいのは事実です。ただ癒着うんぬんと言われるのは心外ですよ。皆さん誰でも地元には後援会で支援してくれる方々がいらっしゃるでしょう。」
「それがただの支援者なら問題ないが、しかし稲垣氏は以前から黒い噂があった人物だった。
ましてやジャーナリストの殺人教唆の疑惑まである人物ではね。」
「馬鹿な!私の地元では稲垣さんは地元の発展に力を尽くしてくれている人物と評価されているんです!」
圭介と早川はそれから1時間以上の激しい激論を繰り広げた。
圭介は早川派の若手だがいくら派閥の会長といえども、圭介と稲垣の関係に口を挟まれる覚えはない!
激しい応酬の早川と圭介に割って入るように田代が間に入る。
「まあまあ…山縣君が地元を大切にするのはそりゃいい事や。
わしもまずは地元の有権者の方々に感謝される政治を目指しとるしな。
ただなあ…党としての立場もあるんや。稲垣氏は山縣君の後援者である以上、党と稲垣氏が無関係と世間は見てくれん。
野党もここを突いて来る事は間違いない。」
「田代先生…何がおっしゃりたいのです!」
語気を強めて圭介が田代に向き合うと、田代の次の一言は圭介を驚愕させて顔を青ざめさせた。
「今の菊田総理の支持率はまあ…良くも悪くもぼちぼちや。だがあんさんのスキャンダルに党が巻き込まれたら、一気に支持率低下で下手したら政権が吹っ飛ぶ!
そんな事はさせん!
党が吹っ飛ぶのと、あんさんを天秤にかけたら党を優先するのは当然やろ!
あんさんが稲垣と手を切らなんだら、党は山縣圭介を除名処分とする。次の選挙ではあんたの選挙区に別の議員を擁立させる。
それが党の選対本部長のわしの立場から言える事や!
決めるのはあんたやで!」
圭介が憤然と席を立ち早川と田代は京料理を嗜みながら酒を飲んでいた。二人は大のつく酒好きだったのだ。
圭介は早川派の1年議員の分際で早川に対し不遜な態度を取り続け早川を苛つかせていた。
早川の気持ちを落ち着かせる為に、田代はあるいきさつから自分が面倒を見ている若い三味線奏者の早見薫に三味線を弾かせている。
薫の三味線は聞いている人の心を穏やかにする。
薫の三味線の音を聞きながら早川と田代はこれからの圭介やその裏にいる稲垣太蔵への対処を話し合っている。
「全く山縣の小僧が。いざとなれば若手を引き連れて党を出ていくなどと脅かしやがって。」
「まあまあ…早川先生…カッとなった方が負けやで。
それに山縣が裏で色々画策しとるっちゅう事はわしの耳にも入ってきとるしな。」
「しかし田代さん。若僧が党を割るとなるとどれくらいの人数を引き連れるつもりだろうか?」
「うん…まあ…7人から8人といったとこやな。まっ…そこはわしに任してくれんか。
それより早川派に次ぐ多数派閥の井上派や江藤派にも働きかけて、これ以上若手が山縣の口車に乗らんように釘を刺しとってな。
わしは無派閥で江藤辺りに嫌われとるから、わしが忠告しても効果がない。『苦笑』」
「江藤君にはそこは私が話しましょう。まあ…政治の話はここまでにしますか。
せっかく早見君が来て三味線を聞かせてくれるのですから。
早見君。君もこちらに来て一緒に飲まないかね?『笑』」
薫は田代に目配せすると田代は笑いながら首を縦にふる。
薫は礼儀正しく早川の前に座った。
薫は品の良い和服を着ていた。
「そう言えば…早見君はいくつになったかな?」
「19になりました。早川先生。」
「おっと…19では酒と言う訳にはいかないな。
では玉露のお茶を用意させよう。」
「別にええんやないか?早川先生かて、大学1年の時には酒くらい飲んどったろ。」
「田代さん。今はコンプライアンスに厳しい時代なんですよ。政治家が未成年に酒を勧めるだけでスキャンダルになってしまうんです。」
「ほんに…窮屈な時代になってもうたもんや!『呆笑』」
ーーーーー
「旦那様、これはいったいどういう事なのでございましょう?」
房江が太蔵に対して不安そうな顔をしている。
しかし太蔵は眉をひそめただけで平然としていた。
「房江、何も心配するな。山縣君とわしの事で世間にとやかく言われる覚えはない!
またジャーナリストの事は…フフフ。しかしあの事を海外メディアに流した不埒な輩がおるようだ。」
そこへ稲垣を訪ねて来た来客。
まるで喪服のような黒いスーツを着た男だ。
身長175、年齢は40歳。イケメンだが痩せ型で目つきも鋭い。
少年時代から色素の薄い茶色の髪が特徴だった。
「おおっ。雪児が来たか。待っていたぞ。応接室に呼んでくれっ。」
的場雪児は若い頃より太蔵が個人的な面倒を見てきた。
残忍な性格で暴力に長けていので、太蔵の裏の仕事を担当している。
太蔵は地元の裏社会とも付き合いがあり、多少の汚れ仕事では手を借りる事もあるのだが、太蔵を探るジャーナリストをダムで事故死に見せかけて始末した時や、太蔵に逆らう企業の社長を自殺に見せかけた時、また他県の極道で太蔵をよく知らない組の幹部が太蔵の悪事を知り恐喝してきた事があったのだが、太蔵は的場を使い邪魔になる者を全て始末してきた。
身内以外を使うと思わずボロが出てしまうかもしれない。
太蔵は慎重な性格なのだ。
山縣圭介すら的場の存在は知らず的場を知るのは、稲垣の屋敷内でも太蔵と長い付き合いの房江だけ。
的場は表向きこそ太蔵の経営する不動産会社の人間だが、実は稲垣の裏の汚れ仕事を請け負ってきた。
実際的場の部下はどのくらいの数がいるのか、知るのは的場と的場の主人の太蔵のみ。
太蔵は的場と言う生きた人間凶器を飼っているのだ。
「雪児。私と会うのも久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。『笑』」
「房江様。こちらこそ…ごぶたさしまして申し訳ありません。」
雪児は房江に端正な顔の頭をペコリと下げた。
「雪児よ。房江の前ではお前はまるで子供の頃に戻るようだな。
お前がわしや房江と知り合いもうどれくらい経とうか?」
「旦那様。雪児は今年41歳。旦那様と出会ってもう30年ですよ。」
「そうか…そんなになるか…」
「太蔵様…今日…私、的場をお呼びになられた要件は?」
「お前の力を借りねばならない事態が起こっている。
どうやらわしの足を掬おうと企む輩がいるようだ。
今の所、皆目見当もつかんが…
調べ上げて始末せねばいかん❗️」
早川が口を開く。
「スキャンダル。あれはただのデマです。確かに稲垣さんは私の後援会長ですし、親しいのは事実です。ただ癒着うんぬんと言われるのは心外ですよ。皆さん誰でも地元には後援会で支援してくれる方々がいらっしゃるでしょう。」
「それがただの支援者なら問題ないが、しかし稲垣氏は以前から黒い噂があった人物だった。
ましてやジャーナリストの殺人教唆の疑惑まである人物ではね。」
「馬鹿な!私の地元では稲垣さんは地元の発展に力を尽くしてくれている人物と評価されているんです!」
圭介と早川はそれから1時間以上の激しい激論を繰り広げた。
圭介は早川派の若手だがいくら派閥の会長といえども、圭介と稲垣の関係に口を挟まれる覚えはない!
激しい応酬の早川と圭介に割って入るように田代が間に入る。
「まあまあ…山縣君が地元を大切にするのはそりゃいい事や。
わしもまずは地元の有権者の方々に感謝される政治を目指しとるしな。
ただなあ…党としての立場もあるんや。稲垣氏は山縣君の後援者である以上、党と稲垣氏が無関係と世間は見てくれん。
野党もここを突いて来る事は間違いない。」
「田代先生…何がおっしゃりたいのです!」
語気を強めて圭介が田代に向き合うと、田代の次の一言は圭介を驚愕させて顔を青ざめさせた。
「今の菊田総理の支持率はまあ…良くも悪くもぼちぼちや。だがあんさんのスキャンダルに党が巻き込まれたら、一気に支持率低下で下手したら政権が吹っ飛ぶ!
そんな事はさせん!
党が吹っ飛ぶのと、あんさんを天秤にかけたら党を優先するのは当然やろ!
あんさんが稲垣と手を切らなんだら、党は山縣圭介を除名処分とする。次の選挙ではあんたの選挙区に別の議員を擁立させる。
それが党の選対本部長のわしの立場から言える事や!
決めるのはあんたやで!」
圭介が憤然と席を立ち早川と田代は京料理を嗜みながら酒を飲んでいた。二人は大のつく酒好きだったのだ。
圭介は早川派の1年議員の分際で早川に対し不遜な態度を取り続け早川を苛つかせていた。
早川の気持ちを落ち着かせる為に、田代はあるいきさつから自分が面倒を見ている若い三味線奏者の早見薫に三味線を弾かせている。
薫の三味線は聞いている人の心を穏やかにする。
薫の三味線の音を聞きながら早川と田代はこれからの圭介やその裏にいる稲垣太蔵への対処を話し合っている。
「全く山縣の小僧が。いざとなれば若手を引き連れて党を出ていくなどと脅かしやがって。」
「まあまあ…早川先生…カッとなった方が負けやで。
それに山縣が裏で色々画策しとるっちゅう事はわしの耳にも入ってきとるしな。」
「しかし田代さん。若僧が党を割るとなるとどれくらいの人数を引き連れるつもりだろうか?」
「うん…まあ…7人から8人といったとこやな。まっ…そこはわしに任してくれんか。
それより早川派に次ぐ多数派閥の井上派や江藤派にも働きかけて、これ以上若手が山縣の口車に乗らんように釘を刺しとってな。
わしは無派閥で江藤辺りに嫌われとるから、わしが忠告しても効果がない。『苦笑』」
「江藤君にはそこは私が話しましょう。まあ…政治の話はここまでにしますか。
せっかく早見君が来て三味線を聞かせてくれるのですから。
早見君。君もこちらに来て一緒に飲まないかね?『笑』」
薫は田代に目配せすると田代は笑いながら首を縦にふる。
薫は礼儀正しく早川の前に座った。
薫は品の良い和服を着ていた。
「そう言えば…早見君はいくつになったかな?」
「19になりました。早川先生。」
「おっと…19では酒と言う訳にはいかないな。
では玉露のお茶を用意させよう。」
「別にええんやないか?早川先生かて、大学1年の時には酒くらい飲んどったろ。」
「田代さん。今はコンプライアンスに厳しい時代なんですよ。政治家が未成年に酒を勧めるだけでスキャンダルになってしまうんです。」
「ほんに…窮屈な時代になってもうたもんや!『呆笑』」
ーーーーー
「旦那様、これはいったいどういう事なのでございましょう?」
房江が太蔵に対して不安そうな顔をしている。
しかし太蔵は眉をひそめただけで平然としていた。
「房江、何も心配するな。山縣君とわしの事で世間にとやかく言われる覚えはない!
またジャーナリストの事は…フフフ。しかしあの事を海外メディアに流した不埒な輩がおるようだ。」
そこへ稲垣を訪ねて来た来客。
まるで喪服のような黒いスーツを着た男だ。
身長175、年齢は40歳。イケメンだが痩せ型で目つきも鋭い。
少年時代から色素の薄い茶色の髪が特徴だった。
「おおっ。雪児が来たか。待っていたぞ。応接室に呼んでくれっ。」
的場雪児は若い頃より太蔵が個人的な面倒を見てきた。
残忍な性格で暴力に長けていので、太蔵の裏の仕事を担当している。
太蔵は地元の裏社会とも付き合いがあり、多少の汚れ仕事では手を借りる事もあるのだが、太蔵を探るジャーナリストをダムで事故死に見せかけて始末した時や、太蔵に逆らう企業の社長を自殺に見せかけた時、また他県の極道で太蔵をよく知らない組の幹部が太蔵の悪事を知り恐喝してきた事があったのだが、太蔵は的場を使い邪魔になる者を全て始末してきた。
身内以外を使うと思わずボロが出てしまうかもしれない。
太蔵は慎重な性格なのだ。
山縣圭介すら的場の存在は知らず的場を知るのは、稲垣の屋敷内でも太蔵と長い付き合いの房江だけ。
的場は表向きこそ太蔵の経営する不動産会社の人間だが、実は稲垣の裏の汚れ仕事を請け負ってきた。
実際的場の部下はどのくらいの数がいるのか、知るのは的場と的場の主人の太蔵のみ。
太蔵は的場と言う生きた人間凶器を飼っているのだ。
「雪児。私と会うのも久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。『笑』」
「房江様。こちらこそ…ごぶたさしまして申し訳ありません。」
雪児は房江に端正な顔の頭をペコリと下げた。
「雪児よ。房江の前ではお前はまるで子供の頃に戻るようだな。
お前がわしや房江と知り合いもうどれくらい経とうか?」
「旦那様。雪児は今年41歳。旦那様と出会ってもう30年ですよ。」
「そうか…そんなになるか…」
「太蔵様…今日…私、的場をお呼びになられた要件は?」
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