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19話 記憶の片鱗
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夜間の畦道はかなり歩きづらかった。
街灯が少なく視界も悪い中でこぼこの道を歩いて行った。
神経質になりながら、途中でバランスを崩したりして、僕らは助け合いながらゆっくりと進んだ。
「まずは近場からだよね。」
「ああ。駄菓子屋が一番近くにあるって、便利だな。」
「まあ、学校帰りとかに寄れるし。無駄に遠くまで行かなくて済むしね。」
僕らは、そんなくだらない話を交わしつつ、僕らは隈なく駄菓子屋を荒らしていく。
綺麗に整列したスナック菓子を避けたり、内側の引き出しの中身を書き出したりと、限られた明の中でなんとか成果を上げようと躍起になっていた。
そんな中、店の奥から司令官の声がした。
「真道―。あったぞー。」
駄菓子屋の奥にある、店主の住居らしき部屋のタンスの引き出しの中に、日記の切れ端が入っていた。
「六月三十日。いじめ仲間が出来た。聞くとこの人も同じようにいじめられているらしい。二人なら乗り越えられるかな・・・・・・。だってさ。」
携帯の僅かな明かりを使って僕は音読した。
おそらく八枚目の日記だ。日付が近い。
けど、どこかで聞いたような文言だなこれ。
一体どこで……。ん?
「お、おい! 真道、座り込んでどうした!」
僕はその場に倒れ込んだ。
僕は、慌てる司令官を気にかけられるような心持ちでは、いられなかった。
だって、僕が体験しているのは、皆が倒れこむほどの強さを誇る頭痛だったから。
まともに喋ることも出来ないし、痛みに耐えるのが背一杯の状態だった。
「頭が割れるように痛い……。」
僕は擦れるような声で、小さく言った。
司令官は優しさで「立てるか?」と問うてくれた。僕は声を発することも出来ずに頷くだけ。
司令官はその返答を見て、かがんでおんぶの体勢をとってくれた。
「分かった。それじゃおぶるから、捕まっててくれ。」
「ああ………‥。す、まん……。」
そして、司令官は僕を軽々持ち上げると心配そうな声色で言った。
「もう少し、食べたほうがいいんじゃないか? このままじゃ早死にするぞ。」
司令官は、優しくそう言った。
僕は彼が司令官という役職に適任だと改めて思った。
間違いなく僕が彼の立場なら、慌てて気の利いた言葉を掛ける心の余裕は無かっただろうし、まして人の心配なんか以ての外だったのだろう。
そう考えると、僕にはこの能力が欠如している気がした。
自分の意見を真っ先に述べて、他の人間の意見を言わせないような環境づくりを無意識の内にしていた。
そんな我の強い人間にこの集団はまとめ上げられない。僕には、少しだけ罪悪感があった。
ふと、激痛の中に、時折聞き覚えのある声が聞こした。
『……だったよ。』
『それって……みたいじゃないか。』
多分記憶の断片部分なのだろう。今まで痛がっていた三人もこんな経緯で記憶が僅かだけ戻っていた。
しかし何だろうこのむず痒さは。
ほんの僅かだけど記憶が戻って、進展した筈なのに何故か、胸が苦しくなっている。
知らない方がもしかしたら幸せだったのかもしれない。
「真道ってさ、もし自分の記憶が戻った時、それが忘れ去りたい記憶だったらどうする?」
頭痛が収まりかけの中で、司令官は唐突に質問を投げかけてきた。
どこか含みのある質問のようで、彼の声色からはとてもじゃないが不真面目な雰囲気は感じなかった。
「僕は……、絶対に忘れないようにする、かな。」
司令官は、少し驚いたような反応をした。僕は思った事を全て彼に伝えた。
人間という生物は失敗を重ねて成長する。学生時代や社会人になって、もしかしたら老後かもしれない。
何時でも人は失敗して殻を破っていく。
もしその失敗を忘れて、成長したことすらも記憶になかったとしたら、また同じ失敗を繰り返し、人としての成長は止まってしまう。
僕はそこが人間としての終わりを迎えた瞬間だと思っている。
「何度も失敗して、その度に後悔して。そうやって人間は大人になっていく。失敗しない人間なんてこの世には誰一人として存在しないんだ。」
僕は穏やかな口調で司令官に言った。
その時、どこか胸がスッとしたような気がした。
「それが、どれだけ残酷で醜いものでもか?」
「当然。だって失敗に大小は無いんだから。どんな些細な事にも真摯に向き合って自分の成長に生かすんだ。」
「真面目だなお前は……。何でも真摯に向き合うだなんてよ……。でもだからこそ、お前の発言とか考えには説得力があるんだな。」
背中越しに聞こえる司令官の声は、想像以上に重みがあった。
彼の言葉を借りると、説得力のある言葉だったと思う。
心の中で熟成された言葉が、ふとした瞬間に出てしまった、そんな感じの彼の言葉だったと僕は思う。
「たださ、説得力が全てじゃ無い。見誤る事だって、大きな損失を与える事だって、十分にあるよ。説得力を持つ人間って、自分の思い通りに事を運べる場面が多い。でも、それと引き換えにとんでもなく大きな責任が付きまとうんだ。今この瞬間だって、何か予期せぬことが起こった場合、責任を被るのは提案した僕なんだ。」
だから僕は、この挑戦に対しての恐怖心が大きかった。
もしかしたら、僕だけでなく司令官まで巻き込んで、二人とも脱落という最低の結果をもたらしていたのかもしれない。
そうなれば、僕が戦犯扱いを受けるのは不可避だろう。
街灯が少なく視界も悪い中でこぼこの道を歩いて行った。
神経質になりながら、途中でバランスを崩したりして、僕らは助け合いながらゆっくりと進んだ。
「まずは近場からだよね。」
「ああ。駄菓子屋が一番近くにあるって、便利だな。」
「まあ、学校帰りとかに寄れるし。無駄に遠くまで行かなくて済むしね。」
僕らは、そんなくだらない話を交わしつつ、僕らは隈なく駄菓子屋を荒らしていく。
綺麗に整列したスナック菓子を避けたり、内側の引き出しの中身を書き出したりと、限られた明の中でなんとか成果を上げようと躍起になっていた。
そんな中、店の奥から司令官の声がした。
「真道―。あったぞー。」
駄菓子屋の奥にある、店主の住居らしき部屋のタンスの引き出しの中に、日記の切れ端が入っていた。
「六月三十日。いじめ仲間が出来た。聞くとこの人も同じようにいじめられているらしい。二人なら乗り越えられるかな・・・・・・。だってさ。」
携帯の僅かな明かりを使って僕は音読した。
おそらく八枚目の日記だ。日付が近い。
けど、どこかで聞いたような文言だなこれ。
一体どこで……。ん?
「お、おい! 真道、座り込んでどうした!」
僕はその場に倒れ込んだ。
僕は、慌てる司令官を気にかけられるような心持ちでは、いられなかった。
だって、僕が体験しているのは、皆が倒れこむほどの強さを誇る頭痛だったから。
まともに喋ることも出来ないし、痛みに耐えるのが背一杯の状態だった。
「頭が割れるように痛い……。」
僕は擦れるような声で、小さく言った。
司令官は優しさで「立てるか?」と問うてくれた。僕は声を発することも出来ずに頷くだけ。
司令官はその返答を見て、かがんでおんぶの体勢をとってくれた。
「分かった。それじゃおぶるから、捕まっててくれ。」
「ああ………‥。す、まん……。」
そして、司令官は僕を軽々持ち上げると心配そうな声色で言った。
「もう少し、食べたほうがいいんじゃないか? このままじゃ早死にするぞ。」
司令官は、優しくそう言った。
僕は彼が司令官という役職に適任だと改めて思った。
間違いなく僕が彼の立場なら、慌てて気の利いた言葉を掛ける心の余裕は無かっただろうし、まして人の心配なんか以ての外だったのだろう。
そう考えると、僕にはこの能力が欠如している気がした。
自分の意見を真っ先に述べて、他の人間の意見を言わせないような環境づくりを無意識の内にしていた。
そんな我の強い人間にこの集団はまとめ上げられない。僕には、少しだけ罪悪感があった。
ふと、激痛の中に、時折聞き覚えのある声が聞こした。
『……だったよ。』
『それって……みたいじゃないか。』
多分記憶の断片部分なのだろう。今まで痛がっていた三人もこんな経緯で記憶が僅かだけ戻っていた。
しかし何だろうこのむず痒さは。
ほんの僅かだけど記憶が戻って、進展した筈なのに何故か、胸が苦しくなっている。
知らない方がもしかしたら幸せだったのかもしれない。
「真道ってさ、もし自分の記憶が戻った時、それが忘れ去りたい記憶だったらどうする?」
頭痛が収まりかけの中で、司令官は唐突に質問を投げかけてきた。
どこか含みのある質問のようで、彼の声色からはとてもじゃないが不真面目な雰囲気は感じなかった。
「僕は……、絶対に忘れないようにする、かな。」
司令官は、少し驚いたような反応をした。僕は思った事を全て彼に伝えた。
人間という生物は失敗を重ねて成長する。学生時代や社会人になって、もしかしたら老後かもしれない。
何時でも人は失敗して殻を破っていく。
もしその失敗を忘れて、成長したことすらも記憶になかったとしたら、また同じ失敗を繰り返し、人としての成長は止まってしまう。
僕はそこが人間としての終わりを迎えた瞬間だと思っている。
「何度も失敗して、その度に後悔して。そうやって人間は大人になっていく。失敗しない人間なんてこの世には誰一人として存在しないんだ。」
僕は穏やかな口調で司令官に言った。
その時、どこか胸がスッとしたような気がした。
「それが、どれだけ残酷で醜いものでもか?」
「当然。だって失敗に大小は無いんだから。どんな些細な事にも真摯に向き合って自分の成長に生かすんだ。」
「真面目だなお前は……。何でも真摯に向き合うだなんてよ……。でもだからこそ、お前の発言とか考えには説得力があるんだな。」
背中越しに聞こえる司令官の声は、想像以上に重みがあった。
彼の言葉を借りると、説得力のある言葉だったと思う。
心の中で熟成された言葉が、ふとした瞬間に出てしまった、そんな感じの彼の言葉だったと僕は思う。
「たださ、説得力が全てじゃ無い。見誤る事だって、大きな損失を与える事だって、十分にあるよ。説得力を持つ人間って、自分の思い通りに事を運べる場面が多い。でも、それと引き換えにとんでもなく大きな責任が付きまとうんだ。今この瞬間だって、何か予期せぬことが起こった場合、責任を被るのは提案した僕なんだ。」
だから僕は、この挑戦に対しての恐怖心が大きかった。
もしかしたら、僕だけでなく司令官まで巻き込んで、二人とも脱落という最低の結果をもたらしていたのかもしれない。
そうなれば、僕が戦犯扱いを受けるのは不可避だろう。
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