カコの住人たち

やすを。

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20話 浮かんできた記憶の可能性

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「そっか。そうだな・・・・・・。」

 司令官は、少し納得したようにそう言った。

 それからは、たわいもない話をして時間を潰した。

 夜間の捜索の恐怖心は、随分と薄れて忘れられるほどに、僕の心の端に追いやられていた。

 「お帰り……って、マー君どうしたの?」

 僕らは、ようやく落ち着ける場所に帰って来られた。

 校舎の眩しいほどの光も、僕らにとって今は、一つの安心材料だった。

 その安心感に浸っていると、階段で僕らの帰りを待っていたあきの姿が目に入った。

 僕に心配そうな眼差しを向けてくれる彼女だったが、僅かに指先に赤みがあるのに、僕は気づいた。

 僕は司令官にお礼を言うと、すぐさまあきの手を取った。

「ずっと待ってたのか?」

「うん。でも大丈夫だよ。…………ックシュン。」

 僕は、漫画の典型のようにくしゃみをしたあきに、苦笑を浮かべた。

 いくら夏だからと言っても夜間に、ワイシャツとスカートだけで外に出るのは流石に体に悪い。

 しかも今日は涼しい風が吹いていて、比較的気温も低い。

 心配をかけた僕らが強く言えることでは無いが、もう少し自分の体を大切にしてほしい。

 あきの手は夏場とは思えないほどに冷えていた。

 それだけ長い時間この風に当たっていたのだと思うと、少し心が痛くなった。

 僕はさらに一層、彼女の手を強く握った。

「もう少し、自分の体をいたわってよ。手も冷たいしさ、無理はあまりしないで。」

「うん…………。」

 あきは、しゅんと、青菜のように塩らしくなってしまった。

 しかし原因は、僕らが長い時間捜索活動を行っていた事である。

 僕は自分の言動を反省するばかりだった。

「あき……。その、ありがとな。心配していてくれて……。僕らの事が心配で不安で心配だったから、ああやって、あそこで出迎えてくれてたんだよね。」

 僕は肩を落とすあきに言った。

 僕には、些か直接お礼を言うのが恥ずかしく思えた。思春期特有の気恥ずかしさというやつだ。

 あまりあきと顔を合わせたくは無かった。  

 多分、あきとは比べられないほどに顔が真っ赤になっているだろうから、早く背けたかった。

「僕らの事が心配で不安だったから、ああやって、あそこで出迎えてくれたんだよね。」

「マー君て、変に不器用だよね。こういう辺り、気付いてるのに声に出せないんだもの。」

「うっせ……。こういう性格なんだよ。」

「ううん。全然悪くないよ。むしろ安心するよ、いつものマー君だからさ。」

 あきは困ったように笑った。

 僕はこの雰囲気に、いたたまれなさを感じていた。

 目を合わせられないのが一番の原因だと思うが、会話そのものにぎこちなさを感じていた。

 恐らく時間が空けば元に戻るだろう。しかし、僕はすぐにでもこの場から早く去りかった。

 僕らは変な気まずさを抱えながら会話を重ねていると、隣の男が咳払いをしながら入ってきた。

「んっんん……‼ あのさ、イチャつくのは勝手だけど、二人の時にしてくれないか。俺も過ごし方が分からん・・・・・・。」

「ああ、ごめんな……。というか、イチャついてなんかないぞ!」

「はいはい……。ごちそうさまでした。満腹過ぎて、明日の朝ごはん食べれるかな・・・・・・?」

 司令官はそう言い残すと、そのまま基地に入っていった。

 彼の去り際の一言に関しては反論したい部分が沢山あったが、今更言い返すのも面倒臭かった。

 それから僕ら活動組とあきが休息を取った後、報告会議なるものが行われた。

 「こんなメモを見つけたぞ。そして今回、体が反応したのは真道だった。という事は何かしらで真道はこの件に関わっているという事になる。」

 司令官は簡潔に活動内容をまとめ、みんなの意見を求めた。

 そしていち早く反応したのは紗南だった。

「という事は、真道もイジメに加担していたのか……?」

「ううん、紗南ちゃん。マー君がイジメ過去はないよ。」

 あきが珍しく反論をした。

 僕にとっては嬉しい事だが、そんなにはっきりと否定して大丈夫だろうか。

「あきが記憶ある事は知ってるけどさ、何でそんなにはっきり言えるの? もしかしたらあきのいない所でやってるかもしれないじゃん。」

「だって、マー君友達いないもん。それにマー君にそんな度胸ある訳ないしね。」

 あきは微笑みながらそう言った。

 紗南もそれ以上何も言い返す事はしない。多分、あきの記憶の信憑性を認めたからだろう。

 僕にとっては、心を抉られるような会話だったが、信じてもらえたのならそれで良かった。

 その後も円滑に報告会は進み、何事もなく終わりを迎えた。

 各々が疲れを癒すために睡眠の時間を取りにいった。そのとき教室には僕ら二人だけになった。

 全く気まずさは無かった。あそこまでハッキリと言われたことで逆に清々しくなっていた。

「なあ、あき。」

「ん? どうしたの?」

「僕さ、何か酷い行いをした事、あったのか?」

 それは、僕があの頭痛の後からどうしても聞きたかった事だった。

 もしあるのだとすれば、僕がここにいる理由になるような気がした。

 無いのであれば、何か他の過ちによってここにいると断定できる、僕はそう思った。

 心臓の動悸を聞き流しながら、彼女の返答を待つ。

 しかし僕の心持ちとは裏腹に、彼女はあっさりと答えた。

「無かったよ。何も。」

「本当か?」

「本当だって信じてよ。私が嘘ついた事なんてあった?」

「まあ……、無いな……。」

「でしょ? 信じて大丈夫だよ。」

 そこまで言うなら、信じても良いのかな・・・・・・?

 やはり自分の記憶がないという恐怖で人を疑ってみてしまう。

 それが最低なことだと分かっていても、本能的には逆らえなかった。

 それから、少しの間他愛もない話をして彼女は眠りについた。

 昼寝のせいか、僕に関しては一向に眠れそうになかった。

 僕は彼女の寝顔と夜空の星々をじっと眺めながら、その時を待った。


 
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