カコの住人たち

やすを。

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64話 あの日の真実

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「……俺はさ、やっぱり建設会社の社長を許せねえよ。」

「ええ。よくあんな私利私欲で、人を傷つけられるわよね。気が知れないわ。」

 来海の意見に、俺は反論なく賛成できた。

 人の心を弄ぶほど、この世で無益なことは無い。そう俺が思っているから。

 金も名誉もある人間が、どうして人のためになるような行動が出来ないのか、俺には意味が分からなかった。

「あの社長ってどうなったんだ?」

 ふと疑問に思って来海に尋ねたが、俺は調べるのを忘れていた。

 今になってその事実に気付いた僕は、もしかすると猛烈に疲れているのかもしれない。

「会社、倒産したって……。」

 来海は俺の質問を受けるとすぐに、膝の上に置いていたスマホを持ち上げ、調べた結果を報告してくれた。

「えっ……。なんで?」

「欠陥工事が見つかって、信用不振に陥り発注が減少したんだって。それで経営不振で倒産したんだってさ。」

「それで社長は?」

「逮捕されたそうね。賄賂だけじゃなくて、脱税までしてたみたいで。」

「じゃあ、二人の親戚も、逮捕されてるのか?」

「ええ……。一週間前に、その建設会社の社長と一緒にね。今後、あの二人がどうなるのか、心配ね。」

 来海は、少し言いづらそうな雰囲気を醸し出していた。

 もう心配どこの騒ぎじゃない。

 あいつらが目を覚ました時に、何かと厄介な事情に巻き込まれている可能性が大いにある。

 そう気がついた時、俺の中から、感覚が無くなって行くような妙な感じがした。

「まあ、なんかあったら、俺らで何とかするしかねえからよ。頑張ろうぜ。」

 俺は笑顔で来海に言った。

「そう言うとこだよね。隼人が優しいなって感じるの。」

「……なんか照れるな。」

 俺には分からないけれど、来海が感じる、何かがあるのだと思う。

 自分で言うのも悲しいが、俺自身を優しい人間だと感じたことが無い。だから、実感が湧いていなかった。

 俺の言葉を最後にして、俺と来海は話を続けることを止めた。
 
 止めたというか、雰囲気的に止めざるを得なかったという感覚だった。

  少し間が開いて、来海は唐突に、俺の昔話を聞いてきた。

「覚えてる? 隼人が真道と初めて会ったときに言った言葉。」

 俺は、忘れたくても忘れられなかった。あれは俺の人生最大級の黒歴史と言っても、過言では無かったから。

「お前、何調子乗ってんの? って本気で言ってる人、初めて見たからびっくりしたのよ。」

 高一の頃、初めて同じクラスになった真道は、決して陽気ではなかった。自分から話しかけに行くタイプでもなかった。

 そうであるにも関わらず、真道は、友達とまでいかないにしろ、皆と打ち解けている感はあった。

 その当時、俺がやさぐれていたからだと思う。中学の友達に裏切られて自暴自棄になっていた。

「隼人、あからさまに嫌ってたもんね。」

「ああ。今となっては考えられねえけどな。」

 俺と真道が仲良くなったきっかけは、多分来海があきと、仲良くなったことだと思う。

 ずっと来海と二人だった俺は、自然と真道に話す機会が多くなった。

 初めは嫌悪感が、かなり出ていたと思う。何度か無視した事もあった。

 それでも話してみて分かった。真道はいい人間だと。人を裏切るような事は一生無いと。

 真道の言葉の節々から、柔らかい感じがして、悪意とか嫌な部分が全く見えなかった。だから心を開けたのだと思う。

 真道と会話を重ねる中で、アツとも仲良くなった。

 ちょっと弱弱しい感じだったけど、人の気持ちにより添える人で、アニメとか漫画とかで、趣味が合うから、話も自然と盛り上がった。

 真道、俺、あき、来海、アツ。この五人で俺らは、和気藹々とした雰囲気を出すグループが出来上がった。

 そのグループで高校生活、大学や社会人になっても仲良くいられるような感覚が、俺にはあった。

 そんな中、転機が訪れたのはちょうど一年前。アツの交通事故だった。

 その直後から、真道が学校に来なくなって、周りにも塩対応だった。

 クラスや真道の事を知っている人からすれば、事情を察して、話しかけないだとか塩対応でも割り切るとか、慈悲の心を持ってくれた。

 しかし、何も知らない他の連中は、昔の俺のような事を言い出した。

 調子に乗っている、ウザい、陰キャ、などなど。悪口は様々だった。

 そんな中、真道は周りと一切の交流を遮断していたのか、そんな悪口すら、耳に入っていないようだった。

 それを見た他の連中も、次第にちょっかいを出さなくなった。

 恐らく、真道の周りの人が言っていた事情を理解したのだと、俺は思った。

 そして今も、真道の様子に変化はない。相変わらず時間通り登校はするものの、真道は、あきとですら話そうとしなかった。

 どうにか出来ないものかと、あきと俺と来海で、外に連れ出す算段を立てた。

 引きこもりっぱなしでは体に悪いからという、あきの発案で俺らは計画を練った。

 しかし当日になって、あきと真道は昏睡状態で見つかった。正直頭が真っ白になった。 

 まさか自殺でも図ったのかと、肝を冷やした。

 でも、六人が同じ状態で発見されたと聞いた時に、その可能性が無くなり、自殺願望という最悪の選択肢が消えた。

 そのことに俺は、若干の安堵を覚えていた。

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