特進クラスのふざけかた

やすを。

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44話 友の存在

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 「お邪魔します。」

翌日、僕は学校帰りに彩白の家に寄った。

「いらっしゃい。昨日は、その……」

「いいえ、僕の方こそ感情になってしまって。すいませんでした。」
 
 僕はそう謝意を述べた。それでも、彩白のお母さんは申し訳なさそうに言った。

「謝らないでちょうだい。私が一方的に間違ってたんだから。」

彩白のお母さんは僕が帰った後、旦那さんから怒られたらしい。

元々、彩白の世話は2人でやっていた。

 しかし、彩白の歳も重なるごとに、反抗期やお父さんも話に付いていけなくなった。

 だから話し合いで、お母さんが主だって世話をする事にしたそうだ。

「私もね、高校生の頃滅茶苦茶勉強してたのよ。結果、学歴で苦労する事なくて、社会に出て楽に過ごせたわ。」

「それは、お母さんが凄いんじゃないんですか?」

「そうなのかしらね。それは私には分からないけれど、やっぱり学歴があるには越したことはないのよ。」

そっか、だからさ彩白にそこまでして勉強させていたのか。

「まあでも、押し付けすぎたみたいね……。娘の意思も尊重してあげなきゃいけなかったわ。」

それだけお父さんのお叱りは堪えたみたいだった。

 初対面だが、穏やかな表情が常のようで、あまり怒りをあらわにしないようなタイプのように見えた。

そこがお母さんの心を変える大きな要因になったこと間違いなかった。

「彩白は部屋ですか?」

「ええ。相変わらず、部屋から出てきてないわね。」

「そうですか……」

僕はそう返し、お母さんから部屋の場所を教えてもらった。僕は扉の前に立って、声をかけてみた。

「彩白、調子どう?」

「…………」

「僕は元気にやってるよ。」

「…………」

「でも、彩白がいないとつまんないんだよね。」

彩白からの返事はない。もちろん僕は予想していたし、それが現実になっただけだ。それでもやっぱり寂しかった。

「みんなずっと待ってるから。急ぐ事もないし、自分の気持ちを優先して考えてね。」

「…………」

「僕は毎日来るから。彩白のタイミングで、その扉を開けて。いつか君の口から真実が聞けるのを待ってるから。」

「…………」

「じゃあね。また明日。」

「…………」

扉の向こうから、あの溌剌とした声は聞こえることは無かった。

僕は扉の前から離れ、二階にあるそこからリビングに降りていった。そしてお母さんにお礼を言って、玄関を後にした。

それから言った通り、毎日彩白の元を訪れた。僕は扉の前で返ってこない声に向かって、彩白に話しかけ続けた。

もしかするとキモがられているかもしれない、迷惑がられているかもしれない。

それでも行動せずにはいられなかった。何か体を動かしていないと、逃げたような気がして、その気持ちに押しつぶされそうになっていた。

学校のいつメンにも、彩白の現状を話した。心配するみんなの姿を見て、報告するべきだと思ったし、僕の義務であるようにも感じた。

そんな今日の帰り道、僕は紫音と自宅に帰っていた。

「彩白がまさかそんな事になってたとは思わなかったわ。」

「僕もだよ。そんな状況だったとは、全く知らなかったな。僕に言ってくれればよかったのに……」

「まあ、輝波には言いたくないわよね……」

「……えっ、何で?」

「だって、頼りないもの。」

「うわ! 否定しずらいのが、なんか嫌!!」

こんな場面でボケんなよ……真面目な話したいのにさ……。

「冗談は置いといて。輝波は彩白をどうしたいの?」

「そりゃ、いつもみたいにさ、元気な彩白を見たいに決まってるよ。」

「じゃあさ、彩白が何で今塞ぎ込んでるか分かってるの?」

「僕には、わからない。」

紫音の語気がだんだんと強くなっていく。

「そんなんじゃ、輝波がいくら彩白の家に行っても変わらないわよ。」

「どういう意味だよ。」

流石の僕も少しイラッときた。

「甘いわよ、考えが。人の心がそう簡単に変わるもんじゃないのよ!」

「じゃあ、どうすればいいんだよ! 僕だって一杯考えたよ!」

「輝波は彩白の事どう思ってんのよ?」

「は? 今関係ないだろ。」

「いいから答えなさいよ。あんたはあの子の事どう思ってんの?」

僕は紫音の剣幕に負け、少し自問自答した。


確かに僕は彩白の事をどう思っているのだろう。今まで考えた事もなかった。

大切な存在だと思っている。勉強に協力してくれるし、休みの日の話し相手になってくれる。たまに邪魔だなって思う時もあるけど大抵はいてくれて嬉しかった。

「じゃあ……聞き方変えるわね。あんたは彩白の事好きなの? 友達としか思ってないの? どっちなの?」

「僕は…………」

あいつがいなくなった数日間。正直かなり寂しかった。

 放課後の勉強時には、向かいに整ったあいつの顔があって。

 休日は僕の部屋で、あいつの行き過ぎたいじりとボケ、そして笑顔と笑い声があった。

その関係が当たり前に思っていた僕は、それがガラスのように脆いものだったのだと、あいつが居なくなって初めて感じた。

「あの日々が死ぬほど楽しかったんだ。時々面倒臭いなって思う時もあったけど、幸せだったよ。」

「じゃあ、もう答え出たんじゃないの?」

「ああ。もう決まったよ。」

「だったらさ、取る行動は一つなんじゃないの?」

紫音の顔が一瞬晴れ晴れとしたような表情になった気がした。それが何故だか僕には知る由もなかった。

「……ありがとう。行ってくよ!」

「ええ。頑張って。」

紫音はそう言って僕の背中を押してくれた。僕は高鳴る鼓動を感じながら、ひたすらの走っていくのだった。







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