特進クラスのふざけかた

やすを。

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45話 真相

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 僕は彩白の家に向かいながら頭を抱えていた。

 勢いでここまできちゃったけど、これからどうしよう……!!

策もないし、予定なんて皆無。どうしたものかと路頭に迷っていた。

とりあえず今日も様子見で彩白の元を訪れよう。どうするかはその後に考えよう。

僕は目的地へ足早に向かった。そしていつものように彩白のお母さんが出迎えてくれた。毎日の事なのに、嫌な顔せず迎えてくれるのは、僕にとって心が楽になる事だった。

「彩白、来たぞー!」

「…………」

やはりいつも通りの反応だった。変わることのない、無言の応酬。僕はそろそろ決心を固めた。

「なあ、少し話がしたいから、中に入れてくれないか?」

僕は真剣なトーンでそう言った。

僕は彩白からの反応を待った。もし無反応なら、その時は諦めて紫音に報告する事にしよう。

そういえば、紫音は何であの話を出したのだろう。ここで僕と彩白の関係を明白にする意味があるのか、少し疑問だったが、僕はあの頃のように笑い合える関係に戻りたかった。

「……いいよ」

「……お、おう」

彩白が扉を開けてくれた。僕は少し驚いてしまった。

部屋の中は真っ暗だった。カーテンで窓からの光は遮断され、電気も付いていなかった。

「……それで話って?」

「唐突だな……」

そりゃそうか。あんまり人と話したくないだろうから、早くきりあげたいのだろう。

「僕らが出会った日の事、覚えてるか?」


僕はタイミングを見計らうために、つなぎの話を始めた。

「いきなり話しかけられて驚いたよ。それで勉強を教えてなんて言われたもんだから、たまげたね。」

もちろん彩白からの相槌はない。

「ほぼ毎日一緒にいてさ、休みの日になると僕の部屋で2人で過ごす事が当たり前になって。放課後も自習のため教室に残って、一緒に帰って。」

「……そんな話をしに来たの?」

彩白が久々に口を開いた。やはり言葉に棘があった。

「僕の話を最後まで聞いて。」

そう言うと彩白は黙った。

「正直部屋に来るの迷惑だなとか、いじり行き過ぎてないかとか、そんな事を思う時もあったよ。でもさ……」

僕は少し口籠った。

「その日々が幸せで、楽しくて。僕にはかけがえのない時間だったんだよ。僕はその頃に戻りたい。」

そう言い切ると、ずっと黙り込んでいた彩白が口を開いた。

「……もう無理だよ」

「何で…………!」

「……私の心がもたないよ。」

彩白はそう言うと少しの間、次の言葉を探していた。そして再び口を開いた。

「……キー君は優しいから、私に文句一つ言わずにツッコんでくれるし、何だって許してくれる。でもね、家に帰ったらお母さんにボロクソ言われるの。」

彩白はさらに続ける。

「でもさ、キー君ってみんなに優しいじゃん。初めにいじり始めたの私なのに、今じゃみんなからいじられる愛されキャラじゃん……」

「彩白……」

あれ、彩白ってこんなメンヘラっぽかったっけ?

「……クリスマスの後、お母さんから『輝波君の家行き過ぎじゃない?』って言われたの。振り返ってみると、キー君の事何も考えずに入り浸ってたなって。だから、冬休みの間は行かなかった。まあ、お母さんにスマホ取られてたし、行けるような状況じゃなかったっていうのもあるけど。」

「毎日凄い時間勉強してたんでしょ?」

「……知ってたんだね。それでキー君とは全く連絡取れなかったの。」

 僕は彩白の話を黙って聞いていた。

 「……クリスマスにプレゼントあげたのに、冬休み明けに学校で会ったときには、付けてくれてなかったし。」

 「それは……ごめん。あの日雨降ってたから、濡らしたくなくてさ……。」

 「……せっかく1ヶ月かけて編んだマフラーなのにって。残念だった。」

 彩白の声はどこか甘えるような感じに聞こえた。しかも内容もいつもじゃ話さないような、どこか本音を曝け出しているような気がした。

 「……私、結構キー君と近い距離にいたはずなのに、いつのまにか遠くにいるような感じがしてさ。私だけがいじっていたのが、みんなになって。私だけに優しくしてくれたのに、文化祭の時とかみんなに優しくするし。」

 彩白はベッドの上に体育座りで、掛け布団を頭からかぶっていた。

 「……私だけに優しくして欲しかった。」

 彩白はそう言うと、話終わったかのように口を閉じた。僕は三度決意を固め彩白の顔をまっすぐ見た。

 「あのさ、僕今日から彩白だけに優しくするよ。」

 「……キー君?」

 「僕、彩白の事、好き、なんだ……!」

 顔が熱い。鼓動がうるさい。緊張がやばい。もう気が気じゃなかった。

 「……何で今言うの……ずるいよ……」

 「今しか言うタイミングないかなって……ごめん……」

 「……本当だよ。クリスマスの時だってあったじゃん。」

 「勇気が出ませんでした……」

 僕がそう下を向きながら言うと、彩白は堪えきれなくなったようで。

 「……あはは。やっぱりキー君はキー君だね。」

 「うっせ……で? 彩白はどうなの?」

 僕はそう言うと、彩白は布団から降りて僕の前に座ると、僕の右手を彼女の両手で包み込むように握った。

 「……私も好き……です……」

 僕はそう言う彩白を、反射的に抱きしめた。

 少し経ってから、彩白も僕の腰に手を回してくれた。彼女の震えが伝わる。

 「……どうしようかと思ったよ……キー君鈍感だからさ……いくらアプローチしても……私の気持ちに気づかないんじゃないかって……ずっと不安だった……」

 「……ごめん」

 「……それだけじゃ足りないよ……」

 「……どうしたらいい?」

 「……まだこのままでいたい……」

 「……了解」

 僕らはそれから長い時間、抱き合ったまま話をした。その時に、僕の右肩に濡れた感触があったことは口に出さなかった。

 「……もういいよ……」

 「……ん」

 僕は彩白の言葉を聞いて彼女から離れた。

 「落ち着いた?」

 「……う、うん。」

 僕は彼女の顔を見て、更に愛おしさが増してきた。耳に掛かった髪を上げて、顔をしっかりみる。

 「……どうしたの?」

 「いや、彩白って美人だなと思って。」

 「……そんな事面と向かって言わないでよ……恥ずかしい……」

 「嫌だね! 今までいじられてきた分、きっちり返すから!」

 「……別の返し方してよ」

 暗がりの部屋でも明確に分かるほど、彩白の顔が真っ赤になっているのがわかった。

 それから雑談を交わし、ひと段落してから2人で部屋から出た。

 その姿を見た彩白のお母さんは、すぐに彩白を抱きしめると、何度も謝っていた。

 その姿に僕の存在が要らないほどに美しかった。

 僕はその姿を見ながら、廊下にある窓から夕陽が差し込むのを見たのだった。

 

 
 
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