4 / 59
4章 外出先で
しおりを挟む
「今日、外出しない?」
僕は唐突に雨森に話を振った。同居を始めて一ヶ月辺りの今日。未だ雨森は外出という外出はしていなかった。毎日夜中に二人で近くの公園まで散歩するくらい。日光の浴びなさすぎは、体に悪影響を及ぼす危険性すらあるはずなのに、雨森は元気溌剌だった。
「んー、嫌だな。人の視線が恐い。」
やはり、雨森の心の傷はかなり深いのだろう。うつ病の域にすら達しているのではと、疑ってしまうほどだった。
「大丈夫。僕がいるからさ、なんかあったら僕がどうにかするよ。」
「晴山……。うん、じゃあ行ってみようかな。」
「本当? やったー。じゃあいますぐ行こう!」
嬉しいな。何が嬉しいって、僕への信頼度が上がってるようだったから。出会った当時だったら、もう誘った時点で、話が進展する予感が全くなかった。でも今日話をして、可能性が半分半分のような、反応を見せた彼女に、僕は距離感が縮まったような気持ちになった。
「私着替えるからさ、一回外出てて?」
「分かった。」
僕は言われるがままに、身支度を済ませたのち、外で雨森の支度が終わるまで待った。
「お待たせ。じゃ、行こっか。」
雨森は出会った時と同じ格好で、僕の前に現れた。
まあ、服を持ってないわけだし、そりゃそうだよな。それにしても、やっぱり女性用の服の方が似合うな、雨森にはさ。これを機に雨森が外の世界に慣れてくれる事を願うばかりだよ。
僕らは今日、遊園地に行くつもりである。徒歩で最寄りまで向かい、電車に乗り、何度かの乗り継ぎを済ませて、目的地にたどり着いた。
道中、雨森はずっと僕の右袖を掴んで歩いていた。初めはドキドキしていたが、理由を聞いて、その感情はすぐに薄れていった。
「大丈夫だよ。絶対、僕が守るから。」
雨森の過去に何があったのか、僕には見当すらつかない。知りたいとも聞きたいとも僕は思わないが、雨森が幸せになる未来だけは、どうか掴んでほしい。
その第一歩として、今日このお出かけを楽しんでもらいたいのだ。外出ができるようになれば、雨森の生活範囲が広がる。それが彼女自身の幸せに繋がってくれれば、僕はそれでよかった。
「遊園地にとうちゃーく!」
「す、凄い人の量だね……。」
雨森の袖を引っ張る力が一層強くなった。
「雨森、手貸して?」
「う、うん。」
雨森は不安そうな面持ちで右手を出した。僕は何の躊躇もなく、僕の左手で彼女の右手を握った。
「ど、どうしたの、晴山?」
「今日はこれで行こう。大丈夫、雨森を不安にはさせないから。」
「う、うん。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。」
雨森は僕と手を繋ぐことを了承してくれた。受け入れてくれたのだ。これにどれほどの重みがあるのか、それは一ヶ月間接してきた僕にしか分からないだろう。
「よし。じゃあいこーう!」
僕は雨森の手を引っ張るようにして、最初に乗るアトラクションまで歩いた。
ジェットコースターにフリーフォール、コーヒーカップなど、ありとあらゆるアトラクションに一緒に乗ったり、ポップコーンやチュロスなどのお菓子を食べ歩きもした。
始めこそ、雨森は不安げで怯えた様子だったが、今となっては率先してアトラクションを決めている。もう立場が逆転していたのだ。
「そろそろ3時だし遅めの昼食にするか。」
「そうだね。私、お腹すいた!」
「ごめん、その前にトイレ行ってくるから、席取っといて。」
「うん。分かった!」
僕は雨森にそう言うと足早にトイレに向かった。
僕は嬉しかった。あれだけ弾けている雨森を見れた事が、新鮮でとても楽しい。外出もこれから増える事になるだろう。雨森が幸せを掴む未来もそう遠くないのかもしれない。僕はその気持ちで胸が一杯だった。
僕がトイレから食事スペースに戻ると、なにやら人だかりが出来ていた。その中心には四人のチャラついた大学生らしき男性と、雨森がいた。
恐れていた事態が起きてしまった。
「ねえねえ、遊ぼうよ。俺たちと遊んだら楽しいぜ~!」
「や、やめて、お願い……。」
声に覇気はなかった。子鹿のように震える足でなんとか掴まれた左腕を払おうとするが、勝算は皆無に見えた。
おいおい、こんなベタな展開あんのかよ……。アニメとか漫画の世界だけだと思ってたな……。
「おい! お前らその子から手を離せ。その子は僕の連れだ。」
「おいおい。冗談きついぜ~。こんな冴えないガキの連れ立って? 笑わせんなよ! もっとまともな嘘つけよ~!」
「いいのか? そんな事言ってて。早く手を離さないとあんたら、痛い目見るぞ?」
僕は余裕があった。こんな四人を相手にするなんて造作もない事だったからだ。
「ほう~。言うじゃねえか。じゃあ、手始めに、痛い目ってやつをを見せてもらおうじゃねえか!」
ヨッコラセっと
僕は殴りかかってきたそいつを、返り討ちにした。
「おいおい、マジかよ……。お前ら、三人で同時に行くぞ!」
全く、こっちは高校二年だっつーのによ……。大学生が、三人とか大人気ないとか思わないのかな……。
まあ、別に余裕だからいいけど。
「いっちょ上がりっと。すいませんスタッフさん、この人達を警察に突き出してください。」
「はっ、はい。わかりました。」
やっぱり思った通りの雑魚だったな。喧嘩のけの字も知らない素人だ。
「雨森、大丈夫か?」
「…………。」
雨森は口を閉じてその場に座り込んでいた。
僕は唐突に雨森に話を振った。同居を始めて一ヶ月辺りの今日。未だ雨森は外出という外出はしていなかった。毎日夜中に二人で近くの公園まで散歩するくらい。日光の浴びなさすぎは、体に悪影響を及ぼす危険性すらあるはずなのに、雨森は元気溌剌だった。
「んー、嫌だな。人の視線が恐い。」
やはり、雨森の心の傷はかなり深いのだろう。うつ病の域にすら達しているのではと、疑ってしまうほどだった。
「大丈夫。僕がいるからさ、なんかあったら僕がどうにかするよ。」
「晴山……。うん、じゃあ行ってみようかな。」
「本当? やったー。じゃあいますぐ行こう!」
嬉しいな。何が嬉しいって、僕への信頼度が上がってるようだったから。出会った当時だったら、もう誘った時点で、話が進展する予感が全くなかった。でも今日話をして、可能性が半分半分のような、反応を見せた彼女に、僕は距離感が縮まったような気持ちになった。
「私着替えるからさ、一回外出てて?」
「分かった。」
僕は言われるがままに、身支度を済ませたのち、外で雨森の支度が終わるまで待った。
「お待たせ。じゃ、行こっか。」
雨森は出会った時と同じ格好で、僕の前に現れた。
まあ、服を持ってないわけだし、そりゃそうだよな。それにしても、やっぱり女性用の服の方が似合うな、雨森にはさ。これを機に雨森が外の世界に慣れてくれる事を願うばかりだよ。
僕らは今日、遊園地に行くつもりである。徒歩で最寄りまで向かい、電車に乗り、何度かの乗り継ぎを済ませて、目的地にたどり着いた。
道中、雨森はずっと僕の右袖を掴んで歩いていた。初めはドキドキしていたが、理由を聞いて、その感情はすぐに薄れていった。
「大丈夫だよ。絶対、僕が守るから。」
雨森の過去に何があったのか、僕には見当すらつかない。知りたいとも聞きたいとも僕は思わないが、雨森が幸せになる未来だけは、どうか掴んでほしい。
その第一歩として、今日このお出かけを楽しんでもらいたいのだ。外出ができるようになれば、雨森の生活範囲が広がる。それが彼女自身の幸せに繋がってくれれば、僕はそれでよかった。
「遊園地にとうちゃーく!」
「す、凄い人の量だね……。」
雨森の袖を引っ張る力が一層強くなった。
「雨森、手貸して?」
「う、うん。」
雨森は不安そうな面持ちで右手を出した。僕は何の躊躇もなく、僕の左手で彼女の右手を握った。
「ど、どうしたの、晴山?」
「今日はこれで行こう。大丈夫、雨森を不安にはさせないから。」
「う、うん。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。」
雨森は僕と手を繋ぐことを了承してくれた。受け入れてくれたのだ。これにどれほどの重みがあるのか、それは一ヶ月間接してきた僕にしか分からないだろう。
「よし。じゃあいこーう!」
僕は雨森の手を引っ張るようにして、最初に乗るアトラクションまで歩いた。
ジェットコースターにフリーフォール、コーヒーカップなど、ありとあらゆるアトラクションに一緒に乗ったり、ポップコーンやチュロスなどのお菓子を食べ歩きもした。
始めこそ、雨森は不安げで怯えた様子だったが、今となっては率先してアトラクションを決めている。もう立場が逆転していたのだ。
「そろそろ3時だし遅めの昼食にするか。」
「そうだね。私、お腹すいた!」
「ごめん、その前にトイレ行ってくるから、席取っといて。」
「うん。分かった!」
僕は雨森にそう言うと足早にトイレに向かった。
僕は嬉しかった。あれだけ弾けている雨森を見れた事が、新鮮でとても楽しい。外出もこれから増える事になるだろう。雨森が幸せを掴む未来もそう遠くないのかもしれない。僕はその気持ちで胸が一杯だった。
僕がトイレから食事スペースに戻ると、なにやら人だかりが出来ていた。その中心には四人のチャラついた大学生らしき男性と、雨森がいた。
恐れていた事態が起きてしまった。
「ねえねえ、遊ぼうよ。俺たちと遊んだら楽しいぜ~!」
「や、やめて、お願い……。」
声に覇気はなかった。子鹿のように震える足でなんとか掴まれた左腕を払おうとするが、勝算は皆無に見えた。
おいおい、こんなベタな展開あんのかよ……。アニメとか漫画の世界だけだと思ってたな……。
「おい! お前らその子から手を離せ。その子は僕の連れだ。」
「おいおい。冗談きついぜ~。こんな冴えないガキの連れ立って? 笑わせんなよ! もっとまともな嘘つけよ~!」
「いいのか? そんな事言ってて。早く手を離さないとあんたら、痛い目見るぞ?」
僕は余裕があった。こんな四人を相手にするなんて造作もない事だったからだ。
「ほう~。言うじゃねえか。じゃあ、手始めに、痛い目ってやつをを見せてもらおうじゃねえか!」
ヨッコラセっと
僕は殴りかかってきたそいつを、返り討ちにした。
「おいおい、マジかよ……。お前ら、三人で同時に行くぞ!」
全く、こっちは高校二年だっつーのによ……。大学生が、三人とか大人気ないとか思わないのかな……。
まあ、別に余裕だからいいけど。
「いっちょ上がりっと。すいませんスタッフさん、この人達を警察に突き出してください。」
「はっ、はい。わかりました。」
やっぱり思った通りの雑魚だったな。喧嘩のけの字も知らない素人だ。
「雨森、大丈夫か?」
「…………。」
雨森は口を閉じてその場に座り込んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる