雨と晴

やすを。

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7話 二人の本質

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 僕らは同じ足取りで、目的地を目指して歩いていた。

 「ただいま。」

 僕はいつも通り、そう声を出した。しかしいつも聞こえてくるはずの声が、今回だけは返ってこなかった。

 「お邪魔しまーす。」

 二人の親友たちも、僕に続くようにして部屋に上がった。

 「雨森ー。どこだー。雨森ー。あ、いた。」

 僕の部屋の壁に覗くような形で隠れていた。

 「雨森。帰ったぞ。」

 「うわぁぁぁ!! びっくりさせないでよ。」

 「いや、何度も声かけてたんだけどな。」

 「本当に? 全然気づかなかったんだけど……。」

 「というか、そんなことはどうでもよくて。晴山の親友ってこの二人?」

 僕は肯定的な返事を雨森に返した。

 「どうも、初めまして。佐藤巧です。」

 「で、私が、同じく初めましての友部沙耶香です。よろしくね、葵ちゃん。」

 早速発動した。沙耶香の近い距離感。これには雨森もどうしたらいいのかわからなくなっている。

 「ど、ど、どえも初めはせて。あ、雨森葵で、です。」

 雨森は僕の後ろに隠れながら、顔だけを右脇辺りからひょっこりと出していた。挨拶も噛みながらだが、なんとか完走できた。それだけで、僕は彼女の成長を感じた。

 「よく頑張ったね。偉いぞ、雨森。」

 「うん……。」

 それから雨森は僕の後ろから出てこなくなってしまった。もう恐らく僕の後ろから顔を覗かせることはないだろう。背中に温かな何かを感じた。

 「まさか、ここまでとは思わなかったよ。まあ、仕方ないよね。今度は一緒に話せたら嬉しいな。」

 「雨森ちゃん聞いたよ。服をほとんど持ってないんだって? じゃあさ、今週末に一緒に買いに行こうよ。四人で行ったら楽しいと思うんだけど、どうかな?」

 「か、考えさせて下さい!」

 「うん、分かったわ。それじゃあ答えが決まったら、翔太に連絡してもらってね。」

 これで二人はお暇するようだった。いつもなら長い時間居座るのにも関わらず、今日はこんなにもスムーズに帰宅する。やはり僕の目には間違いはなかったようだ。

 「じゃあな翔太、また明日。雨森もまたな。」

 「じゃあね二人とも。連絡待ってるよ。」

 そうして二人とも、早々に部屋を後にした。

 まったく、これだからあの二人は人望が厚いんだよな。空気読んで、初対面の相手の気分を害させないよう気を配って。僕の無理難題を難なくこなすんだもんな……。生まれながらの人たらしいだよ、あの二人は。

 「どうだった? 二人の感想は。」

 「晴山には勿体無いほど、素敵な二人だった。あの二人が友達になってくれたら、私の人生も楽しくなるのかな?」

 「それは、雨森次第だよ。君がそれを望むならそうなるし、望まないのであればそうはならない。君次第で全てが変わるんだ。」

 「じゃあ、友達になってもらいたい。あの二人なら、何となくだけど楽しく過ごせそう。」

 えらい変わりようだな、僕とは。やはりこれが二人の魅力なのだろう。本当に羨ましいよ。すぐに誰とでも仲良くなれるんだもんな。

 「後さ、お願いなんだけど。」

 「ん? どうした?」

 「下の名前で呼び合わない? さっき三人が下の名前で呼び合ってるのを見て、私もやりたくなった。そっちの方が信頼関係がちゃんと気付けてる感じがするし。」

 なるほど。それを安心材料にしたいわけだ。本当にどんな生活を今までに送ってきたのやら。僕が君のことを裏切るわけがないのにさ。

 「いいよ。君がそれを望むのなら。それに葵の方が言いやすいしね。」

 「確かにね。晴山より翔太の方がなんかしっくりくる。」

 それなら良かったよ。君が安心できるのなら何だってするさ。それが君の幸福に繋がるのなら尚更ね。

 「改めてよろしく、葵。」

 「こちらこそよろしくね、翔太。」

 僕らの関係値はさらに一歩前進し、信頼関係もより強固なものとなった。僕はその日中に、沙耶香に向けて肯定的な返事をした。


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