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9話 心を許すなり
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二人はそうして奥へと消えて行った。僕らは二人の背中を見ながら少し微笑んでいた。あんな楽しそうにしている葵を見るのが初めてだった僕は、沙耶香にもちろん嫉妬もした。でもそれ以上の尊敬があった。
「俺らは、翔太の洋服を買いに行くぞ。」
「本当に買うのか? 別にいいよ、買わなくても。」
「あのさ、翔太が良くても、葵ちゃんに失礼だろ? 頑張ってお洒落したのに、翔太はダサい格好で一緒に歩いてたらさ。せっかく時間かけたのに。」
僕は翔太の言葉が、どこか腑に落ちた。何の言い訳も思いつく事もなく、的を得た発言だった。
だから、巧は皆んなからモテんだよな。そういう所でちゃんと気を遣えるから。モテるからとか、人望がすごいからとかじゃない。相手を考えた行動が、いつでも出来ているのが、本当に凄い。
「分かった。買いに行こう。」
「んじゃ、とりあえずあそこ行こう。」
今度は巧みに連れられて、これまたお洒落な洋服店に足を踏み入れた。
「洋服は巧任せでいいか?」
「ああ。翔太には服を選ぶなんて出来ないだろうからな。全部俺に任せて。」
まったく、一言余計なんだっつーの。気を遣えるのか遣えないのな、分からなくなるよ。
「やっぱ、巧みすげーな。」
僕は巧の洋服センスに脱帽していた。服の良さが全く分からない僕でさえ、自分の格好が何段階もグレードアップしていることに気づいていた。
「ほらな。翔太、別に素材悪い訳じゃないんだからさ、ちゃんと身だしなみを整えれば光るんだよ。」
「それは、流石に過大評価してないか? 別にそんな素材を持ってる訳じゃないぞ?」
「翔太こそ過小評価してないか? 客観視したら、結構翔太ってモテる部類だからな?」
とりあえず、巧の言葉には適当な相槌を打って、この話を流した。どう考えてもイタチごっこになりそうだったから。
自分がモテるなんてあるはずがないんだ。自分の顔なら、容姿なら何度も鏡で見た。それで判断した、僕は非モテ部類だと。
巧は、努力してそのカッコよさ。手に入れたのかもしれないが、僕にはそこまでする情熱もなければ、元の素材だって、ただの石ころ。磨けば光るダイアモンドとは訳が違うのだ。
「結構かかったな……。洋服ってこんな高かったんだな……。」
「そういうお店にきたからな。どうだ、少しは洋服に興味湧いたか?」
「全然。洋服にお金を使うくらいなら、貯金しときたい。」
「そっか。まあ、価値観は人それぞれだし、別になんでもいいけど。これだけは覚えとけよ。」
「隣を歩く女子に恥をかかせるな。失礼なことをするな。それだけ覚えておけば、何とかなると思うね。」
マジで言葉が高校生じゃないんだよな。成人した、イケてる大人が言うやつなんだよ。将来、凄い人数の女の子を侍らせてそうだな……。
「とりあえず、二人が帰ってくるまでどっかで暇でも潰してるから。」
「そうだな。適当にベンチにでも座ってればいいんじゃないか?」
「ああ、そうするか。」
そうして、一番近くになる二人掛け用のベンチに腰掛けると、奥から大きな紙袋を持った葵とにこやかな沙耶香が戻ってきた。
「沙耶香、葵に何買ったんだよ。」
「ふふーん。それはね……」
そう言って沙耶香は僕の耳元までくると、小声でこう言った。
「何着かの女性用下着をね。気になるのなら、夜にでも見てみたら?」
「なっ、沙耶香お前……!」
「翔太、沙耶香ちゃんに何言われたの?」
「う、うん。別に大したことじゃないよ。ただ、葵が楽しそうに買い物してたって話をね……。」
僕はそう言って、笑って誤魔化した。僕は不敵な笑みを浮かべている、あの女を睨んだ。
「せっかくだし、昼でも食べて解散するか。」
「そうだな。葵、どっか行きたいとこある?」
「んー、じゃあね、ファミレス!」
「オッケー。じゃあいこっか。」
そうして、四人はファミレスで昼食をとり現地解散した。
葵は終始楽しそうに、笑顔を綻ばせていた。やはり二人と相性が良かったのだろう。僕は、二人に合わせて良かったと再確認したのだった。
「俺らは、翔太の洋服を買いに行くぞ。」
「本当に買うのか? 別にいいよ、買わなくても。」
「あのさ、翔太が良くても、葵ちゃんに失礼だろ? 頑張ってお洒落したのに、翔太はダサい格好で一緒に歩いてたらさ。せっかく時間かけたのに。」
僕は翔太の言葉が、どこか腑に落ちた。何の言い訳も思いつく事もなく、的を得た発言だった。
だから、巧は皆んなからモテんだよな。そういう所でちゃんと気を遣えるから。モテるからとか、人望がすごいからとかじゃない。相手を考えた行動が、いつでも出来ているのが、本当に凄い。
「分かった。買いに行こう。」
「んじゃ、とりあえずあそこ行こう。」
今度は巧みに連れられて、これまたお洒落な洋服店に足を踏み入れた。
「洋服は巧任せでいいか?」
「ああ。翔太には服を選ぶなんて出来ないだろうからな。全部俺に任せて。」
まったく、一言余計なんだっつーの。気を遣えるのか遣えないのな、分からなくなるよ。
「やっぱ、巧みすげーな。」
僕は巧の洋服センスに脱帽していた。服の良さが全く分からない僕でさえ、自分の格好が何段階もグレードアップしていることに気づいていた。
「ほらな。翔太、別に素材悪い訳じゃないんだからさ、ちゃんと身だしなみを整えれば光るんだよ。」
「それは、流石に過大評価してないか? 別にそんな素材を持ってる訳じゃないぞ?」
「翔太こそ過小評価してないか? 客観視したら、結構翔太ってモテる部類だからな?」
とりあえず、巧の言葉には適当な相槌を打って、この話を流した。どう考えてもイタチごっこになりそうだったから。
自分がモテるなんてあるはずがないんだ。自分の顔なら、容姿なら何度も鏡で見た。それで判断した、僕は非モテ部類だと。
巧は、努力してそのカッコよさ。手に入れたのかもしれないが、僕にはそこまでする情熱もなければ、元の素材だって、ただの石ころ。磨けば光るダイアモンドとは訳が違うのだ。
「結構かかったな……。洋服ってこんな高かったんだな……。」
「そういうお店にきたからな。どうだ、少しは洋服に興味湧いたか?」
「全然。洋服にお金を使うくらいなら、貯金しときたい。」
「そっか。まあ、価値観は人それぞれだし、別になんでもいいけど。これだけは覚えとけよ。」
「隣を歩く女子に恥をかかせるな。失礼なことをするな。それだけ覚えておけば、何とかなると思うね。」
マジで言葉が高校生じゃないんだよな。成人した、イケてる大人が言うやつなんだよ。将来、凄い人数の女の子を侍らせてそうだな……。
「とりあえず、二人が帰ってくるまでどっかで暇でも潰してるから。」
「そうだな。適当にベンチにでも座ってればいいんじゃないか?」
「ああ、そうするか。」
そうして、一番近くになる二人掛け用のベンチに腰掛けると、奥から大きな紙袋を持った葵とにこやかな沙耶香が戻ってきた。
「沙耶香、葵に何買ったんだよ。」
「ふふーん。それはね……」
そう言って沙耶香は僕の耳元までくると、小声でこう言った。
「何着かの女性用下着をね。気になるのなら、夜にでも見てみたら?」
「なっ、沙耶香お前……!」
「翔太、沙耶香ちゃんに何言われたの?」
「う、うん。別に大したことじゃないよ。ただ、葵が楽しそうに買い物してたって話をね……。」
僕はそう言って、笑って誤魔化した。僕は不敵な笑みを浮かべている、あの女を睨んだ。
「せっかくだし、昼でも食べて解散するか。」
「そうだな。葵、どっか行きたいとこある?」
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