雨と晴

やすを。

文字の大きさ
45 / 59

45話 実家の地域

しおりを挟む
 もうすぐ大晦日。僕と葵は三度、新幹線で移動していた。目的は前に葵と交わした約束を守るためにこうして移動している。その約束とは……。

「翔太のお父さんお母さんに会うと楽しみだな~。どんな人なんだろう。」

「別にどこにでもいる普通の夫婦だよ。」

葵はどこか過度な期待を寄せているように感じた。それがなぜなのかは僕には理解できなかったが、葵が楽しみにしてくれているのなら、僕はそれでよかった。

僕の実家がある地域は、ハッキリ言って治安がかなり悪かった。夜中に外を出歩けばチンピラ達に絡まれて、誘拐されたり暴行されたりする。カツアゲなんて日常茶飯事で、1日に5回はパトカーが家の前を通っていた。

「実家に葵を連れて行くのは、嫌なんだよな……」

「それずっと言ってるけど、私は来れて嬉しいよ? 翔太のこともっと知りたいから。」

それは嬉しいけど、出来るだけ葵を危険な場所には連れて行きたくないんだよ。僕の彼女なら尚更、そう思うからさ。

新幹線を降りて、私鉄に乗り換える。僕の地元は自然が多いわけでも、ビルが立ち並んでいる訳でもない。閑静な住宅街が多くある、何とも中途半端な街だった。

そして最寄駅に着くと、駅の改札を抜けてひさびさに故郷の地に足をつけた。駅構内から出ると、そこに1人のチャラい男子が立っていた。

「お久しぶりっす! 元気にしてましたか、総長。」

「おお、久しぶりだな。僕は元気にしてたけど、お前はどうだった?」

「はい! この通りピンピンです!」

「それは何よりだ。ところでどうしてここに?」

「連れ待ってんすよ。もうすぐ集合時間なのに、全然来る気配がなくて。総長こそなんでですか?」

「里帰りだよ。あと、この子を連れてきたかったんだ。」

「総長の彼女さんですか? 綺麗な顔立ちで、清楚な感じが男心をくすぐりますね!」

そこまで正直に言わんでよろしい。葵も困ってるじゃないか。

「初めまして、雨森葵です。翔太くんの彼女という立場にいます、一応。」

「へー、総長にも恋人がね? おめでとうございます! 末長くお幸せに。」

「ああ、ありがとう。お前こそ気をつけろよ。」

そう言って僕はその場から去った。そして実家に向かう。

「あの子、翔太のこと総長って読んでたけど、何でなの?」

「僕が中学の頃、この辺で喧嘩が1番強かったから。高校に入ってやめたけど、中学では無双してた。」

「えっ!? 翔太って元ヤンなの!?」

「まあ、そうとも言えるな。」

 僕は中学三年間、喧嘩で負けたことがなかった。それは、僕が護身用でキックボクシングを習っていた事に由来する。元々、ヒョロガリで喧嘩が弱かった僕は、この地域でいじめられる事を恐れた両親によって、キックボクシングを始めた。

 始めて二ヶ月後、少しずつ基礎が固まってきた頃、高校生のチンピラに絡まれた。そいつらは、初めこそ僕を上から目線で見下していたものの、いざ喧嘩になると数分で決着がついてしまった。

 それ以来、更にキックボクシングに精を出すようになり、また絡まれる頻度も上がっていった。僕はその度にチンピラ達をボコボコにして、もう絡まないようにした。

「……君結構乱暴なんだね。」

「今となっては黒歴史だけどな。」

「でもそれがあったおかげで、私は強い翔太と一緒に入れる。それが私は嬉しい。」

なんて可愛い生物なんだこの子は。もう一生離してやるものか。

「でも、この地域では度々争い事が起きるから、絶対僕のそばを離れるなよ。」

「……うん。」

 僕は葵にそう言った。僕らは僕の実家を目指して歩いていた。葵に僕が元総長という話を聞かれた時は、肝を冷やしたが、反応を見てホッとした。僕は、久々に眺めるこの風景に、大きな懐かしさを感じているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

処理中です...