囁き少女のシークレットボイス

うみだぬき

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67話 過去一の密着度

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 響は、菖蒲に背中を向けながら、最善策を熟考していた。
 先程までの波はほとんど無くなり、少し深めの水深の方まで遊泳を楽しむ人が見える。
 どう行こうにも、菖蒲の姿が見られることは明白だった。

「っ響さんどうしましょう!あ、こっちは見ないで会話してくださいね!」
「わ、分かってる!」

 響は前方方向を見渡すも、菖蒲の水着らしき物は見えなかった。
 そんな時、四十メートルほど離れた場所で、水上オートバイを楽しむ、大学生ぐらいの男性たちの姿が見えた。

「一旦後ろに隠れてろ」
「はっはい!」

 響は男性たちから、菖蒲の姿が見えないように隠す。
 水上オートバイは速く、あっという間に遠くの方へ向かって行った。

「…危なかった」
「危機は去りましたね…」

 一難は去ったものの、現状は一歩も前進していない。
 海で遊ぶ人数も先程よりも多くなり始め、今行動を移さなければ、より事態は深刻となる。

「そのタブレットで隠すことは出来ないか?」
「誰の胸がタブレットですか!乙女に対して最低ですよ!!」

 そんなつもりは無かったのだが、ややヒステリックになっている菖蒲は、バシャバシャと水をかけてくる。
 すると、水が飛び散る音に紛れ、何か空気が抜けるような音がした。

「…響さん」
「どうした!?」
「…浮き輪の空気が抜けて…役立たずになっちゃいました…」

 事態はさらに深刻になった。
 今までは、浮き輪で浮くことで手を自由に使えていた菖蒲であったが、泳ぎながらとなると手は必然的に隠す道具にはならない。

「とりあえず端の方をこっそり進むか」
「でっでも!」

 菖蒲が危惧しているであろうことは、広いビーチとはいえ陸に上がれば、不特定多数の人間とすれ違ってしまうことだろう。

「いいか菖蒲、陸に上がったら今持ってる空気が抜けた浮き輪を使うんだ」
「…大変言い難いことなのですが…」
「…とりあえず言ってみてくれ」

 何となく予想は出来るが一応聞くことにした。

「…浮き輪流されちゃいました!!」
「そんなことだろうと思ってました!」

 ついに万策尽きてしまった。
 響が持っているもので、菖蒲を隠せるものは無く、本格的に雲行きが怪しくなってきた。

「…響さん、もう一つ言ってもいいですか?」
「…次はなんだ?」


 菖蒲が言い切った辺りで、響の背を越える波が襲ってきた。
 響は慌てて水面に上がろうとするも、思うように進めない。
 息が持たず、限界を迎えそうなタイミングで何者かが響の背中を抱え、水面に顔を出させる。

「響さん大丈夫ですか!?」
「…おかげさまで」

 窮地を救われ、息が落ち着いてきた辺りで記憶に新しい感触が背中を刺激した。

「…あの菖蒲」
「どうしました?もしかして、どこかぶつけたんですか!?」
「どっちかと言うと…菖蒲がぶつかってる」

 響を海から引っ張るため、背中を包む形で支えていたため、響の背中にはずっとやわらかい感触があった。

「はっ…はわわ!」

 冷静になり、自分がしていることに気づき慌てる菖蒲だったが、近くで他の人の声が聞こえたからか、先程よりも密着度を増す。

「菖蒲!?」
「今だけです!今だけですから!!」

 声は遠くなり、またも何を逃れた。

「菖蒲、一つ作戦を思いついた」
「な、なんです?」


 隠す道具は無くとも、響を使えば隠すことは容易だった。

「何言ってるんですか!?正体を現しましたね!やっぱりロリコンなんじゃないですか!!」
「待て待て!一旦話を聞け!」

 菖蒲に作戦内容を伝え『背に腹はかえられません』と渋々納得してくれた。
 響は菖蒲に教わった泳ぎで陸へ向かって行く。
 道中ですれ違った人たちからは、初々しいカップルを見ているような生暖かい目線を向けられた。

「陸に上がるぞ」
「わ、分かりましたよ!」

 菖蒲は響の首に手を回し、強い力で掴まる。
 響は周りに悟られぬよう勢いよく陸に上がり、女子更衣室に菖蒲を下ろした。

「ちょっとここで待っててくれ」
「助かります」

 響はとりあえず、佑馬たちに菖蒲を見つけたことを説明したが、水着の件は伝えなかった。
 すると、有咲がツンツンと背中を突ついてくる。

「菖蒲ちゃんの水着、さっきテトラポットに引っかかってるの見つけたから渡してくるねー」
「あぁ、助かる…待て、なんで知って」
「ギャルの勘?それか…

 有咲は、タオルに包んだという水着を、更衣室へ持って行った。
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