前世で【俺の奴隷】といじめていた相手が王太子に転生してたとか聞いてない!

Natuめ

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一章

全て欲しい

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 しゅるり、と音を立ててネクタイを引き抜き、床へと落とす。
 ベストを脱ぎワイシャツも脱げば、ひ弱な上半身が露わになる。
 まあべつに上半身くらいならばなんてことはない。
 ただもう少し筋肉がついてくれたら大変嬉しいのだが、と薄い腹を見る。
 しかしすぐに意識を下半身へと向け、ベルトを取りズボンを下ろした。
 流石にここまでくると少しだけ恥はある。
 特にクリフの射抜くような視線が、若干の居心地の悪さを感じさせたからだ。

「…………あの」

「どうしたの? なんで脱がないの?」

 いや、言いたいことはもちろんわかる。
 しかし下着まで脱ぐとなると、少し抵抗感が出てしまう。

「……あの、見苦しくはないか? 見たくないものを見る必要はないだろ?」

 そういえば敬語を忘れていた。
 ここまできたらもういいかと、若干諦めが入る。

「君は僕の全てを見たのに?」

「……お前と俺じゃあ、違うだろう」

 クリフは痣があっても美しかった。
 小さな子どもの天使が描かれている絵画を見たことがある。
 あの子供が成長したら、こんな姿になるのだろうなと思える程には、彼の容姿は整っていた。
 だから見ることができた。
 しかし残念ながらシリルはどこにでもいるような男だ。
 裸を見たってなにも楽しいことはないだろう。
 だから止めたのだが、それにクリフは納得いっていないようだった。

「違くないよ。――いいから、脱いで」

「…………わかったよ」

 そこまで言われては仕方がない。
 もうさっさと脱いで、さっさと土下座しよう。
 恥じらいなどいらないと潔くパンツを脱いだシリルは、そのまま膝をつこうとする。

「――待って」

「え? でも……」

 しかしそれをクリフが止めたのだ。
 シリルはいつだって彼を裸にした後は土下座させていた。
 だからクリフもそれを望んでいると思ったのに。
 待ったをかけられては仕方がない。
 しばしそのまま立ち尽くした。

「………………」

「………………」

 その間も、クリフの深い緑色の瞳がシリルを射抜いてくる。
 一分、二分と無言が続くころにはさすがのシリルも恥じらいが生まれてきた。
 この時間は一体なんなのだろうか?
 クリフがなにをしたいのか全くもってわからない。
 あと気まずすぎるからなにか言ってほしいのだが、クリフから言葉が発せられることはなさそうだ。

「………………」
 
 またしても続く沈黙に、シリルは耐えられなかった。

「なあ、おい……。これは一体……」

 だからそう声をかけたその時、クリフは立ち上がるとシリルへと近づいてきた。

「な、なんだよ……っ?」

 しっかりと着込んだクリフが近づいてくると、なんだか恥じらいと共に少し恐怖も感じる。
 なので一歩下がったのだが、そんなシリルの腰をクリフが抱いた。

「ちょ――!」

 腰とはいえ素肌に触れられるのは慣れない。
 なので振り払おうとしたが、その前にバシャッ、と音を立ててシリルの頭に紅茶がかけられた。

「――へ……?」

 多分シリルが途中まで飲んでいたものだろう。
 ぬるくなっているとはいえ、まさか紅茶をかけられるとは思っていなかったのだ。
 前髪の先からポタポタと滴るそれに、シリルは間抜けな声を出してしまった。

「僕もかけられたから」

「そ――それは、そうだけど……」

 まさか今かけられるなんて思わなかった。
 本当にクリフの考えていることはわからないと、目に入った紅茶を拭おうとした時だ。
 クリフの手が、それを止めるかのようにシリルの手首を掴む。

「ちょ、目に入るから――」

 やめてくれ。
 そう言おうと開いた口は、しかし声を発することすらなかった。
 ぬるりと、ほおをなにかが這ったのだ。

「…………え? ちょっ、うわっ!?」

 それがクリフの舌だとわかった時、シリルは慌てて後ろに三歩ほど下がった。
 シリルの両手首を拘束していたクリフの手は、意外にもあっさりと離れてくれる。

「な、ななななにして……っ!?」

「なにって……もったいないと思って」

「……もったいないと思うなら人にかけるな!」

 ものすごい正論をぶつけることができた気がする。
 だってそうだろう。
 人にかけた時点でその紅茶はもう、飲まれることはないのだから。
 それなのにもったいないからとほおを舐められたのでは、シリルはどんな反応をしていいかわからなくなる。
 ひとまず手の甲で顔を拭いつつも、クリフを睨みつけた。

「お前……本当になにがしたいんだ?」

「したいこと……。そうだね」

 顎に手を当てたクリフは、考えるように視線を斜め上にあげた。
 その間にも必死に顔や髪を拭っていたシリルは、ふと自分が全裸であったことを思い出す。
 舐められたことが衝撃すぎて忘れていた。
 もういいだろうとせめてパンツを履いたところで、クリフは納得したように手を叩く。

「シリルが欲しいんだ。だってシリルは僕のこと、こう言ってただろう?」

 クリフは今一度シリルへと手を伸ばす。
 その手はあっという間に首元に絡みつくと、ほんの少しだけ力を込めた。

「【俺の】奴隷だって。――同じことがしたいんだよ、僕は」

「そ、それは……奴隷にしたいってことか……?」

 どうしても首元の手が気になってしまう。
 彼が気まぐれにその指に力を込めれば、シリルの呼吸は止まってしまうだろう。
 それなのに振り払うことも、離れることもできないのがつらい。
 ただ静かに彼の手を眺めるだけだ。
 紅茶なのか冷や汗なのかわからないものが、額から流れほおを伝う。

「奴隷? 違うよ。――欲しいんだよ。シリルの全部が」

「全部……? それは……奴隷となにが違うんだ……?」

 不思議そうに問うシリルに、クリフは目元を赤らめると優しく微笑む。
 その恍惚とした笑みは今まで何度か見てきた。
 そしてなんとなく直感で理解もしたのだ。

(あ、まずい気がする――)

 そう思った時には喉を優しく締める手は離れ、あっという間にシリルの後頭部へと触れる。
 そのまま力の限り髪を引っ張られると、顎が上に上がった。

「いっ!? ――」
 
 そしてそのまま喰らいつくさんとばかりに、シリルの唇にクリフの唇が押し当てられた――。
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