前世で【俺の奴隷】といじめていた相手が王太子に転生してたとか聞いてない!

Natuめ

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一章

罪を償うために

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「…………いま、なにして……?」

「あ、ついたみたいだよ」

 いや、そうじゃなくて。
 と言おうとした唇はぴたりと動きを止めた。
 なぜなら先ほどの柔らかな感触を思い出してしまったからだ。
 もしかしなくても今、シリルはクリフにキスされたのだろうか……?
 だとしたら前世今世合わせての、ファーストキスにならないだろうか?

(いや! いやいやいや! 違う。絶対に違う)

 そんなわけがない。
 なぜクリフがシリルにキスをするというのだ。
 彼はいじめられていたんだぞ?
 いじめ加害者にキスするなんて、絶対にあり得ない。
 きっと白昼夢のはずだ。

(確か王太子には婚約者がいたはず。……うん、気のせいだ)

「シリル。手を」

「あ……はい」

 馬車から颯爽と降りたクリフが手を差し出してくる。
 普段なら令嬢じゃないと振り払うだろうが、今のシリルは思考のほとんどが、先ほどの出来事に持っていかれていたからだ。
 なので大人しく彼の手をとると、馬車を降りた。

「……あの、俺はなぜ王宮に……?」

「話したいことたくさんあるからね。――部屋のほうが都合がいいだろう?」

 まあ確かに、今日転校してきた王太子と親しげに話していたら学園で噂になってしまう。

(……いや、もう噂になるな)

 そもそも連れ出されていたことを思い出した。
 レオンが明日にでもあれこれ聞いてくるに違いない。
 なんて言い訳しようかなと考えていると、クリフが歩き出したのでそれについていく。

「……俺、王宮はじめてきました」

「僕もはじめてきたのは半年前だよ」

 それはどういう意味だろうか?
 王太子ならば王宮で暮らすのが普通ではないのか?
 わけがわからないと思いつつもついていき、クリフの部屋へとやってきた。
 ダークグリーンのカーテンやソファ。
 真っ赤な絨毯の敷かれた部屋は、シックな装いである。
 しかしなんだか王太子が住むには簡素な気もした。
 それに掃除が行き届いていないのか、どこかホコリくさいような気もする。
 カーペットには土が残っているし、なんだか変だ。
 そんな部屋で、シリルはソファに座るよう言われた。

「でも……」

「お茶ならすぐくると思うよ。――ほら」

 クリフの視線を追えば、部屋に数人の侍女が入ってきた。
 彼女たちはテキパキとお茶とお菓子を準備すると、一言も発することなく出て行った。
 その後ろ姿に自分も一緒になって出ていきたいと思ったが、もちろんそんなことはできない。
 静かに出されたお茶をちびちびと飲んでいると、不意にクリフと目が合う。
 彼はじ……っとシリルを見つめていた。

「……本当にシリルなんだね」

「……お前も」

 まさかこんなところでこんな再会をするとは思わなかった。
 よりにもよってクリフが王太子だなんて。
 考えるだけで胃が痛いとお腹をさする。

「…………復讐、するんですか?」

 自分に、とシリルは真剣な眼差しをクリフに向ける。
 先ほどのやりとりから察するに、殺されることはないのだろう。
 だがそれ以外はわからない。
 なにをされるのか。
 どうすれば許されるのか。
 シリルにはクリフの考えがなに一つ理解できなかった。

「復讐? …………まあ、そうだね。そうなるのかな?」

 なぜそこで疑問系なのだろうか?
 本当に彼の考えていることがわからないなと、小首を傾げた。

「あの……。どうしたら……許してくれますか?」

 真剣な眼差しでそう問えば、クリフはゆっくりと目を閉じた。

「許す……許すか」

 なにを考えているのか。
 彼の薄く形のいい唇が、三日月のように弧を描く。

「許すことはないよ。……これから先もずっとね」

「――」

 彼の言葉はシリルに絶望を与えた。
 だが同時に仕方のないことだとも思えた。
 それだけ酷いことをしてしまったのだ。
 被害者が許せないと言うものに、許せ、なんて言えない。

「…………わかった」

「わかったって……。どうするつもり?」

「許してもらえるまで努力する」

 それ以外にシリルにできることはない。
 生まれ変わった時に思ったのだ。
 あの流行病で亡くなったのは、バチが当たったからだと。
 だから今世では清く正しく生きようと。
 そうだ。
 思えばこれは神様がくださった試練なのかもしれない。
 被害者であるクリフに、直接贖罪ができるのだ。
 全力でこの苦難を乗り越えてみせる。

「俺にできることは、お前に許してもらえるように頑張るだけだ」

 他者が聞いたらなんて情けない言葉だと笑うかもしれない。
 しかしこれ以外に道はないのだから仕方がない。
 一人己の考えに深く頷いたシリルに、クリフはゆっくりと目を細めた。

「頑張る……ねぇ」

 その言葉をつぶやいたクリフの雰囲気が変わる。
 まるで冷気を纏っているかのように、冷たく重い空気を醸し出したクリフ。
 彼はそっと手を差し出した。

「じゃあ、頑張ってもらおうかな」

「…………お、おう」

 なんだろうか?
 クリフから発せられる威圧感のようなものに、シリルはピクリと肩を震わせた。
 なんだか嫌な予感がする。
 だがそんなシリルとは逆に、クリフは冷笑を浮かべた。

「それじゃあまずは……。脱いでもらおうかな?」

「――え?」

「脱ぐんだよ。君もよく僕に命令してただろ? 服を全部脱げ……ってさ」

 確かにそのとおりだ。
 自分の記憶にもある。
 女の子のように可愛らしい見た目をしたクリフに、服を脱ぐよう強要した。
 真っ白な肌についた無数のあざに眉を寄せつつも、その姿のまま紅茶をかけたのだ。

「…………わかった」

 これは償いだ。
 ならやるべきことは一つだけ。
 シリルは覚悟を決めて立ち上がると、制服のネクタイに指をかけ、引き抜いた――。
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