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一章
心晴れる
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泣いて喚き散らしたシリルは、ひとまず家に帰してもらえることになった。
なんかもうわけがわからないとしくしく泣きながら家に帰ったシリルは、なぜか両親から拍手喝采で迎えられた。
「王太子殿下と友人になったとか! いやぁ、めでたい!」
「これできっと、社交界でも目をかけてもらえるわよ!」
「………………」
そんなことより泣いている息子を心配して欲しい。
とはいえ両親としては切実なのだろう。
婚約者がなかなか作れないシリルを心配してのことのはずだ。
なのではいはいと適当に返事をしつつ、シリルは己の部屋に戻った。
制服は紅茶で濡れているし、髪も変に乾いてしまってパキパキしている。
だから風呂に入りたいのだが、それよりもまずは休みたいとソファにダイブした。
「…………あいつ、なんで……」
そうすると脳内にはさまざまな情景が浮かんでくる。
そのほとんどは王宮内での出来事だ。
「――ああ、くそっ!」
その際たるものが、部屋で行われたキスだ。
乱暴に引っ張られた髪のせいで痛みを発した後頭部。
無理やり上げられた顔に、喰らいつくように触れられた唇。
クリフの舌で好き勝手弄ばれた口内。
特に上顎を舌先で転がされた時の、いいしれぬ快楽――。
「うわぁぁぁあ!」
思い出すだけで恥ずかしいと、シリルは頭を掻きむしった。
ダメだ。
やはり思い出してはいけない。
おさまったはずの下半身が熱を持ってくる。
「落ち着け俺! 相手はあのクリフだぞ!?」
あの少女のように可愛らしかったクリフ。
いじめにいじめていた時は、こんな感情抱かなかったのに。
そうだ。
少なくともシリルはクリフにキスしたいなんて、少しも思ったことはなかった。
「……あいつ、どうしてあんなことを……」
まさか本当にシリルのことを好きなのか?
と考えてすぐに首を振った。
たぶん、彼のはただの執着心なのだと思う。
自分をいじめていた相手をいじめたいという、支配欲的な物なのだ。
多分クリフはサディストなのだ。
気の強そうなやつを屈服させたいだけ。
……そう思うことにした。
「だからって俺は、キスしたいなんて思わなかったけどな」
結局そこに考えがいきついてしまう。
「……わけわからねえ。…………風呂入ろう」
結局うだうだやっていても思い出してしまうのなら、動いていたほうがまだマシだろう。
そんなわけで風呂へと向かったシリルは、紅茶まみれの制服を脱ぐとシャワーを浴びた。
本当は王宮で入っていくようクリフから言われたのだが、なるべく早くあの場から離れたかったから断ったのだ。
なので髪がガサついており、それを乱暴に流していく。
「………………王太子、ねぇ」
両親の喜びようといい、クラスの女子たちの騒ぎっぷりといい、どうやらクリフは人気者のようだ。
王室などに興味がなかったシリルはあまり知らないのだが、王宮のありようになんだか小さな違和感のようなものを感じていた。
それは使用人たちだ。
シリルの家である伯爵家ですら、使用人たちはシリルを主として扱う。
今だってシリルがシャワーを浴びている間に、着替えを用意してくれているはずだ。
確かに、紅茶やクッキーを用意してくれたのは王宮の使用人たちである。
しかし――。
「……紅茶、ぬるすぎたんだよな」
主人の好みに合わせて紅茶を入れることもあるだろう。
しかしシリルははじめてきた客人だ。
そんな相手に出すにしては、紅茶があまりにもぬるすぎた。
おかげでかけられても火傷を負うことはなかったが、いくらなんでもはじめからぬるすぎたのだ。
「――あいつ、どうなってんだ?」
考えられることは二つ。
事前にクリフがそう命令していた場合。
しかしこの仮説はほぼありえないだろう。
なぜなら彼と出会ったのはあの教室がはじめてで、そのまま二人で一緒に王宮に向かったからだ。
シリルがくることすら、使用人たちは知らなかったはず。
なのでこれはありえない。
ならもう一つの仮説が濃厚だろう。
しかし……。
「相手は王太子だぞ?」
その一つとは、クリフが使用人たちに認められていないというものだ。
だがこれもありえないはず。
なぜなら彼は王太子だからだ。
使用人たちからしてみれば、雲の上の存在なのだ。
自分たちが仕えるべき相手を、馬鹿になんてしないだろう。
けれど、気がかりな点が一つだけあるのだ。
それは王宮についた時に言っていたクリフのセリフ。
『僕もはじめてきたのは半年前だよ』
もしあの言葉に含みなど一切なく、純粋に真実を告げただけだとしたら。
「ただのお気楽王太子じゃないってことか……?」
そういえばクリフは前世でも家が大変なことになっていたなと思い出す。
確か親との仲は最悪だったはずだ。
「まさか、また……なんてことないよな?」
今世は王族なんて偉いところに生まれることができたのだから、そんな苦労はしていないと思っていたのに。
嫌な予想が頭をめぐり、シリルはすぐに頭を振ってシャワーを止めた。
「――どうせなら目も当てられないくらいしあわせになってくれよ……」
そうなってくれていたのなら、少しはシリルの心も楽になれるというのに……。
なんかもうわけがわからないとしくしく泣きながら家に帰ったシリルは、なぜか両親から拍手喝采で迎えられた。
「王太子殿下と友人になったとか! いやぁ、めでたい!」
「これできっと、社交界でも目をかけてもらえるわよ!」
「………………」
そんなことより泣いている息子を心配して欲しい。
とはいえ両親としては切実なのだろう。
婚約者がなかなか作れないシリルを心配してのことのはずだ。
なのではいはいと適当に返事をしつつ、シリルは己の部屋に戻った。
制服は紅茶で濡れているし、髪も変に乾いてしまってパキパキしている。
だから風呂に入りたいのだが、それよりもまずは休みたいとソファにダイブした。
「…………あいつ、なんで……」
そうすると脳内にはさまざまな情景が浮かんでくる。
そのほとんどは王宮内での出来事だ。
「――ああ、くそっ!」
その際たるものが、部屋で行われたキスだ。
乱暴に引っ張られた髪のせいで痛みを発した後頭部。
無理やり上げられた顔に、喰らいつくように触れられた唇。
クリフの舌で好き勝手弄ばれた口内。
特に上顎を舌先で転がされた時の、いいしれぬ快楽――。
「うわぁぁぁあ!」
思い出すだけで恥ずかしいと、シリルは頭を掻きむしった。
ダメだ。
やはり思い出してはいけない。
おさまったはずの下半身が熱を持ってくる。
「落ち着け俺! 相手はあのクリフだぞ!?」
あの少女のように可愛らしかったクリフ。
いじめにいじめていた時は、こんな感情抱かなかったのに。
そうだ。
少なくともシリルはクリフにキスしたいなんて、少しも思ったことはなかった。
「……あいつ、どうしてあんなことを……」
まさか本当にシリルのことを好きなのか?
と考えてすぐに首を振った。
たぶん、彼のはただの執着心なのだと思う。
自分をいじめていた相手をいじめたいという、支配欲的な物なのだ。
多分クリフはサディストなのだ。
気の強そうなやつを屈服させたいだけ。
……そう思うことにした。
「だからって俺は、キスしたいなんて思わなかったけどな」
結局そこに考えがいきついてしまう。
「……わけわからねえ。…………風呂入ろう」
結局うだうだやっていても思い出してしまうのなら、動いていたほうがまだマシだろう。
そんなわけで風呂へと向かったシリルは、紅茶まみれの制服を脱ぐとシャワーを浴びた。
本当は王宮で入っていくようクリフから言われたのだが、なるべく早くあの場から離れたかったから断ったのだ。
なので髪がガサついており、それを乱暴に流していく。
「………………王太子、ねぇ」
両親の喜びようといい、クラスの女子たちの騒ぎっぷりといい、どうやらクリフは人気者のようだ。
王室などに興味がなかったシリルはあまり知らないのだが、王宮のありようになんだか小さな違和感のようなものを感じていた。
それは使用人たちだ。
シリルの家である伯爵家ですら、使用人たちはシリルを主として扱う。
今だってシリルがシャワーを浴びている間に、着替えを用意してくれているはずだ。
確かに、紅茶やクッキーを用意してくれたのは王宮の使用人たちである。
しかし――。
「……紅茶、ぬるすぎたんだよな」
主人の好みに合わせて紅茶を入れることもあるだろう。
しかしシリルははじめてきた客人だ。
そんな相手に出すにしては、紅茶があまりにもぬるすぎた。
おかげでかけられても火傷を負うことはなかったが、いくらなんでもはじめからぬるすぎたのだ。
「――あいつ、どうなってんだ?」
考えられることは二つ。
事前にクリフがそう命令していた場合。
しかしこの仮説はほぼありえないだろう。
なぜなら彼と出会ったのはあの教室がはじめてで、そのまま二人で一緒に王宮に向かったからだ。
シリルがくることすら、使用人たちは知らなかったはず。
なのでこれはありえない。
ならもう一つの仮説が濃厚だろう。
しかし……。
「相手は王太子だぞ?」
その一つとは、クリフが使用人たちに認められていないというものだ。
だがこれもありえないはず。
なぜなら彼は王太子だからだ。
使用人たちからしてみれば、雲の上の存在なのだ。
自分たちが仕えるべき相手を、馬鹿になんてしないだろう。
けれど、気がかりな点が一つだけあるのだ。
それは王宮についた時に言っていたクリフのセリフ。
『僕もはじめてきたのは半年前だよ』
もしあの言葉に含みなど一切なく、純粋に真実を告げただけだとしたら。
「ただのお気楽王太子じゃないってことか……?」
そういえばクリフは前世でも家が大変なことになっていたなと思い出す。
確か親との仲は最悪だったはずだ。
「まさか、また……なんてことないよな?」
今世は王族なんて偉いところに生まれることができたのだから、そんな苦労はしていないと思っていたのに。
嫌な予想が頭をめぐり、シリルはすぐに頭を振ってシャワーを止めた。
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そうなってくれていたのなら、少しはシリルの心も楽になれるというのに……。
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