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一章
酸欠
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オーレリアを部屋から出したシリルは、やっと終わったと大きめなため息をついた。
楽しいは楽しかったけれど、やはり心臓に悪いところもある。
とくにこの状態のシリルをクリフに見せるのは、やはり抵抗があった。
過去のトラウマとか、思い出して欲しくない。
なのでもうやりたくないなとクリフを見れば、なぜか彼は恍惚とした笑みを浮かべていた。
「――お前……」
「あ、ごめん。だって嬉しくて」
「なにが……?」
まあ一応クリフを助けた、ということになるのだろうか?
シリルとしてはただ自分が不愉快だからそうしただけなのだが、恩を感じてくれるというのなら悪い気はしない。
そう思うと自分はいいことをしたなと、シリルは鼻をふふんっと鳴らした。
「感謝しろよ? これも俺が素晴らしい伯爵令息だからできた――」
「シリルって昔からそうだよね?」
「あ?」
話を遮ってまでなにを言っているのだろうか?
昔の話なんてしていないのに。
しかしクリフは頰を赤らめ、キラキラとした瞳を向けてくる。
「昔もさ、シリルの取り巻きたちが僕をいじめようとしただろう? シリルのマネをしてさ」
そういえばそんなこともあったなと、過去の記憶を探る。
友人たちがシリルのマネをしてクリフをいじめていたのだ。
友人たちがクリフを殴ったり蹴ったりしていたことを思い出す。
「その時さ……シリルが言ったんだよ……」
「…………お、おい」
なんだか、熱い吐息がクリフからこぼれた気がする。
そのやけに高揚した頰といい、薄い涙を浮かべる瞳といい、嫌な予感がシリルの脳を駆け巡った。
「僕をいじめていいのはシリルだけだって。……僕本当に嬉しかったんだぁ」
いや、意味がわからない。
確かにそんなことを言ったことは覚えている。
シリルのポリシーとして、肉体に怪我を負わせるいじめはしないようにしていた。
それはバレたら面倒だから、跡を残したくなかったのだ。
しかし友人たちはそうとは知らず、クリフに暴行を働いた。
だから慌てて止めたのだが、なぜそれを喜ぶのだろうか?
クリフは頰に手を当てると、甘いため息をこぼす。
「僕はほら、昔も親からいらないって言われてたからさ。だからシリルが【俺の】って言ってくれる度、すごく嬉しかったんだよね」
「お、おおぅ……」
反応に困る話をされた。
どう返したらいいのか困っている間にも、クリフはシリルの元へとやってくる。
「誰からも必要とされていない僕を、シリルだけは【俺の】奴隷だって言ってくれた。それが……本当に嬉しかったんだよ」
クリフはソファに座るシリルの前までやってくると、ゆっくりと腰を下ろした。
膝の上にあったシリルの手を掴むと、自らの頬に押し当てた。
「君のそばにだけは、僕はいていいんだ。……だからシリルは僕にとって、特別なんだよ」
「そ……そうか」
クリフの頰の熱が、シリルの手のひらに伝わってくる。
それにしてもとてつもなく歪んだ感情すぎて、シリルはなんと言ったらいいのかわからなかった。
まあ本人がしあわせそうなのでいいかと、無理やり納得することにした。
そしてさっさとクリフの頰から手を引き剥がす。
「とにかくお前も王族として生まれたのなら、舐められるようなことはよせ。……この国の王太子なんだろ?」
「正直興味なかったんだよね。王太子になったのも半年前だし」
クリフはシリルの膝に頭を乗せると、そのままゆっくりと目を閉じる。
その姿が母親に甘える子どものように見えて、シリルははたき落とすのを躊躇ってしまった。
「この後もどうなるかなんてわからないだろう? ……だから、他人に興味が持てなかったんだ」
なんて悲しい話をするのだ。
シリルはふぅ、と息を吐くとクリフの頭を優しく撫でた。
本当に、どうしてしあわせになってくれないのだろうか?
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていく。
「ふふ。……でもね、シリルがそう言うのなら、僕は従うよ。舐められないようにする」
「俺の言葉じゃなくて、自分の意思でやれよ」
そういうのを見透かしてくるやつもいるだろう。
だからクリフのためにも己の意思でやるべきだ。
そう伝えれば、彼は嬉しそうにくすくすと笑う。
「うん、わかった。……ありがとう、シリル」
「…………まあ、いいけどな」
手のかかる子ども……いや、弟のようだなとクリフを見る。
頭を撫でられて嬉しそうにしている姿に、そんなふうに思ってしまったのだろう。
彼の幼少期を考えれば、こうしてもらえなかったのかもしれない。
とはいえこの状態を長く続けるつもりもないため、シリルは最後と頭を撫でて手を離した。
しかし、クリフの頭から離した手は、すぐにクリフによって掴まれてしまった。
それも両手を、だ。
「――おい」
「本当に、シリルはいつも僕の喜ぶことをしてくれるよね」
「ちょ、とにかく離せって……」
「だから今回も、僕の喜ぶことをして」
「は? おい――」
また意味のわからないことを。
そんなつもりで眉間に皺を寄せたシリルだったが、突然膝立ちになったクリフの顔が目の前にきて大きく目を見開いた。
「――っ、」
まただ。
またしても唇に柔らかな感触が押しつけられる。
さすがにもう何度目になるので、これがなにかはわかった。
キスされている。
そう思って慌てて離れようとしたが、両手を掴まれているため離れることができない。
「ちょ!? お前なにし――」
一瞬離れたと思ったらまたすぐに唇が重ねられた。
それを何度も続けられれば、さすがにシリルの息が続かなくなる。
「ちょ、まっ……息……っ!」
「鼻でするんだよ」
わかってても慣れてないと無理なのだ。
クリフのほうは余裕そうで死ぬほど腹が立つし、なんでこんな目に遭うのだと涙を浮かべた。
(こいつ――あとでぶん殴ってやるっ!)
なんて決意を固めていたけれど、結局シリルが酸欠で倒れそうになるまでキスが終わることはなかった。
楽しいは楽しかったけれど、やはり心臓に悪いところもある。
とくにこの状態のシリルをクリフに見せるのは、やはり抵抗があった。
過去のトラウマとか、思い出して欲しくない。
なのでもうやりたくないなとクリフを見れば、なぜか彼は恍惚とした笑みを浮かべていた。
「――お前……」
「あ、ごめん。だって嬉しくて」
「なにが……?」
まあ一応クリフを助けた、ということになるのだろうか?
シリルとしてはただ自分が不愉快だからそうしただけなのだが、恩を感じてくれるというのなら悪い気はしない。
そう思うと自分はいいことをしたなと、シリルは鼻をふふんっと鳴らした。
「感謝しろよ? これも俺が素晴らしい伯爵令息だからできた――」
「シリルって昔からそうだよね?」
「あ?」
話を遮ってまでなにを言っているのだろうか?
昔の話なんてしていないのに。
しかしクリフは頰を赤らめ、キラキラとした瞳を向けてくる。
「昔もさ、シリルの取り巻きたちが僕をいじめようとしただろう? シリルのマネをしてさ」
そういえばそんなこともあったなと、過去の記憶を探る。
友人たちがシリルのマネをしてクリフをいじめていたのだ。
友人たちがクリフを殴ったり蹴ったりしていたことを思い出す。
「その時さ……シリルが言ったんだよ……」
「…………お、おい」
なんだか、熱い吐息がクリフからこぼれた気がする。
そのやけに高揚した頰といい、薄い涙を浮かべる瞳といい、嫌な予感がシリルの脳を駆け巡った。
「僕をいじめていいのはシリルだけだって。……僕本当に嬉しかったんだぁ」
いや、意味がわからない。
確かにそんなことを言ったことは覚えている。
シリルのポリシーとして、肉体に怪我を負わせるいじめはしないようにしていた。
それはバレたら面倒だから、跡を残したくなかったのだ。
しかし友人たちはそうとは知らず、クリフに暴行を働いた。
だから慌てて止めたのだが、なぜそれを喜ぶのだろうか?
クリフは頰に手を当てると、甘いため息をこぼす。
「僕はほら、昔も親からいらないって言われてたからさ。だからシリルが【俺の】って言ってくれる度、すごく嬉しかったんだよね」
「お、おおぅ……」
反応に困る話をされた。
どう返したらいいのか困っている間にも、クリフはシリルの元へとやってくる。
「誰からも必要とされていない僕を、シリルだけは【俺の】奴隷だって言ってくれた。それが……本当に嬉しかったんだよ」
クリフはソファに座るシリルの前までやってくると、ゆっくりと腰を下ろした。
膝の上にあったシリルの手を掴むと、自らの頬に押し当てた。
「君のそばにだけは、僕はいていいんだ。……だからシリルは僕にとって、特別なんだよ」
「そ……そうか」
クリフの頰の熱が、シリルの手のひらに伝わってくる。
それにしてもとてつもなく歪んだ感情すぎて、シリルはなんと言ったらいいのかわからなかった。
まあ本人がしあわせそうなのでいいかと、無理やり納得することにした。
そしてさっさとクリフの頰から手を引き剥がす。
「とにかくお前も王族として生まれたのなら、舐められるようなことはよせ。……この国の王太子なんだろ?」
「正直興味なかったんだよね。王太子になったのも半年前だし」
クリフはシリルの膝に頭を乗せると、そのままゆっくりと目を閉じる。
その姿が母親に甘える子どものように見えて、シリルははたき落とすのを躊躇ってしまった。
「この後もどうなるかなんてわからないだろう? ……だから、他人に興味が持てなかったんだ」
なんて悲しい話をするのだ。
シリルはふぅ、と息を吐くとクリフの頭を優しく撫でた。
本当に、どうしてしあわせになってくれないのだろうか?
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていく。
「ふふ。……でもね、シリルがそう言うのなら、僕は従うよ。舐められないようにする」
「俺の言葉じゃなくて、自分の意思でやれよ」
そういうのを見透かしてくるやつもいるだろう。
だからクリフのためにも己の意思でやるべきだ。
そう伝えれば、彼は嬉しそうにくすくすと笑う。
「うん、わかった。……ありがとう、シリル」
「…………まあ、いいけどな」
手のかかる子ども……いや、弟のようだなとクリフを見る。
頭を撫でられて嬉しそうにしている姿に、そんなふうに思ってしまったのだろう。
彼の幼少期を考えれば、こうしてもらえなかったのかもしれない。
とはいえこの状態を長く続けるつもりもないため、シリルは最後と頭を撫でて手を離した。
しかし、クリフの頭から離した手は、すぐにクリフによって掴まれてしまった。
それも両手を、だ。
「――おい」
「本当に、シリルはいつも僕の喜ぶことをしてくれるよね」
「ちょ、とにかく離せって……」
「だから今回も、僕の喜ぶことをして」
「は? おい――」
また意味のわからないことを。
そんなつもりで眉間に皺を寄せたシリルだったが、突然膝立ちになったクリフの顔が目の前にきて大きく目を見開いた。
「――っ、」
まただ。
またしても唇に柔らかな感触が押しつけられる。
さすがにもう何度目になるので、これがなにかはわかった。
キスされている。
そう思って慌てて離れようとしたが、両手を掴まれているため離れることができない。
「ちょ!? お前なにし――」
一瞬離れたと思ったらまたすぐに唇が重ねられた。
それを何度も続けられれば、さすがにシリルの息が続かなくなる。
「ちょ、まっ……息……っ!」
「鼻でするんだよ」
わかってても慣れてないと無理なのだ。
クリフのほうは余裕そうで死ぬほど腹が立つし、なんでこんな目に遭うのだと涙を浮かべた。
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