前世で【俺の奴隷】といじめていた相手が王太子に転生してたとか聞いてない!

Natuめ

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一章

落ちて落ちて落ちていく

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 酸欠で死にかけたシリルは、いろいろ落ち着くまでクリフの部屋で休ませてもらうことにした。
 本当は今すぐ帰りたいが、さすがにこんなひどい有様では家に帰ることすらできない。

「泊まっていけばいいのに」

「絶対イヤだ」

 なんかよくわからないが身の危険を感じるからイヤだと断れば、クリフは残念そうにしている。
 そんなクリフに冷めた目を向けつつ、シリルは口元を拭った。

「――お前、なにがしたいんだ?」

「なにって? キスしたいだけだよ?」

「それはわかってんだよ!」

 そうじゃなきゃあんな長時間人の口を塞がないだろう。
 聞きたいところはそこじゃない。
 シリルは腕を組むと、クリフを強く睨みつけた。

「お前、男が好きなのか?」

「………………男? ……考えたこともなかった」

 ポカンとするクリフに、シリルもまた間抜けな顔で口を開いてしまった。
 しかしすぐに表情を戻すと、痛み出したこめかみを押さえる。

「お前……ならなんで俺にキスした?」

「したかったから?」

「だから、それはなんでだ? 自分の中で答えはないのか?」

 クリフは顎に手を当てて考える。
 シリルだってたまにやる仕草なのに、見た目のいい男がやるとずっと様になるのだ。
 まるで彫刻のような美しい顔の男には、婚約者がいるはずである。
 だからハッキリさせないといけないのだ。

「…………僕がシリルを好きだから、かな?」

「疑問系かよ……。まあ、いい」

 クリフの中で一旦でも答えが出たのなら、ひとまずはそれでいい。
 シリルがやるべきことは決まった。

「クリフ。お前のそれは気のせいだ」

「…………気のせい?」

「そうだ。――いや、気のせいじゃなかったとしても、気のせいにしなきゃいけない」

「…………意味がわからない」

 まあそういう反応になるだろうなと、シリルはテーブルを叩いた。

「よく聞けよ。お前は王太子として後継を作らないといけない。だから婚約者がいるんだ。それはわかるよな?」

「…………婚約者、ねぇ」

 クリフは心底どうでもよさそうに、そっぽをむいた。

「婚約者なんてどうでもいいよ。……向こうもそう思ってるはずだし」

「んなわけあるか!」

 クリフと結婚すれば王太子妃、果ては王妃になれるのだ。
 この国のトップの女性になれるのだから、どうでもいいわけない。
 だというのにクリフは本気でそう思っているらしく、肩をすくめた。

「あるんだよ。僕の婚約者って、元は弟の婚約者だったんだ」

「…………なんだその修羅場」

 言いたいことはわかる。
 クリフの元婚約者は、元は彼の弟の婚約者であった。
 しかし弟からクリフに王位継承権が移り、婚約者もまたクリフへと移ったのだ。
 ならなおさら婚約者としてはどうでもいいわけがない。
 そこまでしても、王太子妃を望んでいるという証拠じゃないか。

「ならなおさら、その婚約者とそういうことをすべきだろう」

 シリルなどにかまっている暇はないはずだ。
 しかしクリフは納得いっていないのか、大きめなため息をついた。

「でも向こうが僕を嫌っていたら?」

「…………あ?」

「嫌ってるんだよ。弟と仲がよかったらしくてね。……親のせいなのか、僕の婚約者にさせられたんだよ」

 させられた、ということは本人の意思ではないということだ。
 まあ貴族ならよくある話である。
 結婚とは家と家の結びつきが強い。
 ゆえに本人の意思とは関係なく、話を進められることがままある。
 クリフの婚約者は愛する男と引き剥がされ、その後釜に座った男と婚約させられた。
 という話なら、クリフの言いたいことも納得できる。
 しかし――。

「だからなんだ? 政略結婚ってのは本人の意思は関係ない。……お前も相手も王族や貴族なら、覚悟を持っておくべきだろう」

 そんな話は腐るほど聞いている。
 シリルだって最終的には相手との相性や感情なんてものをまるっと無視して、結婚相手が決まるはずだ。
 とはいえ両親はどこかシリルに甘い。
 ゆえに本人の意思を尊重しようとしてくれているから、今は婚約者がいないだけだ。
 このままいけば否応なしにでも相手は決まるだろう。
 それも覚悟はしている。
 上の人間というのは、そういうものだ。

「……ドライなんだね」

「意外だったか? 俺は前世も今世も貴族だからな」

「僕も一応そうだけど……。そうだね。シリルとは違うね」

 なぜそこで悲しそうな顔をするんだ。
 貴族なら普通の感覚だと思うが、まあ前世のクリフの生い立ち的に理解できなくても仕方がない。
 だが今世の彼は王族。
 それも王太子だ。
 なら感情は抜きにして考えなくてはならない。

「俺に構うのはやめろ。婚約者を大切にしてやれ」

 謝罪はしたい。
 けれどクリフのシリルへの行動は異常だ。
 だからこそ忠告したのだが、クリフは納得してくれない。

「無理だよ。僕からシリルを離すなんてできないよ」

「つい二、三日前は他人だったろ。それに戻るだけだ」

「知ってしまったのに戻るなんてできないよ」

 クリフはふらりとシリルに近づくと、三度目となる首に手をかけてきた。
 しかし二度のその行為とは違い、明らかに殺意を持って首に力を込めている。

「離れてしまうのなら君を殺そう。そして僕も死ぬよ。……大丈夫。三度目もまた出会えるから」

「…………」

 シリルは静かにクリフを見つめる。
 どうしてこの男がシリルに執着するのか理由は定かではないが、少なくとも今言ったことは嘘ではないことはわかった。
 シリルを殺して自分も死ぬくらい、この男なら簡単にやってのけるはず。
 ということはだ。
 シリルの前世の罪を償うことができたとて、結局は彼から離れられないということではないか?

「――あほ。手を離せ」

「離れないって言って。そばにいるって言葉にして」

 流石にイラッとしたシリルは、クリフの腕をはたき落とした。
 そして目を細めると、偉そうに足を組んだ。

「お前が懇願しろ。俺に命令するな」

 ああ、悪い癖が出てしまった。
 王太子にこんな態度をとっては、普通なら殺されるだろう。
 しかしどうしても、シリルは苛立ちを覚えてしまったのだ。
 自分の望むどおりにできないこの状態が。
 どうせ離れることが不可能だというのなら、自分のやりやすいようにやっていくより他にない。
 なのでそう命令すれば、クリフは驚いように目を見開いたあと、嬉しそうに微笑む。

「お願い。そばにいてください。離れないでください。……僕には君だけだ――」

 ああ、本当に最悪だ。
 気分は底なし沼に足を突っ込んだ気分だ。

「シリル。……僕のシリル」

 最悪だけれど……。

 ――悪くはない。
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