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一章
突然の出会い
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「王太子殿下。……国王陛下がお呼びです」
さて、ではそろそろお暇しようと立ち上がったシリルだったが、部屋にやってきたオーレリアの言葉に動きを止めた。
「国王陛下が……? ……でも」
「アホ。国王陛下から呼ばれていかないやつがいるか。俺はもう帰るからな」
「見送りくらい」
「いらねえ」
ただ馬車に乗るだけなら一人でもできる。
まあ王宮は広いため、迷子になる可能性はあるのだが。
とはいえクリフを行かせないなんてことはできない。
クリフの話が正しければ、彼の立場はまだまだ危うい。
そんな中で国王の命令に背くなんて、やるべきではないことくらいはわかる。
「じゃあな。お前は早く国王陛下の元に行け」
「……また明日、きてくれる?」
そんな捨てられそうな犬のような顔をしないで欲しい。
シリルの中にある罪悪感が顔を出してしまうではないか。
はあ、と大きめなため息をついて、シリルは軽く頷いた。
「はいはい、予定があえばな。だからさっさと行け」
「……わかった。じゃあ……また明日ね」
悲しそうな顔に若干後ろ髪を引かれつつも、シリルは部屋を後にした。
とにかく今日も無事?
に終われて本当によかった。
本当は明日来たくはない。
けれどそんなことを言ったらまた首の一つでも締められそうだったので、口にはしなかった。
兎にも角にも今日が無事でじゅうぶんじゃないか。
そんなことを胸に刻みつつ王宮を歩いていたシリルは、なにやら廊下でうずくまっている人を見つけた。
「おい、大丈夫か?」
「カヒュ――っ、だ、だれか――っ!」
おかしな呼吸音には聞き覚えがある。
シリルも過去、流行病で一時期なったことがあった。
確か、過呼吸というやつではないだろうか?
ならば対処法は知っていると、ポケットからハンカチを取り出しうずくまる少年の口元に押し付けた。
「落ち着け! しんどいだろうがゆっくり息を吸え! 俺の声に合わせろ! 吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
吸い込む息の勢いを抑えることが有効だということは、過去の自分の体験から知っていた。
だから口と鼻を塞ぎつつそう声をかけたのだ。
少年はおとなしく従い、シリルの声のとおりに吸って吐いてを繰り返す。
しばらく経ってからハンカチを口元から離せば、少年の呼吸は落ち着いていた。
「大丈夫か?」
ひとまず危機は去ったようだ。
なのでそう問えば、少年は涙をボロボロと流しながらもシリルへと振り返る。
「オマエ……目つき悪いな。――っいてぇ!」
言うに事欠いてそれかと、気づいた時には少年の頭を拳で叩いていた。
ぶん殴られた少年は痛みを発するであろう場所を押さえると、さらに涙を溜めながら睨みつけてくる。
「オマエ! オレが誰だかわかってるのか!?」
「ああん? 知るかボケ。言っとくがな、お前がどれほどの名家の令息であろうとも、偉いのはお前じゃなくてお前の父親、もしくは家名だからな。お前はただの俺に命を救ってもらったガキだ」
王宮にいる時点で名家の令息なのはわかる。
なので今の状況はとてもまずいことも理解はしていた。
しかし腹が立ったのだ。
命の恩人たるシリルに礼もなく、むしろコンプレックスを刺してくるなんてあまりにもひどいことである。
なのでこの際あとのことは考えずそう口にすれば、少年はピタリと動きを止めた。
「…………――そうだな。オマエの言うとおりだ」
「素直だな。ならほら、お礼は?」
「オマエ……っ! …………ありがとう」
こうなったら、命の恩人という立場を確立したほうがいい。
なので礼を言うよう強要すれば、少年はしぶしぶ口にした。
本当に不服そうな顔に、シリルはにっこりと微笑む。
「よしよし。いい子だなー」
ついでに頭を撫でてあげれば、少年はピタリと動きを止める。
驚いたかのように大きく目を見開いており、シリルもまた手を止めた。
「頭撫でられるの嫌いか?」
「…………いや。……はじめてだったから」
「――んじゃあ、いいな」
この少年もクリフと同じかと、頭を撫でてあげる。
親から愛されていないのか、はたまたもっと複雑な事情があるのか。
まあ関係はないので詳しくは聞かない。
ただよしよしと、子ども扱いをすれば少年は黙り込む。
怒ったりもしないし振り払うこともしない。
おとなしく撫でられるだけの少年を、シリルはじっと見つめた。
(――どっかで見たことある気がするんだが……)
まあ王宮にある時点でどこかの貴族だろう。
なら社交界であったことがあってもおかしくはない。
とはいえこの少年も綺麗な顔をしている。
年齢もそう変わらない気がする。
身長もたぶんシリルより少し高い。
けれど子どものように見えるのは、シリルの周りが無駄にデカい人が多いせいだ。
クリフといいレオンといい、意味もなくデカすぎる。
それと少年の表情が子供っぽすぎるのも原因だろう。
今もむっつりと唇をへの字に曲げつつも、ちらちらとシリルを見てくる。
「もう大丈夫そうだな。親はどこに――」
「アレン王子! こちらにいらっしゃったのですね……!」
え。
シリルは呆然と少年を見る。
今、走ってやってきた使用人は、少年をなんと呼んだ?
――アレン王子。
それはもしかしなくても、クリフの腹違いの弟。
王妃の息子。
体が弱く、王位をクリフに奪われた不遇の王子。
その人の名前じゃないか?
アレンと呼ばれた少年は、走り寄ってきた使用人に向かって立ち上がると、一瞬で腰から剣を引き抜く。
「おい、オマエ。ここに座れ。――その首、この場で切り落としてやる」
さて、ではそろそろお暇しようと立ち上がったシリルだったが、部屋にやってきたオーレリアの言葉に動きを止めた。
「国王陛下が……? ……でも」
「アホ。国王陛下から呼ばれていかないやつがいるか。俺はもう帰るからな」
「見送りくらい」
「いらねえ」
ただ馬車に乗るだけなら一人でもできる。
まあ王宮は広いため、迷子になる可能性はあるのだが。
とはいえクリフを行かせないなんてことはできない。
クリフの話が正しければ、彼の立場はまだまだ危うい。
そんな中で国王の命令に背くなんて、やるべきではないことくらいはわかる。
「じゃあな。お前は早く国王陛下の元に行け」
「……また明日、きてくれる?」
そんな捨てられそうな犬のような顔をしないで欲しい。
シリルの中にある罪悪感が顔を出してしまうではないか。
はあ、と大きめなため息をついて、シリルは軽く頷いた。
「はいはい、予定があえばな。だからさっさと行け」
「……わかった。じゃあ……また明日ね」
悲しそうな顔に若干後ろ髪を引かれつつも、シリルは部屋を後にした。
とにかく今日も無事?
に終われて本当によかった。
本当は明日来たくはない。
けれどそんなことを言ったらまた首の一つでも締められそうだったので、口にはしなかった。
兎にも角にも今日が無事でじゅうぶんじゃないか。
そんなことを胸に刻みつつ王宮を歩いていたシリルは、なにやら廊下でうずくまっている人を見つけた。
「おい、大丈夫か?」
「カヒュ――っ、だ、だれか――っ!」
おかしな呼吸音には聞き覚えがある。
シリルも過去、流行病で一時期なったことがあった。
確か、過呼吸というやつではないだろうか?
ならば対処法は知っていると、ポケットからハンカチを取り出しうずくまる少年の口元に押し付けた。
「落ち着け! しんどいだろうがゆっくり息を吸え! 俺の声に合わせろ! 吸って……吐いて……吸って……吐いて……」
吸い込む息の勢いを抑えることが有効だということは、過去の自分の体験から知っていた。
だから口と鼻を塞ぎつつそう声をかけたのだ。
少年はおとなしく従い、シリルの声のとおりに吸って吐いてを繰り返す。
しばらく経ってからハンカチを口元から離せば、少年の呼吸は落ち着いていた。
「大丈夫か?」
ひとまず危機は去ったようだ。
なのでそう問えば、少年は涙をボロボロと流しながらもシリルへと振り返る。
「オマエ……目つき悪いな。――っいてぇ!」
言うに事欠いてそれかと、気づいた時には少年の頭を拳で叩いていた。
ぶん殴られた少年は痛みを発するであろう場所を押さえると、さらに涙を溜めながら睨みつけてくる。
「オマエ! オレが誰だかわかってるのか!?」
「ああん? 知るかボケ。言っとくがな、お前がどれほどの名家の令息であろうとも、偉いのはお前じゃなくてお前の父親、もしくは家名だからな。お前はただの俺に命を救ってもらったガキだ」
王宮にいる時点で名家の令息なのはわかる。
なので今の状況はとてもまずいことも理解はしていた。
しかし腹が立ったのだ。
命の恩人たるシリルに礼もなく、むしろコンプレックスを刺してくるなんてあまりにもひどいことである。
なのでこの際あとのことは考えずそう口にすれば、少年はピタリと動きを止めた。
「…………――そうだな。オマエの言うとおりだ」
「素直だな。ならほら、お礼は?」
「オマエ……っ! …………ありがとう」
こうなったら、命の恩人という立場を確立したほうがいい。
なので礼を言うよう強要すれば、少年はしぶしぶ口にした。
本当に不服そうな顔に、シリルはにっこりと微笑む。
「よしよし。いい子だなー」
ついでに頭を撫でてあげれば、少年はピタリと動きを止める。
驚いたかのように大きく目を見開いており、シリルもまた手を止めた。
「頭撫でられるの嫌いか?」
「…………いや。……はじめてだったから」
「――んじゃあ、いいな」
この少年もクリフと同じかと、頭を撫でてあげる。
親から愛されていないのか、はたまたもっと複雑な事情があるのか。
まあ関係はないので詳しくは聞かない。
ただよしよしと、子ども扱いをすれば少年は黙り込む。
怒ったりもしないし振り払うこともしない。
おとなしく撫でられるだけの少年を、シリルはじっと見つめた。
(――どっかで見たことある気がするんだが……)
まあ王宮にある時点でどこかの貴族だろう。
なら社交界であったことがあってもおかしくはない。
とはいえこの少年も綺麗な顔をしている。
年齢もそう変わらない気がする。
身長もたぶんシリルより少し高い。
けれど子どものように見えるのは、シリルの周りが無駄にデカい人が多いせいだ。
クリフといいレオンといい、意味もなくデカすぎる。
それと少年の表情が子供っぽすぎるのも原因だろう。
今もむっつりと唇をへの字に曲げつつも、ちらちらとシリルを見てくる。
「もう大丈夫そうだな。親はどこに――」
「アレン王子! こちらにいらっしゃったのですね……!」
え。
シリルは呆然と少年を見る。
今、走ってやってきた使用人は、少年をなんと呼んだ?
――アレン王子。
それはもしかしなくても、クリフの腹違いの弟。
王妃の息子。
体が弱く、王位をクリフに奪われた不遇の王子。
その人の名前じゃないか?
アレンと呼ばれた少年は、走り寄ってきた使用人に向かって立ち上がると、一瞬で腰から剣を引き抜く。
「おい、オマエ。ここに座れ。――その首、この場で切り落としてやる」
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