前世で【俺の奴隷】といじめていた相手が王太子に転生してたとか聞いてない!

Natuめ

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一章

君の名は

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「お、王子……」

「オマエの仕事はなんだ? オレの世話をすることだろう? それなのにこの様はなんだ。オレがどうなっていたと?」

「わ、わたし……っ」

「そこで座って首を出せ。今すぐに切り落としてやる」

 ちょっと待ってほしい。
 なぜ急にそんなことになるのだ。
 目の前にいる使用人の女性は、恐怖に涙を浮かべカタカタと震えている。

「ほら、早くしろ」
 
 なにが起きているのかわからないのだが、まずいことだけはわかる。
 目の前で処刑なんてやられて気分がいいわけがない。
 シリルは慌ててアレンの腕を掴んだ。

「ちょっと待て! なんだ急に……」

「こいつはオレの使用人だ。王宮で仕事を失敗したなら、命をとられてもおかしくないだろう?」

 まあそういう話はよく聞くけれど、だからってここでそんなことをしてほしくはない。
 頼むからシリルの関係ないところでやってくれと、アレンを必死に止めようとする。
 とはいえこのままでは強行突破しそうな勢いだ。
 どうする?
 どうしたらいい?
 思考を巡らせたシリルは、ハッとしたようにアレンの額に触れた。

「――な、なんだ!?」

「ほら! お前やっぱり熱あるじゃねえか! さっさと寝ろ!」

「……でも」

「でもじゃねえ! 病気なめんな!」

 流行病で死んだ経験のあるシリルの言葉は重いはずだ。
 むぐり、と黙り込んだアレンを連れて、その使用人に声をかける。

「こいつの部屋どこだ?」

「あ、あっ、こ、こちらです!」

「ちょっと待て、おい!」

 アレンから声がかけられたが無視した。
 今ここで彼を野放しにしたら、血の海を見ることになる。
 そんなのは嫌だと使用人に案内された部屋へと入った。
 そこはクリフのものとは違い、きちんと管理された美しい部屋だった。
 高価な花瓶にはみずみずしい花が飾られ、足元には汚れひとつない真っ赤なカーペットが敷かれている。
 壁には幼少期のアレンらしき人が描かれた、大きな肖像画が飾られている。
 それらを一瞬だけ見たあと、シリルは彼をベッドへと放り投げた。

「――オマエ!」

「ほら寝ろ、今すぐに。あ、冷たい水とタオル持ってきてくれ」

「か、かしこまりました!」

 使用人を扱き使いつつも、シリルはアレンをまるで子どものようにベッドに寝かしつける。
 それにはさすがのアレンも不服そうで、唇を尖らせた。

「オマエ……オレが誰だかわかったんだろ?」

「俺に命を救われた王子だな」

 そこだけは譲らない。
 そう伝えれば、アレンは呆れたと鼻を鳴らした。

「……変なやつだな」

「はいはい。変なやつでいいから寝ろ。熱出てる時は寝るにかぎる」

 たくさん寝て、たくさん食べるに限る。
 アレンの胸あたりをポンポンと叩きながら寝るよう伝えるが、彼は落ちそうになるまぶたを無理やりあげた。

「オレのことガキだと思ってないか……?」

「同い年くらいか?」

「多分そうだろ。……だからガキ扱いするな」

 本当はアレンのほうが一歳だけだが歳下だ。
 とはいえシリルには前世の記憶がある。
 なので精神年齢だけなら倍はあるのだ。
 子ども扱いもしかたないだろう。

「いいから寝ろってば。目を閉じて。ほら早く!」

「…………起きるまでいろよ? 勝手にいなくなるなよ?」

「…………」

 そんなこと言われるなんて思わなくて、思わず口を閉ざしてしまった。
 するとアレンは意地でもまぶたを開けようとするため、慌てて手で彼の目元を覆う。

「いるから寝ろ! 全く……ガキ扱いされても文句言えないだろ」

「…………うるさい。オマエ……なまえなんていうんだ……?」

 眠いくせに。
 舌がうまく回らなくなっているのが、滑舌の悪さからわかる。
 さっさと寝ればいいのに、わざわざシリルの名前を聞いてきたのだ。

「……起きたら教えてやるよ」

「ぜったい……だぞ? おきて……いなかったら……ゆるさ、な…………」

 しばらくすると、すうすうと寝息が耳に届く。
 そのタイミングで使用人が水の入った器を持ってきたため、タオルを水につけてアレンの額に置いた。

(……さて、帰るか)

 もちろん起きるまでいるなんてことはしない。
 そんな面倒ごと嫌だし、なによりアレンとこれ以上親しくなるつもりはないのだ。
 なぜなら自分は一応、クリフの友人的立場。
 アレンからしてみれば、敵対勢力と言っていいだろう。
 なのでさっさと帰ろうと立ち上がった。

「あ、あの。お待ちになるのでは……?」

「え? なんで? 絶対嫌だ。もう帰る」

 話を聞いていたのか、使用人がおずおずと聞いてきた。
 それにキッパリと断ると、シリルは言葉どおりアレンの部屋を後にする。

「あ、あの! ではお名前だけでも……!」

「嫌だね。あんたあいつに伝える気だろ? 俺はもうこの一瞬で関係を終わらせたいんだよ」

 というか関わる気もなかったのに。
 しばらくは王宮にくることも控えたほうがいいだろうか?
 明日可能ならくるとクリフと約束したのだが……。
 だがアレンのあの頑固さは、意地でもシリルを探しそうだ。

「……めんどくせ」

 クリフといいアレンといい。
 腹違いの兄弟らしいが、そういうところは似ているのかもそれない。

「……国王がそうってことか?」

 想像してみたらなんか気持ちが悪かったので、すぐに考えるのはやめた。

「んじゃ、あとの看病は任せたぞー」

「お待ちください! あの、本当に! せめてお名前だけでも!」

 引き止めようとする使用人を無視して、シリルは帰路へとついた。
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