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一章
俺だけの特権
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意地の悪い笑みを浮かべている自覚はある。
なんだかとても懐かしい表情をしているはずだ。
それに少しワクワクもしている。
どうやらシリルは生粋のいじめっ子らしい。
だからこそ今世では自重しなければ。
この顔を浮かべるのはこれっきりにしよう。
「この紅茶、お飲みになったことは?」
「…………なんですか、急に」
「ありませんよね? こんなクソまずい紅茶」
ティーカップを持ってオーレリアに向けて掲げれば、途端に顔が歪んだ。
その顔を穏やかな心で見ていると、クリフが小首を傾げた。
「クソまずいの? ……この紅茶変なの?」
「ものすごくな。味も変だからなにか混ざってる可能性あるし、なによりぬるすぎる」
シリルは紅茶のカップを置くと、今度は横の床を指差した。
「それにそこ。お前が昨日紅茶をこぼしたところ。そのままになってる。――普通はあり得ないんだよ」
「……どういう意味?」
どうやら本当にわかっていなかったらしい。
クリフがそんなやつだと分かっていてやっているのなら、相当陰湿だなと片眉を上げた。
「部屋も埃っぽいし、昨日の汚れを落としてもいない。……カーペットに土や汚れがそのままなんて、使用人たちが仕事してない証拠だ」
「――そ、そんなことは……」
「じゃあこのクッキー。ルーカス家に届けようか。……あなたの家ではこんな低俗な品を王族に出すんですねって」
シリルの言葉に、オーレリアは慌て出した。
「お、お待ちください!」
「その反応を見るに夫にはナイショの悪巧みって感じか?」
「――っ!」
「つまり俺は今、あんたの弱みを握ったらしい」
ニタリと嫌味な笑みを浮かべると、ゆっくりと足を組む。
こういう時は余裕そうな表情を浮かべるほうが、相手に焦りを生ませるのだ。
するとどうなるか。
勝手にあれこれ話してくれるのだ。
「どうしようか。俺はあんたの家に手紙を送るくらいなんてことないんだけどなぁ」
「お、お待ちください! 私は――」
「それとも誰かの命令だったりするのか? それなら少しは考えてやってもいいけど」
「――……」
顔色が悪い。
しかし口を開かない様子に、シリルはオーレリアをじっと見つめる。
今の反応で後ろに誰かがいることはわかった。
そして自分の保身と天秤にかけるほどの相手だということも。
となると考えられるのは彼女よりもずっと上の存在。
「王妃陛下……とか?」
「――」
表情の変化だけでわかってしまった。
最初はアレンの可能性も考えたが、体が弱く王位を継げるかわからないとのこと。
そんな生きるか死ぬかわからない人間が小さな嫌がらせなんてするか?
と一旦外してみたのだがどうやら当たったようだ。
「……ふーん。なるほどね」
王妃が黒幕となると、さすがのシリルも手は出しにくい。
とはいえなにも王妃を敵に回す必要はないのだ。
彼女を内側に入れられればこちらの勝ちである。
「君さぁ、王太子にこんなことして、ただで済むと思ってんの? それとも王妃陛下が助けてくださるって本気で思ってる?」
「な、なんのことで……」
「いやさ、そういうのってだいたい見捨てられるのがオチだよなって」
王妃にとってオーレリアなんてそこらにある花と大差ないだろう。
綺麗だと目を向けることはあれど、例えばその花に棘があったら。
そしてその棘で王妃を傷つけたらどうなるだろうか?
「王妃陛下にとって不都合なことを口にした君を、本当に助けてくれると思う?」
クリフにこんな嫌がらせをするような王妃が、心優しい人なわけがない。
ならきっと、王妃に不都合なことをするような女を庇うなんてことしないだろう。
王妃はきっと、自分を傷つけた花をバッサリと切り落としてしまうはずだ。
「君の首はいつまで繋がっているかなぁ?」
「――わ、私は……っ!」
「そもそも今クリフが命じれば、君は死刑だ。……なあ、どんな気分だ?」
今にも首と胴体が切り離されようとしているのは、どんな気分なんだろうか?
青ざめガタガタと震えるオーレリアに、シリルはすっと目を細める。
あえて目つきが悪くなるよう仕掛ければ、オーレリアが一歩下がった。
「でも今改心すれば、クリフは助けてくれるってさ。なあ?」
「え? まあ、うん、そうだね……」
当のクリフはなんだか呆然とシリルを見つめていた。
心ここに在らずの様子に首を傾げたが、今はオーレリアだとすぐに前への顔を向ける。
「慈悲のない王妃と慈悲深い王太子。……あんたが仕えるのはどっちかな?」
「――お、王太子殿下に忠誠を誓わせていただきます!」
慌てて膝をつくオーレリア。
もちろんこの手の人が、クリフに忠誠心など持つわけがないことはわかっている。
身の危険を感じたらなんの躊躇いもなく裏切るはずだ。
けれど今はそれでもいい。
下手に侍女頭を変えられるより、扱いやすい人のほうがマシだ。
クリフがある程度力をつけたのなら、さっさとクビにして仕舞えばいいだけなのだから。
シリルはうんうんと、頷いて見せた。
「ならやることはわかってるよな? まずは――」
「至急新しいお茶とお菓子の準備を。明日王太子殿下が不在の間に、お部屋を完璧に整えます!」
「よくできました」
パチパチと拍手を送るシリルに、オーレリアが安堵の息をつく。
ひとまず難を逃れたと思ったのだろう。
だがシリルは知っている。
こういう安堵した瞬間に責めるほうが、人はずっと弱いことに。
だから微笑む。
にっこりと、強者の如く。
「もし明日それができてなかったら、その場で首を落とされると覚悟しろよ? 楽しみだなぁ。あ、それを望むならなにもしなくていいからな?」
「――ぜ、全力でお仕えさせていただきます……!」
「ふーん、残念。まあ、いっか」
シリルがクリフへと視線を向ければ、前世のものにとてもよく似ている反応が返ってきた、
不安気にチラチラと見てくるクリフに、なんだか昔の血が騒いだのがわかる。
だからだろうか。
シリルは思わず口にしていた。
「いじめていいのは俺だけなんだよ」
なんだかとても懐かしい表情をしているはずだ。
それに少しワクワクもしている。
どうやらシリルは生粋のいじめっ子らしい。
だからこそ今世では自重しなければ。
この顔を浮かべるのはこれっきりにしよう。
「この紅茶、お飲みになったことは?」
「…………なんですか、急に」
「ありませんよね? こんなクソまずい紅茶」
ティーカップを持ってオーレリアに向けて掲げれば、途端に顔が歪んだ。
その顔を穏やかな心で見ていると、クリフが小首を傾げた。
「クソまずいの? ……この紅茶変なの?」
「ものすごくな。味も変だからなにか混ざってる可能性あるし、なによりぬるすぎる」
シリルは紅茶のカップを置くと、今度は横の床を指差した。
「それにそこ。お前が昨日紅茶をこぼしたところ。そのままになってる。――普通はあり得ないんだよ」
「……どういう意味?」
どうやら本当にわかっていなかったらしい。
クリフがそんなやつだと分かっていてやっているのなら、相当陰湿だなと片眉を上げた。
「部屋も埃っぽいし、昨日の汚れを落としてもいない。……カーペットに土や汚れがそのままなんて、使用人たちが仕事してない証拠だ」
「――そ、そんなことは……」
「じゃあこのクッキー。ルーカス家に届けようか。……あなたの家ではこんな低俗な品を王族に出すんですねって」
シリルの言葉に、オーレリアは慌て出した。
「お、お待ちください!」
「その反応を見るに夫にはナイショの悪巧みって感じか?」
「――っ!」
「つまり俺は今、あんたの弱みを握ったらしい」
ニタリと嫌味な笑みを浮かべると、ゆっくりと足を組む。
こういう時は余裕そうな表情を浮かべるほうが、相手に焦りを生ませるのだ。
するとどうなるか。
勝手にあれこれ話してくれるのだ。
「どうしようか。俺はあんたの家に手紙を送るくらいなんてことないんだけどなぁ」
「お、お待ちください! 私は――」
「それとも誰かの命令だったりするのか? それなら少しは考えてやってもいいけど」
「――……」
顔色が悪い。
しかし口を開かない様子に、シリルはオーレリアをじっと見つめる。
今の反応で後ろに誰かがいることはわかった。
そして自分の保身と天秤にかけるほどの相手だということも。
となると考えられるのは彼女よりもずっと上の存在。
「王妃陛下……とか?」
「――」
表情の変化だけでわかってしまった。
最初はアレンの可能性も考えたが、体が弱く王位を継げるかわからないとのこと。
そんな生きるか死ぬかわからない人間が小さな嫌がらせなんてするか?
と一旦外してみたのだがどうやら当たったようだ。
「……ふーん。なるほどね」
王妃が黒幕となると、さすがのシリルも手は出しにくい。
とはいえなにも王妃を敵に回す必要はないのだ。
彼女を内側に入れられればこちらの勝ちである。
「君さぁ、王太子にこんなことして、ただで済むと思ってんの? それとも王妃陛下が助けてくださるって本気で思ってる?」
「な、なんのことで……」
「いやさ、そういうのってだいたい見捨てられるのがオチだよなって」
王妃にとってオーレリアなんてそこらにある花と大差ないだろう。
綺麗だと目を向けることはあれど、例えばその花に棘があったら。
そしてその棘で王妃を傷つけたらどうなるだろうか?
「王妃陛下にとって不都合なことを口にした君を、本当に助けてくれると思う?」
クリフにこんな嫌がらせをするような王妃が、心優しい人なわけがない。
ならきっと、王妃に不都合なことをするような女を庇うなんてことしないだろう。
王妃はきっと、自分を傷つけた花をバッサリと切り落としてしまうはずだ。
「君の首はいつまで繋がっているかなぁ?」
「――わ、私は……っ!」
「そもそも今クリフが命じれば、君は死刑だ。……なあ、どんな気分だ?」
今にも首と胴体が切り離されようとしているのは、どんな気分なんだろうか?
青ざめガタガタと震えるオーレリアに、シリルはすっと目を細める。
あえて目つきが悪くなるよう仕掛ければ、オーレリアが一歩下がった。
「でも今改心すれば、クリフは助けてくれるってさ。なあ?」
「え? まあ、うん、そうだね……」
当のクリフはなんだか呆然とシリルを見つめていた。
心ここに在らずの様子に首を傾げたが、今はオーレリアだとすぐに前への顔を向ける。
「慈悲のない王妃と慈悲深い王太子。……あんたが仕えるのはどっちかな?」
「――お、王太子殿下に忠誠を誓わせていただきます!」
慌てて膝をつくオーレリア。
もちろんこの手の人が、クリフに忠誠心など持つわけがないことはわかっている。
身の危険を感じたらなんの躊躇いもなく裏切るはずだ。
けれど今はそれでもいい。
下手に侍女頭を変えられるより、扱いやすい人のほうがマシだ。
クリフがある程度力をつけたのなら、さっさとクビにして仕舞えばいいだけなのだから。
シリルはうんうんと、頷いて見せた。
「ならやることはわかってるよな? まずは――」
「至急新しいお茶とお菓子の準備を。明日王太子殿下が不在の間に、お部屋を完璧に整えます!」
「よくできました」
パチパチと拍手を送るシリルに、オーレリアが安堵の息をつく。
ひとまず難を逃れたと思ったのだろう。
だがシリルは知っている。
こういう安堵した瞬間に責めるほうが、人はずっと弱いことに。
だから微笑む。
にっこりと、強者の如く。
「もし明日それができてなかったら、その場で首を落とされると覚悟しろよ? 楽しみだなぁ。あ、それを望むならなにもしなくていいからな?」
「――ぜ、全力でお仕えさせていただきます……!」
「ふーん、残念。まあ、いっか」
シリルがクリフへと視線を向ければ、前世のものにとてもよく似ている反応が返ってきた、
不安気にチラチラと見てくるクリフに、なんだか昔の血が騒いだのがわかる。
だからだろうか。
シリルは思わず口にしていた。
「いじめていいのは俺だけなんだよ」
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