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一章
本領発揮
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気持ち不貞腐れているシリルは、そのままむっつりと唇を尖らせながら授業を過ごすことになった。
過去の自分への恨みつらみは消えないが、こればかりはどうすることもできない。
とにかく今はクリフに対して謝罪をし続けなければ。
しかしシリルになにができるのか、皆目見当がつかない。
結局はクリフの手のひらの上で踊るより他に方法はないのだ。
「…………」
そんなわけで、今日も今日とてシリルの身柄はクリフによって捕らえられ、抵抗する力もなく王宮へと連れてこられた。
「……俺じゃなくて、女子生徒とか呼んだらどうだ?」
「なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないの?」
「めんどくさいって……」
女子と話したいと願っていたシリルからすると、彼の物言いは羨ましいを通り越してムカつく。
しかし先ほどの女生徒たちの恐ろしさを思い出して、すぐに口を閉ざした。
あれなら話をしないほうがいいかもしれない。
夢は夢のままがいい。
(それにしても相変わらずぬるい……というか味が変な気がする)
出された紅茶を口に含んだが、やはりぬるいし味がおかしい。
なにか変なものを入れられているんじゃないか?
とシリルは紅茶を見つめる。
それに置かれているお菓子もいいものとは思えない。
王族に出すような品ではないはずだ。
相変わらず掃除も行き届いていないし、これでは使用人たちが仕事をしているとは言えない。
……聞いてもいいものだろうか?
クリフにとってタブーの話題だったら、嫌な思いをさせてしまう可能性がある。
「…………なあ」
「うん? お茶のおかわり?」
「違う。……お前、王宮にきたのは半年前って言ってたけど、それってどういう意味なんだ?」
だが聞かずにもやもやするよりマシだろう。
そう自分の中で結論づけて聞いてみれば、クリフはなんてことなさげに答えた。
「そのままの意味だよ? ……そっか、シリルは知らないんだね」
クリフはティーカップをテーブルに戻した。
「僕は国王の側室の子どもで、王妃の子どもじゃない。王妃の子どもは僕より一歳下に生まれたから、僕は不要と田舎に送られたんだ。王位争いを恐れたらしいよ。まともに支援もしてもらえなかったから、割とひどい暮らしをしていたんだよ」
王妃の子どもが王太子となるから、クリフは王宮に必要ないと思われた。
ということだろう。
こういった話は王族にはよくある話なので驚きはしないが、だというのになぜ今は王太子として王宮にいるのだろうか?
「それから王室とは離れて暮らしていたんだけど……。どうやら王妃の息子……アレンは体が弱いらしくてね。生きて王位を継げるかわからないと思ったようだよ」
「……だから連れてこられたのか?」
「うん。僕を出産してから病がちだった、母親から引き剥がされてね。……おかげで母の死に目には会えなかったよ」
シリルは思わず目元を手で覆った。
不要であると王室に捨てられた王子が、後継に不安があるからと危篤の母親から引き剥がされた。
そして母親の死に目には会えず、王宮では肩身の狭い思いをしているのだ。
「……なるほどわかった」
この王宮ではきっと、半年前まではクリフの義理の弟、アレンが王位を継ぐと思われていたはずだ。
それが蓋を開けてみれば何処の馬の骨ともわからぬ男が王太子になったという。
アレンが人徳を得ているのか、はたまた王妃の命令なのか。
この王宮に住むものたちは、クリフを認めていないようだ。
そしてクリフは幼少期に王族として過ごしてこなかった。
だから今の異常さに気づけないのだ。
それをいいことに、この王宮の使用人たちは好き勝手やっていると。
それはとても、ものすごく。
(不愉快だな――)
シリルは自分でも気付かぬ間に、三白眼の瞳をさらに鋭くした。
クリフは前世でも貴族としてまともな暮らしをしていない。
だからなにをしてもわからないと、使用人たちは思っているのだろう。
なるほど、このホコリくさい部屋にも納得できた。
「――シリル? 顔が怖いよ」
「やかましい。これはいつものことだ」
「……いつもは可愛い顔をしているよ?」
「変なこと言うな!」
人相が悪いことは重々承知していた。
だから顔が怖いと言われても仕方がないのだが、可愛いと言われると話が違ってくる。
アホかと伝えつつも、シリルは強張る顔を変えることはしない。
「クリフ。侍女頭がいるだろう? 呼んでくれないか?」
「侍女頭? ……いいけど、どうして?」
「少し話をしたいだけだ」
数多いる侍女全てを見るのは無理だし、やらなくていい。
こういったことをする奴らは大体、上の意見に従うものだ。
そして上が態度を改めれば、下もそれに従わざるを追えない。
なので侍女たちのトップである侍女頭に話を通せば終わることだ。
クリフは言われるがまま侍女頭を呼び、部屋に彼女が入ってきた。
年配の女性だ。
王族に仕えられるということは、それだけ彼女の家柄がいいことを証明している。
だからこそ知っているはずなのだ。
今のクリフの周りがおかしいことに。
実際呼ばれたことに不服なのだろう。
侍女頭はクリフをチラリと睨みつけた。
「……あなたが侍女頭ですか?」
「――はい。オーレリア・ルーカスと申します」
ルーカスといえば確か伯爵家の家名だ。
そのことを思い出したシリルは、一人細く笑む。
よかった。
自分より高い位の家じゃなくて。
「あなたに話したいことがあってお呼びしました。――心当たりは?」
「は? ……いえ、なにも」
「なにもないわけないでしょう?」
そういえばすっかり忘れていた。
今世では清く正しく生きようと決めていたから、脳内から弾き出していたのだ。
「この紅茶。どういうつもりで出したんです?」
そもそもシリルはいじめっ子。
クリフをいじめにいじめていた張本人。
だからこそ人を責め立てる時、シリルはとてもいい顔をするのだ。
残念ながらシリルという男は、たいそう性格が悪いのだ――。
過去の自分への恨みつらみは消えないが、こればかりはどうすることもできない。
とにかく今はクリフに対して謝罪をし続けなければ。
しかしシリルになにができるのか、皆目見当がつかない。
結局はクリフの手のひらの上で踊るより他に方法はないのだ。
「…………」
そんなわけで、今日も今日とてシリルの身柄はクリフによって捕らえられ、抵抗する力もなく王宮へと連れてこられた。
「……俺じゃなくて、女子生徒とか呼んだらどうだ?」
「なんでそんなめんどくさいことしなきゃいけないの?」
「めんどくさいって……」
女子と話したいと願っていたシリルからすると、彼の物言いは羨ましいを通り越してムカつく。
しかし先ほどの女生徒たちの恐ろしさを思い出して、すぐに口を閉ざした。
あれなら話をしないほうがいいかもしれない。
夢は夢のままがいい。
(それにしても相変わらずぬるい……というか味が変な気がする)
出された紅茶を口に含んだが、やはりぬるいし味がおかしい。
なにか変なものを入れられているんじゃないか?
とシリルは紅茶を見つめる。
それに置かれているお菓子もいいものとは思えない。
王族に出すような品ではないはずだ。
相変わらず掃除も行き届いていないし、これでは使用人たちが仕事をしているとは言えない。
……聞いてもいいものだろうか?
クリフにとってタブーの話題だったら、嫌な思いをさせてしまう可能性がある。
「…………なあ」
「うん? お茶のおかわり?」
「違う。……お前、王宮にきたのは半年前って言ってたけど、それってどういう意味なんだ?」
だが聞かずにもやもやするよりマシだろう。
そう自分の中で結論づけて聞いてみれば、クリフはなんてことなさげに答えた。
「そのままの意味だよ? ……そっか、シリルは知らないんだね」
クリフはティーカップをテーブルに戻した。
「僕は国王の側室の子どもで、王妃の子どもじゃない。王妃の子どもは僕より一歳下に生まれたから、僕は不要と田舎に送られたんだ。王位争いを恐れたらしいよ。まともに支援もしてもらえなかったから、割とひどい暮らしをしていたんだよ」
王妃の子どもが王太子となるから、クリフは王宮に必要ないと思われた。
ということだろう。
こういった話は王族にはよくある話なので驚きはしないが、だというのになぜ今は王太子として王宮にいるのだろうか?
「それから王室とは離れて暮らしていたんだけど……。どうやら王妃の息子……アレンは体が弱いらしくてね。生きて王位を継げるかわからないと思ったようだよ」
「……だから連れてこられたのか?」
「うん。僕を出産してから病がちだった、母親から引き剥がされてね。……おかげで母の死に目には会えなかったよ」
シリルは思わず目元を手で覆った。
不要であると王室に捨てられた王子が、後継に不安があるからと危篤の母親から引き剥がされた。
そして母親の死に目には会えず、王宮では肩身の狭い思いをしているのだ。
「……なるほどわかった」
この王宮ではきっと、半年前まではクリフの義理の弟、アレンが王位を継ぐと思われていたはずだ。
それが蓋を開けてみれば何処の馬の骨ともわからぬ男が王太子になったという。
アレンが人徳を得ているのか、はたまた王妃の命令なのか。
この王宮に住むものたちは、クリフを認めていないようだ。
そしてクリフは幼少期に王族として過ごしてこなかった。
だから今の異常さに気づけないのだ。
それをいいことに、この王宮の使用人たちは好き勝手やっていると。
それはとても、ものすごく。
(不愉快だな――)
シリルは自分でも気付かぬ間に、三白眼の瞳をさらに鋭くした。
クリフは前世でも貴族としてまともな暮らしをしていない。
だからなにをしてもわからないと、使用人たちは思っているのだろう。
なるほど、このホコリくさい部屋にも納得できた。
「――シリル? 顔が怖いよ」
「やかましい。これはいつものことだ」
「……いつもは可愛い顔をしているよ?」
「変なこと言うな!」
人相が悪いことは重々承知していた。
だから顔が怖いと言われても仕方がないのだが、可愛いと言われると話が違ってくる。
アホかと伝えつつも、シリルは強張る顔を変えることはしない。
「クリフ。侍女頭がいるだろう? 呼んでくれないか?」
「侍女頭? ……いいけど、どうして?」
「少し話をしたいだけだ」
数多いる侍女全てを見るのは無理だし、やらなくていい。
こういったことをする奴らは大体、上の意見に従うものだ。
そして上が態度を改めれば、下もそれに従わざるを追えない。
なので侍女たちのトップである侍女頭に話を通せば終わることだ。
クリフは言われるがまま侍女頭を呼び、部屋に彼女が入ってきた。
年配の女性だ。
王族に仕えられるということは、それだけ彼女の家柄がいいことを証明している。
だからこそ知っているはずなのだ。
今のクリフの周りがおかしいことに。
実際呼ばれたことに不服なのだろう。
侍女頭はクリフをチラリと睨みつけた。
「……あなたが侍女頭ですか?」
「――はい。オーレリア・ルーカスと申します」
ルーカスといえば確か伯爵家の家名だ。
そのことを思い出したシリルは、一人細く笑む。
よかった。
自分より高い位の家じゃなくて。
「あなたに話したいことがあってお呼びしました。――心当たりは?」
「は? ……いえ、なにも」
「なにもないわけないでしょう?」
そういえばすっかり忘れていた。
今世では清く正しく生きようと決めていたから、脳内から弾き出していたのだ。
「この紅茶。どういうつもりで出したんです?」
そもそもシリルはいじめっ子。
クリフをいじめにいじめていた張本人。
だからこそ人を責め立てる時、シリルはとてもいい顔をするのだ。
残念ながらシリルという男は、たいそう性格が悪いのだ――。
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