『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第52話

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 引越しして約ひと月が経った。今日は、昼の鍛錬もオフとなり、夕方からセリーヌ川へ夜光蝶祭を観に行くことになっている。

元々明日には俺とジュリエッタの両親が明日王都にやってくる予定だったので昨日行くはずだったんだけど、雨が降ってしまったため今日に変更になったわけだ。

王都から馬車で約30分。セリーヌ川には露店なども出ており結構な人だかりだ。花火大会を思い出しなんだか懐かしい。

露店も花火大会そのもので、焼きとうもろこしを頬張りながら夜光蝶が産卵をし始める夜を待つ。日が落ちると川沿いに建ち並ぶ露天の天幕には光の魔石が吊り下げられ、道沿いに何十何百と次々と灯っていく。

完全に夜になると、川にはアゲハチョウよりもやや大きめの夜光蝶が蛍のように飛び始め、川の浅瀬の岩や流木に止まって産卵をし始めた。

「綺麗だな。来て良かったよ」

「そう言って貰えると、誘った甲斐があります」

その動きは子孫を残した喜びなのか自分の生命が尽きる足掻きなのか。儚く神秘的だ。

幻想的な情景を見ていると、ジュリエッタがハラハラ涙を流している。よほどの事があったんだろう。言葉を掛けるのは無粋だと思いそっとハンカチを渡す。

マイアも気を遣ってか、何も言わずに夜光蝶を見ていた。

この祭の後には、光の魔石が大量に川の中や川原に落ちているそうで、朝から冒険者や地元民が拾いに来てギルドに買い取って貰うらしい。そういや祭や花火大会の翌朝には小銭がチラホラ落ちてるって話を聞いたことがあったな。ここと違って実際にはゴミの方が多いんだろうけど。


□ ■ □


 翌日、予定どおり夕方に俺の家族とジュリエッタの家族が新居にやって来た。久しぶりに家族揃っての夕食だ。

「お母様お体の方は宜しいのでしょうか?」

「ええ。いたって元気よ。それにしても、まさかヴェルが姫様の専属騎士になるとは思わなかったわ」

「義母様、わたくしの事は、マイアとお呼び下さい」

「そうだったわね」

母も、エリザベートさんも微妙な顔をしていた。そりゃそうか。マイアは王女なんだから。しかもマイアは言葉こそ、そう感じさせないがひとつひとつの仕草や動作は気品に溢れてる。まあ口を開いたらマシンガントークなんだけどパッと見たところじゃわからない。

「それにしても、ヴェル君がジュリエッタと一緒に儀式をしに王都に向ったと思ったらまさかの展開ね」

「ええ。一時はどうなるかと思っていましたが、今は3人で仲良くやってます。お母さまは心配性ですね」

「あなたの心配はしていないわ。ヴェル君が心配なの。この子ワガママ言ってない?」

「言ってないわよ。たぶん」

ジュリエッタは、エリザベートさんにそう言われ少しむくれたと思ったら、こちらを見て同意を求められた。

「ははは、二人のお陰で楽しくやってますから」

「それならいいんだが。それにしても、このひと月間で随分とヴェル君はたくましくなったんじゃないか?」

「がんばりはしましたが、背は大きくはなっていませんよ。剣の訓練には苦労はしていますが…」

そう、あれからも毎日朝から晩まで剣の訓練をしている。お陰で結構体力、力、根性はついたが肝心の剣の技術はまだまだシャロンさんとレリクさんの足元にも及ばない。

シャロンさんもレリクさんも、剣技やスキルは使っていないのにこの差は中々埋まらない。

まあこればかりは経験の差もあるからそこまで落ち込んではいない。そもそもシャロンさん達はBランク冒険者だしな。良い先生に当たったよ。

「しかし、ヴェル殿はまだ神託の儀を受けていないし、剣技を使っていないとは言え、最近は、私の剣速についていっているではないか?」

「それはそうですよ。でなきゃ死んじゃいます。痛みで怯むことは無くなりましたけど痛いのは嫌ですし、治癒魔法が無かったらとっくに入院レベルですね」

「シャロン。張り切るのはいいが、くれぐれも大怪我だけはさせるなよ」

「承知しております」

うそこけ。本当に承知しているならもうちょっと緩くてもいいんじゃないか?稽古を始めてひと月。今でこそ少し慣れたけど最初の方はそれは悲惨だった。

木刀じゃなければとっくに死んでるわ。そりゃ手加減してくれているとは思うが。でもしばしば大人気ないと思うくらい打ちのめされてるぞ。

痛みによる恐怖心を克服する為の鍛錬と言っているけど、恐怖心が植えつけられれば逆効果じゃないの?と嫌味も言いたくなるくらい毎日満身創痍だ。

自分が負けず嫌いな性格で無ければ、とっくの昔に俺の心はバキバキに折れていただろう。あ。思い出すとつい遠い目で空を眺めてしまうぞ。まさに鬼教官。

あまりにも容赦ない、シャロンさんのドSぷりに見ていた2人が
「シャロン!子供相手にやりすぎです」
「これでは、ヴェルが死んでしまいます」

と何度も半泣きで叫びながらヒールを掛けてくれていたのを思い出す。苦い思い出だが、まぁそのお陰で今ではかなり剣での防御できるようになった。

盾での防御を捨て、スパルタを望んだ以上文句は言えない。

それから宴も進み、大人たちはお酒を飲んでドンチャン騒ぎだった。貴族だけに日頃のストレスも多いのだろう。オレたちは先に失礼してベッドに向かう。

 翌日の王家との顔合わせでは、母が初めて王宮に来たようで完全におのぼりさん状態。テンションが高い。

「まるで、御伽噺の世界のようね。ヴェルが本当にマイアさんと婚約するなんて夢のようだわ」

「王城に住んでいるのじゃありませんから実感はないです」

陛下はここで生活させるつもりだったようだけどマイアが猛反対したそうだ。監視付きの新生活がどうしても嫌なんだと。オレとジュリエッタも、24時間の監視は面倒だから合わせたけど、警備を考えたら陛下の言うことの方が常識的だよな。

王宮に入ると、王族たちがすでに待っていたので母を紹介する。母は急に緊張したせいか、挨拶の時に少し噛んだが、そこは持ち前の笑顔で乗り切った。

王族は気さくな方ばかりだったので直ぐに打ち解け、それからは、母はいかに俺が常識から外れた子供だったかの熱弁した。人を話のネタにするのはやめて欲しい。

それから食事をして顔合わせも無事終了。屋敷に戻ると両親は王都の観光を楽しんだり、土産をたくさん買ったりと、慌ただしく二泊して実家に帰って行った。

それから数日が経ったある日の訓練のこと…

「ヴェル君。君は筋はいいがどうも小手先に頼ろうとする癖がある。考える前に行動する事を心がけた方がよい」

考える前に?身〇手の極意ですか?残念ですがGODになれないので。それならばと剣道で培った技で勝負する。出来るだけ遠くで、出来るだけ相手に剣筋を読ませない様に半身のままで構える。

「ヴェル君。その構えは?」

「たった今思いついた構えです。練習相手になって下さい」

シャロンさんは頷き上段に剣を構える。鞘付きの木剣だけど、流石は王宮騎士団長だ。迫力が違う。ま、毎回思ってるんだけど。

出来るだけ遠くに、剣を届かす為に鞘を少し前方に出す。

「今だ!」一歩踏み出し同時に木剣を横一線に振ると、シャロンさんのお腹に一撃を入れた。

シャロンさんは何も出来ずに驚きを隠せない。

「ヴェル殿に初めて一本取られたな。それにその技をなんと言うのかは知らないが、君の小さな体のリーチを伸ばすにはとても良い技だな。後は、鞘から剣を抜くスピードさえ上がれば、効果的な先制攻撃になるだろう」

「はい。ありがとうございます。スピードを上げるようにがんばります」

座って刀を抜くまでの技が居合いだと本で読んだ事がある。まあ本物の居合い抜きにはほど遠いが、これを伸ばすならシャロンさんの言うとおりスピードを上げるしかない。

それにしても西洋剣で居合いの真似ごととはね。俺は強くなれるならなんでもやるよ。
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