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第十四話 空腹令嬢、シエル
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まさかここで住むなんて思ってもなかった私は、口をポカンと開けて固まってしまった。
「ラルフから、行く所が無いと聞いているわ。だから、あなたが良ければここで一緒に生活しない? って思ったのよ」
「確かに行くあてはありませんが……でも……」
「では聞くが、元々はどうするつもりだったんだい?」
「持ってきたお金でやりくりしながら、仕事と住む場所を見つけて、そこでのんびり暮らそうかと」
「なるほど。ならその手間が省けたということで、運がよかったじゃないか! 私も母上も、家族が増えて幸せだよ! はっはっはっ!」
そ、そうなのかもしれないけどさ! いきなり転がり込んできて、一緒に住もうなんて言われたら、驚くなって方が無理だよ!
「ねえラルフ、一体どういうこと?」
「実は、シエル様が家を出るのをお決めになられてからすぐに、私は手紙を送り、シエル様と一緒に帰って住みたいとお伝えし、了承してもらっていたのですよ」
「そ、そうだったの!? だから故郷に行こうって言ったの?」
「はい。もしあなたの望む自由というのが、好きに家や職を探して生活するものだと仰るなら、無理にとは言いません」
確かに私は自由になりたくて、マーチャント家を出ることを決意した。でも、その自由っていうのは、家族から解放されて自由になりたいってものだから、出た後にこうしなきゃ! というのは無い。
むしろ、急に来た私のことを歓迎してくれて、一緒に住もうって言ってもらえて……ずっと不要な人間として扱われていたからか、涙が出そうになるくらい嬉しい。
うん、嬉しい……けど、そんなに甘えていいのだろうかと思う自分もいる。
「将来的に、私の娘になるんだから、今からここの生活に慣れておく必要もあるものね」
「は、母上!? 私達はまだ結婚すると決まったわけでは!」
「そ、そうですよ!」
「おや? おやおや? 母上は娘になるとは仰ったが、結婚とは一言も言っていないではないか!」
「そうね。私の養子になることだって出来るものね。どうして二人共、結婚になったのかしら? うふふっ」
クリスティア様は口元に手を当てて控えめに、ナディア様は両手を腰に当てて高らかに笑う中、私とラルフは頬を赤らめて顔を俯かせた。
言われてみれば、結婚に結び付けるのは、明らかに早とちりだよ……完全に失敗した。
それにしても、結婚かぁ……マーヴィン様と婚約破棄をした今、自分とは関係の無いものだと思ってたけど……ラルフと結婚……他の男性はちょっと嫌だけど、ラルフとなら嫌じゃない。
ラルフの告白の返事をさっさとすれば、すぐに結婚という流れに持っていくことは出来るかもしれないけど、結婚に興味を持ったからって、そんなのは不誠実だよね。ちゃんと自分の気持ちの正体と恋心を知ってから、誠意を持って返事をしなきゃ。
「お気持ちは嬉しいですけど、ここに住まわせてもらうのは……」
ぐぅぅぅぅぅぅ~~~…………。
「…………あっ」
さすがに申し訳ないと言おうとした矢先、私のお腹の虫が盛大に鳴いた。
……うん、この家に住むのは、これで無理になったかな! こんな恥ずかしい音を聞かれた人達と一緒に住むなんて、恥ずかしすぎるし!
「ご、ごめんなさい……!!」
「何事も素直が一番ではないか! さあ、冷めてしまう前にいただこう!」
「そうね。続きは食べながらにしましょうか。シエル、沢山食べてね」
はしたない姿を晒してしまったというのに、バカにしたりせずに私と食卓を囲んでくれた。
ラルフ以外の人と食卓を囲むなんて、いつぶりだろう……実は、私の家族達はよく一緒に食べていたみたいだけど、私は仲間はずれをされて、自室で寂しく食べてたんだ。
だから、こんなに沢山の人と食事をするのが新鮮で、楽しくて……何よりも、嬉しかった。
さっきもラルフに伝えたけど、改めてラルフは良い家族に出会えたんだと、心の底から思えるなぁ。
****
「やってしまった……」
食事の後、さっきの部屋に帰ってきた私は、犯してしまった失敗を後悔しながら、ベッドで仰向けで倒れていた。
ちなみにラルフは、先に自分の部屋に戻っていっているから、今は私一人だけだ。
「いくらお腹がすいていたからって……あんなに食べちゃうなんて……!」
私のためにたくさん用意されたごはんを、一つ残らず食べてしまったどころか、おかわりまで用意してもらってしまった。もちろん、それも全て食べてしまった。
し、仕方なかったんだよ! お腹がペコペコだったし、クリスティア様もナディア様も、私の食べっぷりを喜んでくれて、もっと食べなさいと勧めてくれたから!
……いや、これは責任転換すぎる。もっと自制が出来る人間なら、やんわりと断ることも、もうお腹がいっぱいといって断ることも出来るだろう。
それが出来なかったのは、食に対する欲が人一倍あり、自制できなかったのが原因だ。人のせいにするなんて、もってのほかだよ!
「……明日からは、もう少し食べる量を減らそう……あまりにもはしたなすぎるし……最近またお腹にお肉がついてきちゃったし……」
自分の行いと、その行いによる代償のお腹をさすっていると、コンコンッと扉をノックする音が聞こえてきた。
もう夜も遅いのに、誰だろう? ラルフが私の様子を見に来てくれたのかな?
「はーい」
「こんばんは、シエル」
「えっ、クリスティア様!?」
ラルフだと決めつけていたから、いつも通りの感じで出ちゃったよ!? さっきのご飯に続いて、また失礼なことを……!
そもそも、クリスティア様が私の所に来るなんて、一体何の用だろう? もしかして、あれだけ食べてるのをみて、やっぱり出て行ってほしいって言いに来たとか!?
追い出されたら自業自得とはいえ、あまりにもバカすぎて、ずっと引きずるかもしれない……。
「夜分遅くにごめんなさいね。あなたと少しお話がしたくて、二人でお邪魔しに来たわ」
「ふ、二人……?」
「もう一人は、もちろん私さ!」
「ひょわぁ!?」
部屋に来たのはクリスティア様だけだと思っていたのに、いつも間にか私の後ろに立っていたナディア様は、私の肩にポンっと手を乗せた。
い、いつの間に後ろにいたの!? 部屋の扉を開けた時にいたのは、クリスティア様だけだったよね!? もしかして、部屋の中にずっと隠れていたとか!?
「こらナディア。あんまりシエルを驚かしてはいけませんよ」
「はーっはっはっはっ! シエルちゃんの反応が本当に可愛くて、ついからかってしまいまして! 驚かせて悪かったね、明日からは驚かすのは一日に五回を上限にするから、許してくれたまえ!」
「多くないですか!? 出来れば驚かさないでほしいんですけど!」
「前向きに検討させてもらうよ。さて、あまり廊下で騒いでいたら迷惑だろうし、女三人でのんびり茶でも楽しもうじゃないか!」
終始クリスティア様とナディア様のペースのまま、私は部屋の中へと戻されてしまった。
うぅ~……お願いします、追い出されるとしても、どうかラルフと絶縁になったりはしませんように……!
「ラルフから、行く所が無いと聞いているわ。だから、あなたが良ければここで一緒に生活しない? って思ったのよ」
「確かに行くあてはありませんが……でも……」
「では聞くが、元々はどうするつもりだったんだい?」
「持ってきたお金でやりくりしながら、仕事と住む場所を見つけて、そこでのんびり暮らそうかと」
「なるほど。ならその手間が省けたということで、運がよかったじゃないか! 私も母上も、家族が増えて幸せだよ! はっはっはっ!」
そ、そうなのかもしれないけどさ! いきなり転がり込んできて、一緒に住もうなんて言われたら、驚くなって方が無理だよ!
「ねえラルフ、一体どういうこと?」
「実は、シエル様が家を出るのをお決めになられてからすぐに、私は手紙を送り、シエル様と一緒に帰って住みたいとお伝えし、了承してもらっていたのですよ」
「そ、そうだったの!? だから故郷に行こうって言ったの?」
「はい。もしあなたの望む自由というのが、好きに家や職を探して生活するものだと仰るなら、無理にとは言いません」
確かに私は自由になりたくて、マーチャント家を出ることを決意した。でも、その自由っていうのは、家族から解放されて自由になりたいってものだから、出た後にこうしなきゃ! というのは無い。
むしろ、急に来た私のことを歓迎してくれて、一緒に住もうって言ってもらえて……ずっと不要な人間として扱われていたからか、涙が出そうになるくらい嬉しい。
うん、嬉しい……けど、そんなに甘えていいのだろうかと思う自分もいる。
「将来的に、私の娘になるんだから、今からここの生活に慣れておく必要もあるものね」
「は、母上!? 私達はまだ結婚すると決まったわけでは!」
「そ、そうですよ!」
「おや? おやおや? 母上は娘になるとは仰ったが、結婚とは一言も言っていないではないか!」
「そうね。私の養子になることだって出来るものね。どうして二人共、結婚になったのかしら? うふふっ」
クリスティア様は口元に手を当てて控えめに、ナディア様は両手を腰に当てて高らかに笑う中、私とラルフは頬を赤らめて顔を俯かせた。
言われてみれば、結婚に結び付けるのは、明らかに早とちりだよ……完全に失敗した。
それにしても、結婚かぁ……マーヴィン様と婚約破棄をした今、自分とは関係の無いものだと思ってたけど……ラルフと結婚……他の男性はちょっと嫌だけど、ラルフとなら嫌じゃない。
ラルフの告白の返事をさっさとすれば、すぐに結婚という流れに持っていくことは出来るかもしれないけど、結婚に興味を持ったからって、そんなのは不誠実だよね。ちゃんと自分の気持ちの正体と恋心を知ってから、誠意を持って返事をしなきゃ。
「お気持ちは嬉しいですけど、ここに住まわせてもらうのは……」
ぐぅぅぅぅぅぅ~~~…………。
「…………あっ」
さすがに申し訳ないと言おうとした矢先、私のお腹の虫が盛大に鳴いた。
……うん、この家に住むのは、これで無理になったかな! こんな恥ずかしい音を聞かれた人達と一緒に住むなんて、恥ずかしすぎるし!
「ご、ごめんなさい……!!」
「何事も素直が一番ではないか! さあ、冷めてしまう前にいただこう!」
「そうね。続きは食べながらにしましょうか。シエル、沢山食べてね」
はしたない姿を晒してしまったというのに、バカにしたりせずに私と食卓を囲んでくれた。
ラルフ以外の人と食卓を囲むなんて、いつぶりだろう……実は、私の家族達はよく一緒に食べていたみたいだけど、私は仲間はずれをされて、自室で寂しく食べてたんだ。
だから、こんなに沢山の人と食事をするのが新鮮で、楽しくて……何よりも、嬉しかった。
さっきもラルフに伝えたけど、改めてラルフは良い家族に出会えたんだと、心の底から思えるなぁ。
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「やってしまった……」
食事の後、さっきの部屋に帰ってきた私は、犯してしまった失敗を後悔しながら、ベッドで仰向けで倒れていた。
ちなみにラルフは、先に自分の部屋に戻っていっているから、今は私一人だけだ。
「いくらお腹がすいていたからって……あんなに食べちゃうなんて……!」
私のためにたくさん用意されたごはんを、一つ残らず食べてしまったどころか、おかわりまで用意してもらってしまった。もちろん、それも全て食べてしまった。
し、仕方なかったんだよ! お腹がペコペコだったし、クリスティア様もナディア様も、私の食べっぷりを喜んでくれて、もっと食べなさいと勧めてくれたから!
……いや、これは責任転換すぎる。もっと自制が出来る人間なら、やんわりと断ることも、もうお腹がいっぱいといって断ることも出来るだろう。
それが出来なかったのは、食に対する欲が人一倍あり、自制できなかったのが原因だ。人のせいにするなんて、もってのほかだよ!
「……明日からは、もう少し食べる量を減らそう……あまりにもはしたなすぎるし……最近またお腹にお肉がついてきちゃったし……」
自分の行いと、その行いによる代償のお腹をさすっていると、コンコンッと扉をノックする音が聞こえてきた。
もう夜も遅いのに、誰だろう? ラルフが私の様子を見に来てくれたのかな?
「はーい」
「こんばんは、シエル」
「えっ、クリスティア様!?」
ラルフだと決めつけていたから、いつも通りの感じで出ちゃったよ!? さっきのご飯に続いて、また失礼なことを……!
そもそも、クリスティア様が私の所に来るなんて、一体何の用だろう? もしかして、あれだけ食べてるのをみて、やっぱり出て行ってほしいって言いに来たとか!?
追い出されたら自業自得とはいえ、あまりにもバカすぎて、ずっと引きずるかもしれない……。
「夜分遅くにごめんなさいね。あなたと少しお話がしたくて、二人でお邪魔しに来たわ」
「ふ、二人……?」
「もう一人は、もちろん私さ!」
「ひょわぁ!?」
部屋に来たのはクリスティア様だけだと思っていたのに、いつも間にか私の後ろに立っていたナディア様は、私の肩にポンっと手を乗せた。
い、いつの間に後ろにいたの!? 部屋の扉を開けた時にいたのは、クリスティア様だけだったよね!? もしかして、部屋の中にずっと隠れていたとか!?
「こらナディア。あんまりシエルを驚かしてはいけませんよ」
「はーっはっはっはっ! シエルちゃんの反応が本当に可愛くて、ついからかってしまいまして! 驚かせて悪かったね、明日からは驚かすのは一日に五回を上限にするから、許してくれたまえ!」
「多くないですか!? 出来れば驚かさないでほしいんですけど!」
「前向きに検討させてもらうよ。さて、あまり廊下で騒いでいたら迷惑だろうし、女三人でのんびり茶でも楽しもうじゃないか!」
終始クリスティア様とナディア様のペースのまま、私は部屋の中へと戻されてしまった。
うぅ~……お願いします、追い出されるとしても、どうかラルフと絶縁になったりはしませんように……!
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