妹に婚約者を奪われて追放された無能令嬢、追放先で出会った男性と一緒に小説を書いてベストセラーを目指します!妹達が邪魔してきますが負けません!

ゆうき

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第18話 ご褒美が欲しいなー……

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 私の予想では、家に到着する頃には夜になっていると思っていたけど、なんとか夕方には帰ってこれた。ずっと歩き通しで疲れたけど、マリーとのんびりお話しながら歩くのは、とても楽しかったわ。

「なんとか帰ってこれた~」
「ですね。あら……誰か家の前にいますわ」

 マリーの言う通り、暗くてちょっとわかりにくいけど、玄関に寄りかかるように立っている人がいる。

 もしかして……アベル様の仕返しがもう来た? わからないけど……警戒はしておいた方が良いわね。

「そこにいるのは誰?」
「俺だ」
「え……ユースさん??」
「おかえり」

 まさかの声の主に、私は何とも気の抜けた声を漏らしてしまった。マリーも驚いているのか、口に手を当てながら目を丸くしていた。

「えっと、何か用事でも?」
「無事に二人が帰ってきたか心配でな。仕事が終わって飛んできたんだが、まだ帰ってきてなかった。だから家の前で待ってた」
「ユースさん……」

 なによそれ……優しすぎない!? あぁぁぁ……ダメ無理しんどい……優しいユースさん素敵……カッコイイ……好きぃ……。

「まあ無事とは聞いていたが……自分の目で確かめないと信じられないしな」
「ユースさん? 何か言った?」
「いや、何でもない。とりあえず無事が確認できたし、俺は帰る。じゃあな」

 私達に背を向けて帰ろうとするユースさんの手を、咄嗟に掴んで止めた私は、そのままグイグイと家の中へ入れようと、強く引っ張った。

「よかったら、ごはん食べていかない? いいわよね、マリー?」
「はい。材料はありますし、ご心配をおかけしてしまったお詫びをしませんとね」
「別に俺が勝手にした事なんだから、気にする必要はないんだが……」
「まあいいからいいから! 散らかってるけど気にしないでね!」

 このままお別れするのが嫌な私は、少し強引に家の中に招き入れた。

 家の中にユースさんがいる――なんかこれって、結婚して一緒に生活してるみたい……いつかそんな生活をしてみたいわ。小さな家で良いから、静かにユースさんやマリーと過ごす……最高の幸せだわ。

 あ、勿論マリーが一緒に住みたくないって言ったら無理強いはしないわよ?

「今日は何を作るの?」
「シチューにしようと思ってます」
「いいわね! マリーのシチューは絶品だからね! よーし、私も手伝うわ!」
「いえ、お気になさらず。ティア様は隣の部屋でユース様とお話でもしていてください」
「え、でも……ひゃんっ」

 さっき私がユースさんにした時の様に、少し強引に背中を押された私とユースさんは、隣の部屋にある寝室へと追いやられてしまった。

 むぅ~……手伝いたかったのに、フラれちゃったわ。マリーの事だから、私がユースさんと話せる時間を増やしてくれたのかしら……?

「ティア」
「なぁに? あ、ごめんなさい。こっちは凄く散らかってて……」

 玄関から入ってすぐの所にあるリビングはある程度片付けているけど、寝室には私の私物である本や、山になった原稿に勉強ノートが至る所にある。

 う~……ユースさんとお別れしたくなくて、咄嗟に招き入れちゃったけど……部屋が汚いって理由で嫌われたりしないわよね……?

「……努力してるのはわかっていたが、ここまでとは思ってなかった」
「えへへ、ユースさんと出会った日から、実はずっと頑張ってたのよ」
「そこまでして、当時から俺を見返したかったのか。ここまでくると笑えるな」
「ちょ!? ま、間違ってはないけど……あ、あの時は悔しかったんだもん! でも今はユースさんに喜んでもらいたくて。それに、褒めてほしくて頑張ってるっていうか……」

 モジモジしながら答えると、おかしそうにクスクスと笑うユースさんの手が頭に乗せられ、そのままワシャワシャと撫でられた。

 もう、そんな子ども扱いするような撫で方して……嫌じゃないどころか大好きだけどっ!

「この山積みになってるメモ帳は何だ?」
「あ、それはいろんな本を読んで、この表現は使えそうとか、ここが感動したとか、ここは私ならこうするかなとか、そういうのを書き込んでるの……って!? 見ちゃダメー!」

 丁寧に説明をしたからそれで終わりと思っていたら、ユースさんは一番上に置かれていたメモ帳を手に取ってパラパラと読み始めた。

 べ、別に絶対に他人に読まれちゃダメなものじゃないけど……誰かに見られる前提じゃないから凄く乱雑に書いてあるの! だから……読まれるのは恥ずかしい!

「……これも凄いな。びっしり書かれている……ティアは不屈の心を持った、努力の天才だな」
「て、天才!? 不屈!? お、大げさじゃないかしら?」
「大げさなものか」

 ユースさんはメモ帳を元あった場所に戻すと、真面目な表情を浮かべながら、私の両手を包み込むように握ってきた。

 あ……手、暖かい……アベル様に触られた時はあんなに気持ちが悪かったのに、ユースさんに触られると嬉しくなっちゃう。それに……か、顔が近い……そんな真面目でカッコいい顔で見つめられたら、またドキドキしちゃう……。

「たった一年程度でここまで努力が出来る人間はそうはいない。それに、俺の容赦のない数々の指摘に、一切挫けずについてきてくれた。そんなティアを評価するのは当然の事だ」
「ユースさん……」

 不屈の心を持った努力の天才、か……なんか私には勿体ない評価だけど……ユースさんにそう言ってもらえるなんて、嬉しすぎて顔がにやけちゃう……えへへ……。

「私、たくさん頑張ったのよ」
「そうだな」
「だから、ご褒美がほしいなー……なんて」
「俺に出来る事なら」
「ええ。むしろユースさんにしか出来ない……というより、ユースさん以外には絶対お願いしない事だから」

 私の言っている意図がよくわからないのか、可愛らしく小首を傾げているユースさんに向かって、私は大きく腕を広げてみせた。その行動で理解してくれたのか、ユースさんは私の事を強く抱きしめてくれた。

 あ~……凄く安心する……ユースさん好きぃ……。

「こんな事でいいのか?」
「うん……ふふっ……ユースさん、好きぃ……大好きぃ……」
「…………」

 ユースさんの胸にほっぺをスリスリするの気持ちいい……胸筋、がっしりしてて素敵……無限に推せる……もう完全に私の理想の王子様像がユースさんになっちゃってるわ……。

「好き……にゅふぅ……大好きぃ……」
「おい、さっきから感情が駄々洩れだぞ」
「……え? 口に出てた……?」
「思いっきり。気づかなかったのか?」
「え、あ……あの……えと……!」

 し、しまったぁぁぁぁ!! 完全に緩みきってるところを見せちゃったうえに、恥ずかしい台詞を聞かれたぁぁぁぁ!! ど、どうしようどうしよう……もうこの際開き直っちゃった方が良いわね! うん!

「仕方ないじゃないですか! 本当に大好きで、愛してるんですから……」
「俺も、ティアを愛してる」
「あ……ユースさん……」

 そう言いながら、ユースさんは少しだけ私から離れてから、ジッと顔を見つめてくる。私もそれに応えるように見つめていると、どちらからともなく顔が近づいていく。

 ああ、私……ここでユースさんに初めてを捧げるのね。

 ――そう思っていたのに。

「申し訳ございません、先程ユース様の苦手な食べ物を聞くのを……忘れ……」
「「…………」」

 まるでタイミングを見計らっていたんじゃないかって思ってしまうようなマリーの登場に、私達は思わずマリーの方を見ながら固まってしまった。

「あ、も、もも! 申し訳ございません!」
「い、いや……気にするな。俺は苦手な食べ物はない」
「かしこまりました! では失礼します! ごゆっくり!」

 いつも冷静なのに、ちょっと面白く思ってしまうくらい慌てて部屋を出ていったマリーを見てたら、さっきまでの良い雰囲気はどこかに行ってしまい……二人して笑ってしまった。

「あははは……こ、こんな物語のお約束みたいな展開、現実にあるなんて……お、おなか痛い……!」
「くっ……くくっ……全くだな。俺も初めての経験だ。実際に体験すると、なんとも複雑な気持ちになるんだな」
「そうね……! 恥ずかしさやら、面白さやら、なんで邪魔するの~っていうやるせない気持ちやら……人によっていろんな感じ方がありそうね!」

 思わぬところで新たな発見をした私は、ごはんが出来るまではユースさんと楽しく本の事や雑談をして過ごし、食事中も三人で楽しく過ごした――




 あ、余談だけど……マリーが終始申し訳なさそうに頭を下げていたのは、ここだけの秘密よ?
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