【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき

文字の大きさ
9 / 39

第九話 初めての食事

しおりを挟む
 エヴァン様に連れられて部屋に戻ってきたのは良いのですが、入るなりエヴァン様は黙りこくってしまい、何とも言えない空気が部屋を包んでおりました。

「……あの、エヴァン様。ずっと黙っておられますが、どうされたのですか? もしかして、私になにか不手際でもありましたでしょうか?」

「違う。俺は会話をするのが、あまり得意ではない。特に、女性が相手だと尚更なんだ。だから、何を話せば良いかわからなくて、考えていた」

 エヴァン様が饒舌なお方では無いのは、薄々感じてはおりましたが、そういう事情がありましたのね。
 誰にだって、苦手なことはございます。私は運動が全然できないのですが、エヴァン様にとってそれが会話というだけですわね。

「この屋敷には女性の使用人だっておられるでしょう? 社交界でだって、話す機会はあるでしょうし……それ以前に、ちゃんとお話しできているではありませんか」

「彼女達は、俺の性格を熟知してくれている。だから、俺が話せなくても、問題は起こらない。社交界の場でも……俺は恐れられているから、基本的に誰も話しかけてこない。俺にとっては、都合がいい。あと、質問されたり話題があれば、それなりには答えられる」

「なるほど、理解しましたわ。私も、そこまで会話が得意というわけでは無いのですが……エヴァン様がよろしければ、私の方から話しかけてもよろしいでしょうか?」

「いいのか? 俺は、君ともっと会話がしたい……だから、とても嬉しい」

 少しだけ口角を上げて、小さく頷くエヴァン様。ずっと無表情でしたから、僅かな変化でも簡単に気づけますわね。

「では早速……えーっと……その……きょ、今日はいいお天気ですわね」

「そうだな」

「……ご趣味は……」

「剣術の修行」

 ……あ、あら……? 私って、こんなに会話が苦手でしたっけ? 改めてなにか話題を出そうとすると、こんなにも思い浮かばないものですの!?

「失礼いたします。お食事をお持ちしました」

 何を話せばいいか考えている私の元に、助け舟を出すかの様に、夕食が運び込まれてきました。

 とってもおいしそうではありますけど……さすがに量が多すぎる気がしますわ。少なくとも、五人くらいは必要そうな量と種類がございます。

「なるべく栄養が取れそうなものと、胃に優しいものを優先的に用意させた。全部食べる必要は無いから、好きなものを食べるといい」

「…………」

「嫌いなものでもあったか?」

「いえ、好き嫌いはございません。その、驚いてしまって……どうしてそのような方針でご用意してくださったのでしょう?」

「さきほど傷を見せてもらった時、あまり栄養が取れていない人間の腕に見えた。だから、栄養が摂れて、かつ体に負担の少ない物を用意させた」

「そんなにお気遣いしてくださったのですか?」

「君は俺の……その……こ、婚約者、なのだからな。当然だ」

 一瞬だけフリーズしたエヴァン様は、ふいっと視線を逸らしました。

 ……私、猛烈に叫びたいことがございます。ですが、それをここで大声で叫んだら、ただの危ない人になってしまうので、心の中で……。

 ごほん……エヴァン様、ぜんっぜん恐ろしい人ではないじゃないですか!! なんですの、この気配りと優しさの塊は!? 実家の時の待遇と比べたら、天と地ほどの差がありますわよ!?

 それに、会話が苦手だったり、剣術が好きだったり、たまに出る微笑みが素敵だったり、とても人間味に溢れている、素晴らしいお方ではありませんか!

 はぁ、はぁ……私としたことが、一人で盛り上がってしまいました。せっかく用意してもらったお食事が冷めてしまう前に、いただきましょう。

「いただきます……このスープ、濃厚で美味しいですわ……! それに、こんなに具たくさんなのは初めてです! サラダもシャキシャキで、お肉は口に入れたら蕩けてしまいました!」

 ずっと粗末な食事しか与えられなかった私にとって、この豪華なお食事は、とてつもない衝撃を与えてきました。

「もぐもぐもぐ……!」

「誰も取らないから、ゆっくり食べるといい」

「は、はい。もぐもぐもぐ……」

 淑女たるもの、もっと優雅に食事をしなければいけないのですが、一秒でも早く食べろと、体全部から命令を受けているのか、食べる手が止められません。

 こんな素敵なものをいただけるなんて、いつぶりだろう……確か、ローランお兄様の家に行った時に振舞ってもらった以来かしら……あ、だめ……思い出したら、また涙が……。

「どうかしたのか?」

「いえ、目にゴミが入ってしまったようです」

「そうか」

 エヴァン様の前で泣いたら、絶対心配してくれるに違いない。
 ずっと虐げられていた私にとって、心配してもらえるのは本当に嬉しいけど、エヴァン様に余計な心配をかけさせたくないんですの。

「ふう、だいぶお腹いっぱいになりました……って、こんなに食べて……はしたないことをしてしまいました……!」

「いいじゃないか。いっぱい食べている時の君、とても幸せそうだった」

「は、恥ずかしいです……!」

 恥ずかしい姿を見せてしまいましたが、肯定的な雰囲気なのを見るに、印象が悪くなったわけでは無さそうですわね。ホッと一安心……じゃなくて。会話を続けませんと!!

「えーっと……そうだ、ご趣味が剣術とおっしゃってましたが、昔からしているのですが?」

「ああ。幼い頃から父から仕込まれていてな。今では生活の一部となっている。いや、答えておいてなんだが、これは趣味と呼べるものなのか……?」

 エヴァン様が疑問に思う気持ちも、わからなくはありません。一般的に考えると、剣術の修行を趣味と答える人は、少ないでしょう。

「剣術はお好きなのですか?」

「ああ。自分が強くなるのを実感すると、とても楽しい」

「それなら、趣味と言ってもよろしいのではないでしょうか?」

「……そうなのだろうか?」

「私は良いと思いますわ。とっても素敵な趣味ですもの。もしよければ、今度剣術の練習しているところを拝見しても?」

「もちろん」

「…………」

 ……また会話が途切れてしまいましたわ! 剣術とかで話を膨らませられれば良かったのですが、剣術なんて触れたことも無いので、初歩すらわかりませんの……。

 他に話題……話題……! わ~だ~い~!!

「……ふっ」

「急にどうされたのですか?」

「俺のために、必死に考えているシエルが、とても可愛らしくて……つい」

「かわっ!?」

 ビックリしすぎて、手に持っていたカップを落としそうになってしまいましたわ。

「すまない。つい思ったことを口にしてしまった。可愛いだなんて、子ども扱いされているように聞こえるよな」

「い、いえ! なんていうか、子供の時から直接褒められた経験が全く無いので、驚いてしまっただけですわ」

「君のご両親は、褒めてくれない人なのか?」

「ええ。姉のことばかり可愛がって、私のことは……いえ、この話はよしましょう。せっかく初めての二人の食事ですから、もっと楽しいお話をしましょう」

 その後、私はなんとか話題を振り絞ってお話しましたが、ついに話題が尽きてしまいました。
 それを見計らっていたかのように、エヴァン様がこほんっと咳ばらいを挟んでから、話し始めました。

「シエル、君が良ければ、過去の君に何があったか、話してくれないか?」

「私の過去ですか? きっとつまらない話になってしまいますわよ?」

「……君のことは、どんなことでも知りたいんだ」

 ……そこまで仰るなら……私が家でどんな扱いをされていたか、お話しませんとね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

【完結】転生の次は召喚ですか? 私は聖女なんかじゃありません。いい加減にして下さい!

金峯蓮華
恋愛
「聖女だ! 聖女様だ!」 「成功だ! 召喚は成功したぞ!」 聖女? 召喚? 何のことだ。私はスーパーで閉店時間の寸前に値引きした食料品を買おうとしていたのよ。 あっ、そうか、あの魔法陣……。 まさか私、召喚されたの? 突然、召喚され、見知らぬ世界に連れて行かれたようだ。 まったく。転生の次は召喚? 私には前世の記憶があった。どこかの国の公爵令嬢だった記憶だ。 また、同じような世界に来たとは。 聖女として召喚されたからには、何か仕事があるのだろう。さっさと済ませ早く元の世界に戻りたい。 こんな理不尽許してなるものか。 私は元の世界に帰るぞ!! さて、愛梨は元の世界に戻れるのでしょうか? 作者独自のファンタジーの世界が舞台です。 緩いご都合主義なお話です。 誤字脱字多いです。 大きな気持ちで教えてもらえると助かります。 R15は保険です。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...