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第八話 私に問題が?
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「シエル様、起きてくださいませ」
「……んん……」
とても優しく体を揺さぶられた感覚に反応して、何とも間抜けな声を漏らしながら目を開けました。
おかしいですわ。いつもなら、もっと叩き起こすようにされますのに。それに、こんな優しく声をかけられることも……。
「マッサージは終わりましたよ」
「マッサージ……?」
……ああ、そうでしたわ。私、エヴァン様の元に来て、それでお風呂に入れられて……エレンにマッサージまでしてもらっていたのでした。
まだ来たばかりの場所で、こんなに熟睡してしまうだなんて、自分でも驚きを隠せません。
「さきほど、お食事の準備が出来たと連絡が来ましたので、お召し物を着た後は、そちらにご案内いたします」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「感謝のお言葉、至極光栄でございます」
実家の使用人に感謝なんて述べても、適当にあしらわれるか、何か企んでいるんじゃないかと疑われていた私にとって、こんなに素直に感謝を受け取られるのは新鮮ですわ。
……改めて考えると、あの家にいる人間は、全員性根が腐っているのかもしれません。
「では、こちらでお召し物を替えていただきます。もちろん、お手伝いをさせていただきますね」
着替えなんて自分一人で出来ますのに、皆様が協力して私の着替えをし、髪を乾かしてセットまでしてくださいました。
手際の良さには驚きましたが、それ以上に今着させていただいた服も驚きでした。
下着も服も、どれも触り心地がとても滑らかで、着ているだけでとても心地が良いものなのです。
「着心地はいかがですか?」
「とても素晴らしいです」
「それはなによりです。主様から、この屋敷にある服で一番肌に優しいものを用意しろと指示があったので、そちらをご用意させていただきました」
……やっぱりエヴァン様は優しいお方なのですね。ただ、あまり感情が顔に出ない影響で表情が乏しいことと、口数が多くないのが災いして、勝手な憶測が噂となって流れていたということでしょう。
「それと、身だしなみについては、シエル様のクリッとした可愛らしい青い目に合わせて、髪もセットさせてもらいした」
「ありがとうございます。とっても素敵ですわ」
「では、シエル様のお部屋に戻りましょう」
「……あの、今日の食事は私一人なのでしょうか?」
「そのご予定でしたが、何かご希望がございますか?」
「できれば、エヴァン様といただきたいと思いまして……」
私は社交界の噂に騙されて、エヴァン様のことを誤解しておりました。
だから、もっとエヴァン様とお話をして、彼がどんなお方なのかを知るために、少しでも長く、同じ時間を共有したいと思いましたの。
あと……これは自分でもよくわからないのですが、エヴァン様ともっと一緒にいたいと思っておりますの。
「では、主様に確認してまいりますわ」
「お手数をおかけして、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。では失礼いたします」
エレンは再び綺麗なお辞儀をしてから、エヴァン様の元へと向かっていきました。
それを見送った後、残った他の使用人に連れられて、私は最初に訪れた部屋へと戻ってきました。
「ふう……」
広々としたお風呂に入ってマッサージまでしてもらって、体が軽くなっているのを感じながら、ベッドにポスンっと座りました。
「……お母様、ローランお兄様……一時はどうなることかと思いましたが、エヴァン様はとてもお優しいお方のようです。だから、安心して見守ってください」
私は、ボロボロになったぬいぐるみを抱き抱えながら、天国にいる大切な人に報告をしました。
すると、突然胸の奥で抑え込んでいた寂しさが溢れて、涙が零れそうになってました。
良くも悪くも、ここで良い待遇をしてもらえたおかげでしょう。ローランお兄様と二度と会えないと思えるほどの余裕が生まれ、悲しみが強くなってきました。
ですが、それと同時に、家族にされてきたことを思いだし、憎しみも強くなってきました。
「我ながら、悲しんだり恨んだり忙しいものですわね……もっと……もっと強くなりませんと」
何度も深呼吸をして心を落ち着かせていると、上の階からドスンッ! という、大きな音が聞こえてきました。
「な、なにごとですか!?」
明らかに普通に生活している中で、あんな大きな音はしないでしょう。
なにか事故でもあったのかもしれません……急いで確認しに行きましょう!
「一体何が……きゃっ!」
上り階段を目指して早歩きで歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまい、尻餅をついてしまいました。
私としたことが、急いでいて不注意になっておりましたわ。ぶつかったお方が怪我でもしていたら、それこそ大事です。
「……大丈夫か?」
「え、エヴァン様!?」
なんと、ぶつかった相手はエヴァン様でした。相変わらず表情は乏しいですが、ほんの少しだけ眉尻を下げながら、私の心配をしてくださっておりました。
「申し訳ございません、急いでまして……お怪我はございませんか?」
「毎日鍛えているから、この程度で怪我はしない。君こそ、大丈夫か?」
「はい。ちょっと尻餅をついてしまっただけです」
よかった、もし怪我でもさせてしまったら、初日から恩をあだで返す、愚かな女になってしまうところでしたわ。
「……た、立てるか?」
「まあ、お気遣いいただき、ありがとうございます」
エヴァン様は、一瞬だけためらいを見せながらも、スッと手を差し伸べてくださいました。
その逞しい手を掴むと、そのまま引っ張られる……ということはなく、何故か掴んだまま固まってしまいました。
「えっと、エヴァン様?」
「………………あ、ああ。すまない」
なんだか既視感のある数秒を過ごした後、エヴァン様に無事に引っ張ってもらって立ち上がることが出来ました。
先程もでしたが、どうしてエヴァン様は握手をすると固まってしまうのでしょうか? 何か考え込むほど、私の手に問題があるとか……?
「なにを急いでいたんだ?」
「上の階から、大きな音が聞こえたので、何かあったのかと思いまして」
「……すまない、それは俺だ」
「えぇ!?」
まさか、あの音の原因がエヴァン様だとは、思ってもみませんでしたわ……。
「自室で物を倒してしまってな。大きな音が出てしまったんだ。怪我人とかは出ていないから……気にしなくていい」
「まあ、そうでしたのね。怪我人がいないなら良かったです」
多少の怪我なら、私の力で治せるとはいえ、怪我人が出ないことに越したことはありません。
ただ、どうしてそんな大きな音が出る程の物を倒してしまったのか、少し気になりますわね。
「でも、どうしてそんなものを倒してしまったのですか?」
「あー……いや……そうだ、使用人から食事の誘いがあったと聞いたのだが」
「……? はい。せっかくご縁があって婚約したのですから、もっとあなたのことが知りたくて。その第一歩として、一緒に食事をと思った次第です」
「とても光栄だ。その返事をしようと思って、ちょうど君のところに行くところだったんだ。使用人には、俺の分の食事も君の部屋に運ぶように指示をしておいた」
「そうでしたのね。では私の部屋に行きましょう」
ふふっ、誰かと食事をすることを、こんなに楽しみに思うなんて初めてですわ。
家ではいつも私一人で粗末な食事をし、それ以外では、他の家とのお付き合いで会食をする程度で、仕方なくするものでしたから。
……今日はつらいことが沢山ありましたが、同時に良い意味で初めての経験も多い、なんとも密度の高い一日ですわね。
「……んん……」
とても優しく体を揺さぶられた感覚に反応して、何とも間抜けな声を漏らしながら目を開けました。
おかしいですわ。いつもなら、もっと叩き起こすようにされますのに。それに、こんな優しく声をかけられることも……。
「マッサージは終わりましたよ」
「マッサージ……?」
……ああ、そうでしたわ。私、エヴァン様の元に来て、それでお風呂に入れられて……エレンにマッサージまでしてもらっていたのでした。
まだ来たばかりの場所で、こんなに熟睡してしまうだなんて、自分でも驚きを隠せません。
「さきほど、お食事の準備が出来たと連絡が来ましたので、お召し物を着た後は、そちらにご案内いたします」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「感謝のお言葉、至極光栄でございます」
実家の使用人に感謝なんて述べても、適当にあしらわれるか、何か企んでいるんじゃないかと疑われていた私にとって、こんなに素直に感謝を受け取られるのは新鮮ですわ。
……改めて考えると、あの家にいる人間は、全員性根が腐っているのかもしれません。
「では、こちらでお召し物を替えていただきます。もちろん、お手伝いをさせていただきますね」
着替えなんて自分一人で出来ますのに、皆様が協力して私の着替えをし、髪を乾かしてセットまでしてくださいました。
手際の良さには驚きましたが、それ以上に今着させていただいた服も驚きでした。
下着も服も、どれも触り心地がとても滑らかで、着ているだけでとても心地が良いものなのです。
「着心地はいかがですか?」
「とても素晴らしいです」
「それはなによりです。主様から、この屋敷にある服で一番肌に優しいものを用意しろと指示があったので、そちらをご用意させていただきました」
……やっぱりエヴァン様は優しいお方なのですね。ただ、あまり感情が顔に出ない影響で表情が乏しいことと、口数が多くないのが災いして、勝手な憶測が噂となって流れていたということでしょう。
「それと、身だしなみについては、シエル様のクリッとした可愛らしい青い目に合わせて、髪もセットさせてもらいした」
「ありがとうございます。とっても素敵ですわ」
「では、シエル様のお部屋に戻りましょう」
「……あの、今日の食事は私一人なのでしょうか?」
「そのご予定でしたが、何かご希望がございますか?」
「できれば、エヴァン様といただきたいと思いまして……」
私は社交界の噂に騙されて、エヴァン様のことを誤解しておりました。
だから、もっとエヴァン様とお話をして、彼がどんなお方なのかを知るために、少しでも長く、同じ時間を共有したいと思いましたの。
あと……これは自分でもよくわからないのですが、エヴァン様ともっと一緒にいたいと思っておりますの。
「では、主様に確認してまいりますわ」
「お手数をおかけして、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらず。では失礼いたします」
エレンは再び綺麗なお辞儀をしてから、エヴァン様の元へと向かっていきました。
それを見送った後、残った他の使用人に連れられて、私は最初に訪れた部屋へと戻ってきました。
「ふう……」
広々としたお風呂に入ってマッサージまでしてもらって、体が軽くなっているのを感じながら、ベッドにポスンっと座りました。
「……お母様、ローランお兄様……一時はどうなることかと思いましたが、エヴァン様はとてもお優しいお方のようです。だから、安心して見守ってください」
私は、ボロボロになったぬいぐるみを抱き抱えながら、天国にいる大切な人に報告をしました。
すると、突然胸の奥で抑え込んでいた寂しさが溢れて、涙が零れそうになってました。
良くも悪くも、ここで良い待遇をしてもらえたおかげでしょう。ローランお兄様と二度と会えないと思えるほどの余裕が生まれ、悲しみが強くなってきました。
ですが、それと同時に、家族にされてきたことを思いだし、憎しみも強くなってきました。
「我ながら、悲しんだり恨んだり忙しいものですわね……もっと……もっと強くなりませんと」
何度も深呼吸をして心を落ち着かせていると、上の階からドスンッ! という、大きな音が聞こえてきました。
「な、なにごとですか!?」
明らかに普通に生活している中で、あんな大きな音はしないでしょう。
なにか事故でもあったのかもしれません……急いで確認しに行きましょう!
「一体何が……きゃっ!」
上り階段を目指して早歩きで歩いていると、曲がり角で誰かにぶつかってしまい、尻餅をついてしまいました。
私としたことが、急いでいて不注意になっておりましたわ。ぶつかったお方が怪我でもしていたら、それこそ大事です。
「……大丈夫か?」
「え、エヴァン様!?」
なんと、ぶつかった相手はエヴァン様でした。相変わらず表情は乏しいですが、ほんの少しだけ眉尻を下げながら、私の心配をしてくださっておりました。
「申し訳ございません、急いでまして……お怪我はございませんか?」
「毎日鍛えているから、この程度で怪我はしない。君こそ、大丈夫か?」
「はい。ちょっと尻餅をついてしまっただけです」
よかった、もし怪我でもさせてしまったら、初日から恩をあだで返す、愚かな女になってしまうところでしたわ。
「……た、立てるか?」
「まあ、お気遣いいただき、ありがとうございます」
エヴァン様は、一瞬だけためらいを見せながらも、スッと手を差し伸べてくださいました。
その逞しい手を掴むと、そのまま引っ張られる……ということはなく、何故か掴んだまま固まってしまいました。
「えっと、エヴァン様?」
「………………あ、ああ。すまない」
なんだか既視感のある数秒を過ごした後、エヴァン様に無事に引っ張ってもらって立ち上がることが出来ました。
先程もでしたが、どうしてエヴァン様は握手をすると固まってしまうのでしょうか? 何か考え込むほど、私の手に問題があるとか……?
「なにを急いでいたんだ?」
「上の階から、大きな音が聞こえたので、何かあったのかと思いまして」
「……すまない、それは俺だ」
「えぇ!?」
まさか、あの音の原因がエヴァン様だとは、思ってもみませんでしたわ……。
「自室で物を倒してしまってな。大きな音が出てしまったんだ。怪我人とかは出ていないから……気にしなくていい」
「まあ、そうでしたのね。怪我人がいないなら良かったです」
多少の怪我なら、私の力で治せるとはいえ、怪我人が出ないことに越したことはありません。
ただ、どうしてそんな大きな音が出る程の物を倒してしまったのか、少し気になりますわね。
「でも、どうしてそんなものを倒してしまったのですか?」
「あー……いや……そうだ、使用人から食事の誘いがあったと聞いたのだが」
「……? はい。せっかくご縁があって婚約したのですから、もっとあなたのことが知りたくて。その第一歩として、一緒に食事をと思った次第です」
「とても光栄だ。その返事をしようと思って、ちょうど君のところに行くところだったんだ。使用人には、俺の分の食事も君の部屋に運ぶように指示をしておいた」
「そうでしたのね。では私の部屋に行きましょう」
ふふっ、誰かと食事をすることを、こんなに楽しみに思うなんて初めてですわ。
家ではいつも私一人で粗末な食事をし、それ以外では、他の家とのお付き合いで会食をする程度で、仕方なくするものでしたから。
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