【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

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第六話 偽物の婚約の理由

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 今日も無事に仕事が終わり、お給料をもらって家まで帰ってきた。すると、そこには貧民街には全く似合わない、一台の馬車が止まっていた。

「おかえりなさいませ、セーラ様。お仕事、お疲れ様でした」
「は、はい。えっと……ライル家の方ですか?」
「はい。メイド長のエリカが用事で来られない為、ワタクシが代わりにお迎えに上がりました」

 全く知らない男性の方の説明で理解した私は、何度も小さく頷いて見せた。

 仕事に行く前もいなかったから、きっとあの後すぐに他の用事があって、今もそれをしているのだろう。

 それにしても、エリカさんってメイド長だったんだ……全然知らなかった。

「えっと、すぐ着替えてくるので……」
「かしこまりました」

 私は家の中に入ると、またあのドレスに身を包んでから、今日もらったお給料の一部を、ボロボロの麻袋の中に入れた。

 この麻袋には、コツコツと貯めた小銭が沢山入っている。このお金がもっと溜まったら、私はとある事に使おうと思っている。

 それは、出稼ぎに行ったきり帰ってこない、お父さんの所に行く為の旅費だ。

 ――お父さんは五年前、ここからとても遠くにある、炭鉱の町に出稼ぎに行った。

 当時から貧乏だったうえに、お母さんが既に病気をしていて、その薬代でお金がかかっていた。だから、この辺りで普通に働くだけでは、生活が出来なくなったから、お金がたくさんもらえる仕事がある、炭鉱に行ったの。

 出稼ぎに行ってから数年は、お金や手紙が送られて来たけど、いつからかその数が少なくなり、そして……全く送られてこなくなった。

 私の方から、何度も手紙を送ったけど、その返事も来なかった。

 そして……それから間もなく、お母さんが病気で亡くなり、私は孤独となった。

 ……もしかしたら、お父さんも既に亡くなってるかもしれない。それでも、生きてる可能性に賭けて、お父さんに直接会いに行きたいの。

 その為に貯め始めたお金だけど……遠く離れた炭鉱に行く為の旅費は、中々貯まらない。それでも、諦めるつもりは無い。

「……あっ、早く行かないと……」

 もう夜中だというのに、これ以上待たせるのはあまりにも申し訳ない。早く準備をしなきゃ。

「あの、お待たせしました」
「では、お乗りくださいませ」

 ハンカチと麻袋だけを持った私は、使用人の男性の手を借りて馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと屋敷に向かって進み始めた。

 なんか疲れたなぁ……いつもとやった事は変わらないはずなのに、今日は凄く疲れてる。きっと、マルク様の件や、偽物の婚約者の件で、精神的に疲れてちゃったのだろう。

「セーラ様、屋敷に食事が用意されてありますが、どうされますか?」
「あ、大丈夫です……いつもまかないを食べてるので……」
「そうでしたか。大変失礼いたしました」
「い、いえ。用意してくれたのに食べられなくて、ごめんなさい」

 うぅ、所詮私は偽物の婚約者だというのに、こんなに良くしてもらえるなんて、嬉しさよりも、申し訳なさの方がはるかに強い。

 何か、ライル家の人達に返せる事ってないのかな……そんな事を思いながらぼんやりとしていたら、私はいつの間にか眠りについてしまっていた。


 ****


■ヴォルフ視点■

「ヴォルフ様、ちゃんと反省してるんですか?」
「あ、ああ……」

 セーラを招いてから初めての夜。一仕事を終えて自室に戻ってきた僕は、メイド長のエリカに怒られていた。

「全く、まさか事前に決めていた偽物の婚約じゃなくて、あんなにストレートに、本物と勘違いされそうな婚約を申し出るとは、思いもしませんでした」

 深く溜息を吐くエリカ。一方の僕は、自分が完全に悪い為、何も言い返す事が出来なかった。

「私がフォローしたから何とかなったものの……突然すぎて、苦し紛れもいいところでした。それに、随所に怪しまれる発言もされていましたし……」

 全くもってその通りだ。反論する余地がない。

「本当にすまなかった。あんなに馬鹿にされてしまったセーラを助けたいって気持ちと、ずっと好きだった気持ちが、会った瞬間に爆発してしまってね……」
「大衆の前で貶されるのは、本当に可哀想でしたし、ヴォルフ様がセーラ様の邪魔をしないように、ずっと恋心を抑え込んで、婚約を祝福しておりましたものね」

 ……今思い出しても腹立たしい。あの馬鹿王子め……セーラをずっと騙していたのもそうだが、何もあんな大衆の前で馬鹿にするなんて、酷いじゃないか。王族だからといって、何でも許される訳ではない。

「しかし、一時の感情に従って秘密がバレてしまったら、あなたの掴んだ夢を捨てるだけではなく、セーラ様を路頭に迷わせていた可能性だってあるのですよ」
「それは……嫌だな。僕の夢がどうこうは自業自得だが、セーラに迷惑はかけたくない」
「なら、自重してくださいませ」

 エリカの言葉に、僕は深く頷いて見せる。

 一応エリカは僕に仕えるメイドの長だが、幼い頃から付き合いがあるからか、姉と呼んだ方が近い存在だ。だからなのか、時々こうして主従関係なんてお構いなしに、説教をされる事がある。

「だがエリカ……この溢れ出る恋心はどうすればいい? セーラを見てるだけで、胸が高鳴り、体が熱くなるのがわかるんだ! 特にあの笑顔が最高だ! 本を前にした時のあの嬉しそうな表情、エリカも見ただろう!?」
「ヴォルフ様、落ち着いてくださいませ。率直に申し上げて、気持ち悪いですわ」
「さすがに辛辣すぎじゃないか!?」

 ……いくら姉のような存在とはいえ、さすがに今の言葉は傷ついたぞ……もう少しオブラートに包むという事を覚えてほしい……。

「そういえば、以前から思っていたのですが、どうして偽物の婚約者を申し込もうと思ったのですか? 助けたい気持ちや恋心を考えたら、すぐに式を上げてもおかしくないと思うのですが」
「いくらなんでも、それは気が早すぎないかな?」

 そういえば、エリカにはきちんと説明をしていなかった。良い機会だし、説明しておこう。

「僕はセーラの事を知っているが、彼女はちゃんとした僕を知らないじゃないか。それでいきなり結婚は、迷惑に思うかもしれないだろう? だから、ちゃんと知ってもらう為に、まずは偽物として申し込もうと思ったんだ」
「……はい? あんな感情任せの行動を行えたのに、なんでそんなところで変に慎重なのですか……? 私には理解いたしかねます」
「こ、恋心は複雑なんだ!」
「はぁ……ヴォルフ様がそれでよろしいのなら、私はそのお考えを尊重いたしますが……」

 心底呆れているエリカには、きっとこの複雑な気持ちは理解できないだろう。なにせ、当事者の僕ですら、ちゃんとコントロール出来ていないのだから。

「とにかく、気を付けてくださいませ」
「ああ、わかった。さて、そろそろ僕は休むとするよ」
「かしこまりました。明日は早朝から会議と乗馬、パーティーと続きます。それと、卸売業者から連絡が来ていたので、その対応も必要かと」

 ……いつもの事だが、ほとんど寝ている時間は無さそうだ。それに、セーラとゆっくりするのも不可能だろう。

 でも、これも僕に課せられた大事な仕事だ。ライル家を守る為にも、そして僕の夢をこれからも続ける為にも、どれも手を抜かないようにしないとね。
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