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第十一話 大繁盛で目が回ります!
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「姉ちゃ~ん、こっちに注文きてくれよ~」
「た、ただいま~!」
いつの間にか、あれよあれよとお客さんがやって来て……私がここで勤め始めてから、初めての満席になった。
それは大変喜ばしい事だけど、当然注文の量は増えるし、提供の数も増える。お皿も片付けなきゃいけないし、片付けたお皿を洗うのもしないといけない。
結果……私は既に少しパニックになっていた。
「セーラちゃん、これは俺達のじゃないぜ?」
「あ、それウチの~」
「え、ああああ!? ごめんなさい!!」
「気にすんなって! 落ち着いてけよ!」
「人多いもんねぇ。応援してるよ~」
「うう、ありがとうございます」
お客さんの優しさに感動しながら、ちゃんとした所に給仕を終えた私は一度厨房へと戻ってきた。
「セーラ」
「は、はい……ごめんなさい、間違えちゃって……」
「ミスは誰でもある。だから……慌てるな、急げ」
「それって同じじゃないですか?」
「全然違う。慌てるのは、周りが見えてない。急ぐのは、周りが見えてる状態で手早く動く事だ。あくまで持論だがな」
言葉として理解するのは容易いけど、それを実践するのはかなり至難の業だろう。
でも、それを意識するだけでも、少しはミスをしなくなりそうだ。慌てない、慌てない……でも急ぐ……急ぐ……よしっ。
「店員さーん、注文したいんだけどー?」
「客が呼んでる。行ってこい」
「はい、行ってきます!」
私は元気よくマスターに返事をしてから、勢いよく厨房を後にした。
自信なんて無いけど、私がやらなかったらお店は回らないんだ。頑張れ私……!
****
「ふにゃ……」
最後のお客さんの会計を終え、今日の接客が完全に終わった私は、ホールの椅子に腰をかけながら、変な声を漏らした。
や、やっと終わった……いつもの五倍は働いた気がする……常に満席状態だったし、お客さんも結構入れ替わりが激しかったし……。
「……そういえば、どうしてマスターは急に新メニューを開発したり、期間限定で値下げをしたんだろう……?」
今までマスターは、常連さんを大事にするためか、特に変わった事をしてこなかった。だから私も、このまま変わらないと思っていた。
だから、マスターが新しい事に踏み出した事が、正直驚きだった。マスターの料理やお酒の味が広まる事は、とても喜ばしい事だけどね。
「セーラ、今日はご苦労だった。後は俺がやっておくから、先に帰れ」
「そんな、私も後片付けをします!」
「いや、俺の想像よりも忙しくなった。だから、お前も疲れてるだろう?」
「それを言うなら、マスターだって疲れてるじゃないですか……ずっと厨房で仕事してましたし」
厨房というのは、想像以上に忙しいし、なにより凄く暑い。目の前でずっと火を使っているんだから、当たり前といえば当たり前だ。
そんな中で、絶え間なく来る注文に応えて料理をするのは、とんでもなく疲弊するに違いない。
「……セーラ……わかった。一緒に皿洗いを頼む」
「わかりました!」
私はテーブルの上に置かれたままのお皿や樽ジョッキを厨房に戻すと、丁寧に皿洗いを始める。
これが洗い終わったら、迎えに来てくれているライル家の人に一声かけないと。いつも迎えに来てもらってるのに、変にいつもより待たせて心配をかけるのは、あまりにも申し訳なさすぎるもんね。
そうだ。せっかくマスターとゆっくり話せる時間だし、さっき思った事を聞いてみよう。
「マスター」
「なんだ」
「どうして急にいつもと違う事をしたんですか? 新メニューとか、値下げとか……」
「……セーラは知らなくても良い事だ」
「そ、そうなんですか……」
うっ、聞かない方が良かったかな……ちょっと返事に困ってそうだったし……。
「……皿洗いの途中で済まないが、忘れないうちに今日の給料を渡しておく」
「あ、ありがとうございます……って、えぇ!?」
マスターから受けとった麻袋は、中のお金に押されてパンパンになっていた。
あ、明らかに多すぎる! いつもの倍……いや、下手したら三倍以上は入ってる!
「あの、量がおかしくないですか!?」
「なにがだ? 今日はいつもより忙しかったんだ。当然だろう」
「それにしたって……!」
「俺はちゃんと働いた人間に、正当な報酬を渡しているだけだ。お前が受け取らないと、俺が困る」
「うぅ……」
駄目だ、これは何を言っても聞き入れてもらえそうもない。そう思った私は、差し出された麻袋を受け取った。
「まだ数日間は忙しくなると思うが、よろしく頼む」
「は、はい」
そっか、新メニューはこれからも続いていくし、値引きもまだ続くのだから、忙しくなる可能性は高い。
正直、倒れたりしないか不安だけど、弱音は吐いていられない。マスターの大切なお店を繁盛させるためにも、もっと頑張らないと!
「よーっし、お皿をピカピカにして、次のお客さんが気持ちよく使ってもらえるようにしなきゃ……!」
「気合を入れるのはいいが……」
「……あっ……!」
変に力が入り過ぎてしまったせいか、私の手からするりと落ちた皿は、流しに勢いよく落ちてしまい……見事に割れてしまった。
「あ、あの……ご、ごめんなさい……私、いきなり迷惑を……」
「気にするな。手を切ってはいないか?」
「大丈夫です……」
「そうか。俺が片付けるから、退いてくれ」
「ごめんなさい……」
……私、なにやってるの? お店の為にとか思った矢先に、いきなり迷惑をかけるとか、話にならない。自分の間抜けっぷりが恨めしい……。
「……いたっ」
「ど、どうしたんですか!?」
「いや、少し指を切っただけだ」
「見せてください!」
特に気にする素振りを見せないマスターの手を無理やり引っ張ると、その指からは赤い一筋の液体が流れていた。
「私のせいで……すぐに手当てをしますから!」
「そこまでする必要は無い。放っておけば治る」
「駄目です! えっと、手当の道具は確か倉庫に……」
ああもう、私がドジで間抜けなせいで、マスターに怪我までさせて……本当に私ってば、マスターにもヴォルフ様にも……ううん、沢山の人に迷惑をかけっぱなしだ……。
こんなんじゃ駄目だ。もっと成長しないと、もっと沢山の迷惑をかけてしまう。
でも、どうやって成長をすればいいのだろう……そもそも、何かする事でドジとか間抜けを治す事って出来るのだろうか……?
「た、ただいま~!」
いつの間にか、あれよあれよとお客さんがやって来て……私がここで勤め始めてから、初めての満席になった。
それは大変喜ばしい事だけど、当然注文の量は増えるし、提供の数も増える。お皿も片付けなきゃいけないし、片付けたお皿を洗うのもしないといけない。
結果……私は既に少しパニックになっていた。
「セーラちゃん、これは俺達のじゃないぜ?」
「あ、それウチの~」
「え、ああああ!? ごめんなさい!!」
「気にすんなって! 落ち着いてけよ!」
「人多いもんねぇ。応援してるよ~」
「うう、ありがとうございます」
お客さんの優しさに感動しながら、ちゃんとした所に給仕を終えた私は一度厨房へと戻ってきた。
「セーラ」
「は、はい……ごめんなさい、間違えちゃって……」
「ミスは誰でもある。だから……慌てるな、急げ」
「それって同じじゃないですか?」
「全然違う。慌てるのは、周りが見えてない。急ぐのは、周りが見えてる状態で手早く動く事だ。あくまで持論だがな」
言葉として理解するのは容易いけど、それを実践するのはかなり至難の業だろう。
でも、それを意識するだけでも、少しはミスをしなくなりそうだ。慌てない、慌てない……でも急ぐ……急ぐ……よしっ。
「店員さーん、注文したいんだけどー?」
「客が呼んでる。行ってこい」
「はい、行ってきます!」
私は元気よくマスターに返事をしてから、勢いよく厨房を後にした。
自信なんて無いけど、私がやらなかったらお店は回らないんだ。頑張れ私……!
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「ふにゃ……」
最後のお客さんの会計を終え、今日の接客が完全に終わった私は、ホールの椅子に腰をかけながら、変な声を漏らした。
や、やっと終わった……いつもの五倍は働いた気がする……常に満席状態だったし、お客さんも結構入れ替わりが激しかったし……。
「……そういえば、どうしてマスターは急に新メニューを開発したり、期間限定で値下げをしたんだろう……?」
今までマスターは、常連さんを大事にするためか、特に変わった事をしてこなかった。だから私も、このまま変わらないと思っていた。
だから、マスターが新しい事に踏み出した事が、正直驚きだった。マスターの料理やお酒の味が広まる事は、とても喜ばしい事だけどね。
「セーラ、今日はご苦労だった。後は俺がやっておくから、先に帰れ」
「そんな、私も後片付けをします!」
「いや、俺の想像よりも忙しくなった。だから、お前も疲れてるだろう?」
「それを言うなら、マスターだって疲れてるじゃないですか……ずっと厨房で仕事してましたし」
厨房というのは、想像以上に忙しいし、なにより凄く暑い。目の前でずっと火を使っているんだから、当たり前といえば当たり前だ。
そんな中で、絶え間なく来る注文に応えて料理をするのは、とんでもなく疲弊するに違いない。
「……セーラ……わかった。一緒に皿洗いを頼む」
「わかりました!」
私はテーブルの上に置かれたままのお皿や樽ジョッキを厨房に戻すと、丁寧に皿洗いを始める。
これが洗い終わったら、迎えに来てくれているライル家の人に一声かけないと。いつも迎えに来てもらってるのに、変にいつもより待たせて心配をかけるのは、あまりにも申し訳なさすぎるもんね。
そうだ。せっかくマスターとゆっくり話せる時間だし、さっき思った事を聞いてみよう。
「マスター」
「なんだ」
「どうして急にいつもと違う事をしたんですか? 新メニューとか、値下げとか……」
「……セーラは知らなくても良い事だ」
「そ、そうなんですか……」
うっ、聞かない方が良かったかな……ちょっと返事に困ってそうだったし……。
「……皿洗いの途中で済まないが、忘れないうちに今日の給料を渡しておく」
「あ、ありがとうございます……って、えぇ!?」
マスターから受けとった麻袋は、中のお金に押されてパンパンになっていた。
あ、明らかに多すぎる! いつもの倍……いや、下手したら三倍以上は入ってる!
「あの、量がおかしくないですか!?」
「なにがだ? 今日はいつもより忙しかったんだ。当然だろう」
「それにしたって……!」
「俺はちゃんと働いた人間に、正当な報酬を渡しているだけだ。お前が受け取らないと、俺が困る」
「うぅ……」
駄目だ、これは何を言っても聞き入れてもらえそうもない。そう思った私は、差し出された麻袋を受け取った。
「まだ数日間は忙しくなると思うが、よろしく頼む」
「は、はい」
そっか、新メニューはこれからも続いていくし、値引きもまだ続くのだから、忙しくなる可能性は高い。
正直、倒れたりしないか不安だけど、弱音は吐いていられない。マスターの大切なお店を繁盛させるためにも、もっと頑張らないと!
「よーっし、お皿をピカピカにして、次のお客さんが気持ちよく使ってもらえるようにしなきゃ……!」
「気合を入れるのはいいが……」
「……あっ……!」
変に力が入り過ぎてしまったせいか、私の手からするりと落ちた皿は、流しに勢いよく落ちてしまい……見事に割れてしまった。
「あ、あの……ご、ごめんなさい……私、いきなり迷惑を……」
「気にするな。手を切ってはいないか?」
「大丈夫です……」
「そうか。俺が片付けるから、退いてくれ」
「ごめんなさい……」
……私、なにやってるの? お店の為にとか思った矢先に、いきなり迷惑をかけるとか、話にならない。自分の間抜けっぷりが恨めしい……。
「……いたっ」
「ど、どうしたんですか!?」
「いや、少し指を切っただけだ」
「見せてください!」
特に気にする素振りを見せないマスターの手を無理やり引っ張ると、その指からは赤い一筋の液体が流れていた。
「私のせいで……すぐに手当てをしますから!」
「そこまでする必要は無い。放っておけば治る」
「駄目です! えっと、手当の道具は確か倉庫に……」
ああもう、私がドジで間抜けなせいで、マスターに怪我までさせて……本当に私ってば、マスターにもヴォルフ様にも……ううん、沢山の人に迷惑をかけっぱなしだ……。
こんなんじゃ駄目だ。もっと成長しないと、もっと沢山の迷惑をかけてしまう。
でも、どうやって成長をすればいいのだろう……そもそも、何かする事でドジとか間抜けを治す事って出来るのだろうか……?
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