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第二十一話 絶対に許せない!
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気がつくと、私は真っ暗な空間に立っていた。どこを見ても黒しかないせいで、右も左も、そもそも立っているのかすらわからない。
どうして私はこんな所にいるのだろうか? 確か私は、お父さんに会いに行って、それで邪魔者扱いされて……ヴォルフ様とレイラさんに慰めてもらって……。
「……私、お父さんに捨てられちゃったんだなぁ……」
あの時のお父さんの拒絶の言葉は、鮮明に頭に焼き付いている。耳を塞いでも、目を閉じても、あの時の光景が……言葉が蘇ってくる。
「どうして……なんでこうなるの……? お母さん、助けてよぉ……」
お母さん。その単語を出した瞬間に、辺りの黒は一瞬にしてかき消えた。その代わりに、私は見覚えのある場所に立っていた。
「あれ、ここ……私の家?」
見覚えがあるはずだ。だってそこは、見慣れたボロボロの家だったのだから。
しかし、そこにはいるはずがない人がいた。それは……ベッドの上で苦しそうに息を乱すお母さんと、それを心配そうに見ている幼い私の姿があった。
これ……もしかして私の過去? それにこの光景……忘れたくても絶対に忘れられない、あの日の記憶だ。
『……最後の時間を、あの人と……そしてあなたと……三人で過ごしたかった……』
『やだ、そんな事言わないでよ! お母さん!』
そう、この光景は……お母さんが亡くなった日だ。貧乏なせいでまともに薬も変えず、お母さんはどんどんと弱っていって……この日に天に旅立った。
『ごめんね……ごめんねセーラ……こんな駄目なお母さんで……』
『駄目なんかじゃないよ! お母さんは、世界で一番大好きなお母さんだよ!』
ああ、そうだ。私はお母さんが大好きだ。調子が悪いのに私やお父さんの心配ばかりをするし、たまに調子が良いと、自分の事なんて後回しで私達の事をやってしまう……そんな優しいお母さんが、大好きだ。
『あぁ……本当にあなたは優しい子だわ……セーラ……私の自慢の子……どうか、幸せ、に……』
『お母さん? お母さん! 目を開けてよ! いやぁぁぁぁぁ!!!!』
……私の必死の叫びも、結局お母さんにはもう届かなかった。私は……現実を受け入れられず、ただ冷たくなっていくお母さんの前で、泣くじゃ来る事しか出来なかった。
お母さんは、ずっと私とお父さんの事を心配し、自分のせいで苦労を掛けていると心を痛めていた。そんなお母さん……あの人は裏切った。
そんなの……そんなの……あんまりだよぉ……!!
****
「うぅん……」
あれ、私……さっきまで自分の過去を見ていたのに、いつの間にか知らない天井を見上げてる……どうして……?
「ううん、知らないなんて事はないか……宿屋の天井だ」
そっか、私……夢から目覚めたんだ。まさかあんな夢を見てしまうなんて……ただでさえ悲しい気持ちで眠ったのに、更に悲しくなってしまった。
「なんか重い……え、ヴォルフ様?」
体が変に重いと思ったら、上半身だけベッドに乗せた状態で、ヴォルフ様が寝息を立てていた。
い、一体何がどうしてこうなってるの? 昨日は確かに一緒にいたけど、ヴォルフ様がどうしてまだここにいるの??
「ヴォ、ヴォルフ様。こんな所で寝ていたら風邪を引きますよ!」
「あ、あれ……僕、寝てしまっていたかい?」
「はい。ごめんなさい、気持ちよく寝ているところを起こしてしまって……」
「いや、僕こそすまなかった。朝日が昇るまでは意識があったんだが……」
「え、ずっと一緒にいてくれたんですか!?」
「当然だろう? 今のセーラを放っておくなんて出来ないさ」
本当にこの人は、どれだけ優しいのだろうか。いつも思ってるけど、私は所詮偽物の婚約者だというのに、この人はどうして優しくしてくれるの?
……そんなに優しくされちゃうと、いけないとわかってるのに……意味が無いとわかってるのに、好きになっちゃうよ。
「セーラ、起きて早々ですまないが、君に聞きたい事があるんだ」
「私に? なんでしょう……私に答えられる事だといいんですけど……」
「セーラは、これからどうしたい?」
「えっ……?」
「君のお父上は、君を裏切った。その事実を知った君は……どうしたい? お父上を説得する? それとも帰って泣き寝入りをする?」
「私は……」
……お父さんは、私とお母さんを裏切った。それだけじゃない……私の事を、もう家族じゃないように扱った。そんな人を……私は……。
「……今日、夢を見たんです。お母さんが亡くなる前に……お父さんに会いたかったって言ってる夢です。お母さんは、ずっとお父さんを信じていたのに……それを裏切った! 私は……お父さんが許せないです!」
「そっか……僕もね、彼には腑が煮えくり返っていてね。彼に相応の罰を与えるつもりだ」
「罰……」
「セーラに酷い事をしたからね……彼を許す事が出来なさそうなんだ」
こんなに怒った顔をするヴォルフ様を見るのは初めてだ。それくらい、私の為に怒ってくれているんだ……。
「さあ、そうと決まれば出かけられるように準備をしておこう。今、エリカがお父上と一緒にいた女性について調べてもらってるんだ」
「それは、どうしてですか?」
「昨晩の彼女の様子からして、お父上が既婚だというのを知らなかったようだ。それに、お父上を信じられていない様子だった。だから、事情を話せば一緒に動いてくれるかもしれないだろう?」
なるほど、言われてみれば確かに隣にいた女の人は、私を見てビックリしていたような感じだったもんね。
「ただいま戻りました」
「噂をすればだね。おかえり、どうだった?」
「はい、彼女が何者なのか判明いたしました。彼女は――」
エリカさんが調べてきてくれた情報を聞いた私は、正直少しビックリした。でも、出会いなんてどこに転がってるかわからないのだから、そういう人と親密な関係になってもおかしくないよね。
「なるほど、少々予想外だったが……何とかなりそうだね。それじゃあ僕は一旦部屋に戻って準備をしてくるよ」
「わかりました。また後で……」
「セーラ様、身支度のお手伝いはお任せください」
情報収集から戻ってきたばかりなのに、私の為に手伝ってくれるエリカさんに感謝を伝えてながら、私は身支度を終えた。
その後、ヴォルフ様と合流をして、とある場所を目指して歩きだした。
その場所とは……この町全体を仕切っている、男爵の爵位を持つ方々が住む屋敷だった――
どうして私はこんな所にいるのだろうか? 確か私は、お父さんに会いに行って、それで邪魔者扱いされて……ヴォルフ様とレイラさんに慰めてもらって……。
「……私、お父さんに捨てられちゃったんだなぁ……」
あの時のお父さんの拒絶の言葉は、鮮明に頭に焼き付いている。耳を塞いでも、目を閉じても、あの時の光景が……言葉が蘇ってくる。
「どうして……なんでこうなるの……? お母さん、助けてよぉ……」
お母さん。その単語を出した瞬間に、辺りの黒は一瞬にしてかき消えた。その代わりに、私は見覚えのある場所に立っていた。
「あれ、ここ……私の家?」
見覚えがあるはずだ。だってそこは、見慣れたボロボロの家だったのだから。
しかし、そこにはいるはずがない人がいた。それは……ベッドの上で苦しそうに息を乱すお母さんと、それを心配そうに見ている幼い私の姿があった。
これ……もしかして私の過去? それにこの光景……忘れたくても絶対に忘れられない、あの日の記憶だ。
『……最後の時間を、あの人と……そしてあなたと……三人で過ごしたかった……』
『やだ、そんな事言わないでよ! お母さん!』
そう、この光景は……お母さんが亡くなった日だ。貧乏なせいでまともに薬も変えず、お母さんはどんどんと弱っていって……この日に天に旅立った。
『ごめんね……ごめんねセーラ……こんな駄目なお母さんで……』
『駄目なんかじゃないよ! お母さんは、世界で一番大好きなお母さんだよ!』
ああ、そうだ。私はお母さんが大好きだ。調子が悪いのに私やお父さんの心配ばかりをするし、たまに調子が良いと、自分の事なんて後回しで私達の事をやってしまう……そんな優しいお母さんが、大好きだ。
『あぁ……本当にあなたは優しい子だわ……セーラ……私の自慢の子……どうか、幸せ、に……』
『お母さん? お母さん! 目を開けてよ! いやぁぁぁぁぁ!!!!』
……私の必死の叫びも、結局お母さんにはもう届かなかった。私は……現実を受け入れられず、ただ冷たくなっていくお母さんの前で、泣くじゃ来る事しか出来なかった。
お母さんは、ずっと私とお父さんの事を心配し、自分のせいで苦労を掛けていると心を痛めていた。そんなお母さん……あの人は裏切った。
そんなの……そんなの……あんまりだよぉ……!!
****
「うぅん……」
あれ、私……さっきまで自分の過去を見ていたのに、いつの間にか知らない天井を見上げてる……どうして……?
「ううん、知らないなんて事はないか……宿屋の天井だ」
そっか、私……夢から目覚めたんだ。まさかあんな夢を見てしまうなんて……ただでさえ悲しい気持ちで眠ったのに、更に悲しくなってしまった。
「なんか重い……え、ヴォルフ様?」
体が変に重いと思ったら、上半身だけベッドに乗せた状態で、ヴォルフ様が寝息を立てていた。
い、一体何がどうしてこうなってるの? 昨日は確かに一緒にいたけど、ヴォルフ様がどうしてまだここにいるの??
「ヴォ、ヴォルフ様。こんな所で寝ていたら風邪を引きますよ!」
「あ、あれ……僕、寝てしまっていたかい?」
「はい。ごめんなさい、気持ちよく寝ているところを起こしてしまって……」
「いや、僕こそすまなかった。朝日が昇るまでは意識があったんだが……」
「え、ずっと一緒にいてくれたんですか!?」
「当然だろう? 今のセーラを放っておくなんて出来ないさ」
本当にこの人は、どれだけ優しいのだろうか。いつも思ってるけど、私は所詮偽物の婚約者だというのに、この人はどうして優しくしてくれるの?
……そんなに優しくされちゃうと、いけないとわかってるのに……意味が無いとわかってるのに、好きになっちゃうよ。
「セーラ、起きて早々ですまないが、君に聞きたい事があるんだ」
「私に? なんでしょう……私に答えられる事だといいんですけど……」
「セーラは、これからどうしたい?」
「えっ……?」
「君のお父上は、君を裏切った。その事実を知った君は……どうしたい? お父上を説得する? それとも帰って泣き寝入りをする?」
「私は……」
……お父さんは、私とお母さんを裏切った。それだけじゃない……私の事を、もう家族じゃないように扱った。そんな人を……私は……。
「……今日、夢を見たんです。お母さんが亡くなる前に……お父さんに会いたかったって言ってる夢です。お母さんは、ずっとお父さんを信じていたのに……それを裏切った! 私は……お父さんが許せないです!」
「そっか……僕もね、彼には腑が煮えくり返っていてね。彼に相応の罰を与えるつもりだ」
「罰……」
「セーラに酷い事をしたからね……彼を許す事が出来なさそうなんだ」
こんなに怒った顔をするヴォルフ様を見るのは初めてだ。それくらい、私の為に怒ってくれているんだ……。
「さあ、そうと決まれば出かけられるように準備をしておこう。今、エリカがお父上と一緒にいた女性について調べてもらってるんだ」
「それは、どうしてですか?」
「昨晩の彼女の様子からして、お父上が既婚だというのを知らなかったようだ。それに、お父上を信じられていない様子だった。だから、事情を話せば一緒に動いてくれるかもしれないだろう?」
なるほど、言われてみれば確かに隣にいた女の人は、私を見てビックリしていたような感じだったもんね。
「ただいま戻りました」
「噂をすればだね。おかえり、どうだった?」
「はい、彼女が何者なのか判明いたしました。彼女は――」
エリカさんが調べてきてくれた情報を聞いた私は、正直少しビックリした。でも、出会いなんてどこに転がってるかわからないのだから、そういう人と親密な関係になってもおかしくないよね。
「なるほど、少々予想外だったが……何とかなりそうだね。それじゃあ僕は一旦部屋に戻って準備をしてくるよ」
「わかりました。また後で……」
「セーラ様、身支度のお手伝いはお任せください」
情報収集から戻ってきたばかりなのに、私の為に手伝ってくれるエリカさんに感謝を伝えてながら、私は身支度を終えた。
その後、ヴォルフ様と合流をして、とある場所を目指して歩きだした。
その場所とは……この町全体を仕切っている、男爵の爵位を持つ方々が住む屋敷だった――
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