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第四十話 手札は揃った!
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■ラドバル視点■
セーラと部屋の前で別れた私は、何十年振りかに国王陛下の私室に入る。そこは、私が知っている頃とほとんど変わりがない。この光景を見ているだけで、激動の過去を思い出させる。
「おお、久しいなラドバル!」
「お久しぶりでございます、国王陛下。ご子息様のお誕生日だというのに、お時間を取っていただき、誠に恐縮でございます」
私に気づいて笑顔で出迎えてくれた国王陛下に、膝をついて深々と頭を下げると、肩に国王陛下の手が優しく乗った。
「お主はワシを幾度も助けてくれた友ではないか。突然の面会の申し出は普通なら断るが、お主の為ならパーティーを抜け出すのだって厭わない」
「しかし……」
「お主は変わらずワシの前では堅物だな。本当はもっと気さくな男だと知っておるのだぞ?」
「それはあくまで家族や同僚、部下の前だけでございます」
「それは残念だ。さて、本題に入ろう。座りたまえ」
「失礼致します」
国王陛下の対面にあったソファに腰を降ろすと、国王陛下はふぅ……と深く息を漏らしてから、口を開いた。
「今回の件、マルクが迷惑をかけて申し訳なかった。心より詫びさせてほしい」
「頭を上げてください、陛下。ところで、手紙で送らせていただいた調査の方は?」
「手紙……? なんの事だ?」
「数日前に国王陛下に送らせていただいた手紙です」
「……?」
どういう事だ? 国王陛下は嘘をつくのが苦手なお方だ。この様子では、本当に手紙の事を知らなかったのだろう。
「手紙の内容とは?」
「今回の件で調べてもらいたいという旨です」
「それは丁度良かった。実は数日前に、息子のフェラートから、今回の一件や、マルクの疑惑を聞いてすぐに色々調べさせた」
……何故フェラート王子が国王陛下に? 手紙の件も疑問ではあるが、調べていただけたのだから、わざわざそれを指摘して話を引き延ばす必要はあるまい。
「その結果がこれだ」
国王陛下から渡された二つの資料には、ヴォルフが経営している酒場の売上や納税した事についてが書かれていた。
だが、少々おかしい部分がある。渡された二つの書類は同じ内容に見えるが、納税の部分が明らかに数字が違う。
「見ての通りだ。明らかに数字が変えられている」
「確かにそうですね。これほど早く見つかるとは、驚いております」
「この件を聞いてから、全力で調べさせたのでな」
財務班も色々な業務がある以上、この件を調べるのに費やした時間を、別の業務に充てる事が出来ただろう。彼らには申し訳ない事をしてしまったな。
「マルクがこのような問題を起こす人間になってしまったのも、全てはワシの責任だ。しっかり教育が出来ず、ワガママに育ってしまった」
「国王陛下は多忙なお方です。致し方ないかと」
「しかし……いや、今はそのような後悔をしている場合ではないな……そうだ。実は、調査の途中で、ヴォルフの店に放火した犯人も見つけたのだ。入りたまえ」
国王陛下に呼ばれて来たのは、普通の兵士だった。本当に、どこでもいるような雰囲気を醸し出している。
「彼はマルクの直属の兵士でな。マルクに指示されて、断れなかったそうだ」
「も、申し訳ございませんでした! 全て私の責任でございます! どんな罰でも受け入れますので!!」
体全てを床にぶつけたのではないかと心配してしまうほどの勢いで、彼は私に土下座をした。
確かに彼がした事は罪だろう。しかし、それは逆らえない相手に無理やりやらされたのでは、また違った対応になる。
「マルク王子にはなんと?」
「神になる俺様の言う事を聞けないとは、良い度胸だ……見たいな感じで、脅されました。それが怖くて怖くて……」
「ふむ……なるほどな。よし、ワシの権限で、君を一時休職とする。ほとぼりが冷めた頃に帰ってくると良い。なに、多少の援助は出来るから、心配するな」
「あ、ありがとうございます……おかげさまで、嫁と子供達を路頭に迷わせずに済みます……!」
自分が助かった事よりも、家族のために涙を流す……か。こんな優男を、彼は利用したというのか。本当に王に向いていないお方だ。
「……どんな罰でも受けると言っていたな? では、ヴォルフの店を再建設する時に、いい大工を紹介してくれないかね。私には優秀な大工の知り合いがいなくてね」
「え? それくらいお安い御用です! その、他には?」
「特にない。君が受けるべき罰は、これだけだ」
ポカンを通り越して、顎が外れるんじゃないかと思ってしまうくらい、口を大きく開けて驚く兵士。
それからまもなく、彼は大粒の涙を再び流し始めた。
「ラドバル様……ご慈悲をいただいて……ありがとうございます……ありがとうございます!」
「失礼します。改ざんに協力した職員が見つかりました」
城で働くメイドの後ろには、眼鏡をかけた少し気弱そうな男性が立っていた。
「貴様、マルクに命令されて、書類の数字を改ざんしたそうだな」
「え~してないっすよ~? 陛下、考えすぎじゃないっすか?」
……なんだこの軟派な男は? なんて腹立たしい! 一発殴っては駄目だろうか?
「証拠は見つかっている。後は貴様の証言だけだ」
「だから知らないっすよ~」
「……国王陛下」
「うむ、やっていいぞ」
はい、と首を縦に振ってから、私は彼の頭を思い切り片手で掴み、そして握りつぶそうとした。
「いだだだだだだ!?!? 顔潰れる!!!! なにすんだ、やめろ!!!!」
「本当の事を言ったら放す。言っておくが、これを逃れても別の手はある。生憎私は、拷問の腕が確かなものでな」
「ひぃぃぃぃぃ!?!? ま、マルク様にやれって言われて、金をくれたらやるって冗談で言ったら、用意するって言われたから!」
どんな理由があるのかと思ったら、ただの金だと……? こいつは先程の兵士に若者と違い、駄目な例だ。
「さっきの兵士殿。こいつを縛り上げてくれ」
「はぁ!? なんでだよ!」
「貴様はデータの改ざんに加担し、金を得ようとした悪人だ。裁かれるのは当然の事」
「じょうだんじゃ――いででででで!!」
結構きつく縛られてしまった男は、ゴロゴロと転がりながら、痛みに必死に耐えていた。
こいつの事はいい。とにかく、これで脱税の物的証拠と、火事の実行犯、改ざんの実行犯も見つかった。これだけあれば、マルク王子を追い詰められる。
「最後に国王陛下、私の大切な息子とメイド……その二人は開放してもらえるのでしょうか?」
「うむ、もちろんだ。私も本当は助けたかったのだが、確たる証拠が無い状態では、身動きが取れなくてな……申し訳ない」
「いえ、そんな。では向かうとしましょう。念の為、国王陛下もご同行をお願い致します」
「うむ。そなたらはここで待機しているように!」
「はっ!!」
この部屋に来た兵士と、財務班の職員を置いて、私は国王陛下と共に地下牢へと向かう。
バタバタした数日間だったが、ようやく解放できる……大丈夫だと思うが、やはり会うまでは心配だ。
「っ……!」
地下牢の階段を降り、最深部にある扉を開けると、そこには若者達の、喜びに満ち溢れた顔に出迎えられた。
ああ……無事だったのか。良かった……ヴォルフ……エリカ……本当に、良かった……。
そしてセーラ。この大変な任務をよくぞ乗り越えてくれた。本当に感謝しているぞ。そして……無事で本当に良かった……。
セーラと部屋の前で別れた私は、何十年振りかに国王陛下の私室に入る。そこは、私が知っている頃とほとんど変わりがない。この光景を見ているだけで、激動の過去を思い出させる。
「おお、久しいなラドバル!」
「お久しぶりでございます、国王陛下。ご子息様のお誕生日だというのに、お時間を取っていただき、誠に恐縮でございます」
私に気づいて笑顔で出迎えてくれた国王陛下に、膝をついて深々と頭を下げると、肩に国王陛下の手が優しく乗った。
「お主はワシを幾度も助けてくれた友ではないか。突然の面会の申し出は普通なら断るが、お主の為ならパーティーを抜け出すのだって厭わない」
「しかし……」
「お主は変わらずワシの前では堅物だな。本当はもっと気さくな男だと知っておるのだぞ?」
「それはあくまで家族や同僚、部下の前だけでございます」
「それは残念だ。さて、本題に入ろう。座りたまえ」
「失礼致します」
国王陛下の対面にあったソファに腰を降ろすと、国王陛下はふぅ……と深く息を漏らしてから、口を開いた。
「今回の件、マルクが迷惑をかけて申し訳なかった。心より詫びさせてほしい」
「頭を上げてください、陛下。ところで、手紙で送らせていただいた調査の方は?」
「手紙……? なんの事だ?」
「数日前に国王陛下に送らせていただいた手紙です」
「……?」
どういう事だ? 国王陛下は嘘をつくのが苦手なお方だ。この様子では、本当に手紙の事を知らなかったのだろう。
「手紙の内容とは?」
「今回の件で調べてもらいたいという旨です」
「それは丁度良かった。実は数日前に、息子のフェラートから、今回の一件や、マルクの疑惑を聞いてすぐに色々調べさせた」
……何故フェラート王子が国王陛下に? 手紙の件も疑問ではあるが、調べていただけたのだから、わざわざそれを指摘して話を引き延ばす必要はあるまい。
「その結果がこれだ」
国王陛下から渡された二つの資料には、ヴォルフが経営している酒場の売上や納税した事についてが書かれていた。
だが、少々おかしい部分がある。渡された二つの書類は同じ内容に見えるが、納税の部分が明らかに数字が違う。
「見ての通りだ。明らかに数字が変えられている」
「確かにそうですね。これほど早く見つかるとは、驚いております」
「この件を聞いてから、全力で調べさせたのでな」
財務班も色々な業務がある以上、この件を調べるのに費やした時間を、別の業務に充てる事が出来ただろう。彼らには申し訳ない事をしてしまったな。
「マルクがこのような問題を起こす人間になってしまったのも、全てはワシの責任だ。しっかり教育が出来ず、ワガママに育ってしまった」
「国王陛下は多忙なお方です。致し方ないかと」
「しかし……いや、今はそのような後悔をしている場合ではないな……そうだ。実は、調査の途中で、ヴォルフの店に放火した犯人も見つけたのだ。入りたまえ」
国王陛下に呼ばれて来たのは、普通の兵士だった。本当に、どこでもいるような雰囲気を醸し出している。
「彼はマルクの直属の兵士でな。マルクに指示されて、断れなかったそうだ」
「も、申し訳ございませんでした! 全て私の責任でございます! どんな罰でも受け入れますので!!」
体全てを床にぶつけたのではないかと心配してしまうほどの勢いで、彼は私に土下座をした。
確かに彼がした事は罪だろう。しかし、それは逆らえない相手に無理やりやらされたのでは、また違った対応になる。
「マルク王子にはなんと?」
「神になる俺様の言う事を聞けないとは、良い度胸だ……見たいな感じで、脅されました。それが怖くて怖くて……」
「ふむ……なるほどな。よし、ワシの権限で、君を一時休職とする。ほとぼりが冷めた頃に帰ってくると良い。なに、多少の援助は出来るから、心配するな」
「あ、ありがとうございます……おかげさまで、嫁と子供達を路頭に迷わせずに済みます……!」
自分が助かった事よりも、家族のために涙を流す……か。こんな優男を、彼は利用したというのか。本当に王に向いていないお方だ。
「……どんな罰でも受けると言っていたな? では、ヴォルフの店を再建設する時に、いい大工を紹介してくれないかね。私には優秀な大工の知り合いがいなくてね」
「え? それくらいお安い御用です! その、他には?」
「特にない。君が受けるべき罰は、これだけだ」
ポカンを通り越して、顎が外れるんじゃないかと思ってしまうくらい、口を大きく開けて驚く兵士。
それからまもなく、彼は大粒の涙を再び流し始めた。
「ラドバル様……ご慈悲をいただいて……ありがとうございます……ありがとうございます!」
「失礼します。改ざんに協力した職員が見つかりました」
城で働くメイドの後ろには、眼鏡をかけた少し気弱そうな男性が立っていた。
「貴様、マルクに命令されて、書類の数字を改ざんしたそうだな」
「え~してないっすよ~? 陛下、考えすぎじゃないっすか?」
……なんだこの軟派な男は? なんて腹立たしい! 一発殴っては駄目だろうか?
「証拠は見つかっている。後は貴様の証言だけだ」
「だから知らないっすよ~」
「……国王陛下」
「うむ、やっていいぞ」
はい、と首を縦に振ってから、私は彼の頭を思い切り片手で掴み、そして握りつぶそうとした。
「いだだだだだだ!?!? 顔潰れる!!!! なにすんだ、やめろ!!!!」
「本当の事を言ったら放す。言っておくが、これを逃れても別の手はある。生憎私は、拷問の腕が確かなものでな」
「ひぃぃぃぃぃ!?!? ま、マルク様にやれって言われて、金をくれたらやるって冗談で言ったら、用意するって言われたから!」
どんな理由があるのかと思ったら、ただの金だと……? こいつは先程の兵士に若者と違い、駄目な例だ。
「さっきの兵士殿。こいつを縛り上げてくれ」
「はぁ!? なんでだよ!」
「貴様はデータの改ざんに加担し、金を得ようとした悪人だ。裁かれるのは当然の事」
「じょうだんじゃ――いででででで!!」
結構きつく縛られてしまった男は、ゴロゴロと転がりながら、痛みに必死に耐えていた。
こいつの事はいい。とにかく、これで脱税の物的証拠と、火事の実行犯、改ざんの実行犯も見つかった。これだけあれば、マルク王子を追い詰められる。
「最後に国王陛下、私の大切な息子とメイド……その二人は開放してもらえるのでしょうか?」
「うむ、もちろんだ。私も本当は助けたかったのだが、確たる証拠が無い状態では、身動きが取れなくてな……申し訳ない」
「いえ、そんな。では向かうとしましょう。念の為、国王陛下もご同行をお願い致します」
「うむ。そなたらはここで待機しているように!」
「はっ!!」
この部屋に来た兵士と、財務班の職員を置いて、私は国王陛下と共に地下牢へと向かう。
バタバタした数日間だったが、ようやく解放できる……大丈夫だと思うが、やはり会うまでは心配だ。
「っ……!」
地下牢の階段を降り、最深部にある扉を開けると、そこには若者達の、喜びに満ち溢れた顔に出迎えられた。
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