婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

文字の大きさ
7 / 58

第七話 恩返しの為にお掃除です!

しおりを挟む
「……あれ?」

 お母さんをお花畑に囲まれたお墓に埋葬した翌日、私は自室の机に突っ伏した状態で目を覚ましました。

 私、どうしてこんな所で……あ、そうだ。昨日の夜、どうすればベルモンド家の方々にお返しが出来るか考えている最中に、そのままウトウトして……。

 あうう、こんな所で寝たせいで、体が痛いです。でも、巡礼中に森の中に葉っぱだけ敷いて寝た時や、ごつごつした岩の隙間で寝た時に比べれば、大した事はないです。

「少し体操して、体をほぐそう……いっちに、さんしー……」
「シエル、入るぞ」
「ごーろく、しちは……?」

 一人なのを良い事に、私ははしたなく両腕を上げたり足を広げていたりしていると、ジーク様が部屋に入って来ました。

 ……え、えっと……い、今の見られてしまいましたか……?

「あの、そのえっと……これは……!」
「……? 何を慌てている。体操していただけだろ」
「そうですけど、あんな腕を上げて、足まで……!」
「別に気にする必要は無いと思うが……とりあえず、次に来る時はノックをする」
「そうしてもらえると嬉しいです……」

 普通部屋に入るときはノックをするのが普通では? という疑問は置いておきましょう。まだ早朝だというのに、ジーク様はすでに身支度がバッチリ整えられています。今から出かけるのでしょうか?

 ……あれ? いつもは黒いジャケットを羽織っているのに、今日は別の服装です。まるで、学校の制服のような……?

「ジーク様、お出かけですか?」
「俺も兄上も……今日は学校だ」
「学校……」

 そうですよね、ジーク様もクリス様も、私とさほど歳が離れていないんですから、学校に行きますよね。

 私は貧乏だったうえに巡礼に行っていたから、学校に通った事がないです。それどころか、まともに勉強もしてません。羨ましいです。

「ジェニエス学園……この辺りでは名の知れている学園だ」
「えっ!? わ、私知ってます! 凄く頭の良い人しか行けないところだって、巡礼中に聞いた事があります!」

 ジェニエス学園――文武両道をモットーにした、由緒ある学園の名前。この国にある、二大学園と呼ばれる学園でもあります。

 私の聞いたお話だと、入学するのにたくさん勉強をして、魔法も使えないと入学できないそうです。そんな所に二人共通っているんですね。

「お前は屋敷でのんびりしているといい。それじゃ」
「あ、はい! いってらっしゃいませ!」

 短く挨拶を残して、ジーク様は部屋を後にしました。ジーク様がいなくなってしまったからか、部屋がとても静かで寂しく感じてしまいます。

「……学校、か。私もジーク様やクリス様と一緒に通ってみたいな……」

 貧乏だし、魔法も聖女として使っていた魔法しか使えない私には学校……ましてやジェニエス学園なんて、夢のまた夢でしょう。そんな妄想をしてないで、早く恩返しの方法を考えましょう。

「……あれは……」

 窓から外を眺めながら考えようとした私の視界に、執事の方がお洗濯を干しているのが目に入りました。

「今日も良いお天気だから、お洗濯もきっとよく乾きそう……そうだ!」

 良い方法を思いついた私は、自分の荷物を漁ると、中から雑巾を取り出しました。これは、巡礼中に泊った宿屋のお部屋を掃除するために使っていたものです。

「うーん、動きやすい服があればいいのですが……」
「失礼致します」
「あ、おはようございます!」

 どうしようか考えていると、ノックの音と共に、私の身の周りのお世話をしてくれているメイド様が来てくれました。

 そうだ、彼女に聞けば、動きやすい服がどこにあるか教えてくれそうですね。聞いてみましょう。

「あの、ドレスじゃなくて動きやすい服はありませんか?」
「動きやすい服……ですか? エプロンドレスなら用意がございますが……」
「それ、貸してもらえないでしょうか?」
「構いませんが……何をされるのですか?」
「あーえっと……ちょっとお散歩する時に、動きやすい方がいいかと思いまして!」
「なるほど。かしこまりました。準備しますので、少々お待ちを」

 彼女の手を借りて着替えた私は、以前の美しいドレスではなく、コンパクトで可愛らしいエプロンドレスを身に纏いました。この動きやすさなら、きっと大丈夫でしょう。

「朝食はもう少しかかるようなので、しばしお待ちいただけるでしょうか?」
「大丈夫です。あ、ちょっとお散歩してもいいですか?」
「はい、どうぞ。三十分程でお戻りくださいね」
「わかりました」

 私は雑巾をもって、一度外にある井戸に行き、水を汲んで屋敷に戻りました。

 これからやる事は、至極単純――雑巾がけです! これだけ広いお屋敷なんですから、お掃除はきっと大変でしょう。だから、そのお手伝いをして、ちょっとでも恩返しになればいいなと思ってます!

「よーし、がんばりますっ!」

 私は気合を入れてから、雑巾がけを始めます。これでも巡礼で鍛えた身――激流の川を泳ぎ切ったり、崖を登った事もあります。そんな私に、雑巾がけなど簡単――

「ふべぇ!?」

 ――と思っていたのも束の間、私は顔から床にダイブしてしまいました。

 うぅ……初めてだけど、うまくいくと思ったのですが……思った以上に力の入れ方が難しいです。強すぎると雑巾が滑りませんし、弱すぎると汚れが落ちません。

 極めつけは、変に力を入れすぎると、体だけが前に行ってしまい……さっきみたいになるわけです。

 痛いけど、私はめげません! 私なんかでも出来る事をやって、少しでもベルモンド家に恩を返すんです!

「いきます……とりゃああああ!!」

 あ、いい感じです!このまま一度奥まで行きましょう! 頑張れ私ー!

「あっ……ぼひゃん!?」

 今度は止まる事が出来ず……壁に顔をぶつけてしまいました。痛いし恥ずかしいしで……踏んだり蹴ったりです……。

「ま、負けません!」

 顔が凄く痛いですが、そんなの走った事ではありません。とにかく頑張ってお掃除をするのです!

 うおおおおおおおおおお!!
 
 とりゃあああああああ!!

 ほわああああああああ!!

 ……ふう、とりあえずここの廊下は綺麗に……うん、なったと思います! 元々が綺麗でしたが、掃除して無駄になる事は無いでしょう!

「なにをしているのかしら?」
「え……? あ、セシリー様!」
「ママって呼んでほしいんだけど、まあいいわ。掃除なんてしちゃ駄目じゃない」

 え、駄目……だったんですか? どうしよう、恩返しのつもりがご迷惑になってしまったなんて!

「も、申し訳ありませんでした! 出過ぎた真似を! その、色々やってもらってるので……ちょっとでも恩返しになればって……!」
「……そうだったの……あなたって子は、本当に真面目ね」

 そう言いながら、セシリー様は私の事をそっと抱きしめながら、頭を撫でてくださいました。なんだか、お母さんに抱きしめられた時の事を思い出しちゃいます。

「私が駄目と言ったのはね、巡礼で大変だったあなたに、少しでも静かに過ごしてほしかったからなの。掃除なんて、大変でしょう?」
「いえ! なにか少しでも恩を返したいので!」
「……わかったわ、それじゃ今から指示する場所で、みんなでお掃除してもらえる?」
「わかりました!」

 セシリー様に言われた通り、少し離れた所にある廊下に行くと、さっきよりかは汚れていました。そして、十人ものメイド様が準備をして待っていました。

 ど、どうしてこんなに人数がいるのでしょうか? 雑巾がけなら、多くても二、三人で良いと思うんですが。

「お待ちしておりました。ではここに絵がありますよね。その縁を拭き掃除しましょう」
「は、はい!」

 壊してしまわないように、優しく丁寧に拭きだす事五分。何気なく後ろを振り返ると、そこでは完璧に掃除が終わっていました。

 ……色々思う事がありましたが、このまま私は皆様と一緒に、屋敷を回っていきます。その全てで、私が何かやる前に皆様が掃除してくれてしまうんです。

 あぁ……これじゃほとんど意味がありません……お手伝いにはなってるかもですが、恩返しにはなってません。もっと別の方法を考えなきゃ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃
恋愛
 精霊国家トップの魔力を持つ聖女ティアラは、王太子マゼランスの妃候補として約束された将来が待っているはずだった。ある日、空から伝説の聖女クロエが降りてきて、魔力も王太子も奪われ追放される。  時を同じくして追放された幻獣と共に、気ままな旅を始めることに。やがて運命は、隣国の公爵との出会いをティアラにもたらす。 * 2020年2月15日、連載再開しました。初期投稿の12話は『正編』とし、新たな部分は『旅行記』として、続きを連載していきます。幻獣ポメの種族について、ジルとティアラの馴れ初めなどを中心に書いていく予定です。 * 2020年7月4日、ショートショートから長編に変更しました。 * 2020年7月25日、長編版連載完結です。ありがとうございました。 * この作品は、小説家になろうさんにも投稿しております。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』

とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】 アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。 聖域の発見と運命の出会い 絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。 魔王の渇望、そして求婚へ 最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...