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第八話 楽しい勉強!
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「はぅぅ……ぅぅ……」
空がほんのりと茜色に染まりだした頃、私は自分のベッドに突っ伏して寝転がりながら、唸り声のような声を漏らしていました。
だって……何か手伝おうと思っても、既に先手を取られていて、私が介入する余地が無かったんです。
お洗濯をしに行ったら、もう全部干し終わっていて、キッチンに行ったら、料理もお皿洗いもする事が無くて、庭の手入れも済んでて……やる事が無いです。
ベルモンド家の方達が、嫌がらせをしているのではないのはわかっています。きっと、私が気を遣ってるように見えて、苦労をかけさせないようにしているのでしょう。
そのお気持ちはとても嬉しいですけど……それに甘えていたら駄目なんです。
「そうだ、せめてこの部屋だけは綺麗にしましょう!」
そうと決まれば、早速行動しましょう。のんびりやっていたら、見つかって止められてしまうかもしれませんし。
「よいしょ、よいしょ……あ、あんまり汚れてないどころか、埃一つ無いです……」
もしかして、私がご飯や入浴している時に、誰かがお掃除をしてくれていたって事でしょうか? ほ、本格的にやる事が無くなってしまいました……。
「はぁ……どうしましょう……」
完全に手詰まりになってしまいました。もっと私の頭が良ければ、名案が浮かんだかも知れませんが……自分の頭の悪さが恨めしいです。
そんな私の意識を自分に向けさせるように、部屋の中にノックの音が響き渡りました。
「シエル、今帰った」
「ただいま、シエル」
「おかえりなさい、ジーク様、クリス様。学校は楽しかったですか?」
「……特に楽しいという感情を、学校に抱いた事は無い」
「おや? お前が楽しいと思った経験があるのか?」
「あまり……無いな。少なくとも、ここ数年で感じた事は無い」
「やれやれ、兄としては弟にもっと人生を楽しんでもらいたいんだけどね。それで、シエルは何をしていたんだい?」
「実は……」
私はお二人に、今日あった事を話しました。すると、ジーク様はやや呆れたように溜息を漏らし、クリス様は苦笑いを浮かべていました。
「だから気にしなくていい。前に言っただろう」
「まあ、シエルらしいという事にしようじゃないか」
「否定はしないが……シエルがしたい事は無いのか?」
「それは気になるね。恩返しとかそういうの抜きで、シエルのやりたい事が聞きたいな」
「……やりたい事……お二人と一緒の学園に……」
思ってもみなかった事を聞かれた私は、ポツリと呟くように答えました。
その言葉は、確かに私の心で密かに願っていた事です。でも、そんな夢幻は叶うはずもないと思ってたから……自分で言っておいて、自分が一番驚いてしまいました。
「あ、えっと! 今のは違くて……咄嗟に出てしまったというか……!」
「嘘だな。僅か数秒で口にしたくらいだ。多かれ少なかれ、思っていた事だろ?」
「うっ……は、はい。お二人と一緒の学園に通えたら……楽しいだろうなって」
「なるほど。ジェニエス学園は名門校というだけあって、入学するのに難しい試験に合格しなければならない」
「……ですよ、ね……」
とても真剣な顔のクリス様の言葉を聞いた私は、顔を俯かせながら、小さく息を漏らしました。
名門校に受かるような人は、幼い頃から勉強をしてきたに違いありません。そんな人達が入る場所に、私のような学の無い貧乏人が入れるはずがありません。
「だが……言い換えれば、能力があれば入学できるという事だ。兄上、相談なんだが……」
「ああ。私の方で、家庭教師のスケジュールを確認しておこう。勿論、その前に父上から承諾を貰うという前提付きだが」
「え、ええ?」
私が全くお話についていけてない間に、何故かどんどん決まっていってしまい……私は二人に部屋から連れ出されてしまいました。
「あ、あの! これ以上は本当に申し訳ないので……!」
「俺達にとってお前への恩返しは、お前が普通の生活をして、幸せになる事だ」
「っ……!?」
「ははっ、間違いない。幼い頃から苦労をし、聖女という重荷を背負わされて各地を旅させられた挙句、どん底に叩き落とされた君に、幸せになってもらいたい。それは、私やジーク……いや、この屋敷にいる人間の総意だよ」
ジーク様の無表情と、クリス様の微笑み。全然違う表情なのに、私にはとても優しく見えて……気づいたら、私は目頭を熱くしながら、小さく頷いていました。
****
「はじめまして。私があなたの家庭教師を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
「は、はい! よろしくお願いします!」
翌日、私は緊張と期待を胸に抱えながら、家庭教師を務めてくださる初老の女性に頭を下げました。
今日から勉強が出来るなんて、夢みたいです。ジーク様やクリス様、快く許可をくれたグザヴィエ様とセシリー様にも感謝ですね。
「まず確認なのですが、あなたの学力を見せていただきたいので、この練習問題を解いてもらえますか?」
「わ、わかりました!」
私は先生から紙を受け取り、問題に取りかかろうとしますが……一向にペンは動きません。なぜなら……。
「あの……申し訳ございません、私……字が読めないんです」
「字が読めない?」
「はい……幼い頃からずっと貧しいスラムに住んでて、一切勉強をしてこなかったので……聖女の巡礼に行く前に、多少丁寧な話し方をお城で少し習いましたけど……」
「なるほど。では初歩の初歩から一緒に勉強しましょうから。大丈夫、しっかり頑張れば、今までのハンデなんて関係なくなるでしょう」
「っ……! はいっ!」
てっきり呆れられるかと思ってましたが、先生は私の想像以上に優しい方でした。先生は丁寧に一つずつ、私に文字の読み方や書き方を教えてくださいました。
勉強してみて改めてわかったんですが……勉強って凄く楽しい! 自分のあまりにも狭い知識という名の世界が、勉強する事によって広がるのが、この上なく楽しくて、心が躍ります!
特に、問題を解いた時の達成感といいますか……爽快感の方が正しいんでしょうか? それが凄く好きで、もっともっと勉強したくなっちゃいます!
「先生、出来ました!」
「どれどれ……はい、花丸です。シエルさんは筋がいいですね。この調子で頑張れば、もっといろんな事が覚えられますよ」
「もっと……!?」
「ですが、今日はそろそろ時間ですので、ここまでにしましょう」
も、もう終わりですか……? 本当だ、いつの間にか最初に決めた時間を超えてました……。
「そんな……もっと勉強したいです!」
「あらあら、こんなに熱心で楽しそうな生徒さんは初めてだわ。それじゃ、宿題を出しておくので、明日までにやっておいてくださいね」
「宿題……! わかりました!」
渡された三枚の紙には、今日やった所がまとめて問題になっていました。こうして繰り返しやる事で、頭に定着させるんですね!
えへへ……これで今日はもうちょっと勉強が出来ます。先生にお礼を……あ、あれ? もういらっしゃらない……先生も忙しい方なんですね。ちゃんと挨拶したかったです……。
「追いかければ追いつけるでしょうか……うぅ、いない……仕方ない、明日ちゃんと謝罪しましょう……」
部屋に戻ってきた私は、机の上に置かれた宿題を目に通します。そろそろ昼食ですし、戻ってきてからやれば……いい……。
「……よくないっ! 我慢できません!」
まるでおもちゃを前にして喜ぶ子供のように、私は目を輝かせながら宿題に取り掛かります。
うん、ここはさっきやった所……ここも覚えてます! この文字は……うーんと……あれですね! うふふ……楽しすぎて、いくらでも出来ちゃいそうです!
空がほんのりと茜色に染まりだした頃、私は自分のベッドに突っ伏して寝転がりながら、唸り声のような声を漏らしていました。
だって……何か手伝おうと思っても、既に先手を取られていて、私が介入する余地が無かったんです。
お洗濯をしに行ったら、もう全部干し終わっていて、キッチンに行ったら、料理もお皿洗いもする事が無くて、庭の手入れも済んでて……やる事が無いです。
ベルモンド家の方達が、嫌がらせをしているのではないのはわかっています。きっと、私が気を遣ってるように見えて、苦労をかけさせないようにしているのでしょう。
そのお気持ちはとても嬉しいですけど……それに甘えていたら駄目なんです。
「そうだ、せめてこの部屋だけは綺麗にしましょう!」
そうと決まれば、早速行動しましょう。のんびりやっていたら、見つかって止められてしまうかもしれませんし。
「よいしょ、よいしょ……あ、あんまり汚れてないどころか、埃一つ無いです……」
もしかして、私がご飯や入浴している時に、誰かがお掃除をしてくれていたって事でしょうか? ほ、本格的にやる事が無くなってしまいました……。
「はぁ……どうしましょう……」
完全に手詰まりになってしまいました。もっと私の頭が良ければ、名案が浮かんだかも知れませんが……自分の頭の悪さが恨めしいです。
そんな私の意識を自分に向けさせるように、部屋の中にノックの音が響き渡りました。
「シエル、今帰った」
「ただいま、シエル」
「おかえりなさい、ジーク様、クリス様。学校は楽しかったですか?」
「……特に楽しいという感情を、学校に抱いた事は無い」
「おや? お前が楽しいと思った経験があるのか?」
「あまり……無いな。少なくとも、ここ数年で感じた事は無い」
「やれやれ、兄としては弟にもっと人生を楽しんでもらいたいんだけどね。それで、シエルは何をしていたんだい?」
「実は……」
私はお二人に、今日あった事を話しました。すると、ジーク様はやや呆れたように溜息を漏らし、クリス様は苦笑いを浮かべていました。
「だから気にしなくていい。前に言っただろう」
「まあ、シエルらしいという事にしようじゃないか」
「否定はしないが……シエルがしたい事は無いのか?」
「それは気になるね。恩返しとかそういうの抜きで、シエルのやりたい事が聞きたいな」
「……やりたい事……お二人と一緒の学園に……」
思ってもみなかった事を聞かれた私は、ポツリと呟くように答えました。
その言葉は、確かに私の心で密かに願っていた事です。でも、そんな夢幻は叶うはずもないと思ってたから……自分で言っておいて、自分が一番驚いてしまいました。
「あ、えっと! 今のは違くて……咄嗟に出てしまったというか……!」
「嘘だな。僅か数秒で口にしたくらいだ。多かれ少なかれ、思っていた事だろ?」
「うっ……は、はい。お二人と一緒の学園に通えたら……楽しいだろうなって」
「なるほど。ジェニエス学園は名門校というだけあって、入学するのに難しい試験に合格しなければならない」
「……ですよ、ね……」
とても真剣な顔のクリス様の言葉を聞いた私は、顔を俯かせながら、小さく息を漏らしました。
名門校に受かるような人は、幼い頃から勉強をしてきたに違いありません。そんな人達が入る場所に、私のような学の無い貧乏人が入れるはずがありません。
「だが……言い換えれば、能力があれば入学できるという事だ。兄上、相談なんだが……」
「ああ。私の方で、家庭教師のスケジュールを確認しておこう。勿論、その前に父上から承諾を貰うという前提付きだが」
「え、ええ?」
私が全くお話についていけてない間に、何故かどんどん決まっていってしまい……私は二人に部屋から連れ出されてしまいました。
「あ、あの! これ以上は本当に申し訳ないので……!」
「俺達にとってお前への恩返しは、お前が普通の生活をして、幸せになる事だ」
「っ……!?」
「ははっ、間違いない。幼い頃から苦労をし、聖女という重荷を背負わされて各地を旅させられた挙句、どん底に叩き落とされた君に、幸せになってもらいたい。それは、私やジーク……いや、この屋敷にいる人間の総意だよ」
ジーク様の無表情と、クリス様の微笑み。全然違う表情なのに、私にはとても優しく見えて……気づいたら、私は目頭を熱くしながら、小さく頷いていました。
****
「はじめまして。私があなたの家庭教師を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
「は、はい! よろしくお願いします!」
翌日、私は緊張と期待を胸に抱えながら、家庭教師を務めてくださる初老の女性に頭を下げました。
今日から勉強が出来るなんて、夢みたいです。ジーク様やクリス様、快く許可をくれたグザヴィエ様とセシリー様にも感謝ですね。
「まず確認なのですが、あなたの学力を見せていただきたいので、この練習問題を解いてもらえますか?」
「わ、わかりました!」
私は先生から紙を受け取り、問題に取りかかろうとしますが……一向にペンは動きません。なぜなら……。
「あの……申し訳ございません、私……字が読めないんです」
「字が読めない?」
「はい……幼い頃からずっと貧しいスラムに住んでて、一切勉強をしてこなかったので……聖女の巡礼に行く前に、多少丁寧な話し方をお城で少し習いましたけど……」
「なるほど。では初歩の初歩から一緒に勉強しましょうから。大丈夫、しっかり頑張れば、今までのハンデなんて関係なくなるでしょう」
「っ……! はいっ!」
てっきり呆れられるかと思ってましたが、先生は私の想像以上に優しい方でした。先生は丁寧に一つずつ、私に文字の読み方や書き方を教えてくださいました。
勉強してみて改めてわかったんですが……勉強って凄く楽しい! 自分のあまりにも狭い知識という名の世界が、勉強する事によって広がるのが、この上なく楽しくて、心が躍ります!
特に、問題を解いた時の達成感といいますか……爽快感の方が正しいんでしょうか? それが凄く好きで、もっともっと勉強したくなっちゃいます!
「先生、出来ました!」
「どれどれ……はい、花丸です。シエルさんは筋がいいですね。この調子で頑張れば、もっといろんな事が覚えられますよ」
「もっと……!?」
「ですが、今日はそろそろ時間ですので、ここまでにしましょう」
も、もう終わりですか……? 本当だ、いつの間にか最初に決めた時間を超えてました……。
「そんな……もっと勉強したいです!」
「あらあら、こんなに熱心で楽しそうな生徒さんは初めてだわ。それじゃ、宿題を出しておくので、明日までにやっておいてくださいね」
「宿題……! わかりました!」
渡された三枚の紙には、今日やった所がまとめて問題になっていました。こうして繰り返しやる事で、頭に定着させるんですね!
えへへ……これで今日はもうちょっと勉強が出来ます。先生にお礼を……あ、あれ? もういらっしゃらない……先生も忙しい方なんですね。ちゃんと挨拶したかったです……。
「追いかければ追いつけるでしょうか……うぅ、いない……仕方ない、明日ちゃんと謝罪しましょう……」
部屋に戻ってきた私は、机の上に置かれた宿題を目に通します。そろそろ昼食ですし、戻ってきてからやれば……いい……。
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