婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第十話 異常な記憶力

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■ジーク視点■

 シエルに勉強を教えるようになってから、二ヶ月が経ったある日の夜、俺は兄上とシエルの家庭教師と共に、俺の部屋で茶を飲んでいた。

 別にのんびりと茶を楽しむために集まったわけではない。今日は、シエルの事で二人に話があったから、こうして集まった。

「それで、急に呼んでどうかしたのかい? シエルの勉強の事でとは聞いたが」
「シエルが勉強を始めて二ヶ月……あいつの覚える速度が尋常じゃないと思わないか?」
「それは私も感じておりました。最初は文字も読めない、書けないくらいの学力でしたのに……今では何不自由なく使えております。数学や魔法学、歴史といった他の教科も、もう大人に引けを取らないくらいかと」
「確かにそうだ……いつの間にか、シエルに教える内容が、私が授業でやった事を教えるようになっていたね」

 兄上や家庭教師が感じた事を、俺も同じように感じている。誇張抜きで、俺や兄上の学力をすでに超えていてもおかしくはない。

 このスピードは尋常じゃない。まるで、干からびたスポンジが、物凄い勢いで水を吸収しているかのように、凄まじい速度で知識を吸収している。

「私といたしましては、この調子で更に学力が身に着くのなら、入試を受けても良いかと」
「さすがにその領域までは……」
「私は可能だと思います。あの記憶力に加えて、勉強を心から楽しむ姿勢、勉強をやろうと思う前向きな姿勢。それがある彼女なら、さほど時間はいらないでしょう」

 兄上が驚くのも無理はない。ジェニエス学園の入試はとても難しい。しかも今回は編入試験……より優れた生徒を見つけるため、入学試験よりも難しくすると聞いた事がある。

 だが、今のシエルなら……。

「俺は賛成だ。せっかくあそこまでやって、入学して勉強したがっているんだ。ベルモンド家があいつに返せる恩としては、中々上出来だと思う」
「しかし……」
「残りの期間、テスト対策をすれば行けるはず。あいつならできる……仮に駄目だったら、俺が支えるだけだ」

 あいつの夢……学校に通いたいという願いが、俺にはとても重く感じた。それ以上に、叶えてやりたいと思った。その為には、俺はなんでもしてやるつもりだ。

「ジーク。お前はどうしてそんなにシエルに固執する?」
「固執……? そんな事はしていない」
「なら言い方を変えよう。聖女である彼女に助けられた日から始まっていたが、お前はシエルをかなり気にかけている。それは、恩人とかそういうのじゃない。異性に向ける感情だ」
「……そんな事を言われても、わからない」
「だろうね。いまだに婚約話すら来ないくらい、女性に縁が無いからね。そんなジークを見ていると、要所要所に彼女への想いが見え隠れしているんだ」

 そんな……馬鹿な? 俺はいつも通り過ごしていただけに過ぎないはずだ。そんな行動でわかるはずが……。

「お供えのバラ、あれは遠回しにシエルへの愛を表現していたのだろう? それに埋葬に行く時、お前はシエルの隣を陣取って離れなかった。お茶をしてる時は、たいてい来ているじゃないか。お茶なんか適当で良いと言っていたくせに」
「……もう、いい」

 ……確かに俺は、巡礼でシエルと出会った時から、好意を寄せている。

 きっかけなんて些細なものだ。以前、母上の治療を終えたシエルは、すぐに近くの民家に走っていった。次の患者がいると言っていたが、もし何かあったらと思い、俺はすぐに追いかけた。

 幸いにも何も起こらなかったが、その時にお礼を言いながら笑うシエルの顔が……輝いて見えて……まさに女神だった。

 それから、俺は彼女の虜になった。

 だが、すぐに次の村に行かなければならないと言われた俺は、困った事があったらすぐに来いと言い残したんだ。また会える……そう信じるしかなかったんだ。

 だから、会えた時は飛び上がって喜びそうになった。人生で初めての感情だ。だが、そんなはしたない事をしたら、ベルモンド家の名前に傷がつくからしなかっただけだ。

 とにかく、結論としては、俺はシエルが好きだ。それは紛れもない……事実。だからこそ、俺は彼女に普通に過ごしてもらいたいし、普通に学んでほしい。そして幸せになってほしい。それが俺の願いだ。

 その為なら……俺はなんでもするつもりだ。


 ****


「今日は解散の前に、一つお知らせがあります」
「あ、はい」

 いつものように、家庭教師様と一緒に勉強をし終えた後、何故か凄く真面目な顔をしている先生。正直ちょっぴり怖いです……。

「実は今日やった問題集……ジェニエス学園の模試の過去問です。これがほとんどできているので、編入テストを、受けてもいいかもしれません」

 先生の仰ってる意味がすぐに理解できなかった私は、ポカンと口を開ける事数秒……ようやく理解できたのも束の間、その場で後ろに倒れてしまいました。

 だ、だって……目標ではあったとはいえ、まさかこんな短期間でテストの話が出るなんて、思いもしてませんでしたから!

「あ、あのあの! 私なんかがテストに合格できるんですか!? まだ勉強してからそんなに経ってませんよ!?」
「あなたの学力の伸びは目を見張るものがあります」
「っ……!」
「ですが……魔法の実技もテストにあるのです。あなたは回復魔法以外は得意とは言えません。なので、トータルで考えた結果、可能性はありますが、絶対に受かるとは言えません」
「うっ……」

 実は私、使える魔法が回復魔法しかありません。小さい子でも使えるような魔法すら、全く使えません。

 そんな状態で、私が合格なんてできるのでしょうか……? いえ、やってみないとわかりませんよね! よーっし、頑張るぞー!
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