婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第十一話 重荷になるな

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 ジェニエス学園の試験が目前に迫ってくる中、私は寝る間も惜しんで勉強に励み続けました。頑張りすぎて寝不足になって、目の下にクマができてしまいましたし、ペンを持ちすぎて、指にタコができてしまいました。

 それでも私は、勉強をするのをやめませんでした。楽しいというのも勿論ありますが、ほんの少しでも恩返しをする為に頑張りました。

 そんなある日の夜中、私の脳裏に一つの可能性が浮かんできました。

「……あれ、よくよく考えたら……ジーク様が一人が好きだったらどうしよう?」

 一人ぼっちはつらくて悲しい事。私はそう思ってました。だって、唯一の家族だったお母さんを亡くして一人ぼっちになってしまい、凄く寂しかったからです。

 でも、ジーク様はそう思ってなかったら、恩返しどころか、ただの迷惑な女になってしまいます!

「うぅ……私と過ごすのは嫌だとは仰ってなかったし……だ、大丈夫ですよね……?」

 もう試験が目前なのだから、今更考えてた仕方ない……それはわかってますが、一度気になると更に気になってしまいます。

 そんな事を思いながら、本棚にある本を取りに行こうと立ち上がったら、疲れや睡眠不足も相まって、足を机に引っ掛けてしまいました。

 普段なら耐えられていたでしょうが、今の私に耐えられる力は残されておらず……そのまま勢いよく転んでしまいました。しかも、引っかかった衝撃で、机の上に積んであった本が崩れて、私の上に落ちてきました……。

「い、痛い……私、なにやってんだろう……」

 自分の浅はかな考えが情けなく思えてきたら、なんだか少し涙が出てきました。こんな体たらくだから、アンドレ様に騙されるし、お母さんも守れなかったんです……。

「シエル! 何事だ!」
「あっ……ジーク様ぁ……」
「これは……一体何があった?」

 落下してきた本に埋もれながら涙ぐんでいたら、ジーク様が凄い勢いで部屋の中に入って来ました。きっと夜遅くに大きな音をたててしまったから、心配して来てくれたのでしょう。

 うぅ……こんな本の下敷きになって涙ぐんでる所を見られてしまうなんて……恥ずかしすぎて、もうお嫁に行けません……。

「すぐに退ける。大人しくしていろ」
「ご迷惑ばかりおかけして……」
「気にするな。本を退かすだけだ」

 素早い動作で本を片付けたジーク様は、今度は私の体をペタペタと触りだしました。いくらジーク様でも、いきなりはビックリしますし、恥ずかしいです。

「痛い所はないか?」
「あ、頭と背中が痛いです……」
「そうか……何か変だと思ったら、すぐに誰かを呼ぶんだ。いいな」

 いつの間にか全て片付けてもらい、ホッと一安心したら……なぜかまた涙が出てきました……。

「シエル……?」
「わたっ……私、自分が馬鹿で嫌気がさしてしまって……」
「どういう事だ? ゆっくりでいい。言ってみろ」
「私……勉強して、学園に行って……ジーク様が一人ぼっちにならないようにって思って……だって、一人ぼっちは寂しくて……悲しいから……でも、それは所詮私の考えであって……ジーク様の事を全然考えてなくて……そう思ったら、なんて私は馬鹿なんだろうって……! 恩返しがしたかったのに……私は……!」

 一度感情をあふれ出させたら、もう止まりませんでした。私の自己肯定力の低さも相まって、どんどんと悲しくなっていきました。

「……そうか」
「ジーク様……」

 ペタンと座り込んでいた私の前に、顔の高さを合わせるように座ったジーク様は、私の頬に流れる涙を拭い、そのままほっぺに手を乗せました。

「そう悲観するな。お前のその気持ちは、とても素晴らしいものだ」
「でも……」
「確かにお前は少し行き過ぎた考え方をしたかもしれない。だが……自分の受けた恩義を忘れず、ひたむきに努力した事……俺は嬉しい」

 ほっぺを撫でられながら言われた言葉は、私には救いでした。ここで無駄だ、やめろとか言われたら、立ち直れなかったかもしれません。

「だが、恩義を重荷にするのだけはやめろ。俺もベルモンド家も、お前に救ってもらった恩を返す事はあっても、お前が悩み、苦しみ……涙を流してほしいなんて、微塵も思わない」
「…………」
「お前が俺達に返せる最大の恩返しは……日々を平穏に過ごし、楽しんでくれることだ」

 ジーク様の言う通りだ。今の状態では、確実に重荷になってしまっている。現に、無理にでもジェニエス学園にいって、二人と一緒に学校に行こうとしている事は、重荷になっているだろう。

「それじゃあ……どうすれば……」
「簡単じゃないか。入学して、私達と楽しいスクールライフを楽しめばいい! ああ楽しきスクールライフ! まさに青春! さあ、一緒に青春の汗を流そうじゃないか!!」

 突然部屋の中に入っていたクリス様は、あまりらしくないテンションの高さで、私の手を取りました。

「えっと……く、クリス様??」
「なに、二人の美しき会話を見てしまった事への謝罪として、暗い雰囲気を払拭しようとしたのさ。だが、慣れない事はするものじゃないね。私がこんなに大根役者になってしまうとは!」
「美しき会話って……何を言っている」
「間違っては無いんだろう? まるで純愛物語を見ているかのようだったよ」
「じゅ、純愛物語!?  ふ、ふざけるな……斬る!」
「おやおや、いいだろう。いつでもかかっておいで」
「駄目に決まっているだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 いつの間にか来ていたグザヴィエ様が、今までにないくらい怒鳴りました。それに反応するように、目の前に正座をするクリス様。それに続くように、ジーク様がやや気だるそうに座りました。

 え、私ですか……? 声にビックリして、その場でひっくり返っちゃってます! 私って……こういうビックリ系に弱いんです。

「騒いでるから何事かと思って見に来れば……全く。それで、なにがあった」
「実は……」

 正座をしたままのクリス様から説明を聞いたグザヴィエ様は、小さく溜息を吐きながら、私に視線を向けました。

「シエル」
「は、はい!」
「恩を返すとか、そういうのは気にする必要ない。お前にはお前の人生がある。これからは、人の為じゃなく、自分の為に使ってやれ」
「自分の事……楽しむ……」

 ジェニエス学園に行って勉強をしたり、友達を作ったり、ジーク様とクリス様と一緒にいて……きっとそれが楽しむって事ですよね? 私にその資格があるって事ですか?

 それなら……私、もっともっと人生を楽しみます! 入学して、ジーク様とクリス様と一緒に登校して、勉強して、友達作って……目いっぱい楽しみます!

 そして……これは秘密ですけど……もし勉強して凄い人になれれば、何かの形でベルモンド家に恩返しができるかもしれません! あくまでこれはなったらいいなって事にしてるので! 重荷にはしません!

「みなさん、ありがとうございます。様子を見に来てくれた事も、アドバイスをくれた事も。私、ちょっと間違えてたみたいで……反省してます。だから、まずは私が普通の生活をして、楽しい生活をします。そのために、ジェニエス学園に入って、楽しいスクールライフを送ります!」

 ぐちゃぐちゃになってしまった、今後の方針の共有と、お礼の言葉。個人的にはゼロ点だけど、皆様が微笑んで頷いてくれたから、よかった……かな?

 ちなみにですが、ジーク様はフッと笑った後、すぐに顔を赤らめながら、フイッとそっぽを向いてしまいました。

 笑った顔を見せたくなかったのでしょうか? とても美しい笑顔なのに……それと、あの照れてそっぽ向くジーク様って、ちょっぴりかわいいかも……です。
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