婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第二十一話 ジェニエス学園

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 キーンコーンカーンコーン――

「はぁ、終わりました……」

 初めてのジェニエス学園で過ごす時間が無事に終わった私は、程よい疲れと沢山の満足感を感じながら、大きく体を伸ばしました。

 授業は面白いですし、ジェニエス学園の中にあるものを見るのも新鮮ですし、クラスメイト達も優しいし……本当に私がこんな幸せを味わっていいのでしょうか。

「さてと、ジークさ――」
「シエルさん、これから学園の案内してあげるわ!」
「なに言ってるんだ! 聖女様を案内するのは俺だ!」
「え、あの……わ、私は……」

 ジーク様に声をかけようとした矢先、一瞬でクラスメイト達に囲まれてしまいました。

 皆様の好意は凄く嬉しいんですが……私はジーク様との約束が……今度こそちゃんと言わないと、皆様にもジーク様にも失礼ですよね。

「あ、あの! 私、ジーク様とお昼に学園を案内してもらうって約束をしてるんです!」
「あ、そうだったの? それじゃ仕方ないね~」
「ちぇ、聖女様に紹介したかったけど、仕方ないかー」

 よかった、何とか納得してもらえました。やっぱり皆様はとても良い人みたいです。教室の隅に、冷たい目で見てる人達もいますが……。

「お待たせしました、お願いします」
「ああ、任せろ」

 少し驚いたように目を大きく見開いていたジーク様は、すぐにいつものクールな表情に戻してから、私と一緒に教室を後にしました。

「まさか……お前が自分で言うとは思ってなかった」
「さっきは助けていただきましたけど、今度はちゃんと自分の口で言わないと、皆様やジーク様に失礼かと思ったんです」
「そうか。俺の事は気にしなくてもいいが……まあいい。さて、近い所から回るぞ」
「はいっ!」

 私はジーク様の案内の元、ジェニエス学園のあちこちを回り始めます。もうこの時点でドキドキとワクワクでいっぱいなのですが……どんなものが私を待っているのでしょうか?

「ここは第一音楽室だ。見ての通り、様々な楽器が置いてある。あのグランドピアノとかは、かなり一級品で良い音を奏でる」
「す、凄い立派です……あの棚に入ってるものは、楽譜ですか?」
「楽譜もあれば、音楽の歴史に名を遺す偉人の本もある。入って案内したいが、放課後は吹奏楽部の練習の邪魔になる」

 スイソウガクブ……? なんの名称でしょうか? 名前からして、なにかの音楽のような気もしますが……。

「木管楽器や金管楽器を主軸に置いた、音楽の事だ。そこに打楽器を加えたりもする」
「それをスイソウガクブというんですか?」
「吹奏楽部は、吹奏楽をする為に集まった人間で構成された、部活動だ」

 ま、また知らない単語が出てきました。ブカツドウとはなんなのでしょう? 全然わかりませんが、知らないお話を聞くと、不思議とワクワクするんですよね。勉強の時と同じです!

「部活動は……そうだな。ざっくり言うと、共通の趣味の生徒が集まった団体と言えば伝わるか?」
「共通……って事は、スイソウガクブは音楽が好きな方が集まってるって事ですか?」
「そういう事だ。うちは部活動にも力を入れているから、様々な部活動がある。丁度いいから、見かけた部活動は紹介しよう」
「いいんですか!? ありがとうございます!」

 その後、私は様々な所を回りました。怪しい薬品が置いてある理科室、魔法の練習や開発に使う研究室、数えきれないほどの本が置いてある大図書館!

 知らないものをたくさん見るだけで、どうしてこんなに楽しいんでしょうか!? 今の時間だけで、数日間遊び倒したくらいの疲れを感じるくらいです。

「…………」
「どうかしましたか?」
「……いや、楽しそうだと思ってな」
「は、はしゃぎすぎでしょうか……?」
「それは否めない」

 うぅ、やっぱりはしゃぎすぎてしまってたんですね……でも仕方ないんですよ! 食堂は広くて、少し食べたお菓子が本当においしかったし、大図書館は読みたい本がたくさんあって、もはや住めそうですし、自習室は個別になってるからみっちり勉強したいし……あちこちに素晴らしいものばかりなんです!

「すみません、はしゃぎすぎちゃって……うぅ、もうお嫁に行けません……」
「別に悲観する必要はないだろう。お前はずっと大変な場所に住んでて、つらい巡礼をやらされ、大切な人を失った。そんなお前が、少しくらい楽しんでも罰は当たらない。それに……」
「それに?」
「いや……貰い手が無くても、俺に当てがあるから心配するな」
「そうなんですか? ありがとうございます!」

 お礼を言っては見たものの、私は内心穏やかではありませんでした。あの発言って、捉え方を考えれば……ジーク様が私を……って、ないないないない!! 私のようなスラム出身で、髪色が気持ち悪くて、巡礼で得たサバイバル知識しかない女が、ジーク様に似合うわけ……ないもん……。

「急にどうした? 何か悲しいのか?」
「な、何でもないです。気にしないでください!」
「……? よくわからないが、あまり思いつめるなよ」
「はい、わかりました」

 変な事を言って心配をかけない為に、適当に誤魔化した私は、ジーク様と一緒にジェニエス学園を再度回り始めます。

 ただでさえお世話になっていて、ご迷惑もお掛けしているんだから、少しでも気を付けないといけませんよね。

「ここが最後だ。ここは訓練施設……剣や魔法の練習をする所だ」
「そうなんですか……? でもここって……」

 ジェニエス学園の端っこにある、小さな建物の中に来た私を出迎えたのは、受付のような所と、部屋番号のような数字が書かれた、大きくて平らな魔法石だけでした。

 ここで剣とか魔法の訓練をするなんて、さすがに無理があると思います。絶対に怪我人が出ちゃいますよ?

「見ればわかる……すまない、開いてる部屋の石を貸してほしい」
「今は一人用の部屋と団体用の部屋しか開いておりませんが、よろしいですか?」
「そうか……タイミングが悪いな。彼女に中の案内をしたいんだが……」
「でしたら構いませんよ。ただし、訓練をされるようでしたら、お一人になってくださいね」
「ああ、わかった。ありがとう」

 ジーク様は受付をしていた女性から、番号が書かれた石を一つ受け取りました。この石で何をするのか、私には皆目見当もつきません。

「シエル、俺の手を取れ」
「は、はい」
「行くぞ。起動」
「……え??」

 ジーク様の掛け声から一瞬で、さっきまで見ていた部屋ではなく、だだっ広い空間に変わっていました。

 い、一体何が起こったのか、全然わかりません。そもそもここはどこなのか、どうしてこんな所に来たのか、どうして一瞬で移動したのか……疑問しかありません。

「ここは、魔法で作られた空間だ。ここではいくら暴れても現実世界に影響がないから、好きなように魔法の練習が出来る。それに、自分の思ったように仮装敵を作る事もできる」
「……よくわかりませんが、凄いのだけはわかりました」
「とりあえずそれでいい。外に出るぞ……退出」

 先程と同じように、ジーク様の掛け声から間もなくして、先程の景色に戻っていました。

 さすが天下のジェニエス学園……設備の魔法のレベルがとんでもないです。いまだにこんな凄い所の生徒になれたのが信じられません。

「さて、一通り回り終えた。良い時間だから、そろそろ帰るとしよう」
「クリス様はいいんですか?」
「兄上は放課後も忙しいだろうから……変に邪魔はしたくない」
「わかりました。では、お屋敷で帰りを待ちましょう! それで、お帰りになったら一緒に出迎えましょう!」
「出迎えるって……たまにはそういうのも悪くはないか」

 優しく微笑むジーク様につられて、私もフフッと笑いながら、建物を出ようとすると、それを阻むように何人かの人達が立ちふさがりました。

 その人達は……私の事を毛嫌いしているクラスメイト達でした……。
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