婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第三十七話 助っ人

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「おやおや……書類作業をしていたら、お守りからシエルの声が聞こえたからやって来たら、随分と奇妙なものに絡まれているんだね」
「クリス様……来てくれたんですね!」
「当然さ。とりあえず……奴らには黙っててもらおう」

 クリス様が魔法陣を展開すると、一気に周りに冷気が漂い始めました。それから間もなく、黒い人達はみるみると凍ってしまいました。

「何とか合流できたか。兄上、感謝する。ところで、どうして兄上がここに?」
「シエルに渡したお守りに、以前と同じ魔法の仕込みをしておいたのさ。まさかこんな状況になってたのは想定外だったけどね」

 簡単な説明でわかったのか、ジーク様は「そうか」と短く答えるだけでした。まさに息がぴったりという表現が、一番しっくりきます。

「その多才な兄上には、こいつらがなにかわかるか?」
「おそらく、闇魔法を使った魔法生物……シャドーを作ってるんじゃないか?」
「闇魔法……めったに使い手がいないはずだが……それが俺達を?」
「シャドー、ですか……なんだか怖そう……」

 二人がお話している最中に、氷を破った大きい黒い人が襲い掛かってきましたが、クリス様が氷塊をぶつけて地面にめり込ませ、ジーク様に切り刻まれてしまいました。

 兄弟だからでしょうか? コンビネーションが美しすぎて言葉が出ません。今の一連の流れも、一切の無駄がなかったように見えました。

「確かに闇魔法は希少だ。なにせ、破壊や呪術を用いる魔法だから、危険な魔法として、国から抹消されたものだからね。その使い手の生き残りとコンタクトを取り、スムーズに使える人間……どうだ、自ずと答えがわかるんじゃないかい?」
「あいつか……性格が終わってるのは知ってるが……やる事が卑屈すぎる。要は、回復術師の試験に行かせないようにして、シエルが落ちるのを見たいって事だろう?」
「それが彼のやり方なんだろうね。全く嘆かわしい」

 いつもの調子で会話をしているお二人を見ていると、襲われているはずなのに、日常と変わらないように思えてくるのが不思議です。

 ……それにしても、彼って誰の事でしょう? 何かお二人と因縁がある方がいらっしゃるのでしょうか?

『ガッ……アッ……コロ……』
「な、なんですかあの大きさ……!?」

 黒い人達がうめき声を上げながら、黒い粒子へと霧散していきました。それから間も無く、それらは一つに合体していき……とても巨大な一つの個となりました。

「ほう、まるでうちの屋敷みたいな大きさになったな。あちらも本気になったようだ」
「的がデカくなっただけだから、斬るのは簡単だ。とはいえ……あれで潰されたら、俺たちは無事でも、シエルや御者、近隣にも被害が出る可能性がある」
「なら早急に処理しなければならないね。だが、斬ってもまた再生されるだろう……」
「無敵の魔法など存在しない。恐らく、奴の再生の核があるはずだ」
「ああ、私も同意見だ」

 あんな大きなものを目の前にしても、やはりいつもと変わらないお二人なのはいいんですが、さすがに少しは緊張感を持ってほしいです! ああ、なんか動き出してますし……!

「私が奴の動きを封じ、お前の足場を作る。その間に斬れ」
「それは構わないが、現状を打破できない」
「私の魔力で、奴の核を探す。幸いにも数が一つに纏まってるから、小物が多い状況よりかは見つけやすいだろう」
「わかった」

 ジーク様は大きな黒い人に向かて果敢に攻め込んでいきます。それをサポートする為に、クリス様は敵の足を凍らせた後、ジーク様の戦いやすいように氷の足場を作ってあげました。これなら、相手は腕で反撃する事しか出来ないです!

「斬りまくる……!!」

 ジーク様が作ってくれた足場を有効利用しているジーク様は、縦横無尽に飛び回ります。それに対して、黒い人も腕を振って抵抗しますが、一発も当たりません。

 その姿が……もう……こんな時にいっちゃいけないのはわかってるんですけど……!

「か、カッコいぃ~……!!」

 目の前で飛び回るお姿、たまに見える真剣な表情、流れる汗、他にも色々合わさって、一つの芸術になっています! もうカッコ良すぎて……言葉にできません!

「さて、今のうちにある程度は調べておいて……ふむ、そこか。これならいけるだろう」
「本当ですか!?」
「ああ。体全てを凍らせて動くを封じて、核を叩く」
「それって……ジーク様が巻き込まれる可能性がありますよね? その事をご存じなんですか?」
「多分わかってるんじゃないかな? あはは」
「多分!?」

 こんな一発勝負の場だというのに、多分だなんて……信じられません! わかっていなければ、ジーク様まで氷漬けになってしまうんですよ!?

「ジークなら、私のやりたい事くらい、言わなくても理解できるさ。それに時間もあまり無いしね。さあ……始めよう。こんなに大きいものを凍らせるのは久しぶりだからかな……少々心が躍るよ。ふふっ、不謹慎かな?」

 クスクスと笑いながら、クリス様は背後に多数の蒼白い魔法陣を展開しました。その手が僅かに震えているように見えるのは……私の気のせい? それとも私が震えているだけ?

「来たれ氷風。我らの安寧を奪う者に、永遠の氷の眠りを授けよ!!」

 何やら呪文みたいなものを唱えると、凄く大きな黒い人は、魔法陣から吹き出した吹雪に巻き込まれました。それから間も無く……凄く大きな黒い人は、かわいそうなくらいカチコチになっちゃいました……。

 って、あんな広い攻撃をしたら、近くにいたジーク様が巻き込まれちゃいます! 早く無事かどうか確認しないと!

「ジーク様、大丈夫ですか!? ジーク様ー!!」
「こっちだ。問題ない」

 私はお馬さんから降りて、声のする方に駆け寄ると、そこでは岩陰に隠れて休んでいるジーク様がいらっしゃいました。どうやら怪我は無さそう……良かった……!

「やれやれ、兄上め……てっきり一部を凍らせるのかと思ってたが、まさかここまでやるとはな……おい泣くな。だ、抱きつくな!」
「だって、だって! 心配だったから……!」
「……そうか、それは悪かった。だが、今は再会を喜んでる場合ではない」

 ジーク様に促されて顔を上げた私は、凄く大きな黒い人に視線を向けます。

 まだ動きませんが……このままではまた動くでしょう。早く何とかしないと……でも、こんな大きなものをどうすればいいのでしょう? 核がどうこうって仰ってましたが……。

「ジーク、無事そうで何よりだ」
「ああ、どこかの誰かに危うく殺されるところだったがな」
「それは災難だったね」
「……今度みっちり鍛錬に付き合ってもらうからな」
「ふふ、最近書類仕事ばかりで運動不足だから丁度いいね」

 軽く笑ってみせてから、クリス様はジーク様の持つ剣に軽く触れました。すると、刃が青白い光に包まれました。

「これでよし。剣に強化魔法をかけたから、核の破壊を頼みたい。危険な役目をさせてすまないが……頼む。核の場所は、奴の顔の中央だ」
「問題無い。俺の得意分野だからな。任せておけ」
「ジーク様……お気をつけて……」
「そんな顔をするな。たとえ怪我しても、お前に治してもらえば済む話だ」
「やめてください! 治せるといっても、それまで痛い思いをするんですよ!? それに、間に合わなければ死んじゃうかもしれないのに……そんなの、私……!」
「……すまない、冗談だ。お前に心配かけるような事は、極力避ける。それに、まだ回復術師になっていないお前に、そんな事はさせられない」

 こんな時でも私の心配をしてくれるジーク様は、そのまま振り返らずに、凄く大きな黒い人に向かって走り出しました。

 ……ごめんなさい、ジーク様。祈る事しか出来ない私をお許しください。そして……無事に帰ってきてください……!
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