婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第五十七話 未来に向けて

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 あれから時が過ぎ……ジェニエス学園で過ごす時もわずかになってきた頃。私は自室で大きな溜息を漏らしていました。

 何故なら、今日は回復術師になる為に受けた、試験の結果が帰ってくる日です。毎日勉強したとはいえ、不安はぬぐえません。

「なんだかこうして結果を待っていると、シエルが編入試験をした時の事を思い出すな」
「懐かしいですね。あの時も、凄く緊張していましたね」

 あの時と違う事と言えば、私がソファに座るジーク様にすっぽり収まってくっついているくらいでしょうか?

 ふ、普段はこんな事はしないんですよ? でも、緊張しすぎて……こうしていないと、落ち着かないんです。それくらい、私の中でジーク様の存在が大きくなっているんです。

 ちなみにクリス様は、今日はいません。先に卒業されたクリス様は、頻繁にグザヴィエ様の仕事に同行して、次期家長として色々勉強をしています。今日も、その関係で留守にしていると聞いています。

「失礼致します。シエル様宛のお手紙をお持ちしました」
「あ、ありがとうございましゅ!」

 緊張のあまり思い切り噛みながら、私は手紙を持って来てくれた執事様にお礼を言ってから、手紙を受け取りました。

 この中に……合否が書いてある紙が入っているんですね。こういうのは二度目の体験ですけど……何度やっても慣れる気がしません!

「怖いなら、俺が開けるか?」
「いえ、大丈夫です。でも……傍にいてください」
「安心しろ。何があっても離れるつもりはない」

 頼もしいジーク様の言葉に安心感を覚えた私は、自分でも驚くくらい、スムーズに手紙の封を開けて中の確認をしました。

 そこには……合格の二文字が書いてありました。

「っ……! ジーク様!」
「ああ、よくやった。毎日勉強して、魔法の練習をした成果だな」

 あまりにも嬉しくて……微笑みながら褒めてくれたジーク様に、私は強く抱き着いて、胸に顔をうずめました。

 あぁもう……嬉しすぎて感情が抑えきれません! 編入試験の時も嬉しくて倒れるくらいでしたが、今も同じくらい嬉しいです!

「本当に凄いな、シエルは。俺の自慢の妻だ」
「つ、妻って……まだ気が早いですよ! 結婚どころか、卒業すらしてないんですから……えへへ……」

 合格の嬉しさもありますが、大好きなジーク様に妻と言われたのが嬉しくて……顔のニヤニヤが抑えられません。こんなだらしのない顔は見せられないので……もう少し胸を借りさせてもらいましょう。

「ジーク坊ちゃま、失礼致します。例の品が届きましたので、お持ちしました」
「ありがとう」

 手紙を届けてくれた執事様ではなく、別のメイド様がやってくると、ジーク様に小さな箱を手渡しました。

 これは何でしょう? 掌サイズなので、あまり大きなものは入っていないと思うんですけど……。

「ジーク様、それは?」
「お前へのプレゼントだ」
「あ、そうなんですね……え、私に!? どうしてですか!?」
「今日の合格祝いだ」

 まさか私へのプレゼントと思っていなくて、普通に返事を返してしまいました……。わざわざ合格祝いを用意していただけるなんて、本当にジーク様は……もう、好きぃ……。

「開けても良いですか?」
「ああ」

 小箱を開けると、そこには真っ白な宝石が使われたペンダントが入っていました。夜空に輝く星のようにキラキラしていて、思わず見惚れてしまいました。

「ムーンストーンという石を使っているペンダントだ。シエルに似合うと思って、知り合いの職人に頼んでおいた」
「こ、こんな素敵なものを頂いて良いんですか?」
「ああ。お前の為に用意したからな。つけるから、背中を向けろ」

 言われるがままジーク様に背中を向けると、優しい手つきでペンダントを首につけてくれました。

 私みたいな貧乏な人間には、こんな綺麗な宝石は高くて一生縁の無いものだと思っていたのに……。

「これ以上私に泣かせてどうするんですか、もう……馬鹿……」
「シエルが喜んでくれるなら、いくらでも馬鹿になるさ」
「っ……ジーク様……!!」

 ついに感情を抑えきれなくなった私は、ジーク様の方を向くと、そのままジーク様の首に手を回しながら、キスをしました。

 どうしましょう。いつもはキスすれば、それで終わりなのに……今日は気持ちが収まる気配がありません。それほど気持ちが高揚してしまっているみたいです。

「ジーク様、私……」
「駄目だ。ここから先は、ちゃんと結婚してからだ」
「うっ……そうですよね……ごめんなさい」

 私達は、一応まだ学生の身分ですし、正式な夫婦になっていません。それなのにキスより先の事をするのは……よくないですよね。

「でも……キスでいいなら、もっとしても……良い」
「ジーク様……耳まで赤いですよ?」
「こ、こういうのは苦手なんだ!」
「ふふっ、ジーク様可愛いっ。いつもは堂々としてるのに、たまーに急に恥ずかしくなっちゃうところとか、キュンキュンしちゃいます」
「さっきから悪い事を言ってるのはこの口か?」
「ふにゅー!!」

 せっかくジーク様の可愛いを堪能していたのに、ジーク様に思い切り唇を潰すように、ムニューとされてしまいました。痛くはありませんが、上手く喋れません!

「ふぉめんらひゃい~!」
「全く、あまりからかうな」
「反省します……」

 あーあ……調子に乗り過ぎちゃったなぁ……ジーク様と付き合うようになってから、こうして一緒に過ごしていると、嬉しくなり過ぎちゃうと気があるんです。気を付けなきゃって思ってはいるんですけど……。

「よし、ちゃんとわかったシエルには、ご褒美をやろう」
「あっ……んっ……」

 今度はジーク様からキスをしてくれました。このゆっくりと何度も唇を重ねる感覚や、胸に感じるドキドキと暖かさ……そして幸福感と高揚感が、凄く好きなんです。

「ジーク様、もっと……」
「しょうがないな、シエルは」

 呆れつつも笑っていたジーク様は、そのまま何度も私にキスをしてくれました。

 えへへ、私……幸せだなぁ……。
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