【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

文字の大きさ
4 / 82

第四話 婚約破棄

しおりを挟む
 私に話しかけてきた男性は、このパーティーの主催者であり、私の婚約者であるヨルダン・イグウィス様だった。
 その隣にいる方は……社交界で見かけたことはあるが、名前はわからない。

「まったく、婚約者の癖に挨拶にも来ないとは。礼儀がなっていなくて嫌になる」

「大変失礼いたしました、ヨルダン様。私のような人間が挨拶などに伺ったら、素敵なパーティーを楽しんでいるヨルダン様に、水を差してしまうかと思いまして」

「なるほどな。まあいい、今回は許してやろう」

 別にヨルダン様のことを考えて、挨拶に行かなかったわけじゃない。ただ面倒事に繋がるようなことは、避けたかっただけだ。

「ねえヨルダンさまぁ、こんな女なんて放っておいて、一緒にパーティーを抜け出しましょうよ~」

「ははっ、そうしたいのは山々だけど、一応僕が主催者だから、勝手に抜けるわけにはいかないんだ。だから、楽しむのはパーティーが終わった後に……ね」

「きゃんっ」

 一応、婚約者である私が目の前にいると言うのに、ヨルダン様は腕に抱きつく女性と、イチャイチャしている。

 誰とどうしようと、私には関係の無いことだけど、いざ目の前でやられると不快だ。
 婚約者だからとかではなく、見たくも無いものを見せられたら、誰でも不快になるでしょう?

「ヨルダン様、わざわざ私のような女に声をかけてくださったのですから、何かご用があったのでしょう?」

「当然だろう? 今日は大切な発表をするのは、シャーロットも知っているだろうが、その際にはこんな端にいないで、僕の前まで来るように」

 ……? どうして私がそんなことをしないといけないの? もしかして、発表って私達の婚約に関するものだったりするのだろうか?

 例えば、結婚式の日時が決まったから、それを知らせるとか……もしそうなら、私に知らせないのはありえないし、こんなパーティーを開いてまで知らせるような内容じゃない。

 そんなことを思っていると、ヨルダン様は参加者の前に立ち、大きな声を出して注目を一転に集めた。

「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます! 本日は、皆様にご報告したいことがあり、このような場を設けさせていただきました!」

 どうやら、先ほど言っていたことを話すようね。逆らって面倒なことになるのを避けるためにも、素直に言われた通りにしよう。

 って……どうしてヨルダン様の隣に、知らない女性が立っているのだろう? 先程とは違う女性だし、随分と親しそうに寄り添っている。

「ご存じの通り、僕はシャーロット嬢と婚約をしておりますが、その婚約をこの瞬間を持って破棄し、こちらの女性と新たに婚約いたします!」

 ヨルダン様の言葉に、会場がざわめき始める。かくいう私も、驚きで目を大きく見開いてしまった。

 そんな中、いち早く行動をしたのは、私ではなくてお父様だった。

「冗談じゃない! 我々は何も聞いておりませんぞ!!」

 散々嫌っている私を家に置いてまで、イグウィス家と友好な関係を結びたがってるお父様からしたら、声を荒げる恥を晒してでも、婚約破棄だなんて絶対に避けたいことでしょうね……。

「ええ、お話しておりませんからね。ですが、ご安心ください。あなた方とは、今後も懇意にさせていただきますよ。こちらが勝手に決めてしまったことへのお詫びです」

「そ、そうですか……わははっ、それなら結構です!」

 自分の目的が達成できると知ったお父様は、一瞬にして手のひらを返した。
 わかってはいたことだけど、私のことを考えて、婚約破棄に抗議の声を上げるつもりは、さらさらないようだ。

 貴族達も、突然の婚約破棄に疑問の声を上げる人はおらず、当然だとか、むしろ今までよく婚約していたとか、お似合いの末路とか、散々な言いようだ。

 普通なら、こんな状況に置かれたらショックを受けるかもしれないが、あいにく私は、傷つけられてきた年季が違う。だから、多少驚きはしたが、これ以上感情を動かしたりはしない。

「そういうわけだ。まあ、これも自分の行いを恨むんだね」

「私の行い、ですか」

「ああ。婚約してから間もなく、僕は君に対して、色々と気にかけてやったのに、無視しただろう? あれで、僕の心は大きく傷ついた。それを、彼女が癒してくれたんだ」

 よく言うわ。私の容姿だけをみて婚約してきたくせに。さも私が悪いみたいなことを言って、自分の立場を良くしようとしたいのね。

 ただ、残念なことに、ヨルダン様の言葉が偽りだと証言する証拠は無いし、抗議の言葉を信じてくれるほど、私を信じてくれる人もいない。

 ……私には、受け入れる以外の選択肢しかないようだ。ヨルダン様のことは全然好きじゃないから、別に構わないけど。

 強いて言わせてもらえるなら、お相手の女性に同情したいくらいかしら。婚約者になれて舞い上がっているのかもしれないけど、ヨルダン様はこの会場で、別の女性に手を出していたのを、ご存じないのかしら。

「なんだその顔は。納得がいっていないのか? こちらの女性は器量が良く、なによりも魔法の腕が素晴らしい! 魔法が使えない君とは違ってな! こんな素敵な女性に出会ってしまったら、君と婚約するなんて馬鹿らしくなったのさ!」

 身勝手なことを言っているが、魔法の才能ではどう足掻いても勝つことが出来ないせいで、言い返すことは出来ない。

「皆様、僕からのご報告は以上です。では、この素晴らしい日を記念したパーティーを、思う存分お楽しみください!」

 ヨルダン様の締めの言葉を合図に、貴族達は再び談笑をし始める。その内容は、主に私に対する嘲笑や、憐れみといったものばかりだ。

「おや、まだいたのか。君の役目はもう終わった。あとは好きにするがいいよ」

「左様でございますか。では、今日はお暇させていただきます」

「なっ、好きにしろとはいったが、まさか帰るというのか!? パーティーの最中に、よほどの用事もないのに帰るだなんて、なんて失礼な!」

「用事はありませんが、これだけ私に対する悪い感情が向けられていたら、体調を崩してしまいそうなので」

 そんなことは全く無いのだが、それらしい言い訳をして歩きだした私は、数歩歩いたところで、一旦足を止めた。

「ああ、お伝えするのを忘れておりました。私のことを失礼と仰るなら、当事者である私に、なんの報告も無しに一方的に婚約を破棄したあなたの方が、よほど失礼かと。私だから許しますが、今後は身の振り方をお考えになった方がよろしいですわ」

「なっ……!? 伯爵家の令嬢の分際で、僕に説教をするのか!?」

「誤解なさらないでください。私のような人間と婚約してくれたあなたに、世渡りの仕方について、注意喚起をさせていただいたに過ぎません。では、ごきげんよう」

 さすがに言われっぱなし、やられっぱなしでは癪に障るので、注意喚起という名の嫌味を残して、会場を後にした。

 ……どいつもこいつも、私のことを馬鹿にして。今に見てなさい。必ず見返してやるんだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む

さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。 姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。 アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。 アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。 そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう エイプリルは美しい少女だった。 素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。 それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...