【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

文字の大きさ
30 / 82

第三十話 幸せとドキドキの視察

しおりを挟む
「もうすぐ陽が落ちるというのに、沢山の人でにぎわっておりますのね……!」

「この辺りは、多くの店が並んでいる地域なんだ。あそこは雑貨屋、あそこは花屋、その奥は本屋もある。少し進んだ先には、食事ができる店が多く並んでいるんだ」

 話を聞いているだけでも、ワクワクが止まらない。もし許されるなら、全ての店をじっくりと見て回りたいくらいだ。

「今日はあまり時間が取れなかったけど、今度来る時はもっと早い時間に来て、色々と見て回ろうね」

「はいっ。今からとても楽しみですわ」

 自分もわかるくらい声が弾んでいるし、興奮で体が熱くなっているのか、手汗を少しかいている。それでも、ルーク様は嫌な顔一つせず、私に色々と案内をしてくれた。

「わぁ……このお店は、魔道具を扱っているんですね……!」

「騎士団や宮廷魔術師も愛用している、魔道具の老舗なんだ。ここだけの話、ハリーが使っている杖も、ここの創設者にオーダーメイドで作らせたものなんだ」

 内容が人に聞かれると困るものだから、私にだけ聞こえるように耳打ちで教えてくれた。
 その際に、ルーク様の顔が近くまで来たせいで、一瞬にして顔が熱くなり、胸がドキドキし始めた。

「シャーロット、急に顔が赤くなったが、どうしたんだい? もしかして、疲れちゃったかな?」

「い、いえ。お気になさらず」

 その原因がルーク様にあるなんて、恥ずかしくて言えるわけもなく……顔を背けることしか出来なかった。

「そ、それにしても……歩いているだけなのに、とても楽しいですわ」

「そうだね。僕もとても楽しいよ。もちろんそれは、街の魅力のおかげもあるだろうけど、なによりも君と一緒にいるのが、一番の要因だろうね」

「はうぅ……」

 だ、だから無意識にそんなドキドキするようなことを言わないでほしい。そろそろ誤魔化すのも難しくなってしまうわ……。

「えーっと、えーっと……そ、そろそろお腹がすいてきたので、食事にしませんか?」

「そうだった、今日は街を回る他にも、シャーロットの食事も目的だった! ああもう、僕は本当に大馬鹿者だ!」

「わ、私は大丈夫ですから……あんまり大声を出すと、目立ってしまいますわ」

 私は日頃から悪意に満ちた目で見られていたから、多少変な人を見るような目で見られても問題は無いのだけどね。

「目立つ? あはは、そんなのを気にしていたら王子なんて――」

「し、しーっ!」

「あっ……そうだった。止めてくれてありがとう」

 もう、ルーク様ってば……自分で正体を明かすような発言は控えてもらいたい。バレたら視察ができなくなってしまうわ。

「それじゃあ、行こうか。僕のオススメの店が近くにあるんだ」

「わかりました」

 魔道具店を後にしてやってきた場所は、こじんまりとしたレストランだった。
 お洒落で綺麗な店ではあるが、王族であるルーク様がオススメするのは、少々意外な感じだ。

 なんていうか、もっと豪華というか……一日に一組しか食べられないようなお店だと、勝手に考えていたわ。

「ここのクリームパスタが非常においしいんだ。シンプルだけど、だからこそシェフの腕が強く反映されているんだ」

「そうなのですね。それではそのパスタにしますわ」

「それじゃあ、僕はトマトソースにしようかな」

「それもおいしそうですわね。ふふっ、楽しみですわ」

 今日の散策だけで、どれだけ自然に笑っているのだろう? そんなことを思いながら、ルーク様と世間話をしていると、注文したパスタが提供された。

「良い匂いですわ! それに、この美しい白……まるで雪みたい!」

「ああ、そうだね。それじゃあいただこうか」

「ええ! といいたいところなのですが……その、お恥ずかしながら、パスタをいただいたことがなくて……どうやって食べればいいのでしょう?」

 パスタなんて、一般的に食べられている料理なのに、それすら食べたことがないのを告白するのは、なんとも情けない話だ……。

「なら、僕の食べ方を見て真似をするといいよ。こうやってフォークをくるくるして……」

 ルーク様のを見て、同じ様に真似をしてみるが……。

「思った以上に難しいですわね……パスタが逃げてしまいますわ」

「焦らなくても大丈夫だよ。ゆっくりやってごらん」

 ゆっくり……あ、パスタが少しずつフォークに絡まって……このままゆっくりゆっくり……できたわ!

「いいね。それを口に運ぶんだ、ソースが零れないようにね」

「は、はい。いただきます……はふっ、はふっ……こ、これは……!」

 おっかなびっくりパスタを口にすると、濃厚なクリームソースの優しい味と香りが、口いっぱいに広がって……物凄い幸福感だ。

「おいしいです! すごく、すごく!」

「それはよかった。うん、こっちのソースも、相変わらずおいしい」

「まあ、そうですのね。では、次に来た時には別のメニューを……」

「その必要は無いよ。ほら、僕達が食べているものを、食べさせあいっこをすればいいじゃないか」

 た、食べさせあいっこ!? 確かにそうすれば、私ももう一つの味を食べられるし、ルーク様にもこの素晴らしいパスタをお裾分け出来るじゃない!

「ほら、あーん」

「……へ?」

 ルーク様は、ニコニコしながら、フォークに絡まったパスタを私に差し出した。

「あれ、あーんをしたことがない?」

「まだ小さい頃に、お母様にしていただきましたが……でも、これって……」

 あの頃は、まだ私が小さかったからしてもらっていただけで、当然今はそんな歳じゃない。
 そもそも、この歳になってあーんなんて……恋人がするようなことよね? さすがの私でも知っているわ。

「ほら、せっかくのパスタが冷めちゃうよ」

「うぅ……あ、あーん……」

 意を決した私は、髪がかからないように耳にかけながら、パスタを口に含んだ。

「お、おいしいです……」

「そっか。ならよかった!」

 とても嬉しそうなルーク様に、コクコクと何度も頷いて見せる。

 ……嘘だ。おいしいとかおいしくないとか、全く感じられない。それくらい、あーんでドキドキしてしまっていた。

「それじゃあ、僕もいただこうかな。あーん」

「わ、私もするのですか!?」

「うん。あっ……もしかして嫌だった? ごめん、君との食事が嬉しくて、調子に乗りすぎちゃったかもしれない……」

 さっきまでとても楽しそうだったのに、一瞬にしてしょんぼり顔になってしまった。

 せっかくルーク様が、私を連れ出してくれたのに、ここで悲しませてどうするの? た、ただルーク様にパスタを食べさせるだけじゃない!

「あ、ああ、あーん……」

 緊張しすぎて、上手くパスタをくるくるして取れないし、差し出したフォークは震えてしまったが、なんとか無事にルーク様にあーんをすることが出来た。

 ……なんだか、どっと疲れてしまった。下手したら、魔法の練習をするよりも疲れたかもしれない。

 でも、楽しかったし……なによりも、とても幸せな食事だ。まだ終わってはいないけど、機会があればまたルーク様と外食したいわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

妹に婚約者を奪われ、舞踏会で婚約破棄を言い渡された姉は、怒りに魔力を暴発させた。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

処理中です...