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第二十九話 初めての経験
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ルーク様と一緒にお茶を淹れ、事前に持ってきたチョコレートを楽しんでいると、ルーク様は目を輝かせた。
「シャーロット、このチョコレートおいしいよ!」
「それはよかったですわ。城の使用人から話を聞いて、買ってきてもらいましたの」
私とさほど歳が離れていない、若い女性の使用人から、最近流行っているおいしいチョコレートがあると聞いて、ルーク様と食べてみたくて用意してもらったのだけど、本当においしい。
いつもは甘さ控えめのお菓子をよく食べているのだが、このチョコレートはとにかく甘い。そのおかげで、苦みの強いお茶が合う気がする。
「ルーク様、最近の研究はいかがですか?」
「悪くはないよ。杖から得たデータのおかげで、確実に進んではいる」
「まあ、本当ですか?」
「ただ、まだまだ調整が必要でね。あっちを立てればこっちが立たずって状態で……もっとデータと実験が必要だろうね」
「それでも、成果が着実に出ているのは、凄いことだと思いますわ」
「ありがとう。シャーロットは褒めるのが上手だね」
上手なのだろうか? 私は、ただ思ったことを素直に伝えているだけなのに。
でも、それでルーク様が喜んでくださるなら、私にとっても嬉しい。
「シャーロットの方はどうだい?」
「それが全然……毎回同じミスをしてしまいますの。改善しようと、出来る限りやっているのですが……」
「うーん、僕の提案したやり方が悪いのかな……いや、そんなことはないはず……ということは、別に原因があると考えるのが妥当かな?」
「もしよろしければ、なにがどうなってるか、改めて見てもらえませんか?」
「ああ、わかった。それじゃあ、そこの魔法陣に立って」
言われた通り、小屋の中にある魔法陣に立つ。これからなにをすればいいのだろうか?
「いつも魔法を使う時みたいにしてくれればいいよ」
「室内で魔法を使って大丈夫なのでしょうか?」
「何かあったら、全力で守るから安心して」
にっこりと笑うルーク様の力強い言葉のおかげで、不安な気持ちはどこかに旅立っていった。そのチャンスを見逃さずに、魔法の体制に入る。
しかし……結局魔法は発動せず、ただ疲れるだけだった。
「これは……ふむ……」
「なにかお分かりになられたのですか?」
「ああ。地脈から力を引っ張ってくるのは大丈夫だ。問題なのは、別の力だ」
別の力が、問題……?
「具体的に言うと、精霊の力が問題だ。魔法を使おうとすると、精霊の力がそれを嫌がって阻害している。いや、違うな……嫌がってるじゃなくて、明確に邪魔をしている」
「ど、どういうことですの!? もしかして、お母様の杖が私を……!?」
「杖は正常だ。君を受け入れ、地脈の力を引っ張って来てくれている。ただ……他の精霊が、それを邪魔をしている」
えっと……とりあえず、理屈とお母様が味方だってことはわかったけど、じゃあどうすれば……。
そもそも、精霊の血が通っている私が、同胞である精霊に邪魔される意味がわからない。私が知らないうちに、精霊を怒らせることをしてしまったのだろうか?
……もしかして……私が精霊が見えないのも、声が聞こえないのも、それが関係しているんじゃ……?
「どうして邪魔をしているのか、僕にはわからないから、断定はできないが……もっと早くに調べていればよかったね……申し訳ない」
「そんな、こんなこと誰にも予想できなかったことですから。ルーク様は悪くありませんわ」
「……とりあえず、もう少し君や精霊のことを調べないとだね」
「いえ、それなら自分でやりますわ。これ以上、ルーク様の時間を奪うわけはいきませんわ」
「しかし……」
「ここまでお膳立てしてもらったのですから、できる限り自分で頑張りたいのです」
「……まあ、あんまり手を出し過ぎても、シャーロットのためにならないし……わかった。もし何かあったら、すぐに人形を通して呼ぶんだよ」
これ以上おんぶに抱っこの状態で魔法を習得したといっても、それはルーク様の手柄だ。そんな力で復讐したって、なんの意味もない。
「さてと、お茶もお菓子もおいしくいただいたし、そろそろ出発しようか。今回は一度城に行ってから、馬車で行くつもりだ。街には裂け目を作っていないからね」
いつもは裂け目ですぐに移動できるけど、たまには馬車でゆっくりと行くのも悪くない。そんなことを思いながら、私はルーク様と一度城へと戻って行った。
****
「シャーロット、足元に気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
無事に目的地に到着した私は、ルーク様にエスコートされながら馬車を降りる。すると、大きな建物の中から出てきた、一人の老男性が、私達を出迎えてくれた。
「ルーク様、本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。図が高いこと、お許しくださいませ。なにせ、もう歳で動くのもままならないものでして」
「お気になさらず。具合が悪いのにお出迎えしていただいたことに、深い感謝を。事前にお話していた通り、自由に散策をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。街の日常をご覧いただくために、皆には特に何も伝えておりません」
「ありがとうございます」
なるほど、事前にルーク様が来ることを知っていたら、日頃の民がどんな感じなのかが見られないものね。
「それじゃあ行こうか。っと、その前に……」
ルーク様がパチンっと指を鳴らすと、彼の足元に小さな魔法陣が描かれる。そして、魔法陣が優しく光り、ルーク様の体を包んだ。
「これでよしっと」
光が収まると、そこにいたのはルーク様に似た別の人物だった。声や雰囲気、背格好は同じなのだけど、銀色の髪は薄い青色に、切れ長の青い目は赤く変化していた。
「凄い、変身魔法ですか?」
「そうだよ。ふう……よし、大丈夫そうだ。待たせてすまない、行こうか」
「はい」
私は、少し疲れた様子のルーク様にエスコートされながら、散策を始める。
今は、白い壁に明るいオレンジ色の屋根が特徴的な建物が並ぶ、賑やかな街の中を歩いている。
「シャーロットは、この辺りには来たことがあるかい?」
「いえ、一度もありませんわ。自由に街を出歩ける身分でもありませんでしたから」
実家にいる頃だったら、絶対に経験できないであろうことを、今体験できている。それは、私に強い興奮とワクワクした気持ちを与えてくれた。
「……すまない、僕の配慮が足らなかった」
「いえ、あなたが謝る必要はございません。むしろ、私の初めての散策をあなたと経験できて、喜ばしいくらいですもの」
これは、ルーク様に気にしないように気を利かせているわけではない。本当にそう思っている、私の気持ちだ。
「シャーロット……それじゃあ、初めての散策がより良い思い出になるように、僕が引き続き、しっかりエスコートするよ!」
「まあ、それはとても楽しみですわ。ふふっ」
本当に楽しみなおかげで、自然と笑みがこぼれると同時に、今日はとても素敵な日になるという予感がした――
「シャーロット、このチョコレートおいしいよ!」
「それはよかったですわ。城の使用人から話を聞いて、買ってきてもらいましたの」
私とさほど歳が離れていない、若い女性の使用人から、最近流行っているおいしいチョコレートがあると聞いて、ルーク様と食べてみたくて用意してもらったのだけど、本当においしい。
いつもは甘さ控えめのお菓子をよく食べているのだが、このチョコレートはとにかく甘い。そのおかげで、苦みの強いお茶が合う気がする。
「ルーク様、最近の研究はいかがですか?」
「悪くはないよ。杖から得たデータのおかげで、確実に進んではいる」
「まあ、本当ですか?」
「ただ、まだまだ調整が必要でね。あっちを立てればこっちが立たずって状態で……もっとデータと実験が必要だろうね」
「それでも、成果が着実に出ているのは、凄いことだと思いますわ」
「ありがとう。シャーロットは褒めるのが上手だね」
上手なのだろうか? 私は、ただ思ったことを素直に伝えているだけなのに。
でも、それでルーク様が喜んでくださるなら、私にとっても嬉しい。
「シャーロットの方はどうだい?」
「それが全然……毎回同じミスをしてしまいますの。改善しようと、出来る限りやっているのですが……」
「うーん、僕の提案したやり方が悪いのかな……いや、そんなことはないはず……ということは、別に原因があると考えるのが妥当かな?」
「もしよろしければ、なにがどうなってるか、改めて見てもらえませんか?」
「ああ、わかった。それじゃあ、そこの魔法陣に立って」
言われた通り、小屋の中にある魔法陣に立つ。これからなにをすればいいのだろうか?
「いつも魔法を使う時みたいにしてくれればいいよ」
「室内で魔法を使って大丈夫なのでしょうか?」
「何かあったら、全力で守るから安心して」
にっこりと笑うルーク様の力強い言葉のおかげで、不安な気持ちはどこかに旅立っていった。そのチャンスを見逃さずに、魔法の体制に入る。
しかし……結局魔法は発動せず、ただ疲れるだけだった。
「これは……ふむ……」
「なにかお分かりになられたのですか?」
「ああ。地脈から力を引っ張ってくるのは大丈夫だ。問題なのは、別の力だ」
別の力が、問題……?
「具体的に言うと、精霊の力が問題だ。魔法を使おうとすると、精霊の力がそれを嫌がって阻害している。いや、違うな……嫌がってるじゃなくて、明確に邪魔をしている」
「ど、どういうことですの!? もしかして、お母様の杖が私を……!?」
「杖は正常だ。君を受け入れ、地脈の力を引っ張って来てくれている。ただ……他の精霊が、それを邪魔をしている」
えっと……とりあえず、理屈とお母様が味方だってことはわかったけど、じゃあどうすれば……。
そもそも、精霊の血が通っている私が、同胞である精霊に邪魔される意味がわからない。私が知らないうちに、精霊を怒らせることをしてしまったのだろうか?
……もしかして……私が精霊が見えないのも、声が聞こえないのも、それが関係しているんじゃ……?
「どうして邪魔をしているのか、僕にはわからないから、断定はできないが……もっと早くに調べていればよかったね……申し訳ない」
「そんな、こんなこと誰にも予想できなかったことですから。ルーク様は悪くありませんわ」
「……とりあえず、もう少し君や精霊のことを調べないとだね」
「いえ、それなら自分でやりますわ。これ以上、ルーク様の時間を奪うわけはいきませんわ」
「しかし……」
「ここまでお膳立てしてもらったのですから、できる限り自分で頑張りたいのです」
「……まあ、あんまり手を出し過ぎても、シャーロットのためにならないし……わかった。もし何かあったら、すぐに人形を通して呼ぶんだよ」
これ以上おんぶに抱っこの状態で魔法を習得したといっても、それはルーク様の手柄だ。そんな力で復讐したって、なんの意味もない。
「さてと、お茶もお菓子もおいしくいただいたし、そろそろ出発しようか。今回は一度城に行ってから、馬車で行くつもりだ。街には裂け目を作っていないからね」
いつもは裂け目ですぐに移動できるけど、たまには馬車でゆっくりと行くのも悪くない。そんなことを思いながら、私はルーク様と一度城へと戻って行った。
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「シャーロット、足元に気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
無事に目的地に到着した私は、ルーク様にエスコートされながら馬車を降りる。すると、大きな建物の中から出てきた、一人の老男性が、私達を出迎えてくれた。
「ルーク様、本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。図が高いこと、お許しくださいませ。なにせ、もう歳で動くのもままならないものでして」
「お気になさらず。具合が悪いのにお出迎えしていただいたことに、深い感謝を。事前にお話していた通り、自由に散策をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。街の日常をご覧いただくために、皆には特に何も伝えておりません」
「ありがとうございます」
なるほど、事前にルーク様が来ることを知っていたら、日頃の民がどんな感じなのかが見られないものね。
「それじゃあ行こうか。っと、その前に……」
ルーク様がパチンっと指を鳴らすと、彼の足元に小さな魔法陣が描かれる。そして、魔法陣が優しく光り、ルーク様の体を包んだ。
「これでよしっと」
光が収まると、そこにいたのはルーク様に似た別の人物だった。声や雰囲気、背格好は同じなのだけど、銀色の髪は薄い青色に、切れ長の青い目は赤く変化していた。
「凄い、変身魔法ですか?」
「そうだよ。ふう……よし、大丈夫そうだ。待たせてすまない、行こうか」
「はい」
私は、少し疲れた様子のルーク様にエスコートされながら、散策を始める。
今は、白い壁に明るいオレンジ色の屋根が特徴的な建物が並ぶ、賑やかな街の中を歩いている。
「シャーロットは、この辺りには来たことがあるかい?」
「いえ、一度もありませんわ。自由に街を出歩ける身分でもありませんでしたから」
実家にいる頃だったら、絶対に経験できないであろうことを、今体験できている。それは、私に強い興奮とワクワクした気持ちを与えてくれた。
「……すまない、僕の配慮が足らなかった」
「いえ、あなたが謝る必要はございません。むしろ、私の初めての散策をあなたと経験できて、喜ばしいくらいですもの」
これは、ルーク様に気にしないように気を利かせているわけではない。本当にそう思っている、私の気持ちだ。
「シャーロット……それじゃあ、初めての散策がより良い思い出になるように、僕が引き続き、しっかりエスコートするよ!」
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