【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

文字の大きさ
29 / 82

第二十九話 初めての経験

しおりを挟む
 ルーク様と一緒にお茶を淹れ、事前に持ってきたチョコレートを楽しんでいると、ルーク様は目を輝かせた。

「シャーロット、このチョコレートおいしいよ!」

「それはよかったですわ。城の使用人から話を聞いて、買ってきてもらいましたの」

 私とさほど歳が離れていない、若い女性の使用人から、最近流行っているおいしいチョコレートがあると聞いて、ルーク様と食べてみたくて用意してもらったのだけど、本当においしい。

 いつもは甘さ控えめのお菓子をよく食べているのだが、このチョコレートはとにかく甘い。そのおかげで、苦みの強いお茶が合う気がする。

「ルーク様、最近の研究はいかがですか?」

「悪くはないよ。杖から得たデータのおかげで、確実に進んではいる」

「まあ、本当ですか?」

「ただ、まだまだ調整が必要でね。あっちを立てればこっちが立たずって状態で……もっとデータと実験が必要だろうね」

「それでも、成果が着実に出ているのは、凄いことだと思いますわ」

「ありがとう。シャーロットは褒めるのが上手だね」

 上手なのだろうか? 私は、ただ思ったことを素直に伝えているだけなのに。
 でも、それでルーク様が喜んでくださるなら、私にとっても嬉しい。

「シャーロットの方はどうだい?」

「それが全然……毎回同じミスをしてしまいますの。改善しようと、出来る限りやっているのですが……」

「うーん、僕の提案したやり方が悪いのかな……いや、そんなことはないはず……ということは、別に原因があると考えるのが妥当かな?」

「もしよろしければ、なにがどうなってるか、改めて見てもらえませんか?」

「ああ、わかった。それじゃあ、そこの魔法陣に立って」

 言われた通り、小屋の中にある魔法陣に立つ。これからなにをすればいいのだろうか?

「いつも魔法を使う時みたいにしてくれればいいよ」

「室内で魔法を使って大丈夫なのでしょうか?」

「何かあったら、全力で守るから安心して」

 にっこりと笑うルーク様の力強い言葉のおかげで、不安な気持ちはどこかに旅立っていった。そのチャンスを見逃さずに、魔法の体制に入る。

 しかし……結局魔法は発動せず、ただ疲れるだけだった。

「これは……ふむ……」

「なにかお分かりになられたのですか?」

「ああ。地脈から力を引っ張ってくるのは大丈夫だ。問題なのは、別の力だ」

 別の力が、問題……?

「具体的に言うと、精霊の力が問題だ。魔法を使おうとすると、精霊の力がそれを嫌がって阻害している。いや、違うな……嫌がってるじゃなくて、明確に邪魔をしている」

「ど、どういうことですの!? もしかして、お母様の杖が私を……!?」

「杖は正常だ。君を受け入れ、地脈の力を引っ張って来てくれている。ただ……他の精霊が、それを邪魔をしている」

 えっと……とりあえず、理屈とお母様が味方だってことはわかったけど、じゃあどうすれば……。

 そもそも、精霊の血が通っている私が、同胞である精霊に邪魔される意味がわからない。私が知らないうちに、精霊を怒らせることをしてしまったのだろうか?

 ……もしかして……私が精霊が見えないのも、声が聞こえないのも、それが関係しているんじゃ……?

「どうして邪魔をしているのか、僕にはわからないから、断定はできないが……もっと早くに調べていればよかったね……申し訳ない」

「そんな、こんなこと誰にも予想できなかったことですから。ルーク様は悪くありませんわ」

「……とりあえず、もう少し君や精霊のことを調べないとだね」

「いえ、それなら自分でやりますわ。これ以上、ルーク様の時間を奪うわけはいきませんわ」

「しかし……」

「ここまでお膳立てしてもらったのですから、できる限り自分で頑張りたいのです」

「……まあ、あんまり手を出し過ぎても、シャーロットのためにならないし……わかった。もし何かあったら、すぐに人形を通して呼ぶんだよ」

 これ以上おんぶに抱っこの状態で魔法を習得したといっても、それはルーク様の手柄だ。そんな力で復讐したって、なんの意味もない。

「さてと、お茶もお菓子もおいしくいただいたし、そろそろ出発しようか。今回は一度城に行ってから、馬車で行くつもりだ。街には裂け目を作っていないからね」

 いつもは裂け目ですぐに移動できるけど、たまには馬車でゆっくりと行くのも悪くない。そんなことを思いながら、私はルーク様と一度城へと戻って行った。


 ****


「シャーロット、足元に気をつけて」

「はい、ありがとうございます」

 無事に目的地に到着した私は、ルーク様にエスコートされながら馬車を降りる。すると、大きな建物の中から出てきた、一人の老男性が、私達を出迎えてくれた。

「ルーク様、本日はお忙しい中お越しいただき、誠にありがとうございます。図が高いこと、お許しくださいませ。なにせ、もう歳で動くのもままならないものでして」

「お気になさらず。具合が悪いのにお出迎えしていただいたことに、深い感謝を。事前にお話していた通り、自由に散策をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい。街の日常をご覧いただくために、皆には特に何も伝えておりません」

「ありがとうございます」

 なるほど、事前にルーク様が来ることを知っていたら、日頃の民がどんな感じなのかが見られないものね。

「それじゃあ行こうか。っと、その前に……」

 ルーク様がパチンっと指を鳴らすと、彼の足元に小さな魔法陣が描かれる。そして、魔法陣が優しく光り、ルーク様の体を包んだ。

「これでよしっと」

 光が収まると、そこにいたのはルーク様に似た別の人物だった。声や雰囲気、背格好は同じなのだけど、銀色の髪は薄い青色に、切れ長の青い目は赤く変化していた。

「凄い、変身魔法ですか?」

「そうだよ。ふう……よし、大丈夫そうだ。待たせてすまない、行こうか」

「はい」

 私は、少し疲れた様子のルーク様にエスコートされながら、散策を始める。

 今は、白い壁に明るいオレンジ色の屋根が特徴的な建物が並ぶ、賑やかな街の中を歩いている。

「シャーロットは、この辺りには来たことがあるかい?」

「いえ、一度もありませんわ。自由に街を出歩ける身分でもありませんでしたから」

 実家にいる頃だったら、絶対に経験できないであろうことを、今体験できている。それは、私に強い興奮とワクワクした気持ちを与えてくれた。

「……すまない、僕の配慮が足らなかった」

「いえ、あなたが謝る必要はございません。むしろ、私の初めての散策をあなたと経験できて、喜ばしいくらいですもの」

 これは、ルーク様に気にしないように気を利かせているわけではない。本当にそう思っている、私の気持ちだ。

「シャーロット……それじゃあ、初めての散策がより良い思い出になるように、僕が引き続き、しっかりエスコートするよ!」

「まあ、それはとても楽しみですわ。ふふっ」

 本当に楽しみなおかげで、自然と笑みがこぼれると同時に、今日はとても素敵な日になるという予感がした――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

妹に婚約者を奪われ、舞踏会で婚約破棄を言い渡された姉は、怒りに魔力を暴発させた。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

処理中です...