【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第三十六話 私の力で成し遂げたい

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「あ、あれ……ベルナール家のご息女……よね?」

「……シャーロット様って、行方不明じゃ……?」

「それよりも、どうしてルーク王子が彼女と婚約をしたのだ? 確か、あの令嬢は魔法が使えない、出来損ないでは……?」

「どう考えても、ルーク様には不釣り合いな女性ですわよね?」

 どよめきの声が、会場中にどんどんと広がっていくなか、私達は参加者達の前に立つ。

 驚くのも、納得ができないのもよくわかる。社交場での私の評判は、最悪と言ってもいいもの。

「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。この度、ルーク・クレマンはこちらの女性、シャーロット・ベルナール様と婚約を結ばせていただきました。そのことを皆様にご報告させていただきたく、このような場を設けさせていただきました」

 ルーク様の言葉で、私が正真正銘、シャーロット・ベルナールだと知れ渡ったことで、更に動揺の声が広がる。

 そんな彼らに向かって、私はドレスの裾を持ち上げながら、深々と頭を下げた。

「事情があり、結婚式は少々先になる予定ではございますが、皆様にまずは報告をするべきだと――」

「ちょ、ちょっとお待ちくださいませ!」

 ルーク様の挨拶を遮るように声を上げたのは、お父様だった。その隣では、マーガレットがまるでオバケでも見たかのような表情を浮かべながら、固まっている。

「生きて……生きていたのか!?」

「はい。まさか火事に巻き込まれるとは思っておりませんでしたが、こうして無事に生き延び、とても素晴らしいご縁に恵まれましたわ」

「そ……そっかー! お姉様、無事で本当に良かったよ! あたし、お姉様が心配で心配で……!」

「まったくだ! 生きているなら、どうしてもっと早く連絡をしてくれんのだ!」

 私をずっと虐げていた人と同一人物とは信じられないようなことを言いながら、二人は参加者の間を割って前に出てきた。

 心配? 連絡? 冗談もここまでくると笑えないわ。この反応を見る限り、私を消そうとしたのはあなた達なのはほぼ確実だし、連絡なんてしようものなら、また秘密裏に消そうとするに決まっている。

 そんなことが私にわからないと思っているのなら、救いようのない愚か者だ。ああ……元から救いようがない人達だった。

 ……少し思ったのだけど、この場で私がお父様に事故に見せかけて殺されそうになったことや、日頃から虐げられていたことを告発すれば、全てを終わらせられるのではないかしら?

 きっと、それはお父様やマーガレットもわかっているから、こうやってなんとか取り繕うとしているのだと思う。

「……こんなことで復讐して、それって意味があるのかしら……」

 この場で告発すれば復讐になるかもしれないけど、それはあくまでルーク様の立場や、このパーティーを利用しているだけに過ぎない。

 そんなのは……嫌だ。私は、私の力で家族に復讐をしたい。

 それに、何の準備もしていないのに告発なんてして、二人が逆上をして私を道連れにしようものなら、取り返しがつかなくなる可能性もある。

 今までの私だったら、復讐が出来るなら道連れをされようとも問題無かったが、今は違う。ルーク様という好きな人の夢を支えるためにも、死ぬわけにはいかない。

 だから……私は喉まで出かかっていた告発の言葉を、グッと飲み込んだ。

「それでシャーロット、杖は無事なのかね?」

「エドモン殿、マーガレット嬢、お久しぶりです。息災そうでなによりです。再会して早々に、彼女の杖の心配ですか」

「あ、ああ……ご無沙汰しております、ルーク王子様。娘はどこにいたのですか!?」

「ボロボロの状態で夜道を彷徨っているところを、保護いたしました。まったく、王家から婚約の旨を伝える書面を出した直後に、あんなことになるとは、少々想定外でしたよ」

 屈託のない笑みを浮かべるルーク様とは対照的に、お父様は冷や汗をかきながら、視線を逸らした。

 今の言葉には、あなた達のやったことはわかっているから、大人しくしていろという、ルーク様の遠回しの脅しの気持ちが感じられた。

「お父様、マーガレット。これからも引き続き、私は王家の方々にお世話になります。あなた達の元を離れるのは少々不安ですが、それ以上にとっても幸せですの。なので……邪魔はなされませぬよう、お願い申し上げます」

 二人には見せたことがないような頬笑みを浮かべると、二人揃って悔しそうな表情を、一瞬だけ浮かべた。

 私が生きていること、私が幸せになること。そのどちらとも、受け入れがたいほど悔しいのでしょうね。

「よく耐えたね、シャーロット。偉いよ」

「ここで復讐心に身を任せるわけには参りませんから」

 私にだけ聞こえるように耳打ちするルーク様に、私も小声で答える。

 ――その後、パーティーが終わるまで、私達の元には多くの人が挨拶に来た。その中には、ルーク様が国王になることを期待して、応援してくれる人がいた。

 それはとても喜ばしいことだったが……その中には、私がパーティーに参加するたびに、陰口を言っていた人も多く含まれていた。

 そんな人達が来ても、私は怒ったり呆れたりせず、ルーク様の婚約者として振舞った。ここで感情的になったら、ルーク様の婚約者として相応しくないもの。

 ……これは余談だけど、私を悪く言っていた人達が驚いたり、なんでお前が……みたいな感じで悔しがるのは、少しだけ痛快だった。こんなこと、ルーク様には口が裂けても言えないけど。

「さすがに疲れましたわ……」

「お疲れ様、シャーロット。今日はとてもよく頑張っていたね。僕も婚約者として鼻が高いよ」

 無事にパーティーが終わり、一旦城の私の部屋にやってきた私達は、腰を下ろして一息入れていた。

「ルーク様も、ご立派だったではありませんか。挨拶にお越しになった方々全員の事情を把握し、適切な対応を取っていて、感心しましたもの」

 数人程度なら、私でも出来るかもしれないが、今日挨拶に来た人達は、少なく見積もっても百人は超えている。

 その人達の全員の名前を覚え、それぞれの事情をすべて把握しているだなんて、私には真似できない。

「貴族とはいえ、彼らも国の民だ。国王を目指すものとして、民のことはしっかり把握しておかないとね」

「なるほど。大変勉強になりますわ」

「勉強? シャーロットは真似しなくても良いんだよ?」

「そういうわけにはまいりません。あなたの妻となった暁には、私だって国を守る王妃として、頑張らなければいけませんもの」

「シャーロット……」

 えっと……何も言わずに、ニコニコ笑いながら頭を撫でられるのは、少し驚いてしまうから、控えてもらいたい……。

「っと。夢中でシャーロットの綺麗な髪を堪能していたら、もうすぐ使用人が来る時間になっているじゃないか。はぁ……もうドレス姿のシャーロットとはさよならだなんて、名残惜しくて仕方がないよ」

「それは私もです。だって、今日のルーク様は……あっ」

「うん、僕がどうしたって?」

 会話の流れで、思わず恥ずかしいことを言いそうになったのを、寸前のところで止める。しかし、ルーク様はその先の言葉を期待するように、ニコニコしている。

 ……あぁ……う、うぅ……も、もうっ!

「今日のルーク様は……とても、素敵ですわ。いえ、いつも素敵なのですが……なんていうか、その……とにかく、とても素敵で格好良いです!」

「シャーロットがここまで言ってくれるだなんて……うん、僕の人生に一片の悔いもない……」

「え、ルーク様!? 召されてはいけません! あなたにはまだやるべきことがあるでしょう!?」

「あはは、冗談だよ。こんなことで騙されちゃうだなんて、シャーロットは可愛いね」

「か、かわっ……ルーク様っ!」

 眉間に深いシワを刻み、少しだけ頬を膨らませて不満を示すが、ルーク様は楽しそうに笑うだけだった。

「うんうん、あの小屋で出会った時は、ずっと氷のように冷たい表情な女性だったのに、今ではこんなに感情表現が豊かになって、僕は嬉しいよ」

「……そうですわね。あなたとあの小屋で出会って、一緒に過ごして……変わったと思います」

 ルーク様のおかげで、私は変わった。笑ったり、怒ったり、泣いたりできるようになった。

 それだけじゃない。魔法だって、デートだって、視察だって、空中散歩だって。ルーク様には沢山のことを教えてもらった。

 そのすべての出来事が幸せで、私のより良い方向に変えてくれる、素晴らしい出来事だったと、胸を張って言える。

 ただ、今までの生活、そして今日のパーティーで、改めて思たことがある。

 ルーク様は国のため、民のために頑張っているのに……私はルーク様を支えると決めたとはいえ、復讐という、自分の独りよがりなことばかり考えて……こんなことで、本当に良いのだろうかって……。
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