【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第四十五話 精霊による被害

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 一週間後、私とルーク様は、正式に王族からの応援という形で、例の精霊が暴れている地域へとやってきた。

 数時間も馬車に揺られていたから、体がバキバキになってしまっているが、もうすぐ大切な公務があると思うと、自然と身が引き締まり、背筋も伸びた。

「ルーク様、シャーロット様、到着いたしました。予定よりも到着が遅れてしまい、大変申し訳ございません」

「がけ崩れで道が塞がれていたのだから、仕方がないさ。それよりも、ここまで送ってくれてありがとう」

 馬車を降りると、そこは小さな村だった。自然に囲まれた、のどかな村に見えるが、そう思わせない大きな問題があった。

 それは、村のあちこちがビショビショに濡れていて、建物の至る所が破損してしまっていることだ。

「精霊に壊された村……」

 広大な自然や、人間社会の物が精霊によって壊されている現実を見ると、幼かった頃のことを思い出す。お母様が亡くなったあの出来事も、精霊が怒り狂ったからだ。

 ……とはいっても、その原因を作ったのは、醜い人間達なのだけど。はあ……油断したら、また憎しみが全てを蝕みそうだ。落ち着かないとね。

「話には聞いていたが、酷い有様だな……」

「そうですわね……どうしてこんなにあちこち濡れているのでしょう? 大雨が降ったのは聞いてますが、家がこんなに壊されるのは考えにく……うっ!」

「どうしたんだ? 大丈夫かい?」

「はい……」

 今、一瞬だけ感じた。最近はルーク様のおかげでだいぶ良くなったが、私も似たような気持ちをずっと持ち続けているからわかる。

 これは……まるで自らの身まで焼き尽くそうとするくらい、強い怒りだ。いや、憎悪と言った方がしっくりくる。

 そんな負の感情を私が感じられるということは、やはりこの辺りには精霊がいて、この惨劇を引き起こしたと思われる。

「おお……ルーク王子様、こんな田舎によくお越しくださいました」

「ご無沙汰しております、長老」

 村の中で一番大きな家の中から、腰を大きく曲げた老男が、ゆっくりとした歩みでやってきた。歴史と共に刻まれたシワだらけの顔は、疲労に染まっている。

「さあさあ、こちらにどうぞ」

「ありがとうございます。シャーロット、彼についていこう」

「わかりました」

 彼の歩くペースに合わせて家の中に入り、客間に通された私達は、少し硬めのソファーに腰を下ろした。

「大したおもてなしも出来なくて、申し訳ない。近頃は、物好きな商人しか村に来てくれないうえに、あちこち濡れたせいで、崖崩れが起きて、道が塞がれてしまいましてな……あまり物を仕入れられないのです」

「お気になさらず。事情は全て聞いてます。精霊が暴れ回っているそうですね」

「ええ……この近くの大きな泉には、遥か昔から精霊様が住んでおられます。昔の記録ですが、精霊と会話が出来るお方から、精霊様はとても温厚で、人間を信頼していると聞きました。だというのに……大雨があってから間も無く、突然泉から闇雲に攻撃を仕掛けてきたのです」

 彼の話を聞いていると、私の感じた精霊とは別の存在のように感じる。それくらい、先程感じた精霊の気配は酷いものだった。

「攻撃は続きました。我々は、なんとか精霊様に静まってもらおうと、色々と試しましたが、どれも効果がなくて……精霊様がいると言われる泉など、近づくこともままなりませんでした。もうこの地を捨てようかという話も出たのですが、先祖代々受け継いだ地を捨てることも出来ず……それで、失礼を承知で王家の方にお話をさせていただきました」

「事情はわかりました。彼女がきっと事態を収めてくれるでしょう」

「あなたは……?」

「ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございません。私はシャーロット・ベルナールと申します。ルーク様の婚約者でございます」

「おぉ、そうでしたか。いやはや、清楚で素敵なお方だ。それで、あなたが収めてくださるというのは?」

「信じていただけるかわかりませんが、私は精霊の声を聞くことが出来るのです」

 嘘は何も言っていない。しかし、彼はルーク様の言葉を信じられないようで、怪訝そうな表情で、小首を傾げていた。

「ルーク王子様の言葉を疑うつもりはございませんが……精霊の声が聞こえる人間など、おられるのですか?」

 そうよね、信じられるはずが無いわよね。私が逆の立場だったら、絶対に信じられないだろうから。

 どうすれば信じてもらえるかしら……そんなことを思っていると、どこからかドスの効いた声が聞こえてきた。

『まだ生きているのか……我が聖域を侵す人間どもなど、押し流されてしまえ!』

「っ!? 今の声は……それに、この力は!?」

 憎悪に満ちた声と共に感じた力を確認するために、私は急いで立ち上がって外に出ると、こちらに向かって巨大な水滴が落ちてきていた。

 たかが水滴かもしれないが、人間の家ほどの大きさを誇る、巨大な水滴だ。あんなものが当たったら、ひとたまりもないだろう。

「なんとかしなきゃ!」

 飛んできた巨大な水滴から村を守るために、咄嗟に杖を出したが、その前に一緒に来てくれたルーク様が動いていた。

 いつもの様に指を鳴らすと、上空に巨大な魔法陣が出現し、太陽のように真っ赤に光ると、なんと落ちてきた巨大な水滴を、一瞬で蒸発させてしまった。

「これでよし。被害が出なくてよかったよ」

「さすがですわ、ルーク様! 私だったら、あんなに上手くは出来ていなかったでしょう」

「そんなことは無いと思うよ。きっと君でも出来ていたさ」

 相変わらず私のことを認め、褒めてくれるのに、何とも言えないむず痒さを感じる。この嬉しいような恥ずかしいような感覚は、ずっと慣れないでしょうね。

「それよりも、体は大丈夫ですか?」

「うん、あの程度なら問題ないよ。さすがに何十回もやれって言われたら、ちょっと遠慮願いたいけどね」

「その時は、私もお手伝いいたしますわ」

「ああ、頼りにしているよ。さて、それじゃあ中に戻ろうか」

 話の続きをするために家の中に戻ると、長老様が必死に外に出ようと歩いているところだった。

「ちょ、長老様!? ご無理はなさらないでくださいませ!」

「ぜぇ……ひぃ……よ、よかった! ご無事でしたか! 窓から、大規模な攻撃があったのが見えたものでして……お、お二人が心配で……」

「ご心配をおかけして申し訳ない。我々は見ての通りですので、ご安心ください」

「はい。村を守ってくださり、ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 何度も何度も頭を下げる長老様と共に、先程と部屋に戻ってくると、長老様は大きな溜息を漏らした。

「あんな大きな攻撃は、初めてです……ルーク王子様、シャーロット様、ありがとうございます」

「いえ。それにしても……確かにこれは、明確な敵意があるように思えますね。たかが水とはいえ、あの大きさでは致命的な損害になるでしょう」

「ええ、仰る通りで……それよりも、先程はあれが来るのが事前に分かっておられたように見えましたが……」

「はい。あの攻撃が来る前に、声が聞こえたのですわ。我が聖域を侵す人間どもなど、押し流されてしまえ……と。それから間もなく、あの攻撃が」

 謎の声に、精霊の攻撃を即座に感知したことで、どうやら長老様は私の力を信じてくれたようだった。

 よかった、不幸中の幸いにも、なんとか信じてもらえたわ。もし信じてもらえないなら、杖や私の血のことも話さないといけないと思っていたから、その分の手間が省けた。

「ルーク様、あれだけ声がはっきり聞こえたので、おそらくここの精霊とも会話は出来ると思われますわ。向こうに話す意思があれば……ですが」

「ここで呑気に待っていても、また攻撃をされるのが関の山だろうし……行動あるのみだね。長老様、我々は精霊のところにまで行ってみます」

「そんな、危険です! もしあなた達の身に何かあったら……!」

「ご心配してくださり、ありがとうございます。これでも魔法については心得がありますし、精霊に関することなら、彼女の右に出るものはいません。だから、長老様は村の方々とここでお待ちください」

「……わかりました。こちらは、泉までの地図です。この村のこと、よろしくお願いいたします……!」

 申し訳なさそうに頭を下げる長老様に見送られて、私達は家を後にした。

 改めてゆっくり村を見ると、本当に酷い有様だ。村の若い人達が頑張って村の修繕をしているが、その表情はとても暗く、覇気が感じられない。

 ……この惨状は、まさにルーク様が目指す国とは真逆の様相だ。こんな悲しい現実なんて、早く終わらせなくちゃ。

「勝手に決めてしまってすまない。君が嫌なら、僕が一人で行くよ」

「私が、嫌だなんて言うと本当に思っておられるのですか?」

「それは……思わないが、君のことが心配だから、つい聞いてしまうんだ」

「もう、ルーク様ったら……私は大丈夫ですわ。さあ、早く精霊様のいる泉に行きましょう!」

 私はルーク様の両手を握って引っ張ると、ルーク様は力強く頷いた。

 精霊の住む泉……一体どんな精霊が待ち受けているのかわからない。そもそも、対話できるかもわからないが……絶対に何とかしなくちゃ。
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