【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第五十六話 一次試験

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「くっ……魔法が乱れる……!」

 まずい……宮廷魔術師にならなければいけないという緊張や、合格して復讐をしたいという気持ちに加えて、マーガレットに直接煽られたせいで、今まで抑え込んでいた憎しみが溢れ出てきて……魔法の発動に影響が出ている。

 落ち着かないといけない。そんなことはわかっている。わかっているけど……理性よりも、感情の方が優先されてしまう。

「あははははっ! 無様だね~お姉様! そんなんで、よく試験に受かるとか言えたものだね!」

「そこ、静かにしなさい。減点しますよ」

「勝手にすれば? あたし、圧倒的な点数だから、痛くもかゆくもないし~!」

 私を心底馬鹿にするマーガレットの声が聞こえてくる。その声を聞いているだけで、昔のことを思い出して……憎しみが湧き出てくる。それに比例して、魔法はどんどんと安定感を失っていく。

「このままじゃ……!」

 焦れば焦るほど、魔法の精度は悪くなる。そこにマーガレットが煽ってきて、更に焦りと憎しみが湧くという、最悪な悪循環に陥ってしまった。

 せっかくここまで来たのに。毎日毎日練習をしたのに。ルーク様に沢山見てもらって、魔法も教えてもらったのに……あぁ、頭が働かない……視界も、段々暗くなってきて……。

「シャーロット!!」

「……ルーク様……!」

 絶望と憎しみにもがき苦しむ私を助けるかのように、ルーク様の叫び声が聞こえてくる。
 それに反応してハッとして顔をあげると、観客席で見学していたルーク様の姿を見つけた。

「ルーク様……! そうよ。復讐はずっと私の目標だったけど……今は、そんな醜い過去に縛られるよりも、暖かく輝く未来に目を向ける! ルーク様との、幸せな未来に!」

 私の言葉に応えるように、大切な杖が光りだす。そして、あれだけ乱れていた魔法が、一瞬にして安定するようになり、次々と的を破壊していく。

「出来る。私なら、絶対に出来る!」

 練習の時と同じように、炎を飛ばして的を燃やし、水流で的を押し流し、風の刃で切り刻み、岩を落としてぺちゃんこにし、落雷で黒焦げにする。

 たまに攻撃してくる的もいるのだが、ルーク様が教えてくれた魔法で障壁を張ることで防御しつつ、対応する属性で破壊した。

「よし、次!」

 序盤こそ調子が乱れに乱れてしまったが、なんとか後半を巻き返していく……が、無情にも時間が来てしまい、止められてしまった。

「はぁ……はぁ……これからだったのに……!」

「得点は…………」

 得点を読み上げられるまでの時間が、まるで永遠かのように感じる中、試験官の口が静かに開いた。

「八十一点」

「八……それって、一次試験は合格!?」

「はい」

 辛くも一次試験と超えられたことを、ルーク様に伝えたくて顔をあげると、ちゃんと届いているという意思表示なのか、私に向かって手を振るルーク様の姿があった。

 ありがとうございます、ルーク様。あなたがいなければ、私は……私は……!

「ちょっとちょっと、あんなに最初外していたのに、なんで合格なわけ~!? もしかして、何か不正してるの!?」

「我々はいかなる理由があっても、不正に加担することはございません。彼女は確かに最初こそ不安定でしたが、後半の魔法はお見事でした。それこそ、遊び半分のあなたよりも……ね」

 試験官に噛みついたのはいいが、簡単にいなされてしまったマーガレットは、面白くなさそうに舌打ちをした。

 一方の私は、なんとか一次試験を超えられた安心感の影響で、体から力抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。

 そんな私の姿を、マーガレットが見逃すはずもなかった。

「なに、この程度でもうバテバテなの? そんな体たらくで、本当に宮廷魔術師になれると思ってるわけ? さっさと諦めれば?」

「諦める? 冗談じゃありませんわ。私は欲しいものを手に入れるためなら、どんなことでも諦めずに挑戦しますから」

「……ちっ」

 明らかにマーガレットは不機嫌そうだ。あれは、自分の思い通りにならなかった時によく見る。

「では次は――」

 私と入れ替わるように、次の人が試験を始める。本当はじっくり見て、勉強するのが良いのだけど、ちょっと疲れてしまったから、今だけはゆっくりさせてもらっても、罰は当たらないわよね。



「ちっ……お姉様ったら、思った以上にやるようになってるじゃん。万が一お姉様が合格したら、面倒なことになるし……ハリー様が用意してくれたアレを使った方が良いかもね」


 ****


 無事に一次試験が終わり、私とマーガレットは二次試験にまで来ることが出来た。

 たくさんいた受験者は、僅か五人にまで減っているのを見ると、もうずっと合格者が出ていないという現実を、改めて認識させられるわ。

「二次試験が行われるのは、一時間後です。それまで、各自休息をとっていただいて構いません」

 よかった、自分でも思ったより一次試験で疲れていたから、少しでも休めるのはありがたい。二次試験に向けて、英気を養わせてもらおう。

「またさっきの中庭に行こうかしら……」

 僅かに残った数人がいる部屋をチラッと見て、マーガレットがいるかの確認をすると、マーガレットは退屈そうに欠伸をしていた。

 また絡まれたら面倒だし、今のうちに早く外に行ってしまおう……そう思い、そそくさと部屋を後にして中庭に向かった。

「さっきと比べて、誰もおりませんわね」

 二次試験に進める人は、まだ全員が控室にいたし、一次試験を通過できなかった人はもう帰ってしまっただろうから、誰もいないのは当たり前よね。

「ルーク様に報告に行きたいけど、今はどこにいるのかしら」

 この会場にいることは間違いないけど、運営もしているみたいだから、探しても簡単に会えなさそうだ。

 こんなに会いたい、報告して喜んでもらいたいと思っているのに、それが叶わないのは、何とももどかしい。

「静かすぎて、変な感じですわ」

 最近は、小屋にはホウキ達や精霊、そしてルーク様がいるから、静かということはない環境だ。それに慣れてきている私にとって、この環境は静かすぎる。

「実家にいる時だったら、夜はいつもこんな感じだったのに……慣れというのは恐ろしいですわね……あら?」

 目を瞑りながら小さな溜息を漏らし、再び目を開けると……そこには、先程までいなかった、ローブを着た人間が立っていた。

 深々とフードを被っていて顔は見えないし、かなり大きいローブを着ているのもあり、体格もわからない。男性なのか、女性なのかすらもわからない、いかにも怪しい人間だ。

「あの、なにか?」

 なにをされても良いように警戒しながら声をかけると、ローブを着た人間は、おもむろに自分のお腹当たりの部分を引き裂く。

 すると、そこにあったのは人間のお腹ではなく、奈落の底に繋がっているかのような、深淵だった。

「っ……!?」

 普通の人間に、こんなものがあるはずがない。なんとか魔法で対処しようとしたが、一歩遅かった。私は強い眩暈に襲われると同時に、その深淵に吸い込まれていった――
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