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第六十一話 最終試験
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「あ、あたしが……完璧なはずのあたしが、ミスをした……!?」
無情にも粉々に破壊された二体の人形を見ながら、マーガレットは体をプルプルと震わせる。その表情は、怒りと焦りに満ちていた。
マーガレットの気持ちはともかく、見ている限りではミスをしたようには見えない。ちゃんと、降ってくる球体に、全て対応する属性で迎撃していたもの。
……いえ、待って。あの球体……一つ一つに色がついているのだけど、その色は属性の色だと思っていた。例えば、炎は赤、水は青といった具合だ。実際に、マーガレットもそう思っていたのか、色に合わせた魔弾を打っていた。
でも、仮にあの色が受験者を惑わせるものだとしたら? つまり、色と属性が一致していないのだとしたら?
「なんて嫌らしい……一次試験の後にこんなことをされたら、誰だって引っかかっちゃうわよ」
私が後攻で本当に良かった。私もパッと見ただけだと、色で属性を判断するものだと思っていたから、絶対に引っ掛かってただろう。
「ははっ……あははははっ! あーっはっはっはっはっ!」
マーガレットは、突然空を見上げながら高らかに笑い始めたと思ったら、急に大人しくなり、深く息を漏らした。
「はーっ……ムカつく。このあたしに恥をかかせるだなんて……」
マーガレットは、顔中に青筋を立てながら、さっきとは比べ物にならないくらいの魔弾を自分の周りに作りだし、一斉に迎撃をし始める。
その勢いは、暴風となって会場中に吹き荒れる。観客や私も吹き飛ばされそうになる中、守らなければいけないはずの人形までもが巻き込まれ、倒れていく。
壊れているわけではないから、カウントには入らないと思うが……これでは試験の本質からずれてしまうのではないだろうか?
「この世で一番はあたしだ! だから、欲しいものはすべて手に入れる! 宮廷魔術師の座も、愛する人の隣も、金も、富も、名声も! 全部全部!! そして……気にいらないやつは、全部ぶっ壊してやる!! いっけぇぇぇぇ!!」
マーガレットの方向に合わせて、数えきれないほどの魔弾が一斉に飛んでいく。それらは魔法陣から振ってくる攻撃を全て破壊すると同時に、辺りに凄まじい爆風を引き起こし続けた。
「そ、そこまで! マーガレット様、もう結構です!」
「なんで、なんで次が来ないの? 早く来なさいよ! あたしが全部ぶっ壊してあげるから!」
試験官の彼の言葉が一切耳に届いていないようで、一心不乱に魔法を放ち続ける。
このままでは埒が明かないため、数人の試験官が無理やり止めることで、なんとか事態を収束させた。
「マーガレット・ベルナール様。人形の破壊数は三体。よって、最終試験も突破でございます」
「はぁ……はぁ……あははっ、これでわかったでしょう! 一番は、常にあたしなのだから! あははははははっ!」
「すごい……あんな魔法、見たことがない……さすがは名門ベルナール家だ!」
「さすがにあんな凄いのを相手に、もう一人のベルナールが勝てるとは思えないわよね……」
勝ちを確信して高笑いするマーガレットのことを褒める声が、すぐ近くの観客席から聞こえてきた。同時に、私には無理だという旨の声も。
あれだけすさまじい力を見せつけたのだから、そう思ってしまうのも納得だ。私だって、あんな力と正面から戦えなんて言われたら、少し躊躇すると思う。
だからといって、諦めるような真似は絶対にしない。僅かにでも可能性があるなら、それを絶対に掴んでみせるだけだ。
「では、シャーロット・ベルナール様。ご準備を」
「はい」
名前を呼ばれて試験場の真ん中に向かう途中、マーガレットとすれ違った。その際に、自慢と嘲笑を孕んだ笑みを向けられたが、何も気にしなかった。
「準備は宜しいですね。では、はじめ!」
開始の合図と共に、魔法陣と人形が準備されると同時に、人形達を襲う魔法が放たれた。
迎撃をするのは、私でも出来ると思うが、それでは人形が巻き込まれてしまう。あくまでこれは、守る試験ということを忘れてはならない。
「ルーク様に教わった魔法……使わせていただきますわ!」
私は、杖を通して地脈の力を引き出し、それを使って人形達の足元に魔法陣を描く。それから間もなく、魔法陣は人形達を守る障壁となった。
ゴーレムの時にも役に立った防御魔法を、この試験で……それも、たくさんの人形に使うことになるとはね。
「あはっ! そんな薄っぺらい壁で防げると思ってるわけ!?」
「ええ、もちろん」
魔力が凝縮された球体が、人形達に向けて降り注ぐ。その勢いで砂埃が舞い、人形達の確認が出来なくなってしまった。
あの子達が無事か確認をしたいが、その間に第二、第三の攻撃が来るはず。守りは固めたから、あとは破られないように、出来る限り攻撃を食い止める!
「お母様、私に力を貸してください……!」
私の願いに応えて、杖は強い光に包まれる。その光を確認した私は、杖を天に向かって突き上げると、光が鋭い槍となって、天高く飛んでいった。
この魔法は、ルーク様から教わったとっておきの魔法だ。ルーク様が言うには、遥か昔のお話に出てくる武器をモデルにして、自己流に開発したものだそうだ。
このまま槍として使うことも可能だが、このような場面では、別の使い方が有効だ。
「弾けなさい!」
槍に対抗するために、魔法陣も負けじとたくさんの攻撃をしてくるが、ぶつかり合う前に槍は爆発し、細かい粒子となった。
そして、粒子は降ってくる攻撃に向かって勢いよく飛んでいき、ぶつかるたびに爆発を起こした。
「どうなってるの? あの攻撃は、属性が合ってないと意味が無いのに……! お姉様、どういうことなの!?」
マーガレットの焦る声が聞こえてくるが、それに答える余裕は私にはない。
血のにじむ特訓をしたとはいえ、相変わらず地脈の力を扱うのは難しい。
だというのに、今私がしているのは、無数に分裂した槍の粒子一つ一つを操り、向かう先の攻撃に合う属性に変化させるという、とてつもなく集中力がいる作業をしている。
小規模な爆発を蓄積させて壊せば、さきほどのマーガレットみたいに、爆発が起こって人形が巻き込まれることは無いって思ったのだけど……あまりにも大変で、体が悲鳴を上げてきた。
目がチカチカするし、頭を掴まれて振られているみたいに眩暈がするし、勝手に鼻血が出るし、体は痙攣しているし、胸は爆発しそうなくらいバクバクしている。
それでも絶対に止めることはしない。私は、必ず宮廷魔術師になって、ルーク様との未来を歩むのだから!
「はぁぁぁぁぁ!!」
気迫のこもった声に、粒子となった槍も応えてくれている。だが、爆発が起これば粒子の数が減り、私の迎撃の手が薄くなる。実際に、攻撃から逃れた一発が、人形に直撃してしまった。
無情にも粉々に破壊された二体の人形を見ながら、マーガレットは体をプルプルと震わせる。その表情は、怒りと焦りに満ちていた。
マーガレットの気持ちはともかく、見ている限りではミスをしたようには見えない。ちゃんと、降ってくる球体に、全て対応する属性で迎撃していたもの。
……いえ、待って。あの球体……一つ一つに色がついているのだけど、その色は属性の色だと思っていた。例えば、炎は赤、水は青といった具合だ。実際に、マーガレットもそう思っていたのか、色に合わせた魔弾を打っていた。
でも、仮にあの色が受験者を惑わせるものだとしたら? つまり、色と属性が一致していないのだとしたら?
「なんて嫌らしい……一次試験の後にこんなことをされたら、誰だって引っかかっちゃうわよ」
私が後攻で本当に良かった。私もパッと見ただけだと、色で属性を判断するものだと思っていたから、絶対に引っ掛かってただろう。
「ははっ……あははははっ! あーっはっはっはっはっ!」
マーガレットは、突然空を見上げながら高らかに笑い始めたと思ったら、急に大人しくなり、深く息を漏らした。
「はーっ……ムカつく。このあたしに恥をかかせるだなんて……」
マーガレットは、顔中に青筋を立てながら、さっきとは比べ物にならないくらいの魔弾を自分の周りに作りだし、一斉に迎撃をし始める。
その勢いは、暴風となって会場中に吹き荒れる。観客や私も吹き飛ばされそうになる中、守らなければいけないはずの人形までもが巻き込まれ、倒れていく。
壊れているわけではないから、カウントには入らないと思うが……これでは試験の本質からずれてしまうのではないだろうか?
「この世で一番はあたしだ! だから、欲しいものはすべて手に入れる! 宮廷魔術師の座も、愛する人の隣も、金も、富も、名声も! 全部全部!! そして……気にいらないやつは、全部ぶっ壊してやる!! いっけぇぇぇぇ!!」
マーガレットの方向に合わせて、数えきれないほどの魔弾が一斉に飛んでいく。それらは魔法陣から振ってくる攻撃を全て破壊すると同時に、辺りに凄まじい爆風を引き起こし続けた。
「そ、そこまで! マーガレット様、もう結構です!」
「なんで、なんで次が来ないの? 早く来なさいよ! あたしが全部ぶっ壊してあげるから!」
試験官の彼の言葉が一切耳に届いていないようで、一心不乱に魔法を放ち続ける。
このままでは埒が明かないため、数人の試験官が無理やり止めることで、なんとか事態を収束させた。
「マーガレット・ベルナール様。人形の破壊数は三体。よって、最終試験も突破でございます」
「はぁ……はぁ……あははっ、これでわかったでしょう! 一番は、常にあたしなのだから! あははははははっ!」
「すごい……あんな魔法、見たことがない……さすがは名門ベルナール家だ!」
「さすがにあんな凄いのを相手に、もう一人のベルナールが勝てるとは思えないわよね……」
勝ちを確信して高笑いするマーガレットのことを褒める声が、すぐ近くの観客席から聞こえてきた。同時に、私には無理だという旨の声も。
あれだけすさまじい力を見せつけたのだから、そう思ってしまうのも納得だ。私だって、あんな力と正面から戦えなんて言われたら、少し躊躇すると思う。
だからといって、諦めるような真似は絶対にしない。僅かにでも可能性があるなら、それを絶対に掴んでみせるだけだ。
「では、シャーロット・ベルナール様。ご準備を」
「はい」
名前を呼ばれて試験場の真ん中に向かう途中、マーガレットとすれ違った。その際に、自慢と嘲笑を孕んだ笑みを向けられたが、何も気にしなかった。
「準備は宜しいですね。では、はじめ!」
開始の合図と共に、魔法陣と人形が準備されると同時に、人形達を襲う魔法が放たれた。
迎撃をするのは、私でも出来ると思うが、それでは人形が巻き込まれてしまう。あくまでこれは、守る試験ということを忘れてはならない。
「ルーク様に教わった魔法……使わせていただきますわ!」
私は、杖を通して地脈の力を引き出し、それを使って人形達の足元に魔法陣を描く。それから間もなく、魔法陣は人形達を守る障壁となった。
ゴーレムの時にも役に立った防御魔法を、この試験で……それも、たくさんの人形に使うことになるとはね。
「あはっ! そんな薄っぺらい壁で防げると思ってるわけ!?」
「ええ、もちろん」
魔力が凝縮された球体が、人形達に向けて降り注ぐ。その勢いで砂埃が舞い、人形達の確認が出来なくなってしまった。
あの子達が無事か確認をしたいが、その間に第二、第三の攻撃が来るはず。守りは固めたから、あとは破られないように、出来る限り攻撃を食い止める!
「お母様、私に力を貸してください……!」
私の願いに応えて、杖は強い光に包まれる。その光を確認した私は、杖を天に向かって突き上げると、光が鋭い槍となって、天高く飛んでいった。
この魔法は、ルーク様から教わったとっておきの魔法だ。ルーク様が言うには、遥か昔のお話に出てくる武器をモデルにして、自己流に開発したものだそうだ。
このまま槍として使うことも可能だが、このような場面では、別の使い方が有効だ。
「弾けなさい!」
槍に対抗するために、魔法陣も負けじとたくさんの攻撃をしてくるが、ぶつかり合う前に槍は爆発し、細かい粒子となった。
そして、粒子は降ってくる攻撃に向かって勢いよく飛んでいき、ぶつかるたびに爆発を起こした。
「どうなってるの? あの攻撃は、属性が合ってないと意味が無いのに……! お姉様、どういうことなの!?」
マーガレットの焦る声が聞こえてくるが、それに答える余裕は私にはない。
血のにじむ特訓をしたとはいえ、相変わらず地脈の力を扱うのは難しい。
だというのに、今私がしているのは、無数に分裂した槍の粒子一つ一つを操り、向かう先の攻撃に合う属性に変化させるという、とてつもなく集中力がいる作業をしている。
小規模な爆発を蓄積させて壊せば、さきほどのマーガレットみたいに、爆発が起こって人形が巻き込まれることは無いって思ったのだけど……あまりにも大変で、体が悲鳴を上げてきた。
目がチカチカするし、頭を掴まれて振られているみたいに眩暈がするし、勝手に鼻血が出るし、体は痙攣しているし、胸は爆発しそうなくらいバクバクしている。
それでも絶対に止めることはしない。私は、必ず宮廷魔術師になって、ルーク様との未来を歩むのだから!
「はぁぁぁぁぁ!!」
気迫のこもった声に、粒子となった槍も応えてくれている。だが、爆発が起これば粒子の数が減り、私の迎撃の手が薄くなる。実際に、攻撃から逃れた一発が、人形に直撃してしまった。
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