【完結】お飾りの婚約者としての価値しかない令嬢ですが、少し変わった王子様に気に入られて溺愛され始めました

ゆうき

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第六十五話 試験の結果は?

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「今年の合格者は、シャーロット・ベルナール様です!!」

 合格者の発表と同時に、観客席から割れんばかりの声が響き渡る。
 そんな中、私は自分の手に収まった帽子をぼんやりと見つめることしか出来なかった。

「シャーロット! おめでとう!」

「え、え……おめでとう?」

「そうだよ! 君が合格者だよ!」

 当事者である私よりも大喜びなルーク様は、人前だというのに、私のことを強く抱きしめる。それでも、私は現状を飲み込めず、何とも間抜けな声を出すだけだった。

「ごうかく……わたし、が……」

 ようやく事態が飲み込めてくると、嬉しさが湯水のごとく溢れてきた。

「やった! やったぁぁぁぁ!! これで、ルーク様と……!!」

「ああ! これで晴れて僕達は結婚できる!」

 ルーク様は、そのまま私を軽々抱き上げると、その場でクルクルと回り始めた。そんなルーク様の腕の中で、私は嬉し涙を流す。

 この嬉しさを表現する語彙も術も、私は持たない。もう、なんて言えばいいのか……とにかく、本当に嬉しいし、ここまで私を支えて来てくれた人達に、感謝を述べたい。

「馬鹿な!? 一体どういうことかね!? 誰がどうみても、うちのマーガレットの方が優れていただろう!?」

「そうだよ! こんな結果、納得できない!」

 私達が喜びを爆発させる一方、合格できなかったマーガレットとお父様は、物凄い剣幕で、パギア様や委員会の人達に猛抗議を始める。

 二人の気持ちも、わからないわけではない。なにせ、マーガレットは三つの試験で、終始優秀な成績を収めていた。私じゃなくてマーガレットが選ばれても、おかしくなかっただろう。

「仰る通り、マーガレット様の成績はとても優秀でした。しかし、宮廷魔術師は魔法の実力があれば出来るお仕事ではありません」

「なにそれ、あたしに何かが足りないっていうの!?」

 委員会を代表して、パギア様がゆっくりとした口調で説明を始める。優しい声色のはずなのに、威厳を感じるのは何故だろう。

「あなたに足りないもの。それは自覚です」

「は……はぁ? なにそれ、意味が分からないのだけど!」

「宮廷魔術師は、王家の直属の魔法使いを指し、国と民のために働き、そして守る重要な役職です。しかし、あなたは最終試験の際、民に見立てた人形を巻き込んでも何も気にせず、攻撃を続けました。それに、人形が傷ついた際、すぐに見捨てたでしょう?」

「当たり前じゃん。だって、点数にならない人形を助けても仕方がないでしょ!」

「しかし、シャーロット様は違いました。極力人形を守るように立ち振る舞い、傷ついても見捨てることはいたしませんでした。本当に立派でした。その心こそ、宮廷魔術師にふさわしいものです」

 私の方に視線を向けたパギア様は、ニッコリと微笑む。私もそれにつられて、涙を流しながら頷き返した。

 お母様が亡くなってから実家を出るまで、ずっと否定されて生きてきたから、こうして誰かに認めてもらえるというのは、何度経験しても嬉しくて胸がいっぱいになるわ。

「そ、そんなの……!」

「まだ納得できないのですか? ふむ……では、はっきりと申し上げましょう。お前さんのような、ちょっと強いだけで、自分が一番だと勘違いも甚だしいことを考えて、周りのことを一切考えないクソガキなんて、国もうちもいらないのさ! わかったら、とっととお帰り!」

 さっきまでとは打って変わり、荒々しい口調のパギア様に、その場にいた全員が目を見開き、驚きを露わにする。

 もしかして、パギア様って元々はこういう性格なのかもしれない……もっと理性的な人だと思ってたから、ビックリだわ。

「ごほん、お見苦しい姿を見せてしまいましたね。とにかく、これで説明は以上です。この決定は王家と委員会で決めたものですから、覆ることはありません」

 これ以上話すことはない。そう言いたげに話を打ち切ると、パギア様は私の前へとやってきた。その表情は、とても穏やかなものだった。

「シャーロット、あなたはとても優しい心を持っているようですね。その心こそ、国と民を守る宮廷魔術師に、最も必要なものです」

「はい……ありがとうございます……! 私、いただいたこの帽子に相応しい、立派な宮廷魔術師になります!」

「ええ、期待してますよ。一緒に頑張りましょう」

 パギア様と心温まる会話をしていると、ルーク様がマーガレット達の元に行き、静かに口を開いた。

「さて、見事にシャーロットが勝ったわけだが……約束、覚えているだろうね?」

「ぐぐっ……」

「今後僕達に二度と関わらないこと、そしてあなた達二人と、僕の弟達の謝罪。忘れたとは言わせない。さあ、わかったら謝る準備をしておくといい。弟達は、僕が呼んであげるから」

 淡々と話すルーク様のことがよほど気にいらないのか、マーガレットは唇を噛み過ぎて血が出ているし、お父様は握り拳を強くし過ぎて、手から血が出ている。

 ……このままいけば、望んでいた復讐が出来る。でも……なんだか、残っていた復讐心と、宮廷魔術師になるという目的で満足した影響か、綺麗に消えてしまった。

「いいのです、ルーク様。私はもう満足しました」

「シャーロット?」

「確かに私は、家族への憎しみに心を蝕まれていました。でも、ルーク様や精霊様、そしてお母様のおかげで、復讐心は消えてしまいましたの。だから、別に謝らなくても結構です」

 自分の気持ちを伝えると、ルーク様どころか、マーガレットやお父様もポカンとしている。

「ですが、私達に関わらないことにつきましては、守っていただきます。もうあなた達に関わりたくないというのは、紛れもない事実ですので」

「……なんなのよ、あたしに勝ったからって、情けをかけているつもり!? 調子に乗るのも大概にしなさいよ!」

「マーガレット、変に奴を刺激するな! 今の我々には、これを受け入れるしかないのだぞ!」

「なんでよ!? あんな無能に情けをかけられているんだよ!? これ以上の屈辱がある!?」

「黙れ! 元はと言えば、マーガレットが負けたことが原因だというのに、偉そうに吠えるな!!」

「ほとんど何もしてないくせに、そっちこそ偉そうにしないでよ!」

 ……大観衆の前だというのに、なんて醜い争いをしているのだろうか。こんな人達と同じ血が流れていると思うと、本当に悲しくなってくる。

「ギャーギャーうるさいぞ!」

「負けたんだから、潔く引っ込みなさい!!」

「負け犬ー! 名門の面汚しー!!」

 こんな人前で醜い争いをしていた罰として、観衆からシャーロットとお父様に向けて、心の無い罵声が浴びせられる。

 プライドの塊である二人にとって、これだけでも相当な屈辱になっているのは、想像に難くない。現に、二人は体中を真っ赤にさせながら、怒りで体を震わせている。

 私の思い描いたものではなかったが、結果的に二人は大いにプライドが傷つき、耐えがたい苦痛を味わう結果となった――


 ****


■ハリー視点■

「まったく、期待外れも甚だしいな、役立たずめ」

 宮廷魔術師の試験が終わった後、俺様は自分の部屋で、不機嫌なのを一切隠さずに、頭を抱えながら溜息を漏らした。

「も、申し訳ございません! こんなはずじゃなかったんです!」

「黙れ。貴様などに少しでも期待した俺様が愚かだった。あんな大衆で恥を晒した馬鹿と夜を共にしたと考えたら、虫唾が走る。今すぐにでも消し去りたい汚点だ」

 試験で無様に敗北したマーガレット、そして役立たずの父親であるエドモンは、さっきから必死に床に額を擦りつけて謝罪を続けている。

 別に、この試験にこの役立たずが合格できなくても、作戦自体に支障はない。だが、合格出来れば状況が有利になる可能性があったのを潰したというのは、許しがたい行いだ。

「ハリー様、うちの娘が本当に申し訳ございませんでした。どうか、どうか娘にもう一度チャンスを与えてください!」

「何を勘違いしている。本来の作戦は、着々と準備は進んでいる。貴様らが失敗しようとも、大きな問題は無いし、変わらず参加はしてもらう」

「で、では許してくれるんですか!?」

「それとこれとは話は別だ。俺様の期待に応えられなかったマーガレットも、その親であるエドモンも、等しく重罪だ」

「そ、そんな……」

「安心しろ。殺しはしない。もっとも、殺された方が良いと思うかもしれんがな……くくっ。おい、こいつらを連れて行け」

 俺様専属の使用人に、無能二匹を連れていかせる。その際に、何やら許しを請うようなことを言っていた気がするが、まあどうでも良い話だ。下らん話に耳を傾ける程、未来の王である俺様は暇ではない。

「いやぁ、まさかマーガレットが負けるとはねぇ。あの変な杖があるとはいえ、それでも負けるとは思ってなかったよぉ」

「そうか? 俺様は一次試験の段階で、絶対に負けると睨んでいたが」

「そうなの~? どうしてそう思ったの? それに、わかってたなら、どうしてそんなに呆れてるのぉ?」

「わかっていたからといって、俺様の期待に応えられなかったのは事実だからな。どうしてそう思ったかについては……貴様は気づかなかったか?」

 俺様が問いかけても、アルバートは首を傾げるだけだった。

 わからないのも仕方がないか。こいつは魅了魔法という特殊な魔法が生まれつき使えるが、魔法の才能自体が高いわけではない。

 方や、俺様は魔法の天才だ。そんな俺様じゃないとわからないことを、アルバートにわかるはずもない。

「シャーロットの魔法は、普通じゃない。己の魔力を使わず、精霊も介さず、地脈の力を直接使う方法を取っていた」

「えぇ!? そんなのが出来る人がいるなんて、驚きだねぇ!」

「まったくだ。あの精霊の杖のおかげか、あの女に流れる精霊の力か……どちらもありえるが、兄上の研究も関わっている可能性が大いにある」

「魔力や精霊の加護が無くても、魔法が使えるようになる研究だっけ? あれ、ぴったりあてはまるよ~!?」

 アルバートもようやく理解したようだな。事態は俺様が思っている以上に、悪い方向に向かっていると。

「兄上の研究が完成したのか、してないのか。もし前者であれば最悪。後者であっても、ゆくゆくは兄上の研究は本当に完成してしまう」

 誰でも魔法が使えるようになる研究。そんなものが世に広まれば、兄上は父上に認められてしまう。そうなれば、俺様の王位継承権を奪われてしまう可能性がある。そんなの、冗談じゃない。

「父上がくたばるのも、もはや時間の問題とはいえ、可能性は全て潰す必要がある。早く準備を完遂させなければな」

 我ながら随分焦っているものだなと、嘲笑しながら、部屋を後にする。

 ――これは余談ではあるが、その日の夜、地下の牢屋から悲鳴が響き続けていたそうだが……俺様には一切関係の無い話である。
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