【完結】 ずっと夫を信じて暴力や暴言に耐えてきましたが、もう耐えられません ~あなたが離婚を望むなら、喜んで受け入れます~

ゆうき

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第六話

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 おいしい朝食をいただいた後、もう少しだけ休ませてもらったおかげで、だいぶ疲れが取れた。それと同時に、頭も機能と比べて、だいぶスッキリした……と思う。

「私、これからどうしよう」

 昨日と比べて、自分を徹底的に追い詰めるほど、気分が落ちていないとはいえ、考えるとやはり悲しい気持ちになる。

「キー……」

「うん、わかってる。現実から目を背けて、逃げ続けても仕方ないよね。でも……怖い。たまらなく、怖いんだよ……」

 ベッドの上で、膝を抱えて丸くなっていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「あ、はい……えっと、リオン様は出かけてますが……」

「俺だ、リオンだ。入っても良いか?」

「大丈夫です」

 本人を相手に、今はいないなんて言ってしまった。なんだかちょっぴり恥ずかしい。

「おかえりなさい。公務、お疲れ様です」

「…………」

「リオン様?」

 出迎えたのはいいが、リオン様は何の返事もせず、じーっと私のことを見つめている。

 私の顔に、なにかついているのだろうか? それとも、出迎えのやり方が気にいらなかったとか?

「あ、ああ……すまない、少し考え事をしていたんだ。えっと……ただいま、エメフィーユ」

 今度こそ部屋の中に入ってきたリオン様は、ふぅ……と息を漏らしながら、ソファに深々と座った。

「随分とお疲れのようですね」

「少し肉体労働をしたからな」

「肉体労働、ですか?」

 そういえば、リオン様の服が土で汚れている。土で汚れて疲れるような公務って、なんなのだろう?

「うちの国が、鉱石の国と呼ばれているのは、君も知っているだろう?」

「はい。燃料に使える鉱石や、宝石も採取できて、それが国を支えていることが由来ですよね」

「そうだ。一方、乾燥地帯が多いのもあってか、作物はあまり育たない。ゆえに、鉱石を輸出して、食料は輸入に頼っているのが現状なのだが……随分と前から、鉱石の量が減ってきている」

「どういうことですか?」

「単純な理由だ。鉱石は無限に採取できるわけじゃない。いつかは底を尽きてしまう。その時期がついに訪れただけだ」

 輸出できる物がなくなれば、当然収入はなくなり、食べ物を輸入できなくなる。そうすれば、待っている未来は……。

「実際に、ミヌレーボ国は貧困に苦しんでいる。だから、新しい鉱床を探しつつも、国の自給量を増やすために、うちの農家や学者と共に、作物が豊富な国であるティタブタン国に来て、作物の育て方を学びに来ているんだ」

「では、汚れているのは畑仕事をしていたからですか?」

「そうだ。実際に体験することも、知識に繋がるからな」

 そんなこと、国の農家や学者だけでいいのでは? と思ったけど、国の王族が直接動かなければいけないほど、大きな問題ということなのかな。

 王子の妻として過ごしていたとはいえ、元々はただの田舎娘。公務については完全に専門外だ。

「それで、君こそ一体何があったんだ?」

「…………」

 どうしよう、素直に話すべきだろうか。一応、マルセムは表向きは善良な人間として通っているから、言っても信じてもらえないかもしれない。

 それに、ティタブタン国とミヌレーボ国は、長い歴史の中で、友好国として互いに支え合い、発展してきた。私が現王子であるマルセムの真相を伝えたら、そんな王族とは付き合えないと思われてしまうかもしれない。

 もしそうなったら、多くの人に迷惑がかかる……私には、そんな責任なんて取れない。そもそも、この人も信用して良いのかどうか……。

「…………」

「信じられないか。無理もない。あれだけうなされて、ずっと謝り続けていたのだから、よほど傷つけられて、他人を信じられなくなっているのだろう」

「も、もしかして……すでに知っているのですか?」

「君の寝言が、真実だと仮定するなら、大体は知っていることになるな」

 私、そんなに寝言をペラペラ言っていたの!? は、早く弁明をしないと、大変なことになってしまう!

「そんな……あ、あの! これは私と夫の間の問題ですので……ティタブタン国の人達は関係ありませんから! だから……!」

「大丈夫、これはミヌレーボ国のリオン王子ではなく、君の知人であるリオンとして心配し、力になりたいと思っているだけだ。何を聞こうとも、誰にも影響はないと約束する」

「……本当に? 私……自分のせいで、これ以上誰かを悲しませたり、つらい思いをさせたくないんです」

「それは、君の母君への負い目からきているのか?」

 リオン様の優しい声色に、私は小さく頷いた。

 お母さんのことが出てくるということは、本当にこの人は知っているのだろう。なら、このまま隠していても仕方がない。

 それに、まだ信用できるかわからないけど……誰かに話して、少しでも気持ちを楽にしたいという気持ちが湧いてしまっていた。

「実は……」

 私がマルセムと出会ってから、これまでにあったこと、そして現実を知るのが怖いということを、リオン様に打ち明けた。

「あの寝言は、やはりそういうことか。マルセム殿やベアトリス殿は、前々から胡散臭い感じはあったが……間違っていなかったな」

「えっ……?」

「長年色々な人間に会ってきたからか、嘘をついてる人間や、自分を偽っている人間は、何となく感覚でわかるんだ。君なんて、特に顕著だった」

「私がですか?」

「先程の話で、自分の感覚が間違っていなかったと確信した。会うたびに、君の笑顔は張り詰めていて、今にも砕けそうなガラスのようだった。それでも、君はマルセム殿の妻として、多くの人と笑顔で相対し、彼を立てているのを見ていた。俺が言う筋合いはないだろうが……本当に、よく頑張っていた」

 リオン様は、私の頭を優しく撫でてくれた。

「あっ……あぁ……」

 誰かに優しくしてもらったのって、いつぶりだろう。
 褒めてもらったのは、いつぶりだろう。
 優しく触れてもらったのは、いつぶりだろう。
 こんなに暖かい気持ちになったのは……いつぶりだろう。

「ぐすっ……ひっぐ……」

「つらかったのなら、存分に泣くと良い。君はたくさん頑張った。もう、我慢をしなくても良いのだから」

 ポロポロと流れる涙を拭うリオン様の言葉で、ついに我慢の限界に達してしまった私は……まるで幼い子供のように、大声で泣きじゃくった。

 ずっとつらかった悲しみ、お母さんに対しての後悔、私を苦しめた人達への怒り、リオン様の優しさへの喜び、様々な気持ちが混ざり合い、ぐちゃぐちゃになって、涙として溢れ出る。

 ――それからどれだけ泣いていたのだろう。ずっと私のそばにいてくれたリオン様は、大丈夫か? と声をかけてくれた。

「リオン様、ありがとうございます。少し、すっきりしました」

「それならよかった。ところでエメフィーユ、君はこれからどうするんだ?」

「……わかりません。本当だったら、仕事を探して、お金が貯まったら故郷に帰るつもりでしたけど……帰って現実を目の当たりにするのが……怖くて」

「それなら、一つ提案があるんだが……君が良ければ、気持ちが落ち着くまで、我が祖国で暮らさないか?」
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