【完結】 ずっと夫を信じて暴力や暴言に耐えてきましたが、もう耐えられません ~あなたが離婚を望むなら、喜んで受け入れます~

ゆうき

文字の大きさ
8 / 44

第八話

しおりを挟む
 三日後、ティタブタン国での公務を終えたリオン様と一緒に、私は馬車に乗ってミヌレーボ国へと向かっていた。

 ティタブタン国は、多くの作物が採れる、緑豊かな国だ。だから、国土の多くが広大な自然に囲まれている。
 一方、ミヌレーボ国は乾燥地帯ということもあり、自然が少なくて荒れ地や鉱山が非常に多い国だ。

 国境を超えたあたりから、もう自然はほとんど無くなってしまい、ずっと荒れた土地を馬車が走っている。

「エメフィーユ、暑くないか?」

「はい、大丈夫です」

「そうか。水分補給はしっかりするようにな」

 立場とか地位とか関係なしで、誰かに心配されるのは久しぶりの体験だから、不思議な感じだ。
 結婚して少しの間は、マルセムが色々と気を使ってくれていたが、乱暴するようになってからは、心配なんてしてくれなかったからね。

「そろそろ町につく。城にも間もなく着くから、降りる準備をしておいてくれ」

「はい」

 準備と言っても、私は降ろさなければいけない持ち物は、何一つ持ち合わせていない。強いて言うなら、サンがちゃんと服の中にいるか確認するくらいだ。

「サン、大人しくしててね」

「キー」

 服の中から顔だけ覗かせるサンの頭を、人差し指で優しく撫でながら、外を眺める。そこには、多くの人で賑わう市場が広がっていた。

 ティタブタン国は、木製の建物が多く立ち並んでいるが、ミヌレーボ国は粘土やレンガを多く使った建物が多いんだね。

「到着したようだ。足元に気をつけて降りてくれ」

 リオン様の手を借りて馬車を降りると、目の前には大きなお城が建っていた。町並みと同じく粘土やレンガを使ったお城は、祖国のお城とは違った風情がある。

「部屋に案内をする前に、先に母上に挨拶に行こうと思っているのだが、構わないか?」

「わかりました」

 どれだけ滞在するかは不透明だが、お世話になる以上、このお城の主にちゃんと挨拶するのが筋なんだけど……ここだけの話、これから会う人は少し苦手なの。だから、少しだけ気が重い。

「リオン様、おかえりなさいませ。ルシアナ様は、玉座の間でお待ちです」

「わかった」

 ふう……ついに来てしまった。粗相のないように気をつけないと……。

「ルシアナ様、リオン様がお見えでございます」

「通せ」

 部屋の中から、端的な返事が聞こえてくると同時に、玉座の間の扉が開かれる。そこには、大きな玉座に座った、一人の気品溢れる女性の姿があった。

「母上、お忙しいところお時間をいただき、誠にありがとう存じます」

「お、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」

 貴族の人達がよくやる、スカートの裾を持ってするお辞儀をする。
 さすがに王族として五年間も過ごしてきたのだから、これくらいはスムーズに出来る……はずなのに、どうにもぎこちないものになってしまった。

「…………」

「えっと……」

「…………」

「あ、あはは……」

 この人、悪い人ではないのだけど、本当に無口だし、表情の変化が皆無だから、圧が凄いというか、怒っているように見える。

 わかってるよ? 私、特に怒られるようなことはしていないっていうのは。それでも、彼女の無言の圧は生半可なものじゃない。

「母上。事前に手紙を渡した通り、エメフィーユに、しばらくこの城にいてもらおうと考えているのですが、よろしいでしょうか?」

「…………」

 こ、怖い! 今までもこの圧が怖かったけど、今日は一段と凄い気がする! もしかして、凄く機嫌が悪いとか!?

「うむ。許可する」

「ひぃっ!? ご、ごめんな――えっ?」

「許可する」

 あれ……? てっきり、ダメだと言われるとばかり……よ、よかった。もしティタブタン国よりも過酷な環境のミヌレーボ国に放り出されたら、それこそ生きていけないところだったよ。

「ありがとうございます、母上。彼女については自分が面倒を見る所存です」

「うむ」

「では、彼女に色々と案内をしなければなりませんので、これで失礼します」

「待て。リオンには話がある。この後、私の部屋に来るように」

「わかりました。エメフィーユ、そういうわけだから、俺はこの後、案内をしてあげられない。城の者に部屋まで案内をさせるから、待っててくれるか?」

 リオン様のお願いを断る理由は特に無い私は、何度も頷いて見せた。

 話って、一体何なんだろう? 随分と重苦しい雰囲気だったけど……そっか、リオン様は国の食糧問題を何とかするために、ティタブタン国に来たんだから、それについての話をするんだね。

 それなら、私は一刻も早くいなくなった方がいいよね。早く立ち去って、部屋で大人しくしていよう。

「え、えっと。ルシアナ様、この度は私を受け入れてくれて、ありがとうございます。では、失礼します」

「…………」

 言葉による返事は何もなかったが、確かに頷いてくれたのを確認してから、玉座の間を後にする。

 き、緊張したぁ~……! 口から色々なものが出るかと思った……! やっぱりあの人のことは苦手だよ。

「エメフィーユ様、お部屋までご案内いたします」

「あっ、はい!」

 とてもきっちりしたご年配の男性に連れられて、城の最上階にある一室へと案内された。

 パッと見た感じだと、前に使っていた部屋よりも広そうかな? 隅々までしっかり掃除が行き届いていて、とても好印象な部屋だ。

「ここにあるものは、お先にご利用いただいて構いません。もし何かございましたら、部屋のベルを使ってお呼びくださいませ」

「はい、わかりました」

「もう間も無く、リオン様がいらっしゃると思いますので、それまでごゆっくりおくつろぎください。では、失礼いたします」

 彼は、見惚れてしまうほど綺麗なお辞儀をしてから、静かに部屋を去っていった。

「なんだか、疲れちゃったかも」

 ここまで長旅だったこと、そしてルシアナ様との謁見で思ったよりも疲れてしまった私は、ふかふかのベッドにぼすんっと飛び込んだ。

「キー」

「あ、ごめんね。潰されなかった?」

「ウキッ」

 私の服の中から出てきたサンは、短く返事をしてから、枕元に丸くなって寝息を立て始めた。
 サンのことを考えずに横になってしまったけど、潰されて怪我とかしてなくてよかった。

「……はぁ……」

 ゆっくりしていたら、考える余裕が生まれてきたみたいで、色々なことが頭に浮かんでくる。

 お世話になっているのだから、何かお返しをしないととか、リオン様への返事はどうするのかとか……お母さんのこととか。

 現実から目を逸らし、逃げ続けても、何も良くはならない。それはわかってるけど……でも……うぅ、お母さん……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです

hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました

ユユ
恋愛
「出て行け」 愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て 結ばれたはずだった。 「金輪際姿を表すな」 義父から嫁だと認めてもらえなくても 義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも 耐えてきた。 「もうおまえを愛していない」 結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。 義務でもあった男児を産んだ。 なのに 「不義の子と去るがいい」 「あなたの子よ!」 「私の子はエリザベスだけだ」 夫は私を裏切っていた。 * 作り話です * 3万文字前後です * 完結保証付きです * 暇つぶしにどうぞ

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

妹の嘘を信じて婚約破棄するのなら、私は家から出ていきます

天宮有
恋愛
平民のシャイナは妹ザロアのために働き、ザロアは家族から溺愛されていた。 ザロアの学費をシャイナが稼ぎ、その時に伯爵令息のランドから告白される。 それから数ヶ月が経ち、ザロアの嘘を信じたランドからシャイナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 ランドはザロアと結婚するようで、そのショックによりシャイナは前世の記憶を思い出す。 今まで家族に利用されていたシャイナは、家から出ていくことを決意した。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

処理中です...