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第十四話
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無事に故郷から帰ってきて、またミヌレーボ国での生活が始まったある日、私はリオン様と一緒に朝食をいただいていたら、あることに気が付いた。
「リオン様、気のせいかもしれませんが……あなたの分の食事だけ、少なくありませんか?」
「ん? ああ、気のせいではない。最近、またいくつかの村の食糧不足が深刻になってな。少しでも賄えるように、俺達王族の食事量を減らして、彼らに食料を送ったんだ。民が飢えで苦しんでいるのに、俺達だけ腹を満たしているだなんて、おかしいだろう?」
相変わらず、リオン様は自分の身のことよりも、他のことを優先してしまうみたいだ。その気持ちは、とても立派なものだと思うけど……。
「国と民のために毎日頑張っているあなた達が、ちゃんと食べなかったら、倒れちゃいますよ! それこそ、倒れたら多くの人に心配をかけて、迷惑をかけちゃいます!」
「問題ない。日頃から鍛錬しているから、多少食事を抜いたところで支障はない」
「鍛錬と食事量に関連性はありませんよ!」
いくら体を鍛えているからって、それが食事を少なくしても良いなんて結論にはなるはずが無い。むしろ、鍛えているからこそ、たくさん食べないといけないんじゃないのかな。
「そうだ! 私のごはん、食べてください!」
「ダメだ。君の食事を奪うだなんて、絶対にあってはならない」
「う~っ……!」
話を聞いてくれる気配が、全然ない。どうにかして、リオン様に今日だけでもちゃんと食べてもらうには……そうだ、良い方法を思いついた!
「でしたら……リオン様、あ……あーん……!」
「なっ……!?」
私が思いついた作戦。それは、リオン様が私に抱いてくれている感情を逆手に取った、あーん大作戦! こうすれば、きっとリオン様は食べてくれる……はず!
あーんなんて、生まれて初めての経験だし、すごく恥ずかしいけど……これもリオン様にごはんを食べてもらうため! 頑張れ、私!
「エメフィーユの、あーんだと……!? これを逃したら、もう機会は訪れないかもしれない……だが、エメフィーユの食事を減らすような行為は……!」
これでもダメなの!? リオン様の意志の強さが、ここまでのものだったなんて!
「リオン様……うぅ……」
「わ、わかった。わかったからそんな顔をしないでくれ……あ、あーん」
珍しく照れながら、観念したかのように口を小さく開けるリオン様。その隙を逃さないように、差し出したパンをサッと口の中に入れた。
「おいしいですか?」
「……君にあーんをされた衝撃で、味がよくわからない」
「そ、それはいけませんね! では、もう一口食べてちゃんと味を確認してください!」
「いや、それこそ暴論では……」
「あーん!」
ここでリオン様と会話をしたら、この勢いを失ってしまう。せっかく一度は食べてもらえたのだから、この調子でどんどん食べてもらわないと!
「もぐもぐ……う、うん……うまい。うまいのはわかったから、後は君が――」
「おいしい? よかった、それじゃあもっとたくさん食べてくださいね!」
「エメフィーユ、俺の話を……」
リオン様の話をわざとらしくスルーし、さらにごはんをあげ続けていると、気づいた時には私のごはんは綺麗に無くなっていた。
ふう、無事に食べてもらえてよかった。ただ、慣れないことをしたせいか、疲れちゃったよ。
「なんだか、食事をしただけなのに、どっと疲れた……」
「リオン様もですか? うぅ、食べてもらいたかっただけなのに、疲れさせては本末転倒だよ……」
「いや、君の気持ちはとても嬉しかった。おかげで疲れはしたが、気力は人生で一番みなぎっている。ありがとう、エメフィーユ」
「リオン様……」
優しく微笑むリオン様を見つめていたら、胸の奥が大きく跳ねた。そして、うるさいくらいにドキドキと高鳴っている。
このドキドキ……もしかして、私……いやいや、さすがにそれはないよね。仮にそうだとしたら、一緒に過ごすようになって間もないのに、そんな気持ちを抱くのはさすがに早すぎない? ってなっちゃうよ。
……うーん、でも……過去を見ないで、未来に目を向けるようになった今なら、全然ありえるかも。だって、リオン様は素敵な男性だし……。
「どうかしたか? じっと俺を見つめて」
「あ、いえいえ! なんでもないです!」
「そうか。さてと、そろそろ俺は出かけてくるよ」
「今日はどちらに?」
「さっき話に出た村に行ってくる。そこで畑の様子を見つつ、今後どうするべきか村長と話すつもりだ」
「でしたら、私も連れていってください!」
ここ数日のリオン様の公務は、私がいっても役に立てなさそうなものばかりだったけど、今日のなら役に立てると思った私は、身を乗り出してお願いをした。
「私、故郷にいた時は、よく畑仕事を手伝っていたんです。なので、もしかしたら力になれるかもしれないです!」
「しかし……いや、今は猫の手も借りたい状態だ。すまないが、よろしく頼む」
やった! そうと決まれば、早速準備をしないと! 畑仕事で使う道具は、多分現地に行けばあるだろうから、動きやすい服を用意してもらえれば大丈夫かな?
「ウキッ! キキッ!」
「サンもやる気いっぱいだね! えへへ、一緒に頑張ろっ!」
「キッキッキッー!」
私とサンは、えい、えい、おー! のリズムで、腕を天に向けて突き上げる。
畑に行って少しでも力になれれば、恩返しへの第一歩になる。それに、村の人が喜んでくれるのを見たら、私も幸せになれると思うんだ!
「リオン様、気のせいかもしれませんが……あなたの分の食事だけ、少なくありませんか?」
「ん? ああ、気のせいではない。最近、またいくつかの村の食糧不足が深刻になってな。少しでも賄えるように、俺達王族の食事量を減らして、彼らに食料を送ったんだ。民が飢えで苦しんでいるのに、俺達だけ腹を満たしているだなんて、おかしいだろう?」
相変わらず、リオン様は自分の身のことよりも、他のことを優先してしまうみたいだ。その気持ちは、とても立派なものだと思うけど……。
「国と民のために毎日頑張っているあなた達が、ちゃんと食べなかったら、倒れちゃいますよ! それこそ、倒れたら多くの人に心配をかけて、迷惑をかけちゃいます!」
「問題ない。日頃から鍛錬しているから、多少食事を抜いたところで支障はない」
「鍛錬と食事量に関連性はありませんよ!」
いくら体を鍛えているからって、それが食事を少なくしても良いなんて結論にはなるはずが無い。むしろ、鍛えているからこそ、たくさん食べないといけないんじゃないのかな。
「そうだ! 私のごはん、食べてください!」
「ダメだ。君の食事を奪うだなんて、絶対にあってはならない」
「う~っ……!」
話を聞いてくれる気配が、全然ない。どうにかして、リオン様に今日だけでもちゃんと食べてもらうには……そうだ、良い方法を思いついた!
「でしたら……リオン様、あ……あーん……!」
「なっ……!?」
私が思いついた作戦。それは、リオン様が私に抱いてくれている感情を逆手に取った、あーん大作戦! こうすれば、きっとリオン様は食べてくれる……はず!
あーんなんて、生まれて初めての経験だし、すごく恥ずかしいけど……これもリオン様にごはんを食べてもらうため! 頑張れ、私!
「エメフィーユの、あーんだと……!? これを逃したら、もう機会は訪れないかもしれない……だが、エメフィーユの食事を減らすような行為は……!」
これでもダメなの!? リオン様の意志の強さが、ここまでのものだったなんて!
「リオン様……うぅ……」
「わ、わかった。わかったからそんな顔をしないでくれ……あ、あーん」
珍しく照れながら、観念したかのように口を小さく開けるリオン様。その隙を逃さないように、差し出したパンをサッと口の中に入れた。
「おいしいですか?」
「……君にあーんをされた衝撃で、味がよくわからない」
「そ、それはいけませんね! では、もう一口食べてちゃんと味を確認してください!」
「いや、それこそ暴論では……」
「あーん!」
ここでリオン様と会話をしたら、この勢いを失ってしまう。せっかく一度は食べてもらえたのだから、この調子でどんどん食べてもらわないと!
「もぐもぐ……う、うん……うまい。うまいのはわかったから、後は君が――」
「おいしい? よかった、それじゃあもっとたくさん食べてくださいね!」
「エメフィーユ、俺の話を……」
リオン様の話をわざとらしくスルーし、さらにごはんをあげ続けていると、気づいた時には私のごはんは綺麗に無くなっていた。
ふう、無事に食べてもらえてよかった。ただ、慣れないことをしたせいか、疲れちゃったよ。
「なんだか、食事をしただけなのに、どっと疲れた……」
「リオン様もですか? うぅ、食べてもらいたかっただけなのに、疲れさせては本末転倒だよ……」
「いや、君の気持ちはとても嬉しかった。おかげで疲れはしたが、気力は人生で一番みなぎっている。ありがとう、エメフィーユ」
「リオン様……」
優しく微笑むリオン様を見つめていたら、胸の奥が大きく跳ねた。そして、うるさいくらいにドキドキと高鳴っている。
このドキドキ……もしかして、私……いやいや、さすがにそれはないよね。仮にそうだとしたら、一緒に過ごすようになって間もないのに、そんな気持ちを抱くのはさすがに早すぎない? ってなっちゃうよ。
……うーん、でも……過去を見ないで、未来に目を向けるようになった今なら、全然ありえるかも。だって、リオン様は素敵な男性だし……。
「どうかしたか? じっと俺を見つめて」
「あ、いえいえ! なんでもないです!」
「そうか。さてと、そろそろ俺は出かけてくるよ」
「今日はどちらに?」
「さっき話に出た村に行ってくる。そこで畑の様子を見つつ、今後どうするべきか村長と話すつもりだ」
「でしたら、私も連れていってください!」
ここ数日のリオン様の公務は、私がいっても役に立てなさそうなものばかりだったけど、今日のなら役に立てると思った私は、身を乗り出してお願いをした。
「私、故郷にいた時は、よく畑仕事を手伝っていたんです。なので、もしかしたら力になれるかもしれないです!」
「しかし……いや、今は猫の手も借りたい状態だ。すまないが、よろしく頼む」
やった! そうと決まれば、早速準備をしないと! 畑仕事で使う道具は、多分現地に行けばあるだろうから、動きやすい服を用意してもらえれば大丈夫かな?
「ウキッ! キキッ!」
「サンもやる気いっぱいだね! えへへ、一緒に頑張ろっ!」
「キッキッキッー!」
私とサンは、えい、えい、おー! のリズムで、腕を天に向けて突き上げる。
畑に行って少しでも力になれれば、恩返しへの第一歩になる。それに、村の人が喜んでくれるのを見たら、私も幸せになれると思うんだ!
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