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第八十三話 不思議な案内人
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目的地を目指して、私とオーウェン様はまずは森の中を進んでいく。森自体は歩き慣れていることもあってか、サクサク進むことが出来たわ。
このまま何事もなければ、山のふもとに到着する。そこからぐるっと回って、山の向こうに着いたら、また歩いて……そこまでして、ようやく到着するらしい。
「森は、どこもあまり変わらないのね……え? あの植物、色々なものに使える便利な植物だわ! 品質管理が難しくて……乾燥された物しか見たことなかったのに、生を見れるなんて! こっちには、見た目はプラムだけど、色が白い!?」
ぱっと見た感じでは、家の近くにある森と変わらない。でも、そこの生態系は随分と異なるようだ。
「良いものが見れてよかったな」
「はい! あっ、もう大丈夫なので、行きましょう!」
「わかった。えーっと、方角は向こうだ」
オーウェン様が指差す方向には、大きな山が私達を待ち構えていた。
あれを完全に登るとなると大変だけど、ふもとをぐるっと回るのも大変そうだ……。
「目的地まで、まだまだ距離はある。焦らずにじっくり行こう」
「ケガをしたら、元も子もありませんしね」
「そういうことだ」
油断をしたら、大事故になりかねない。そう考えた私は、改めて身を引き締めると、オーウェン様と共に更に前へと歩みを進めた。
****
――それから三日間、私達は安全第一で目的地に向かって進み続けた。途中で持ってきた食料や水が無くなってしまったが、オーウェン様と一緒に水と食料を確保し、なんとか進み続けた。
大変だったし、何度もケガをしてしまったけど、オーウェン様と力を合わせて進むのは達成感があって、さらに深い絆が生まれた気がするし、この目では見たことがない植物や動物を見ることもできて、非常に良い勉強になった。
そしてついに、私達は山の反対側へと到着することが出来た。
「森に入って三日か……中々の長旅だったな。エリン、よく頑張ったな」
「全部オーウェン様のおかげですよ! ありがとうございます!」
周りに人がいないのを良いことに、私は感謝の気持ちを最大限込めて、オーウェン様に抱きついた。それに応えるように、オーウェン様も私の名を呼びながら、抱きしめ返してくれた。
「喜ぶのは後にしよう。まだ目的地に着いたわけではないのだからな」
「そ、そうですね。方向は合ってるでしょうか?」
「問題ない。このまままっすぐ行けば、目的地につけるはずだ」
家を出発して、だいぶ日数がかかったけど、やっと目的地に到着できる。そう思うと、自然と足取りは軽くなった。
「あ、見てくださいオーウェン様! あそこが森の出口みたいです!」
「そのようだな」
進んでいる間に、段々と木の数が減っていって、そして完全に木が無くなった。
数日振りに森を出たからか、なんだかお日様の光がとても久しぶりに思える。森にいる間だって、木々の間から差し込む光はあったのにね。
「って……オーウェン様、あれ……!」
「あれは……!」
森を出たところに広がっていた景色は、お日様のありがたさを一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
なぜなら……そこには、まるで巨大な白いじゅうたんが広がっているんじゃないかと錯覚してしまうような、真っ白な景色が広がっていたから。
「これって、もしかして……!?」
ここまで来た疲れなんて気にせず、急いでそのじゅうたんの正体を確認すると、それは全てが真っ白な花だった。
間違いない。これは私の記憶に残っている花だ! ここが私の故郷なんだ!!
「なんて美しい花だろうか」
「どうしようオーウェン様! 私、本当に帰ってきちゃいました! ずっと、ずっと帰りたいと思っていた故郷に!!」
「ああ、おめでとうエリン。きっとこの辺りに、エリンの育った町か村があるはずだ。探しに行こう」
「はいっ!!」
私は、はやる気持ちが全く抑えきれなくて、オーウェン様の手をグイグイと引っ張りながら走る。走る。走る。
どっちに行けばいいのかなんて、全くわからない。今進んでいる方向に、私の生まれ育った家があるのかだってわからない。
頭ではそれがわかっているのに、それとは対照的に、体は少しでも前に進もうとしていた。
『——だよ』
「えっ……?」
「どうかしたのか?」
「今、何か聞こえたような?」
『エリンちゃん――』
やっぱり何か聞こえる。今確かに、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
でも、私の他にはオーウェン様しかいないし、それ以外あるのは白い花だけだわ。
『こっちだよ、エリンちゃん』
「やっぱり聞こえます!」
「その声は、なんて言っているんだ?」
「こっちだって、私を案内しているような声です!」
「俺には何も聞こえなかったが……もしかしたら、精霊の声なんじゃないか?」
精霊様? 確かにオーウェン様には聞こえていないみたいだし、私は幼い頃に故郷で精霊の声を聞いたことがあるから、その可能性は高そうだ。
「私は故郷に帰りたい……お母さんに会いたい! お願いします、私を案内してください!」
自分の精一杯の気持ちを込めてお願いをすると、一輪の花から小さな光が現れ、フワフワと飛んでいった。
「エリン、きっとあれが案内だ!」
「わわっ、早く追いかけましょう!」
突然のことで、思考が停止しちゃってたわ。あれを見逃してしまったら、ここまで来たのに手がかりを完全に無くしてしまうかもしれない!
「はぁ……はぁ……け、結構速い……!」
「頑張れ、きっともう少しだ!」
「は、はい……あっ、あそこに建物が!」
必死に光を追いかけていると、小さくて古い建物を見つけた。しかもその建物の近くでは、男性のご老人が薪割りをしていた。
あの人に聞けば、ここが私の故郷かどうかわかるかも……!
「おや……? こんなへんぴな所にお客人なんて、何年振りじゃろうか」
「あの! 突然お邪魔してごめんなさい! お聞きしたいことがあって!」
「聞きたいこと? こんな年寄りで答えられるものなら……いや待て、お主の顔……どこかで……っ!? ま、まさか……いや、そんなはずは……」
「私、エリンといいます! この村に、エリンという小さな女の子が住んでいませんでしたか!?」
息を切らせながら問いかけると、老人は見ているこっちが心配になるほど震えながら、私の両肩に優しく手を乗せた。
「お主が……あのエリンなのか……? 王家のバカどもに連れていかれた、アトレの娘の……エリン……!?」
このまま何事もなければ、山のふもとに到着する。そこからぐるっと回って、山の向こうに着いたら、また歩いて……そこまでして、ようやく到着するらしい。
「森は、どこもあまり変わらないのね……え? あの植物、色々なものに使える便利な植物だわ! 品質管理が難しくて……乾燥された物しか見たことなかったのに、生を見れるなんて! こっちには、見た目はプラムだけど、色が白い!?」
ぱっと見た感じでは、家の近くにある森と変わらない。でも、そこの生態系は随分と異なるようだ。
「良いものが見れてよかったな」
「はい! あっ、もう大丈夫なので、行きましょう!」
「わかった。えーっと、方角は向こうだ」
オーウェン様が指差す方向には、大きな山が私達を待ち構えていた。
あれを完全に登るとなると大変だけど、ふもとをぐるっと回るのも大変そうだ……。
「目的地まで、まだまだ距離はある。焦らずにじっくり行こう」
「ケガをしたら、元も子もありませんしね」
「そういうことだ」
油断をしたら、大事故になりかねない。そう考えた私は、改めて身を引き締めると、オーウェン様と共に更に前へと歩みを進めた。
****
――それから三日間、私達は安全第一で目的地に向かって進み続けた。途中で持ってきた食料や水が無くなってしまったが、オーウェン様と一緒に水と食料を確保し、なんとか進み続けた。
大変だったし、何度もケガをしてしまったけど、オーウェン様と力を合わせて進むのは達成感があって、さらに深い絆が生まれた気がするし、この目では見たことがない植物や動物を見ることもできて、非常に良い勉強になった。
そしてついに、私達は山の反対側へと到着することが出来た。
「森に入って三日か……中々の長旅だったな。エリン、よく頑張ったな」
「全部オーウェン様のおかげですよ! ありがとうございます!」
周りに人がいないのを良いことに、私は感謝の気持ちを最大限込めて、オーウェン様に抱きついた。それに応えるように、オーウェン様も私の名を呼びながら、抱きしめ返してくれた。
「喜ぶのは後にしよう。まだ目的地に着いたわけではないのだからな」
「そ、そうですね。方向は合ってるでしょうか?」
「問題ない。このまままっすぐ行けば、目的地につけるはずだ」
家を出発して、だいぶ日数がかかったけど、やっと目的地に到着できる。そう思うと、自然と足取りは軽くなった。
「あ、見てくださいオーウェン様! あそこが森の出口みたいです!」
「そのようだな」
進んでいる間に、段々と木の数が減っていって、そして完全に木が無くなった。
数日振りに森を出たからか、なんだかお日様の光がとても久しぶりに思える。森にいる間だって、木々の間から差し込む光はあったのにね。
「って……オーウェン様、あれ……!」
「あれは……!」
森を出たところに広がっていた景色は、お日様のありがたさを一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
なぜなら……そこには、まるで巨大な白いじゅうたんが広がっているんじゃないかと錯覚してしまうような、真っ白な景色が広がっていたから。
「これって、もしかして……!?」
ここまで来た疲れなんて気にせず、急いでそのじゅうたんの正体を確認すると、それは全てが真っ白な花だった。
間違いない。これは私の記憶に残っている花だ! ここが私の故郷なんだ!!
「なんて美しい花だろうか」
「どうしようオーウェン様! 私、本当に帰ってきちゃいました! ずっと、ずっと帰りたいと思っていた故郷に!!」
「ああ、おめでとうエリン。きっとこの辺りに、エリンの育った町か村があるはずだ。探しに行こう」
「はいっ!!」
私は、はやる気持ちが全く抑えきれなくて、オーウェン様の手をグイグイと引っ張りながら走る。走る。走る。
どっちに行けばいいのかなんて、全くわからない。今進んでいる方向に、私の生まれ育った家があるのかだってわからない。
頭ではそれがわかっているのに、それとは対照的に、体は少しでも前に進もうとしていた。
『——だよ』
「えっ……?」
「どうかしたのか?」
「今、何か聞こえたような?」
『エリンちゃん――』
やっぱり何か聞こえる。今確かに、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
でも、私の他にはオーウェン様しかいないし、それ以外あるのは白い花だけだわ。
『こっちだよ、エリンちゃん』
「やっぱり聞こえます!」
「その声は、なんて言っているんだ?」
「こっちだって、私を案内しているような声です!」
「俺には何も聞こえなかったが……もしかしたら、精霊の声なんじゃないか?」
精霊様? 確かにオーウェン様には聞こえていないみたいだし、私は幼い頃に故郷で精霊の声を聞いたことがあるから、その可能性は高そうだ。
「私は故郷に帰りたい……お母さんに会いたい! お願いします、私を案内してください!」
自分の精一杯の気持ちを込めてお願いをすると、一輪の花から小さな光が現れ、フワフワと飛んでいった。
「エリン、きっとあれが案内だ!」
「わわっ、早く追いかけましょう!」
突然のことで、思考が停止しちゃってたわ。あれを見逃してしまったら、ここまで来たのに手がかりを完全に無くしてしまうかもしれない!
「はぁ……はぁ……け、結構速い……!」
「頑張れ、きっともう少しだ!」
「は、はい……あっ、あそこに建物が!」
必死に光を追いかけていると、小さくて古い建物を見つけた。しかもその建物の近くでは、男性のご老人が薪割りをしていた。
あの人に聞けば、ここが私の故郷かどうかわかるかも……!
「おや……? こんなへんぴな所にお客人なんて、何年振りじゃろうか」
「あの! 突然お邪魔してごめんなさい! お聞きしたいことがあって!」
「聞きたいこと? こんな年寄りで答えられるものなら……いや待て、お主の顔……どこかで……っ!? ま、まさか……いや、そんなはずは……」
「私、エリンといいます! この村に、エリンという小さな女の子が住んでいませんでしたか!?」
息を切らせながら問いかけると、老人は見ているこっちが心配になるほど震えながら、私の両肩に優しく手を乗せた。
「お主が……あのエリンなのか……? 王家のバカどもに連れていかれた、アトレの娘の……エリン……!?」
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