【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき

文字の大きさ
3 / 45

第三話 大脱走!

しおりを挟む
 アーロイ様とジェシーの結婚式のことを聞いてから数日後。私は草むしりの前に屋敷の中に呼び出され、とある部屋へと入れられた。

 そこは、私がまだ牢屋に入れられる前に使っていた、私の部屋だった。今では、ジェシーの部屋として使われているようだ。

 そこでは、ジェシーが沢山の使用人の手にを借りて、着々と結婚式に向かう準備をしていた。

「どう? 自分の婚約者と幸せを、私に奪われる気分は?」
「……そうね、言葉では上手く言い表せられないような、不思議な気分だわ。アーロイ様や部屋を奪われ、あの辛い牢獄に入れた元凶の結婚式の準備を見させられるなんて、普通じゃ絶対に味わえないもの」
「それは結構だわ。エレナが不幸になればなるほど、私はどんどんと幸せを感じられるもの」

 バッチリと身支度を終えたジェシーは、私の前に立つと、バチンッ! と思い切り頬を叩いた。

「落ちこぼれの分際で、何よその目は。そんなに痩せ細り、無様な姿になっても、その目だけは変わらないわね。本当に腹立たしい」
「仕方ないでしょう? 母さんから譲り受けたこの緑色の目は、どうやっても変えられないわ」
「その反抗的な目と態度が気に入らないって言ってるのよ! そんなことも言わないとわからないほどの馬鹿なわけ!?」

 そんなの、言われなくてもわかっているわ。でも、正当性もない恨みで私に酷い仕打ちをしてきたんだから、これくらい言っても罰は当たらないだろう。

「まあいいわ。私は忙しいから、今日はこの辺にしておいてあげる。でも、明日からは覚悟しておくことね。二度と私やアーロイ様に逆らえないように、今まで以上に徹底的にやるから」
「…………」

 フンッと鼻から息を吐きながら、ジェシーは使用人を引き連れて部屋を去っていった。

 明日からなんて、そんなの私には関係ないわ。何故なら、私はここから絶対に逃げてみせるのだから。

「さて、とりあえず草むしりに行かなきゃ」

 ここで変な行動をして怪しまれたら、全て無意味になってしまう。焦る気持ちを抑えて、押し付けられた仕事をこなそう。

「今日も寒いわね……」

 外に出ると、空は厚い雲に覆われていた。この調子だと、もしかしたら雪が降るかもしれない。

「よいしょっ……あ、あれは……」

 一生懸命草をむしっていると、沢山の人が屋敷を出ていく姿が見えた。きっとアーロイ様達の結婚式に出席するのだろう。

 この調子なら、もう少し待っていれば、もっと沢山の人が出発するに違いない。そうすれば、きっと逃げだせる機会があるはず。冷静に……焦るのは禁物だ。

「……やっぱり。いつもはもっと屋敷の警備がいるのに、今日は半分もいないわね」

 黙々と、怪しまれないように作業を進めながら周りを観察したおかげで、どこに兵士がいるかは、なんとなく掴んだ。

 あとは……逃げるだけだ。屋敷の裏から更に奥に行くと、敷地を囲む壁に行ける。それを超えると少し走った所にある森があるから、うまく隠れながら、屋敷から離れるつもりだ。

「よし、行こう」

 見張りのに見つからないように、こっそりと走り出した私は、特に何事もなく敷地を囲む壁へと到着した。

「……さようなら、私の家。母さんと一緒に仕えていた時の生活は、とても楽しかった。それに、色々お世話になったことも多くて……本当にありがとう」

 屋敷を離れる前に、私は屋敷に向かって深々と頭を下げた。

 牢に入れられてからは、辛かった思い出しか無いけど、それ以前は幸せな生活だった……もうあの生活には戻れないのね……。

「感傷に浸ってたら、見つかってしまうかもしれないわ。早くここから離れましょう」

 私は壁の周りに植えてあった木を使って、なんとか壁を乗り越える。壁の高さはさほど高くないから、今の私でも何とか乗り越えられたわ。

「はぁ! はぁ! はぁ……ぜぇ……ごほっごほっ」

 予定通り森に入り、走りだしてから間もなく、私はすぐに体力を使い果たしてしまい、その場に座り込んでしまった。

 それもそうよね……もうずっとまともな食事も運動もさせてもらえてないし、寒空の下で、布一枚、靴無しなんて……すぐに動けなくるのは当然だ。

 少しでも体力を回復させたいけど、まずは走ったせいでカラカラになってしまった、喉を潤したい。

「どこかに水は……あっ!」

 耳を澄ませていると、遠くの方から水が流れる音が聞こえてきた。そこにたどり着ければ、とりあえず水は確保できそうだ。

「よい、しょ……よ……しょっ……」

 もうバテバテになっているせいで、音がする方に行くのも一苦労だ。一歩踏み出すのに、相当な体力を使ってしまう。

 でも、諦めないわ……いくら逃げ出したとはいえ、こんな所で死んだら、それこそ母さんに怒られちゃうからね……!

「はあ、なんとかたどり着いた……」

 たどり着いた場所は、大きな音を立てながら、結構な速度で流れている川だった。近づくのは正直怖いけど、喉を潤したいのは確かだから……考えても仕方ない!

 私は川に近づいて、手ですくって水を飲む。特に変わったところはない普通の水だけど、カラカラになっていた喉には、またとないご馳走だった。

「あぁ、おいしい……あっ……!!」

 水を飲むのに気を取られていた私は、足を滑らせて川の中に落ちてしまった。

 川の中は外よりも冷たく、全身に痛みを覚えるくらいだ。流れも結構あるから、何もしていないのに、下流に流されてしまっているのがわかる。

 早く逃げないと……溺れ死んでしまう!

「がはっ……はぁ…………だれ……たす……」

 泳げない私は、必死にもがきながら、頭を出して助けを呼ぶが、誰も来る気配がない。それに、冷たい水に体温を急激に奪われてしまい、体から更に力が抜けていくのがわかる。

 こんな所で私は死ぬの? 冗談じゃない! 私は生きるんだから! 母さんの分も、うんと沢山生きてやるんだから! だから、こんな所で、死ぬ……わけに、は……。

「ごぼっ……」

 ……いき……た……………か、あ、さん…………………………。







「こらルナ、急に馬車から飛び降りたら危ないだろう!」
「だってだって! 川で泳いでる人がいるってシーちゃんが……」
「こんな寒い時期に……?」
「あぁぁぁぁ!! お兄様大変だよ! 誰か溺れてる!」
「何だって!? すまない、俺は動けないから、その人をここまで運んできてくれ!」
「かしこまりました!」
「うぅ……こんな寒いのに溺れるなんてかわいそう……早く連れて帰ろうよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

処理中です...